コフィー・アナン国連事務総長 総会演説
プレスリリース 02/084-J 2002年09月25日
ニューヨーク、2002年9月12日
大統領閣下
国家元首・政府首長の皆様
ご臨席の皆様
昨日の1周年に思いを致すことなく今日という日を始めることはできません。2001年9月11日に私たちが残虐な犯罪行為を突きつけられてから1年がたちました。
あの日のテロリストの攻撃は単独の出来事ではありませんでした。それは世界を揺るがす災厄の極端な例でした。そうした災厄には、広範にわたる人々が協力して、継続的に、全世界一丸となって立ち向かうことが必要です。
広範にわたる人々が協力して。なぜなら、テロリズムはすべての国家が結束してはじめて打ち破ることができるからです。
持続的に。なぜなら、テロリズムに対する戦いは一夜にして簡単に決着がつくというようなものではないからです。忍耐と粘り強さが必要です。
そして、全世界一丸となって。なぜなら、テロリズムは広く世界に見られる複雑な現象であり、多くの根深い原因とそれを駆り立てるさまざまな要因とがあるからです。
大統領閣下、そのような対テロ行動を成功させるには、多国間組織を全面的に利用するしかないと私は信じています。
私はいまここに多国間協調主義者としています。先例や原則の面からいっても、国連憲章から考えても、そして私の義務からも。
また、国内の法の規則を遵守しているすべての政府は、海外の法の規則も遵守しなければならないと私は考えます。国際法を擁護し国際秩序を維持するのは、すべての国にとって、明白な責任であるとともに、明白は利益でもあるのです。
国連の祖である1945年の政治家たちは、2回の世界大戦と大恐慌の苦い経験から祖の事を学びました。
彼らは、国際的な安全はゼロサムゲームではないことを認識しました。平和や安全、自由は無限です。土地や石油、金のように有限のものは、どこかの国が手に入れればどこかの国が失うことになります。しかし、平和や安全、自由はある国が多くを手に入れれば入れるほど、近隣の国々もいっそう多くを手に入れる可能性が高くなるのです。
また彼らは、共に主権を行使しようと合意することにより、個別に行動していては克服できない問題に立ち向かえるのではないでしょうか。
そうした教訓が1945年に明白だったのならば、グローバリゼーションの時代である今、より一層明白であって当然ではないでしょうか。
私たちが取り組むべきほとんどすべての課題どれをとっても、各国が独自に、またはどこか1カ国だけで何とかできると本気で主張する人はいないでしょう。超大国といわれるような国々でさえ、そうした目標を達成するためには多国間の組織において他国と協力する必要があることを知っています。
多国間の行動によってのみ、開かれた市場からすべての人が利益と機会を享受できるようにすることが可能です。
多国間の行動によってのみ、開発途上国の人々が貧困の惨めさ、そして病気の苦しみから逃れるチャンスを手にすることが可能です。
ましてやテロリズムの防止には多国間の行動が欠かせません。各国は、テロリスト集団や彼らをかくまい支援する国に反撃することによって、自国を守ることができるかもしれません。しかし、テロリストにチャンスを与えないための現実的な希望を生み出すには、すべての国が体系的な普段の情報交換をしつつ、歩調のそろった警戒と協力をするしかないのです。
こうした問題に関して、多国間の協調という道を歩むのか、それともそれを拒否するのかという選択は、一国にとって― 大国であろうと小国であろうと― 政治的な都合というような単純なことがらであってはなりません。それは直接的な影響をはるかに超えた結果を伴うのです。
世界の国々は、国際法を進展させ、尊重し、必要に応じてそれを施行しながら多国間組織において協力し合うとき、相互の信頼を醸成し、他の問題についてもより効果的な協力を発展させることになります。
ある国が多国間組織を利用し、それによって共通の価値を尊重し、そうした価値に付随する義務と制約を受け入れるようになればなるほど、他の国はその国をいっそう信頼し尊敬するようになります。そうすれば、その国は本当のリーダーシップを発揮する機会が増えるのです。
そして、さまざまな多国間組織の中で、国連というこの世界的な組織は特別な位置づけにあります。
攻撃を受けた際にはいかなる国も、国連憲章第51条に基づく自衛権を持っています。しかし、自衛を超えて、ある国が国際的な平和と安全に対しより広範な脅威となる武力を用いると決めたとき、国連によって合法性が与えられない限り、その行動が合法性を持つことはありません。
国連加盟諸国は、そのような合法性、そして国際的な法の規則に根本的な重要性を付与しています。加盟諸国は、12年前のクウェート解放の際に明らかになったように、安全保障理事会の権限に基づいて行動することはいとはないけれども、安保理の権限に基づくことなく行動する意志はないということを明らかにしています。
