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国連事務総長、世界経済フォーラムで演説
「グローバル化を万人のために」

プレスリリース 01/12-J 2001年02月05日

 以下は、コフィー・アナン国連事務総長が128日、ダボス(スイス)での世界経済フォーラムで行った演説の本文である。

 まず始めに、ただ今ご紹介をいただいたクラウス・シュワブ氏に対し、私を再びダボスにお招きいただいたことを感謝したいと思います。

 2年前、私はここで、グローバル化の脆弱性についてお話ししました。皆様の中には、私があまりにも心配性だとお考えになった方々もいらっしゃるでしょう。それでも私は、以後の出来事が私の心配の正当性を示したと信じています。

 私たちにとっての挑戦は、私たちが目の当たりにした抗議行動ではなく、こうした抗議行動が反映し、広まりを助長している世論の雰囲気にあります。なぜなら、今日の世界では、あまりにも多くの人々にとって、物事が急激に開放されていくことが彼らの生計、生活様式、そして、政府が自分たちに奉仕し、自分たちを守ることのできる能力への脅威となっているからです。大げさ、あるいは、見当違いだったとしても、ロシアの諺は「恐怖は大きな目をしている」と教えています。さらに付け加えるならば、それは政府の耳をとらえ、対応を強いられているとの意識を与えることになります。

 しかし、大半の人々がグローバル化を後退させようと望んでいるわけではありません。ただ、人々は現在のものと異なる、よりよいグローバル化を期待しているのです。

 これこそが、過去最大の元首・首脳会議となった昨年9月の国連ミレニアム・サミットから生まれたメッセージでした。サミットの目的は、新世紀の国連にとっての中心的優先課題を改めて見直すことにありました。グローバル化を世界のすべての人々に資すること以上に、重要とされた課題はありませんでした。

 ここにお集まりの皆様は、それが可能であり、また、実際にそうなることを当たり前のようにお考えかもしれません。しかし、私たち人類の同胞の半数が一日2ドル以下でどうにか生活し、世界人口の90%の人々に影響を及ぼす健康問題に用いられる額が、世界全体の保健研究予算の10%に満たない現状を考えれば、これを納得させることはずっと困難なのです。

 電話をかけたことも受けたこともない地球上の半数の人々、ニューヨークのマンハッタン地区の住民よりインターネットの利用者が少ないサハラ以南アフリカの人々にとって、グローバル化が何を意味するかを考えてみてください。

 また、特に若者たちに対し、この21世紀の幕開けにおいて、グローバルな規則体系がなぜ、基本的人権を守ることよりも、知的所有権を保護することに重きをおいているのかを、どのように説明したらよいのでしょうか。

 皆様、問題の本質は次の点にあります。すなわち、グローバル化を万人のためのものとできなければ、それは誰のためにもならないのです。今日のグローバル化を特徴付けている利益の不平等な配分とグローバルな規則作りにおける不均衡は、間違いなく反発と保護主義を生み出すでしょう。そしてこのことは、これまで半世紀にわたって苦労して築き上げられてきた開放的世界経済の根底を揺るがし、最終的にこれを崩壊させる危険性をはらんでいます。

 ミレニアム・サミットでは、各国の元首・首脳がこの格差を縮めること、すなわち、所得の不平等について言えば、2015年までに世界の貧困を半減させることを決議しました。

 しかし、サミットではまた、政府だけでこれらの目標を達成できないことも認識されました。このため、そのミレニアム宣言で指導者たちは、民間セクターおよび市民社会組織との強力なパートナーシップにより、すべての人類共通の目標に向けて努力するという考えに支持を表明したのです。

 事実、私たちはそのようなパートナーシップ作りを順調に進展させています。皆様もご存知かと思いますが、私は2年前、この世界経済フォーラムで「グローバル・コンパクト」を提案するとともに、財界指導者に対し、新たなグローバル経済に欠けている社会的基盤の整備に応分の役割を果たすよう求めました。きょう私は、再びこのテーマに戻り、さらにこれを一層促したいと思います。

 私は財界指導者に対し、政府が新たな法律を施行するのを待つのではなく、自発的に自社の実践を改善していくよう要請しました。具体的に言えば、私は皆様に対し、自社の内部で、人権、および環境と労働基準に関する普遍的に受容された合意から生まれた9つの中心的原則を採用し、これを実践するよう求めました。そして私は、このことに関し、皆様に対し、適切な国連機関による協力を申し出ました。

 私は、多くの財界指導者がこれに前向きな対応を示したことを嬉しく思います。それと同じく重要なことは、指導者の方々が、これら目標の達成を目指して市民社会と協力することの価値を認めたということです。

 よって、グローバル・コンパクトには、世界中の一流企業だけでなく、国際自由労働組合連盟、ならびに、人権擁護、環境保護および開発分野で活動するボランティア組織十数団体も参加しています。これらの企業と団体は協力して、よい慣行の判別と促進を行うことにより、悪しき慣行の排除に努めています。グローバル・コンパクトは規制でも行動規範でもなく、何がうまく行き、何がうまく行かないかについての教訓を学び、共有するための綱領なのです。

 昨年7月、これら3つの部門すべての代表が国連本部を訪れました。私たちは、どのようにしてグローバル・コンパクトを推進すべきかに合意し、2002年までに主要な企業1,000社が達成すべき目標を設定しました。

 私はきょう、最近になってABBの最高経営責任者を辞任されたゲーラン・リンダール氏が、この企業勧誘の努力を指揮し、グローバル・コンパクトに関する私の特別顧問として戦略的指導を行うことに同意されたことを発表でき、とても嬉しく思います。リンダール氏は、極めて輝かしい実業家としての業績だけでなく、企業の社会責任と市民性に対する強力なコミットメントをもって、この任務に臨んでいます。

