貿易で貧困を繁栄に
2002年03月18日
20世紀の後半を通じ、国際政策の重点は関税その他の貿易障壁を削減することにありました。が、これは多分に、先進国の優先課題に応じて進められてきました。近年、特にドーハ会議以降は、多くの開発途上国の輸出品に対する依然として高い障壁に関心が移りつつあります。このような障壁により、開発途上国は年間1,300億ドルの損失を被っていると見られます。
20世紀の後半には貿易が世界的に急拡大しました。世界貿易額は1950年から2000年にかけ、年平均で6.2%の拡大を示しました。これは、世界生産の年間成長率3.8%を上回っています。中でも、貿易自由化と輸送・通信コストの低下という2つの要因は、大きな役割を果たしました。
第二次大戦後、世界貿易機関(WTO)の設立に到る8回の多角的貿易交渉の結果、平均関税率は約40%から、1990年代には6%未満へと低下しました。平均で見て、1980年代に関税を大幅に引き下げた開発途上国は、引下げを行わなかった国々に比べ、1990年代により急速な成長を遂げました。自由化の公約は、現在ではほぼ普遍化しています。2001年11月には、カタールのドーハで、WTO加盟142か国が、農産品に対する補助金削減、および、関税と反ダンピング法乱用の削減あるいは撤廃による非農産品の市場アクセス拡大など、開発途上国が特に関心を有する幅広い重要課題の話合いについて合意しました。
国連のコフィー・アナン事務総長は1月の開発金融国際会議準備会合で、開発に焦点を置いた新たな貿易交渉課題を約束したドーハでの成果を、モンテレー会議でさらに推し進めるべきであると発言しました。
一次産品への依存克服
ほとんどの開発途上国は依然として、食料品、燃料および鉱物など、主として一次産品を輸出しています。また、重債務貧困国イニシアチブ(このプレスキットの債務に関する背景資料で説明)の対象となる22カ国の3分の2を含め、50カ国を超える開発途上国は今でも、3品目以下の商品にその輸出所得の半分以上を依存しています。
一次産品への過度の依存により、多くの開発途上国は、短期的な価格変動の影響を受けやすくなっています。長期的には、製品を主とする輸入品の価格に対して、その輸出品の価格が低下するという問題を抱えています。
特に製品とサービスの輸出へのシフトを図ることにより、開発途上国がその輸出を多様化する必要があることは明らかです。実際、アジアをはじめ、多くの開発途上国がこの道を辿っています。世界銀行のある調査によれば、人口30億人を抱える24の開発途上国は、過去20年間に、所得に対する貿易の比率を倍増させています。製品輸出(繊維、軽機械および技術商品)が主要な貿易品目となっている途上国も現れています。このことは、一次産品の中で多様化を進めるのと同様、一次産品貿易から製品貿易への移行が実際に可能であることを示しています。
輸出を拡大する機会だけでなく、その能力もまた、長期的な貧困削減に不可欠です。貿易政策の公約を履行し、国際的な政策立案に実効的に参加することも同じく重要です。多くの開発途上国にとって、このことは、追加的な技術援助を保障するからです。
市場アクセス
多くの先進国の関税と輸入制限は、開発途上国の多くが競争的に輸出できる農産品その他の労働集約財につき、比較的に厳しい傾向にあります。一部の品目分類について、開発途上輸出国は効率だけでなく、農家をはじめ、多額の補助金を受けている先進国の生産者と競争することも求められるのです。
経済協力開発機構に加盟する先進国および比較的に経済発展を遂げた国々における農業補助金は、1999年に3,610億ドルに達しました。これは、サハラ以南アフリカの国内総生産の合計を超えています。しかも、開発途上国からの農産品以外の輸出は、特に高い関税、あるいは、加工の程度に応じて上昇する関税率によって制限されています。このことは実際、開発途上国がこれら付加価値の高い製品を供給しようとする気さえ起こせなくしています。開発途上国が先進国市場への進出に成功しても、「ダンピング」(公正市場原価以下での販売)という不当な非難を受けたり、「反ダンピング」罰則規定の対象となったりすることがあります。
開発途上国からの輸出に対する市場アクセス拡大は、特殊な課題に直面している国々をはじめ、すべての国々が自由化の恩恵を受けられるようにするための協調的努力によって補完する必要があります。最近のある調査は、すべての貿易障壁を取り除けば、開発途上国に年間約1,300億ドル(財の貿易による時価利益のみで)の利益が生まれる可能性があると推計しました。この額からすれば、2015年を期限とするミレニアム開発目標を達成するために毎年必要となる500億ドルの政府開発援助の追加など、微々たるものに過ぎないのです。
ドーハでのWTO閣僚級会合で合意された議題に加え、最近では他にも前向きな動きが見られます。その一つは、欧州連合が2001年5月の第3回国連後発開発途上国会議で、世界の最貧国49か国からの「武器を除く全品目」の輸入に対する制限枠と関税を、2002年から2004年にかけて段階的に廃止すると公約したことです。また、2000年5月に米国で制定された「アフリカ成長・機会法(African Growth and Opportunity Act)」は、新しい一般特恵関税制度(GSP)の対象国として、サハラ以南の34か国を指定しました。
