潘基文(パン・ギムン)国連事務総長 演説 国連創設70周年記念国連大学シンポジウム (2015年3月16日、東京)
プレスリリース 15-029-J 2015年03月19日
こんばんは。
ご同席の安倍晋三総理大臣に感謝いたします。総理の国連大学訪問は、国連にとって大きな意味があります。これもまた、日本政府の国連に対する強力な支援の表明と受け止めています。
国連は日本とのパートナーシップをとても大切にしています。
私たちは「友達」です。
日本の国際貢献にいつも感謝しています。
日本は人道支援、開発活動、平和維持、人権、人間の安全保障の分野で積極的に貢献しています。
日本はこれまでに10回、安全保障理事会の非常任理事国を務めるとともに、軍縮の重要な提唱国となっています。現在は国連人権理事会の理事国として、貴重な役割を果たしています。
私は改めて、安倍総理の国連に対するコミットメントと強力な支援を称賛します。総理は必要な時、必要な場所で、常に国連の偉大な支持者となってきました。
総理が災害リスク削減に40億ドルを拠出し、4万人に防災と復興に関する訓練を施すという計画を発表されたことは、このことを如実に示しています。人道に対する総理の寛大なご支援にも、改めて深く感謝します。私は人間の安全保障に資するものとして、この取り組みを大いに称賛しています。
私は、国際舞台での日本の参画を高く評価するとともに、私たちの協力をさらに強化できることを楽しみにしています。
日本の献身的な姿勢は、まさにこの国連大学の受入国となっていることに象徴されています。
私は、人類の進歩に向けた実際的研究に国連大学の活動の焦点を定めようとする、デイビッド・マローン学長の取り組みに拍手を送ります。
来賓の方々、
皆様、
国連が創設70周年を迎えた今年、加盟国は開発、非植民地化、人権、国際法、平和維持その他多くの分野で国連が達成した成果を誇りにすることができます。
国連は、新たに生じつつある脅威に対処するための進化を遂げました。私は昨年、西アフリカでのエボラ流行に対応するため、国連初の保健緊急ミッションを立ち上げたばかりです。
私たちが今後、現時点で想像できないような新たな課題に直面することは間違いありません。その意味でも私は、アフリカの3つのエボラ感染国に対し、寛大な支援と貢献を頂いた日本の政府と国民に深く感謝しています。
きょうは、国連が今後の課題にどのように備え、私たちに共通の未来を確保するために世界をまとめていくのかという点を中心にお話します。
皆様、
仙台では今、第3回国連防災世界会議が開催されています。
その重要性は悲しいことに、バヌアツをはじめとするオセアニア諸国を襲った猛烈なサイクロンによって証明されました。
私は直ちに、バヌアツの大統領にお会いしました。そして、バヌアツに直ちに援助を送るよう指示しました。私たちはこれからも、バヌアツの被災者に対する人道支援を結集するために必要な措置を講じてゆきます。
仙台会議は国際社会にとって、2015年の最初の重要な一歩になりました。
世界の首脳たちは7月、エチオピアのアジスアベバに参集し、国連のすべての目標をしっかりと資金面で支援するメカニズムについて話し合い、これを成立させることになっています。
9月に開かれる特別サミットでは、首脳たちが2030年を期限とする一連の持続可能な開発目標を伴う持続可能な開発アジェンダを採択します。加盟国の大胆なビジョンが、具体的な一連の目標としてまとまりつつあるところです。これらは全体として、貧困や不平等との闘いの指針となります。そのねらいは、誰も置き去りにしないことにあります。
このアジェンダは、人間の進歩を促すことにより、混乱や紛争を防ぐことに役立ちます。
そして12月にはパリで、気候変動に関し、世界のすべての国々に普遍的に適用される協定の成立が予定されていますが、この協定は極めて有意義かつ野心的なものとせねばなりません。
これが成功すれば、私たちの世界はより安全で環境に優しく、豊かさを享受できる道を歩むことになるでしょう。
皆様、
国連は第2次世界大戦後、戦争の惨害から将来の世代を救うために創設されました。
私たちは、国連創設者たちの描いたビジョンが十分に実現されていないことを認めなければなりません。世界各地で、まだ武力紛争が続いているからです。
安全保障をめぐる環境は、ますます複雑になっています。複数の当事者が戦闘に加わり、さらに多くの関係者その背後で画策しています。
