事務総長による国連総会報告 「われら人民」
プレスリリース 11-066-J 2011年10月21日
(ニューヨーク、2011年9月21日)
議長、
各国首脳の方々、
各国代表の方々、
皆様、
10月下旬、一人の子どもが生まれます。地球上で70億人目の市民となる子どもです。
女の子だったとしましょう。彼女はおそらく、貧しい生活を送ることでしょう。健康で強い子に育つかどうかもわかりません。
特別な幸運に恵まれれば、教育を受け、大きな希望と夢を持って世界に羽ばたいていくことでしょう。
しかし、それ以外に確実にわかることが一つだけあります。それは、彼女が環境、経済、地政学、技術、人口のあらゆる側面で、幅広く見通しの利かない変化を遂げる世界に踏み出すということです。
国連創設以来、世界の人口は3倍に増えました。そして、その数は今も増え続けています。
土地やエネルギー、食料、水に対する圧力もそれだけ高まります。
グローバル経済危機は依然として、世界中の企業、政府、そして家庭を揺さぶり続けています。
失業が増えています。社会的な格差も広がっています。あまりにも多くの人々が、不安の中で暮らしているのです。
各国代表の皆様、
国連の存在意義は、その設立の名義人、つまり「われら人民」に奉仕することにあります。
私はこの5年間、国連事務総長として世界各地を巡り、そこに暮らす人々と会い、その希望や不安をじかに聞いてきました。
2週間前には、キリバスとソロモン諸島を訪問しました。村人たちは口々に、気候変動に対する不安を表しました。海面が上昇し、家々に水が流れ込んでいるからです。いつかはすべてが流されてしまうかもしれないのです。
タマウリさんという少女は勇気を振り絞り、こう問いかけてくれました。「私たちはどうなってしまうのでしょうか。国連は私たちのために何をしてくれるのでしょうか」
私たちはきょう、世界の指導者である皆様に、同じ質問を投げかけたいと思います。
私たちに何ができるのでしょうか。危機に直面する世界で、私たちはより大きな平和、繁栄、そして正義を求める人々を、どのように手助けできるのでしょうか。
各国代表の方々、
皆様、
事務総長に就任以来の出来事を思い返しながら、私は固い信念に包まれています。それは、この崇高な国連の変わることのない重要性に対する揺るぎない信念です。
私はきょう、今後の道のりに関する私の見方を、皆様と共有したいと思います。私たちには今、5つの重要な課題があると考えられます。それは私たちの世代が、現在の決定によって未来の世界を作り上げていくことのできる5つの機会と言い換えることもできます。
最初の、そして最も大きな課題は持続可能な開発です。それは21世紀に課された義務といっても過言ではありません。
地球を守ること…人々を貧困から救い出すこと…経済成長を促進すること – これらはすべて、同じ闘いの異なる側面にすぎません。
私たちは気候変動、水不足、エネルギー不足、グローバルな保健、食料安全保障、女性のエンパワーメントという点を線でつなげなければなりません。ある問題への解決策で、すべての問題に対処しなければならないのです。
リオ+20を成功させねばなりません。
気候変動対策で前進を遂げなければなりません。
未来への道を燃やして切り開くことはできません。危険が存在しないかのように振舞うことも、誰かに影響が出るからといって、それをないことにすることもできないのです。
きょう私は、拘束力のある気候変動合意の達成を皆様に呼びかけます。それは各国と全世界に、より意欲的な排出量削減目標を課す合意でなければなりません。
また、排出量削減と適応について、今から実地に行動を起こす必要もあります。
各国代表の方々、
皆様、
エネルギーは地球にとっても、私たちの生活様式にとっても、なくてはならない存在です。私たちが新たに「すべての人に持続可能なエネルギーを」という画期的なイニシアティブに取りかかったのも、そのためです。
私たちは人々、特に教育や女性と子どもの保健に投資しなければなりません。平等ですべての人々に資する開発でなければ、持続可能とは呼べないからです。
私たちは、ミレニアム開発目標(MDGs)を達成できるよう、さらに集中的な取り組みを行わねばなりません。しかし、必要なのはそれだけではありません。
きょう私は、さらに視野を広げ、2015年の期限以降のことも考えるよう、皆様に強く促したいと思います。
MDGsを土台としつつ、さらに新世代型の持続可能な開発目標を作り上げていこうではありませんか。そして、これを実現するための手段にも合意しようではありませんか。
各国代表の皆様、
2番目の大きな機会は、予防にあります。
今年の国連平和維持(PKO)予算は総額で80億ドルに上ります。
紛争が発生する前に対策を講じていたら、どれだけこの金額が節約できたか、考えてみてください。例えば、軍隊ではなく、政治的調停ミッションなどを派遣していたとしたら。
私たちは、そのためにどうすればよいのかを知っています。ギニアやケニア、キルギスタンでの経験は、それを証明しています。