開発金融国際会議は貿易交渉の場ではありませんが、WTOは主たる会議協力機関の一つとして参加しています。2002年3月にメキシコのモンテレーで開催されるこの会議は、開発のその他金融的側面、および、国際的な制度と政策との関連という文脈の中で貿易措置を話し合う場ともなるでしょう。ドーハでは実際的な公約は何ら行われませんでした。何年もかかる交渉の開始について合意ができただけです。モンテレー会議は、より公正で開かれた世界貿易システムに向け、政治的な支援を作り上げるための中継点となることができるのです。
Published by United Nations Department of Public Information - DPI/2227/A - February 2002
将来を金融危機から守ろう
近年の金融危機は、世界中の経済に波及しました。政策立案者は防止策を検討しています。そして、「開発金融国際会議」での話合いは、これらのアイデアを明確化し、これをどのように実践するかに関する合意を作り上げることに貢献できます。
東アジアとロシア連邦で危機が発生した1998年の末までに、1990年代の経済の自由化とグローバル化が、これに実効的に対処するための国内的・国際的な制度枠組みの能力を超える勢いで進んでいたことが明らかになりました。危機の代償は、特に開発途上国と経済体制移行国にとって深刻なものとなりました。タイ、インドネシア、韓国、ブラジル、ロシア連邦などの国々では、失職者が数百万人に及び、貧困層は膨れ上がりました。新興市場経済への投資は落ち込み、それ以来、回復を見せていません。
1997年から1998年にかけての連鎖的危機以降、数多くの予防措置が提案されてきました。その中には、国内経済の国際的監視とその他早期警戒システムの強化、および、金融危機が発生した場合に投入できる十分な短期貸付資金の備蓄が含まれています。アルゼンチンの現状は、政策立案者が直面する大きな挑戦と同時に、大きな機会をも物語っています。
開発金融国際会議の準備プロセスで、国連と会議協力機関(特に国際通貨基金(IMF)、世界銀行および世界貿易機関)は、国際経済システムの利害関係者がこのような困難にどうしたらうまく対応できるかを検討しました。このプロセスの一環として、国際貿易、金融および開発協力を担当する専門的な政策立案者が一堂に会し、整合性と一貫性の向上を図っています。単純な例をあげれば、開発途上国の生産能力増強を支援する援助が、これら国々からの輸入品に対して援助国が設ける制限によって損なわれることがあってはならないのです。
十分な時宜に適った信頼できる情報の提供は、健全な金融システムの礎石とも呼べるものですが、これは官民双方の部門の透明性に依存しています。金融機関と市場の監督権限は主として各国の当局にありますが、資金の流れの国際的監視を強化する必要性については、幅広い合意ができ上がっています。
1997~1998年以降、金融監視改善のために取られてきた行動を補完するものとして、メキシコのモンテレーで開かれる開発金融会議に向けた国連での準備会合では、2つの考え方が推進されています。
その一つは、特に主要先進工業国をはじめとして、あらゆる経済に対する監視を改善すべきだというものです。これらの国々は、グローバルな動向を左右する多大な力を備えています。国内政策の責任は各国政府にある一方で、国内政策が持続不可能であったり、国際的に深刻な悪影響を及ぼす可能性があったりする場合、これは世界全体の正当な関心事になる、というのがこの考え方の論拠です。
第二の考え方は、金融システムに関する基準を設定し、将来的な危機の可能性について早期警報を発する国際機関および多国間機関には、開発途上国も相応の参加を行うべきだというものです。1990年後半の危機以降、国際的な関心は主として、開発途上国の政策強化に向けられてきました。しかし、時として無慈悲なグローバル化経済の諸力によって、開発途上国が基準遵守の責任を押し付けられるのであれば、これらの国々は、このような基準の設定と適用に全面的に参加すべきでもあるのです。
国連のコフィー・アナン事務総長は、2002年1月の開発金融会議準備会合で発言し、開発途上国がグローバル経済の管理における発言力を高める必要性に支持を表明するとともに、会議に対し、その達成に向けて実際的な措置を講じるよう要請しました。
講じられた措置
IMFは、国際通貨・金融システムを監督する主要機関です。この監督は、交渉済みの国際収支調整プログラムの監視、および、世界銀行と共同で行う「金融部門評価プログラム(Financial Sector Assessment Programmes)」の一環としての国別のマクロ経済と対外収支状況に関する年1回の「第IV条」監視を通じて行われます。IMFはまた、金融市場へのアクセスを望む国々を対象とした「特別データ流通基準(Special Data Dissemination Standard)」を通じ、各国財政の透明性向上を促しています。さらに、マクロ経済政策立案と金融部門規制に関する様々な規範の遵守も促進しています。
世銀とIMFも同様に、金融関係者と一般の人々に対し、その活動の透明性を高めるよう努めています。
しかし、特に民間セクターの情報開示については、さらに透明性の問題に取り組む必要があります。より国際比較の可能な指標や会計・報告基準が必要です。会計基準の整合化作業は、国際会計基準委員会(International Accounting Standards Committee)によって進められています。この委員会は民間の機関で、110カ国から142の職業会計士団体が参加しています。