5年目に入ったシリア紛争は、国連の集団的行動の足並みがそろわないことによって生じた、最も悲劇的な事例といえます。犠牲者は22万人を超えました。シリアの人口のほぼ半分が家を追われ、多くは近隣国で難民となっています。
シリアの人々は、想像を絶する破壊とトラウマに苦しんでいます。私は国際社会のすべてのメンバーに対し、来る拠出誓約会議で、私たちの対応計画の資金調達に寛大な協力をいただけるようお願いしています。
シリアは全面的な崩壊のリスクに晒されています。もしそうなれば、中東地域全体に深刻な影響が及ぶでしょう。
ダーイシュ、あるいはISILと関係集団の恐るべき台頭も、イラク、リビア、ナイジェリアその他の国々で犠牲者を出しています。
安全保障理事会は、シリアについてもウクライナについても結束できていません。
ウクライナの平和と安定を回復するためには、停戦の維持が欠かせません。今回の第2次ミンスク停戦合意は、現地で遵守されているようですが、極めて不安定な合意であることに変わりはありません。すべての関係者が第2次ミンスク停戦合意の誠実な履行に努めなければなりません。
来賓の方々、
皆様、
世界は「過ちを繰り返さない」ことを約束しました。ルワンダのジェノサイドの後も、スレブレニツァのジェノサイドの後も、私たちは「過ちを繰り返さない」という言葉を繰り返してきました。
私はこの約束を守れなかったことを認めます。しかし、もし国連がなければ、過去70年間に流された血ははるかに多かったはずです。
これまでの70年間、国連の実効性や効率、さらには存在意義に関する批判がなされてきたことは重々承知していますが、国連がなければ、この世界がはるかに困難かつ悲劇的なものとなったか、そうなり得たことは間違いありません。このことは幾分かの慰めにはなります。しかし、それは自己満足に浸ってもよい理由にはなりません。私たちが使える人々の期待を満たせるよう、努力を続けなければならないのです。
すべての国に共通の話合いの場がなかったことを想像してみてください。兵力を引き離したり、戦闘員の武装を解除したりするブルー・ヘルメット(平和維持要員)はいないことになります。信頼される国連の調停者が当事者間の和平に貢献することもありません。
泥沼の紛争が広がり、無駄死にする人々も増えるでしょう。
私たちは国連を補強しなければなりません。私たちには皆様の支援と、国連の全加盟国の継続的な参画が必要です。国連が戦争の勃発を防ぐとともに、戦争が起きた場合、これに効果的に対応できる能力を高めることに、私が懸命に努めている理由もここにあります。
紛争が破壊的なスピードで進展、拡散する中で、この作業は特に難しくなっています。
来賓の方々、
皆様、
グローバルな安全保障をめぐる環境は刻々と変化し、それに合わせて、国連の安全保障に対する世界の期待も目まぐるしく変わっています。
平和維持活動の大がかりな見直しは、2000年に当時のラフダール・ブラヒミ事務総長が主導して以来、行われていません。もう15年前のことになります。
現在、12万人を超える国連の平和維持要員と職員が、16件のミッションに携わっています。
私たちのミッションには、「民間人保護」のマンデートをはじめとする複雑な責任が加わり、ますます多次元化しています。
2000年まで、1年のうちに100人を超える平和維持要員が殉職したことは史上4回しかありませんでした。残念ながら、それ以来、こうした事態は10回も生じています。
ブルー・ヘルメットの中には、マリ、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国や南スーダンなど、極めて危険な戦域で活動する人々が多くいます。私は日本の貢献に感謝します。特に南スーダンでは、極めて危険な状況の中で、270人を超える日本の平和維持要員が展開しています。
余りにも多くの国々で、平和維持要員は守るべき平和がない場所に駐留し、非対称的な脅威に直面することも多くなっています。私はこうした要員の傑出した勇気に敬意を表します。
ニーズが高まる一方で、資源は慢性的に不足しています。
特別政治ミッションはあまりにも長い間、場当たり的な、そして多くは不十分な支援取決めに依存せざるを得ない状態が続いています。
兵力提供国がその兵員の展開に条件を付けることがあまりにも多くなっています。
よって私は、これら極めて深刻な懸念に取り組むハイレベル独立パネルを任命しました。
私は「人権を最優先に」イニシアティブを通じた国連の動員も行っています。