人権侵害を予防するためには、法の支配を目指し、不処罰に立ち向かわねばなりません。私たちは「保護する責任」に新たな側面を加えました。この取り組みは続けていきます。
増大する一方の自然災害による被害を予防するためには、災害のリスク削減と防災体制の整備に努めなければなりません。
そして究極的には、開発こそが最善の予防策であることを忘れないでおきましょう。
きょうこの場で、私は、皆様からの支援を要請します。
必要な資源を投入しようではありませんか。そして「予防」を抽象的な理念から、私たちの活動全体を貫く原則へと引き上げようではありませんか。
皆様、
第3の課題は、より安全な世界の構築にあります。それは私たち国連の中心的責務でもあります。
私たちは今年、大きな試練に直面しました。コートジボワールで私たちは、一貫して民主主義と人権を擁護しました。地域のパートナーとの密接な連携のもと、私たちは数百万の人々の生活を一変させたのです。
アフガニスタンとイラクでは、決意と、誇り高き国民に奉仕する気持ちをもって、任務の遂行に努めていきます。
ダルフールでは、人命を守り、困難な状況の中で平和を維持する取り組みを続けています。私たちが成功を収めるためには、国際社会、現地の当事者、そしてスーダン政府の協力と全面的支援が必要です。
スーダンでは、包括和平合意の当事者が協力して、紛争の予防と残る課題の解決に努めなければなりません。
中東では、膠着状況を打開しなければなりません。私たちは以前から、パレスチナの人々が国家を樹立すべきことで合意してきました。イスラエルには安全保障が必要です。そして両者とも和平を望んでいます。私たちは合意による解決を通じた和平の実現に向けて不断の努力を続けていくことを誓います。
私たちは斬新な考え方で、国連平和維持という独自の善なる力を最大限に発揮していかねばなりません。私たちは新たなアプローチの開発に取り組んでいるところです。その一環として、フィールド支援の強化と、平和維持活動体制の再編も図ってきました。
コンゴ民主共和国やシエラレオネなどで、私たちは市民社会を育成し、法の支配を促進し、誠実で実効的なガバナンスの制度を作り出すことにより、平和を構築しています。
私たちには今、これまで以上にスピーディで効果的な対応能力があります。今後もこの取り組みは続けていきます。
私たちは引き続き、世界で最初に緊急事態へ対応する役割を担っています。パキスタンやハイチなどがその例です。
中央緊急対応基金(CERF)は、私たちの最も斬新かつ効果的な人道支援の手段となっていますが、これをさらに充実させていくことが欠かせません。
ソマリアの飢饉は拡大を続けています。アフリカの角の子どもたちを救うことに力を貸していただくよう改めてお願いしたいと思います。
福島第一原発やその他の事例からも学んだとおり、原発事故に国境などありません。私たちにはグローバルな対策が必要です。また、今後の災害を防ぐためには、厳格な国際安全基準を設ける必要もあります。
核軍縮と不拡散も進めていきましょう。核兵器のない世界という夢を実現しようではありませんか。
皆様、
4つ目の大きな機会とは、移行期にある国々への支援です。
今年の北アフリカや中東での劇的な出来事は、私たちを鼓舞しました。「アラブの春」が、すべての人々にとっての希望の季節となるよう、支援していこうではありませんか。
私たちはリビアで、新たな国連支援ミッションを展開し、リビア当局が国民の期待に応え、新政府と法秩序を確立するのを支援しています。
シリアは特に懸念されます。6カ月にわたり、暴力と抑圧が激化しているからです。政府は繰り返し、改革を実行し、国民の声を聞くことを約束してきましたが、これは守られていません。今こそ行動を起こす時です。暴力を止めなければなりません。
他にも私たちに期待をかけている人々がいます。
戦争から立ち直ろうとしている国があるかもしれません。また、独裁政治から民主主義へ、貧困から新たな繁栄へと動き出している国もあるかもしれません。
そんな時、国連は正しい道を見出す手助けをしなければなりません。
司法を立て直したり、行政を再建したりするための支援が必要なこともあるでしょう。選挙実施や憲法制定への手助けが必要な場合もあるでしょう。
今の私たちの課題は、この前進をしっかりと定着させ、得られた教訓を適用していくことにあります。
この課題は、数十年にわたる紛争の後、機能を果たせる国家の建設に努める南スーダンを支援しようという私たちの取り組みに、最も強く反映されています。
最後に5番目として、私たちは女性や若者とともに、そして女性や若者のために活動することにより、あらゆる領域での取り組みを劇的に前進させることができます。
女性は世界人口の過半数を占めるだけでなく、世界で活用されていない潜在的能力の大半も占めています。女性は教育者であり、子育ての役割も担っています。家族のまとめ役であるだけでなく、経済にも大きな役割を果たすようになっています。本来、リーダーとなるべき存在といえるでしょう。
私たちは、女性の全面的な参加を必要としています。それは政府であれ、企業であれ、市民社会であれ、同じことです。そして今年、私たちは大々的な変革をもたらすための力強い原動力として、UN Womenを設立しました。
