本文へスキップします。

  • プリント

ここから本文です。

核兵器のない世界を目指して 第27回国連軍縮会議 中満泉・軍縮担当上級代表による挨拶 (広島、2017年11月29日)

プレスリリース 17-069-J 2017年12月08日

来賓の方々、皆様、

最初に、感謝の言葉を3つ述べさせていただきたいと思います。まず、この会議のホストである湯崎広島県知事と松井広島市長に深く感謝いたします。72年前、世界で初めて原爆が投下された広島は、核兵器のない世界という私たちが共有する目標の達成に向けた案内役を果たしてきました。

第2に、私たちのパートナーである日本政府に感謝したいと思います。私たちは30年近くの間、手を携えながら、この会議を通じて核軍縮の進展を図ってきました。

国連軍縮会議は、多国間主義、外交努力、そして軍縮に関与するという、日本の揺るぎない決意を象徴するものです。

そして第3に、アジアやそれ以外の地域からも遠路はるばるお越しいただいた多くの方々を含め、すべての参加者に感謝したいと思います。

また、被爆者の方々にも、心から敬意を表したいと思います。皆様は私たちに共通の大義を、その旗手として体現しています。私たちは皆様の平和と希望の遺産をさらに広めていくことを約束します。

広島と長崎への原爆投下以来、そして特に冷戦の終結以来、国際社会は、核兵器が提起する危険を減らし、二度と被爆者を出さないようにするための取り組みを大幅に前進させてきました。私たちは着実に核兵器の危険を減らし、核兵器の使用を禁止するという規範を深めるとともに、その拡散を段階的に抑制してきました。さらに、必須の規範を盛り込み、国際の平和と安全の保障に資する軍縮・不拡散条約の体系をしっかりと確立してきました。

こうした前進にもかかわらず、核兵器のない世界という目標の達成には、まだ長い道のりが残っています。事実、私たちの前進は止まってしまったのではないかという懸念さえ感じます。

核兵器保有国は、さらなる軍縮どころか、今後数十年もの間、核兵器の地位を固めることになる近代化プログラムを追求しています。こうしたプログラムは多くの点で、新しい質的な核軍備競争と言えるものであり、冷戦時代の軍拡競争よりもさらに危険で不安定な結果につながるおそれがあります。かつてのような二国間競争ではなく、多くの走者が一度に複数の競争を繰り広げる状況にあるからです。

核兵器をめぐる発言の内容が激化し、対立が外交に取って代わる時、さらなる核爆発の危険性は高まります。

この力学が最も如実に見られる朝鮮半島では、一つの国が度重なる国連安全保障理事会決議に反し、核爆発実験の禁止という古くから確立された規範を無視し続けています。今朝の弾道ミサイル実験を含め、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)によるこうした行動や、舌戦の激化は、世界的な不拡散体制だけでなく、地域と国際の安全も現実に損なっています。事務総長は、このようなDPRKによる挑発を強く非難するとともに、さらなる不安定化をもたらす行為を控えるよう、同国に強く訴えています。

国連の軍縮機構の現状も、不安の種となっています。交渉の場はいずれも膠着状態に陥ったり、分裂が進んだりしている一方で、核軍縮をめぐるさらに幅広い発言も、さらに分断化しています。その結果、政治的な収束は両極化へ、妥協は不和へと道を譲っています。

しかも、地政学的なものの見方や、遵守状況に関する非難の応酬は、1980年代と1990年代に成立した画期的な軍備管理協定を瓦解させかねません。こうした協定はほぼ30年にわたり、緊張の緩和、対話の強化、そして信頼の構築に役立ってきました。

世界情勢が不透明感を増す中で、現状の安全保障環境では、核軍縮や軍備管理が進展する余地などほとんどないと主張する向きが多くあります。こうした不安は行動を促すどころか、何もしないことの言い訳となっているのです。しかし、歴史が物語るとおり、グローバルな緊張と危機が高まる時代には、大きな前進が達成されることもあります。例えば、部分的核実験禁止条約はキューバ・ミサイル危機の直後に交渉が行われ、核兵器不拡散条約(NPT)やその他の軍備管理協定は、冷戦による対立が悪化する中で成立しています。

来賓の方々、皆様、

現在、私たちが抱える核の課題を、さらなる分裂や後退で解決することはできません。新たな決意と目的意識をもって、真正面からこれに取り組まねばならないのです。国際社会は合意点を見出し、紛争よりも和解を重んじる必要があります。私たちはこれを出発点として、核軍縮に向けた今後の道のりを描くことができます。

私はここで、すべての国が短期的、長期的なインパクトを及ぼし、核軍縮という私たちに共通の大義を推進できる3つの分野について、お話ししたいと思います。これらは、私たちの安全にとっても重要な意味があります。