職員と管理者は、道徳的勇気を高める研修と支援を受ける予定です。
この「人権を最優先に」イニシアティブのねらいは、人々を守り、人命を守り、人権侵害が残虐行為に発展する前に「早期警報」を発することにあります。
私たちはまた、命がけで私たちの価値観を代弁する人権擁護者も保護しなければなりません。
国連憲章は、国家間の紛争をどのように予防、解決すべきかに関するルールを定めています。しかし、今日では内戦が発生した場合、平和と安全への挑戦がしばしば国内で、テロ集団などの非国家主体から投げかけられています。
私たちの実践を深化させ、国連の存在意義と実効性を保ってゆかねばなりません。
皆様、
私たちが共に暮らす地域でもあり、グローバルな成長の原動力ともみなされているアジア太平地域に話を移すことにしましょう。
21世紀はアジア太平洋の時代だと、よく言われます。
アジア太平洋諸国間の協力を促進するうえで鍵を握るのが、北東アジアです。国連は、数多くの地域協力メカニズムとやり取りしていますが、北東アジアには依然として、このようなメカニズムがありません。私は日本、中国、韓国をはじめとする地域諸国間の対話が、将来を見据えた形で進むことを切に期待しています。
私たちは真の和解、調和、平和そして繁栄に向けた地歩を固めなければなりません。
この関連で、私は地域の指導者に対し、過去を忘れずに、将来を見据えるよう強く促します。これによって、これからの世代に平和と和解の精神が生まれるでしょう。私たちは、共通の豊かさと共有された目標を達成するという相互利益を目指す協力の精神で、歩みを進めるべきなのです。
これは、アジアの大きな将来性の実現に役立つことでしょう。
来賓の方々、
皆様、
世界は「国際女性の日」を記念したばかりです。
しかし、私の女性に対する暴力との闘い、平等を求める主張、ジェンダーのエンパワーメント支援は終わりません。それは私の任期が終わるまで、日々続けなければならない仕事だからです。
私の任期中、かつてない数の女性が幹部に任命されたことを誇りに思います。ジェンダーのバランスを保つために、後任の事務総長がもっと多くの男性を起用せねばならない事態になれば、それは私の望むところです。私は皆様の叱咤激励を必要としています。とても大変な仕事だからです。
歴史は、若者が変革を牽引することを教えてくれます。
しかし、若者が牽引役の立場にいたことはありません。
私は、若者に進歩を促進する「ライセンス」を与えることを求めます。
若者には、技術革新と社会変革をもたらせるエネルギー、知性そして価値観があります。
若者が持つこの力を発揮させるには、成人するまでの移行期に投資する必要があります。
具体的には質の高い教育、充実した保健サービス、人間らしい仕事が挙げられます。
私は国連で、若者を単に将来のリーダーとしてではなく、現在のリーダーとして支援したいと思っています。多くの若者は現在、すでにリーダーとしての役割を果たしています。単なる将来のリーダーではありません。私は世界のリーダーとともに、これからの世代が調和と平等、そして平和と相互尊重の世界に住めるような形で、この世界を残せるよう懸命に努めているところです。
この理由から、私は国連史上初のユース担当特使を任命しました。アフマド・アレンダヴィ特使は、国連を全世界の若者数百万人と結びつける役割を果たします。私がお会いした日本の若者は、立派なグローバル市民です。私はその精神とグローバル市民性に鼓舞されました。是非とも私の特使と力を合わせ、私たちに共通の目標に向けて前進していただきたいと思っています。
総理、
来賓の方々、
皆様、
きょう生まれた子どものことを考える時、この子は将来、どのような世界に住むのだろうかと思いを巡らすだけでは不十分です。私たちに共通の進歩に子どもが貢献できる世界を作ることを決意しなければなりません。
2015年、国連はパートナーを動員し、新しい未来に向けた人々のエンパワーメントを図っています。
今年を人類の歴史における真の転換点とするため、皆様のご支援を期待しています。
この世界を、誰も置き去りにされず、全員が尊厳ある暮らしを送れるような、すべての人にとってよりよい世界へと変えてゆこうではありませんか。皆様のリーダーシップとコミットメントに感謝いたします。
ありがとうございます。
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