実効性がある国際安全保障システムの存在は、安保理の権限にかかっています。つまり、最初から合意が難しいと思われるきわめて困難な問題であっても、行動するという安保理の政治的な意志にかかっているのです。ある問題を安保理の議題とするかどうかの主たる基準は、当事者が受け入れるかどうかではなく、世界の平和に対する重大な脅威が存在するかどうかです。
大統領閣下、
ここで、目下、世界の平和を脅かしている4つの問題、本当のリーダーシップと実効的な行動が強く求められている4つの問題について述べさせてください。
第1に、イスラエルとパレスチナの紛争です。私たちの多くは、ここのところ、イスラエルの合法的な安全保障とパレスチナの人道的な必要性を調和させるよう努力してきました。
しかし、このような限定的な目標はより広い政治的背景から切り離して達成することはできません。私たちは、イスラエルとパレスチナ双方の人々に、そして地域全体に、安全と繁栄をもたらすことができる公正で包括的な解決策の模索に立ち返らなくてはなりません。
最終的な中東和平のビジョンはよく知られています。それは、ずっと以前に安保理の決議242と338において規定されました。特にイスラエル-パレスチナ問題に関しては、決議1397に明確に記されています。それは、土地と平和の交換原則に従い、恐怖と占領を終結させ、イスラエルとパレスチナという2つの国家が互いに確固たる承認された国境を越えることなく隣り合って暮らすというものです。
双方ともこのビジョンを受け入れています。しかしそれに到達するためには、すべての領域で迅速且つ並行的に行動する必要があります。いわゆる「順次」アプローチは失敗しているのです。
昨年5月にワシントンで行われた四者会談で合意されたように、イスラエルの安全を高める手段、パレスチナの経済や政治制度を強化する手段、最終的な和平合意の詳細を煮詰める手段という並行して進めるべき各種の手段の道筋を定めるために、早急に国際的な平和会議を開くことが必要です。一方で、パレスチナの人々の苦しみを軽減するための人道的な手段が強化される必要があります。これは急を要します。
第2に、イラクの首脳部が、国連憲章第7章に基づいて安保理によって採択された強制的決議を拒否し続けているという問題です。
私は、安保理の決議に従って兵器査察官を戻す必要性をはじめ、多くの問題に関して、イラクと細部にわたる話し合いを行ってきました。
イラクに安保理の決議を遵守させる努力は継続しなければなりません。私は、イラクの首脳部に影響力を持つすべての人々に、兵器査察を受け入れることの絶対的な重要性を彼らに認識させるよう働きかけていただきたいと思います。イラクの大量破壊兵器のすべてが間違いなく破棄されたと世界の人々が確信できるようになるためには、そしてイラクの人々に多くの困難をもたらしている制裁が停止され、最終的に解除される為には、これが必要不可欠な最初のステップです。
私は、イラクに対して、義務を果たすよう強く要求します― イラク国民のために、そして世界の秩序のために。イラクの抵抗が続くならば、安保理はその責任を遂行しなければならなくなります。
第3に、国際社会のリーダーである皆さんに対して、アフガニスタンへの関与を続けてくださるよう要請します。
カルザイ大統領の本総会への出席を歓迎し、先週の凶悪な暗殺未遂事件を無事に切り抜けられたことをお喜びする気持ちは皆さんも同じでしょう。この事件は、テロリズムが根づいてしまった国でそれを根絶させるのがいかに難しいかを私たちにはっきりと思い出させました。この国が混迷の淵に沈み、アルカイダの温床となるのを食い止めることができなかったのは、恥かしながら1990年代に国際社会がアフガニスタンの状況を見過したからです。
今日、アフガニスタンは2つの分野で緊急に手助けを必要としています。まず、政府がアフガニスタン全土を掌握する上で支援が必要です。全土に支配権が及ばなければ、他のすべての事柄が失敗してしまうかもしれません。もう1つは、この国の復興と再建と発展を手助けするために、資金提供者が関与を続けることが必要だということです。そうしなければアフガニスタンの人々は希望を失ってしまします。私たちは、絶望から暴力が生まれることを知っています。
第4の問題は南アジアです。核兵器を持つ2国間の直接衝突の危機感が近年になく高まっています。現在、状況はやや落ち着いているようですが、まだ危険な状態にあることに変わりありません。根底にある衝突の原因が解決される必要があります。新たな危機が勃発したならば、国際社会には果すべき役割があるでしょう。しかし私は、両国の指導者たちが解決策を見出す手助けをするのにふさわしい立場にある加盟各国が尽力するのを喜んで承認しますし、心より歓迎します。
ご臨席の皆さん、私の話を終えるに当たり、2年前のミレニアム・サミットにおいて皆さんが決めた公約をもう一度思い出していただきたいと思います。それは、世界の人々に役立つよう「国連をもっと有効な機関にする」ということです。
本日、私はお集まりの方々すべてに対し、この公約に敬意をお払い下さるようお願いします。
皆さん、これからの時代においては、大きな国であろうと小さな国であろうと、世界の利害がまさしく自分たちの国の利害であることを認識しようではありませんか。
ご静聴ありがとうございました。