国際システムの緊急対応能力を強化する措置は、他にも講じられています。IMFはその緊急対応窓口を「追加準備金ファシリティー(Supplementary Reserve Facility)」と「緊急貸付予約枠(Contingent Credit Line)」に整理統合しました。追加準備金ファシリティーは、困難に陥った国に対し、早急に比較的短期間の高利貸付を行うことを目的としています。緊急貸付予約枠は、予め承認された国を対象とし、他国での経済混乱が飛び火しそうな場合に緊急の貸付を認めるものです。
加えて、世界銀行は最近、必要に応じた迅速な貸付提供を前もって取り決めるための新たな仕組みの導入に同意しました。これは本質的に、「繰延べ引出しオプション(deferred drawdown option)」と呼ばれる貸付予約枠を開設するものです。
このように、個別の危機に対処するための金融手段は強化されているものの、国際社会はどれだけの危機に同時に対処する備えを行うべきか、および、そのために十分な資金は確保できるのかという問題については、誰も答えを出していません。また、主として資本逃避や、危機に陥った国に関心を失った外国債権者の撤退を手当てするために多額の新規貸付が用いられるとすれば、そもそも公的な国際機関がその動員に努める必要があるのかという問題もあります。
新たな国際債務処理の仕組みを目指して
この新しい予防策をもってしても、その数と規模の縮小が期待されるだけで、金融危機の発生は続くだろうとの考え方が一般的です。最近のアルゼンチンのケースは、これまでは波及が回避されているとはいえ、金融危機が依然としてどれほど深刻なものとなりうるかを示しています。一国の持続不可能な債務問題を迅速かつ体系的に解決する方法について、いくつかの提案が浮上しています。
モンテレー会議の準備プロセスでは、債務が持続不可能な場合、危機解決のための調整コストは、債務者、債権者および投資家の間だけでなく、官民を問わずすべての利害関係者によって分担する必要があるとの議論が展開されています。しかし、どうしたらそうできるのかという問題が残っています。
現状でのいくつかの債務処理案には、ある国に対する民間債権者が集まり、即時返済の要求を差し控えるという集団的合意を結ぶという要素が含まれています。互いに対立するのではなく、協力し合ったほうが、全員にとって少なくとも貸付の一部を回収できる可能性が高まることを債権者が認識するだろう、というのがその論拠です。これは米国の「第11章」法人破産手続きの特徴ですが、この仕組みでは、再編された企業の再生を支援できる新規貸付の可能性も認められています。主権国家の破産は複雑な概念ですが、このことに留意した上で債務危機の対処法を再考することに対する関心は高まっています。1980年代の債務危機では、重債務国に対する貸付のほとんどは限られた数の商業銀行が行っていたため、委員会を組織し、必要に応じて新規貸付、あるいは、債務返済の繰延べを決定することができました。国債による新規調達を拡大する国が増え、その結果として債権者の数が増大する中で、集団的な債務処理メカニズムの潜在的価値は高まっています。
このような提案については、その実施はおろか、決定を下すだけでも多くの障害を克服しなければなりません。その一つに、ある国の「債務凍結」資格を誰が決定するのかに関する合意を取り付けることがあげられます。もしこの役割をIMFに託すとすれば、国際社会が新たな規則と規制を策定し、これに合意する必要があるでしょう。IMFでないとすれば、どこで決定と実施を行えばよいのでしょうか。モンテレー会議準備会合での話合いで、各国政府は新たな国際機関の創設に強い興味を示していません。
正式な仕組みができ上がれば、多くの利益が生まれる可能性があります。まず、債務危機の状況にどうやって国際的な対応を行うのかという、新興市場経済への貸付をためらわせている不透明感がかなり払拭されるでしょう。また、債務者と債権者にとって、自ら合意に達し、だらだらと長く続く裁判所のような手続きを避けることにより、被害を最小限に抑えるという動機づけが高まるでしょう。民間の金融機関には、向こう見ずな冒険を行えば、自動的な救済も全面的な補償も得られないという認識が生まれ、国際金融環境の安定化にもつながるでしょう。さらに、危機に陥った新興市場経済に対する官民の各種債権者について、「ヘアカット」の程度を決定する手続きも確立するでしょう。
政府と国際機関の上級代表、および、民間と市民社会の団体は、不良債権の取り扱い方を見直す必要性を公言しています。モンテレー会議は、この死活的に重要な政策課題につき、すべての利害関係者の間でオープンな思い切った話合いを行う機会となります。
「私たちは、アルゼンチンの悲劇的な経験が他の場所で繰り返されないようにするため、あらゆる努力を尽くさなければなりません。」コフィー・アナン事務総長は2002年1月、このように発言しています。「既存の主権国家の債務危機解決策は満足できるものではなく、債務国と債権者の間でより公平な分担を確保する必要があるという合意ができ上がりつつあります。私は、各国政府がモンテレーで、このような新しいアプローチの発展に必要な政治的推進力を与えてくれるものと期待します。」
Published by United Nations Department of Public Information - DPI/2227/B - February 2002