世界報道自由デー(5月3日)に寄せる
コフィー・アナン国連事務総長のメッセージ
~悪い知らせだけでなく、よい知らせも~
プレスリリース 04/034-J 2004年05月20日
以下は、2004年5月3日の「世界報道自由デー」に寄せるコフィー・アナン国連事務総長のメッセージです。
「世界報道自由デー」は何よりもまず、職務中に命を失ったり、その報道のために投獄あるいは拘留されたりしているジャーナリストの方々を思い出し、敬意を表する日です。
ジャーナリスト保護委員会(Committee to Protect Journalists)が発表した統計は、私たち全員に厳しい現実を認識させるものでした。これによれば、2003年には36人のジャーナリストが殺害されたほか、今年3月までにすでに17人が殺されており、昨年末の時点で投獄されているジャーナリストも136人に上っています。これらジャーナリストの中には、その報道内容、あるいは、ある報道機関への所属を理由に、執拗な標的となっている人々もいます。
このような敵意と危険に敢然と立ち向かうジャーナリストがいます。しかし、ジャーナリストの個人的・職業的な健全性に対する継続的な脅威は、自由な表現の媒体として、人権の擁護者として、発展の道具として、そして世界の良心を呼び起こす手段としてのメディアに依存する私たち全員にも、無縁ではありません。
ですから、きょうはメディアの独立性を守る私たちの決意を新たにする日であるとともに、ジャーナリストが安全に、恐怖に怯えることなく、その重要な活動を遂行できるようにするための日といえます。
世界報道自由デーはまた、報道という職業が直面するさらに幅広い問題のいくつかを考える機会でもあります。皆さんは今年、何が報道され、何が報道されていないかという極めて論議の多い問題を重視しています。
もちろん、国連に勤める私たちは常に、報道機関の重点の置き方をよしとしているわけではありません。しかし、このような苛立ちは、何もメディアに限ったことではありません。結局のところ、加盟国は一部の問題をあまりにも重視し、同じように、さらにはそれを上回る重要性を備えた懸案事項にほとんど関心を示しません。同様に、援助を受ける国ではもっとも緊急な優先課題とはいえなくても、援助国の国内で人気の高いプロジェクトのほうに資金が投入されるという、苛立たしいケースも見られます。しかし、政府も援助機関も結局のところ、人間が運営しているのであり、メディアで見たり、聞いたりしたことから影響を受ける傾向があります。
このような観点から、国連広報局(DPI)は先日、世界中の人々がもっとよく知る必要と価値があると考える10の話題を掲げたリストを公表しました。
そのうちの一つが、ウガンダ北部で悪化を続ける緊急事態です。ウガンダは経済発展という点で長足の進歩を遂げているものの、ここでの戦争では、兵士のほとんどが未成年者です。近接する中央アフリカの騒乱も、悲しいことにほとんど見過ごされています。タジキスタンの情勢も同様に、報道されることはほとんどありませんが、これにはおそらく別の理由があります。もちろん、まだ道のりは長いものの、復興と平和へに向けた実質的な前進が見られているからです。悪い知らせだけでなく、よい知らせも伝える必要があります。
広報局が発表したリストは、平和と安全の問題に限らず、魚の乱獲、エイズ孤児の窮状のほか、地球全体のおよそ10人に1人に達した障害者の権利促進に向けて策定中の画期的な国際的な合意にも注意を促そうとしています。
これらの問題や情勢に共通していえるのは、それぞれが危急存亡のときを迎えているということです。現時点で外部からの関心と理解と援助が寄せられれば、大きな成果が得られる可能性があるのです。
どうかこのリストを批判であるとか、皆さんの仕事のやり方への口出しとか、すでに皆さんが担っている責務を超えた「責任」の概念を押し付けるものだというふうにお考えにならないでください。それは単に、紙面や放送時間、皆さんや編集者の方々の関心、そして加盟国の政治的意思と資源の激しい競合に参加させていただいたことに過ぎません。ある国家の崩壊を待って国際社会が行動を起こすのでは遅いのと同様に、ある危機が最悪の事態に達してからメディアの脚光を浴びたのでは遅いのです。私たちの作為あるいは不作為により、また、何を報道し、何を報道しないかにより、特に懸命に努力を続ける困窮した国々や人々に対し、大量の流血や完全な機能不全が起こるまで、関心も助けも向けられないのだというメッセージを送るべきではありません。
これは報道関係者だけでなく、私たち全員にとっての課題です。私は皆さんの報道、皆さんからのご質問、そして皆さんの持つ巨大な力が共通の利益に役立つ姿を期待しています。私としても、できる限り皆さんに対応するとともに、皆さんの不可欠な任務の遂行を促進できるよう、惜しまぬ努力を続ける所存です。