 グローバル・コンパクトはまた、後発開発途上国における投資促進から、職場およびその周辺における人権推進に至るまで、多くの具体的なプロジェクトに着想を与えています。しかし、グローバル化の機会がより広く享受され、評価されるようにするために私たちができることは、さらにたくさんあります。

 世界の多くの場所では、暴力と混乱をもたらす紛争が、社会と経済の進歩を阻む最大の障害となっています。

 このことはもちろん、主として政府の責任です。しかし、こうした不幸な地域で活動する民間企業は、和平の可能性を拡大したり、あるいは、少なくとも紛争の継続を助長したりしないようなやり方で、責任ある行動を取るよう、大いに慎重を期すべきです。デビアス社は、アフリカにおけるダイアモンド取引への批判に対応し、ダイアモンドの取引業者と消費者が無意識のうちに戦闘指導者の資金調達に手を貸さないようにするための努力を行い、模範を示しました。私たちはグローバル・コンパクトにより、企業が戦闘地域で演じることのできる、また、演じるべき適切な役割に関し、関係者間で共通の理解の確立を図るべく、初めてのテーマ別対話を始めようとしています。

 私は、グローバル・コンパクトが、少しずつではあれ、世界を変えていく助けとなりうる、やりがいのある試みだと信じています。よって私は、きょうここにお集まりになった財界指導者のうち、私たちの試みに参加していない方々も、早急にこれに加わっていただけることを期待しています。

 私はまた、グローバル・コンパクトを批判してきた市民社会組織の方々も、国連で働く私たちにとって、民間セクターとの提携を図ることが単なる選択ではないことを理解されるだろうと期待しています。この試み、さらにその他の試みにおいても、それは不可欠なのです。私たちは、状況を変えていくことができるすべての社会的主体を関与させなければなりません。

 開発途上国で普通の生活を営む上で大きな障害となっている風土病あるいは感染症の蔓延を押し戻すことは、実効的なパートナーシップを通じてのみ可能です。アフリカにおけるHIV/エイズ蔓延の恐怖を、その人的側面と経済的側面の両方で完全に把握している人は、私たちの中にいないのではないでしょうか。一部の国々で、HIV/エイズは世代全体を破滅させています。すでに感染した人々を助けるとともに、とりわけHIVの蔓延を食い止めるために、私たちにはあらゆる努力を行うという重要な義務があるのです。

 同様に、医薬品だけでなく幅広い投資は、開発途上地域にとって非常に重要です。真の意味で発展しつつある開発途上国とは、自国民の貯蓄と資源の動員はもとより、多額の海外直接投資の誘致にも成功している国々だけなのです。

 残念ながら、こうした国々は相対的に見て、一握りでしかありません。存在に過ぎません。それ以外の開発途上国、特に後発開発途上国は、その多くが外国投資にとって極めて好意的な規制枠組みを整備し、その誘致に向けて格段の努力を行っているにもかかわらず、ほぼ完全に取り残されています。

 こうした努力が成功していない理由はしばしば、必要なインフラが欠けていること、あるいは、市場があまりにも小さくて孤立しており、魅力に乏しいことに求められます。地域の市場はグローバル市場との厳しい競争を強いられているのです。

 国際的な企業はここでも、相互および政府との協力によって、後発開発途上国で事業を行うリスクとコストを削減し、そこでの投資機会について情報を提供することにより、状況の変化に寄与できることでしょう。

 パートナーシップが開発途上国にとっての状況を大きく変化させうるもうひとつの重要な分野として、情報技術(IT)があげられます。私は、「デジタル・ディバイド(情報格差)」の掛け橋を構築する方法を探る手助けをしてもらうために、小さな顧問グループを設置しましたが、そのメンバーの多くは、ここにいらっしゃいます。私はこれらの方々、および、この問題について私と協力することに合意いただいたその他すべての方々に対し、謝意を表します。私はこの情報技術が、多くの貧困国の将来にとって重要な役割を果たすと信じています。

 財界指導者の唱道的役割も同じく重要です。グローバル経済に実効的に参加するために、開発途上国はとりわけ、以下を必要としています。

  • より迅速で寛容な債務救済
  • 投資先としての貧困国の魅力を高めることに慎重に焦点を絞った、公的開発援助の増額
  • 貧困国の製品に対する豊かな国々の完全な市場開放

 

 パートナーおよび唱道者としてのこうした幅広い社会的役割は、実業界にとっては馴染みのないものかもしれませんが、これらはもはや、標準的なビジネス・モデルとはっきり区別できるものでもなければ、単なる慈善事業の問題として片付けられるものでもありません。市場がグローバル化する中で、企業の社会的責任という概念と実践もグローバル化しなければならないことを、企業は学びつつあります。企業はまた、最終的に正しいことをすれば、それが実際にビジネスに役立つことも発見しつつあります。

 換言すれば、私がお話ししたグローバル化の脆弱性は、企業部門自身の利益に大きな挑戦を投げかけており、その解決の中心は、皆様がグローバル市民性の機会だけでなく、その義務をも受け入れる必要性にあるということなのです。

 事実、財界指導者であるか市民社会組織であるかに関係なく、ここにお集まりの皆様はすべて、明日のグローバル社会の先駆者です。そこでは、市場は開放されねばならないものの、開放された市場は完全に、共有の価値観とグローバルな連帯とに裏打ちされていなければなりません。皆様は真の意味で、最初のグローバル市民であり、そして皆様だけが、富める者も貧しい者も、各人がグローバル化の恩恵を受ける機会を持てるようにするための行動と唱道を通じ、この言葉に意義を与えることができるのです。

 その実現を図る上で私、そして国連は支援を惜しまない所存です。

(SG/SM/7692, 29/01/01)