第1に、私たちは、グローバルな軍縮・不拡散体制の中枢としてのNPTの役割を再確認しなければなりません。2020年の締結50周年に向け、この条約は試練にさらされかねませんが、それは締約国がこれまでにも増して、NPTの基本的原則を堅持し、その健全性を確保せねばならないことを意味します。よって、不拡散の義務と軍縮の義務を切り離してはなりません。この2つは密接な関係にあり、どちらかの前進はもう一方の前進によって促進されるからです。私たちは、原子力の平和利用という公約とともに、NPTの基盤をなすこの相互補強的関係をさらに強化しなければなりません。これまでの再検討会議の成果文書には、合意点が数多く盛り込まれており、これを一致団結した行動と新たな公約の基盤として用いるべきです。

第2に、私たち全員が瀬戸際から引き返し、朝鮮半島危機の政治的解決に努めなければなりません。そのためには、すべての関係国が、持続可能な平和と安全という全体的な文脈の中で、朝鮮半島の非核化を図ることが必要になります。安全保障理事会決議の全面的履行が欠かせないことは、言うまでもありません。

北東アジアの危機は、課題が刻々と変化する中で、グローバルな不拡散体制をしっかりと保つ必要性を示すものとして認識すべきです。

地域安全保障とNPTという観点では、中東に核兵器とその他あらゆる大量破壊兵器のない地帯を設けための取り組みに進展が見られないことが懸念されます。地域諸国はすべて、このような非核地帯の必要性と目的に合意しています。必要なのは、決定的な前進を可能にするための包摂的かつ直接的な対話です。

第3に、各国は規範の構築とともに、不可逆的、実証可能かつ普遍的な核軍縮のための実際的な措置も追求すべきです。核実験禁止条約は、20年ぶりに採択された多国間核軍縮条約として、歴史的な成果であると同時に、核兵器のない世界を目指すうえでの重要な一歩でもあります。この条約はまた、確実な成果を達成する際に政治的な意志が持つ力の大きさも実証しました。私は、国際社会がここでも、合意点を見出し、規範構築以外の分野でも核軍縮を進めていけることを期待しています。

この点に留意しながら、私たちのホスト国であり、私自身の祖国でもある日本に話を戻したいと思います。戦争で核攻撃を受けた唯一の国として、日本は独自の地位を占めています。日本は、現在の意見の対立から妥協を、この膠着状態から勢いを作り出すための道徳的権限と、歴史的遺産を託されています。よって、世界は特にNPTの枠組みにおいて、核軍縮に向けた橋渡し役となることを日本に期待しています。現状の亀裂を埋めるためには、創造的な思考が必要であり、行き詰まった態度との決別が必要です。また、政治的なリーダーシップと外交的な投資も必要となるでしょう。私は日本に対し、必要な橋渡し活動をいかに促進できるかを真剣かつ実質的に考えるよう促します。日本人として付け加えさせていただけば、日本にはこの役割を演じる特権と責任が同時にあると思っています。

最後になりましたが、大事なこととして、私たちは将来的な前進を確保するため、軍縮と不拡散の分野で、教育が果たす変革的な役割をいかに高めていくかを考えねばなりません。日本、広島県、そして広島市は、核軍縮という大義をさらに前進させるため、先頭に立って新世代のリーダーたちを鼓舞してきました。毎年の平和記念式典、平和首長会議によるグローバルな核軍縮キャンペーン、そして「国際平和拠点ひろしま構想」はいずれも、そのような実例として、核軍縮や紛争解決、紛争後の再建に貢献しています。

広島市は今週末、国連との連携により、国連の見学者に対して核軍縮を訴えかけるため、原爆投下の影響と結末に対する理解を深めるための国連ツアーガイド研修プログラムを初めて開催します。

これらをはじめ、いくつかの取り組みは、私たちの共通の記憶の中に、核攻撃の恐ろしさを刻み込むだけでなく、核軍縮という私たちが共有する目標に向かって進む力を次の世代に与えるものでもあります。ここにいらっしゃる若い方々には、次のように申し上げたいと思います。「私は皆さんを頼りにしています。歴史について学んでください。そして、平和への情熱を失わず、頭と技能を使って、軍縮と平和を実現できる道をぜひ見つけてください」

来賓の方々、皆様、

前進の道は真っ直ぐであるとは限りません。目的地に着くまでには、紆余曲折があります。しかし、故ダグ・ハマーショルド事務総長も述べているとおり、「理想を実現するための取り組みが挫折したとしても、その理想自体が間違いだということにはならない」のです。私は皆様全員に対し、私たちが核兵器のない世界という目標に向けて進む中で、信念と決意、そして自信を決して失わないようお願いしたいと思います。

ありがとうございました。

* *** *

オリジナル(English)はこちらからご覧ください。