私は特に、今年の総会にこれだけ多くの女性が参加していることを嬉しく思います。次に壇上に立たれるブラジルのジルマ・ルセーフ大統領を、国連史上初めて一般討論開会の辞を述べる女性として、特に歓迎いたします。
国連で多くの女性リーダーが活躍していることを、私たちは誇りにできます。組織のあらゆるレベルで女性の昇進を図るという私たちの方針は、今後も継続していきます。
私たちは、新しい世代も重視しています。若者は単に、私たちの未来を体現しているだけではなく、その数において、また政治的、社会的変革を推進する力として、私たちの現在でもあるからです。私たちは世界中で、若者にふさわしい仕事と機会を提供する新たな方法を見出さねばならないのです。
各国代表の皆様、
こうした課題は並大抵のものではありません。普通のやり方で対応することはできないのです。
私たちに何よりも必要なのは、紛れもなく連帯です。
そのためにはまず、資源がなければ何もできないという、明白な事実を考えなければなりません。
きょう私は、従来コストの大半を担ってきた各国の政府に対し、これまでと変わらぬ寛容な支援をお願いしたいと思います。
財政は逼迫しています。とはいえ、私たちは国連を通じた投資が賢明な策であることも知っています。負担を共有することで、荷は軽くなります。規模の縮小は答えになりません。
皆様の中には、その活力でますますグローバル経済の牽引役となりつつある新興国の方々もいらっしゃいます。しかし、力には責任が伴うことも事実です。
私は皆様全てに対し、ノウハウや平和維持要員、ヘリコプターなど、可能なものを提供いただくようお願いします。皆様のリーダーシップの力を過小評価してはなりません。最も小さな国々が、私たちの活動に最大級の貢献をする姿を、私は何度となく目にしているからです。
政府だけで課題が解決できるわけではありません。困窮した人々との約束を果たすためには、私たちの基盤を広げ、さらに遠くへと手を差し伸べなければなりません。国連全体のパートナーシップを最大限に活用せねばならないのです。
私たちのマラリア対策の成功は、そのあり方を示しています。私たちの「Every Woman, Every Child」イニシアティブには、国連年間予算の4倍に当たる400億ドル以上の拠出が集まり、パートナーシップが持つ変革の力をまざまざと見せつけました。
国連の他に類を見ない結束の力と技術的資源を政府や民間、市民社会のさまざまな強みと結びつければ、私たちは非常に大きな力となって、善を促進できるはずです。
最後に、私たちは時代の変化にも適応しなければなりません。
この緊縮の時代に、私たちはより少ないリソースで、より多くを成し遂げねばなりません。世界中の納税者の資金を賢く使い、無駄をなくすとともに、「Delivering as One(国連諸機関が一体となって任務にあたること)」で重複を避けなければならないのです。
責任と透明性は、引き続き私たちのモットーとなります。私たちは加盟国に責任を負っているからです。とはいえ、加盟国の強力かつ一貫した支援がない限り、私たちは効率を上げられないことも事実です。
私たちは予算プロセスを合理化し、どの国も単独では実現できないコストで、国連が任務を遂行できるようにせねばなりません。
私たちは、より近代的で移動性の高い人事体制を作り上げるため、前進を続けなければなりません。よりスピーディで柔軟な国連。革新を進め、ソーシャルメディアや先端技術の力を駆使する国連。リアルな世界の問題をリアルタイムで解決できるよう支援する国連を作り上げなければならないのです。
最後になりましたが、大事なこととして、国連の職員を守るため、できる限りのことをさせていただきたいと思います。私たちはあまりにも多くの人命を失いました。国連はあまりにも狙いやすいターゲットとなってしまったからです。
きょう私たちは、多くの危険な場所で献身的な奉仕を続ける人々を思い、感謝の気持ちを新たにしています。
各国代表の方々、各国首脳の皆様、
この大きな会議場から、広大な太平洋の中で消えかかっている島々は、はるか遠くのことに思えるかもしれません。しかし私には、あの少女の願いが、まるで隣にいるかのように聞こえてきます。
それはおそらく、60年前、私があの子どもだったからでしょう。
当時も今も、その答えが国連にあることに変わりはありません。
きょう、ここに立つ私には、助けを求め、希望を探す数百万人の少年、少女の声が聞こえてきます。
「われら人民」
70億人が世界の指導者である私たちに期待をかけています。
彼らは解決策を必要とし、リーダーシップを求め、私たちが行動を起こすことを望んでいるのです。
共感と勇気、そして信念を伴って行動することを。
国連に集まった国々が、一致団結した行動を取ることを。
各国代表の方々、皆様、
この道を一緒に進んでいこうではありませんか。
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