朝日地球会議2023に寄せるメリッサ・フレミング国連事務次長ビデオ・メッセージ(2023年10月9日)
プレスリリース 23-056-J 2023年10月10日
皆様、ニューヨーク国連本部から、こんにちは。
朝日地球会議2023にご参加の皆様にお話しできることを光栄に思います。
私たちが今日ここに集っている間にも、世界は危機に陥っています。
いくつもの連鎖的な課題に直面しています。
経済は、いまだ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックからの復興に苦闘し、一触即発の緊張状態に火が付いて新たな紛争に発展する一方、 気候緊急事態は、制御不能なままです。
力を合わせれば、国際社会がこれらの問題に対処できると分かってはいます。
ただしそれは、すべての闘いの核にある「隠れた闘い」を、私たちが認識してこそ実現できるのです。それは、情報の誠実性のための闘いです。
国連グローバル・コミュニケーション担当事務次長としての私の職務は、人々にこうした危機に関して伝えることです。
そして、変化のために意義ある行動を促すことです。
しかし、グローバル・コミュニケーション自体が危機に直面しています。
オンライン上で広がるヘイトスピーチ、誤情報、偽情報が私たちの世界を害し、人類の進歩や、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた取り組みを押しとどめています。
私たちは近年、悪意ある偽情報やその他の有害コンテンツの急増を目の当たりにしています。
それらは、言説の周縁から主流へと染み出し、情報の生態系全体を毒しています。
世界中で、武器化された情報が紛争を煽っています。緊張を増幅させ、暴力を長引かせるために、戦闘員たちが憎悪を大きく広めています。
ソーシャルメディア上で広められた嘘が、一般の人々に同じ市民を殺し、レイプし、追放するよう政府が仕向けるのを手助けしたこともあります。
さらに偽情報は、公的機関を攻撃するためにも使われており、信頼をむしばみ、紛争予防のあらゆる分野に影響を及ぼします。
国連もまた、攻撃を受けています。
国連の平和維持活動が虚偽の主張の標的にされ、職員が危険にさらされ、紛争地域での人命救助活動が妨げられています。
気候行動についても同様です。
この夏、私たちは誤情報や偽情報の急増を目にしました。標的は、記録的な洪水、森林火災、熱波、そして、気候変動そのものでした。
ある傾向が見て取れます。
異常気象に関する警告を国際派による捏造の一部だとして、噂と陰謀で一蹴し、炭素排出量と地球温暖化とのつながりを否定するのです。
こうした言説は、世界の終末のようなリビアでの洪水から、ハワイでの壊滅的な森林火災に至るまで、危険を矮小化し、破滅的な災害の重大性を歪めようとします。
同時に、気候活動家への国際的に組織された中傷キャンペーンが、長きにわたり変化を求める声を封じ込めようとしています。活動家たちが、住み続けられる地球とその未来を確保するための迅速な行動を求めている時に。
私たちには、こうした妨害に付き合っている時間はないのです。
ソーシャルメディアが現れた当時、私たちコミュニケーション担当者は興奮しました。
デジタル・プラットフォームには、大きな可能性がありました。
人々と直接関われる。
そして、世界をより良くするために、人々に私たちの活動に参加してもらえるのです。
これらのプラットフォームは、多くの良いことももたらしました。
草の根運動を組織する助けとなり、孤立している人々を繋ぎました。
戦争を逃れて強制移住させられた家族を再会させました。
しかしやがて、より暗い側面も見えてきました。
エンゲージメントを優先させるアルゴリズムは、過激主義者の意見を主流に押し上げる一助にもなったのです。
反ユダヤ主義、人種差別、その他のヘイトスピーチを常態化させました。
偽情報は目新しい脅威ではありませんが、デジタル・プラットフォームにより、有害な憎悪や嘘を、世界中の何十億もの人々に瞬時に広められるようになりました。
その影響を免れる人は、ほとんどいません。
「ロイター・デジタルニュースリポート」によると、ソーシャルメディアからニュースを入手する人の数は、今や過去最多となっています。
同時に、誤情報と偽情報にさらされることを懸念している人の数も増えています。
世界は、より人道的なオンライン空間を切に求めており、生成AIの飛躍的な進歩への懸念も、新たな行動の原動力となっています。
歴史上のどのプラットフォームよりも急成長しているこれらのツールは、グローバルな課題に対処する上で想像を超える可能性を持つ一方で、腐敗させ、害をもたらす力も同等に持っています。
私たちはすでに、AIが歴史や偽のプロフィールを歪曲して作り出し、あるいは空想上の画像や動画を生成するのを見てきました。
もっともらしく説得力のある事実として、ソーシャルメディア上を流れています。
国連は、生成AIの規制を求める声を歓迎しています。
しかし、将来がどうなるにせよ、今のアプローチが有効でないことは明らかです。
また、プラットフォームだけにこの問題を委ねてもやはり有効ではないと、経験から分かっています。
国連は、主要な優先課題として情報危機に取り組んでいます。
その対応と能力を、劇的に拡大しています。
私のチームは、デジタル・プラットフォーム上の情報の誠実性に対する行動規範を策定しています。
人権にしっかりと根差し、デジタル空間をより人道的なものにするための世界標準となるものです。
今年の6月、私たちはこの行動規範をつくるための協議の基盤となる、一連の原則を発表しました。
これらの原則は、情報の誠実性に対する国際的なコミットメントと、巨大なビジネスとなっている偽情報の拡散を防ぐ施策の強化を求めています。
また、プラットフォームに対して、世界中で一貫した安全対策を適用し、人権、プライバシー、安全よりもエンゲージメントを優先するビジネスモデルを放棄することを求めています。
また、独立系メディアとデジタル・リテラシーを後押しし、ユーザー・エンパワーメントを推進することで、危害が及ぼす影響を制限する方法を提示しています。
一つ、明らかなことがあります。
私たちが直面している課題は、より緊密な協力によってのみ解決できるのです。
この闘いには、各国政府から市民社会、メディア、学術界まで、あらゆる人の参加が必要です。
朝日地球会議の主催者の方々に対してこうした問題を皆様に提起し、対話を広げていく機会を与えていただいたことに感謝申し上げます。
対話こそ、前進するための唯一の方法であることは間違いありません。私たちの情報の生態系がバランスを取り戻すのを助け、オンラインの公共空間に誠実性を取り戻すために。
ありがとうございました。
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*本メッセージは、メリッサ・フレミング事務次長が「朝日地球会議2023」(https://www.asahi.com/eco/awf/ )に寄せました。