潘基文(パン・ギムン)事務総長の総会演説 (2013年1月22日、ニューヨーク)
プレスリリース 13-004-J 2013年02月19日
過去数年間、私たちは毎年1月、ここに集まり、共有の目標の達成に向けた共有の取り組みに関する対話を続けてきました。
今年の対話は、激動と不安のさなかで行われることになりました。アフリカや中東での武力紛争から、世界全体を包み込む経済と環境の危機に至るまで、私たちは毎日、絶え間のない試練にさらされています。
私は1年前、劇的な変化の波を目の当たりにしながら、人的状況を一変させるため、同じく劇的な措置を講じるよう求めました。
その際、私はニーズが最も大きく、かつ、集団的行動で最も大きな変革が期待できる5つの分野を示しました。その分野とは、持続可能な開発、予防、移行期にある国々への支援、より安全な世界の構築、女性と若者のエンパワーメントの5つです。
私たちの世代に授けられた機会ともいえるこれらの責務は、総会が定めた国連の8つの優先課題から当然に導き出されるものでもあります。その優先課題とは、持続可能な開発、平和と安全、人権、人道援助、軍縮、正義、アフリカ開発、薬物統制・犯罪防止・テロ対策の8つです。
私たちは危機の連続に直面し、対症療法的な対策を講じるのではなく、その根本的な原因や相互関係に取り組み、私たちのアプローチの多くに潜む欠点を認識することができるはずです。これは私の切実な願いであると同時に、私たちに共通の緊急課題でもあります。
私はきょう、これら分野のいくつかでどのような成果が得られたか、そして、いま協調行動を起こせば、将来どれほど大きな成果が得られるかについて報告できることを、うれしく思います。
各国代表の方々、
皆様、
2012年は激動の年であっただけでなく、具体的な成果が得られた年でもありました。
持続可能な開発会議(リオ+20)で、私たちは正しい方向に大きな一歩を踏み出しました。先月はドーハで、気候変動に関する交渉の勢いを維持することができました。この問題は私の個人的な優先課題でもあるため、来年、世界の指導者に対し個別に、そして全体として、2015年までに気候変動に関する強力かつ完全な拘束力を有する協定を採択するために必要な政治的意志を結集するようお願いする予定です。
昨年は、ポスト2015年開発アジェンダに関する議論が本格的にスタートしました。44カ国がミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けた活動を加速させる計画を採択しました。アジア、アフリカ、ラテンアメリカの経済は好調に成長を続け、数百万人が貧困と疎外から脱出を遂げました。
総会は女性器切除に関する画期的な決議を採択したほか、初の「国際ガールズ・デー」記念行事も行われ、子どもを差別、暴力、早婚、強制的徴兵から守るための道も開かれました。
私の「Education First(教育を最優先に)」イニシアチブも、すべての子どもの機会平等を重視しています。私は先週、ヨルダンのアハマド・アルヒンダウィ氏を初の国連ユース担当特使に任命することを発表しました。
東ティモールに展開されていた平和維持活動は、その任務を完了しました。シエラレオネで行われた選挙も、重要な前進といえます。私たちは、予防と早期介入の余地をさらに広げるため、22カ国に調停専門家を派遣しています。
リビア、ソマリア、イエメンでは、国連の支援により、民主的な基盤が確立されました。私たちは、平和構築委員会の議題に上っている国々をはじめ、移行期にある国々を支援することで、長期的な和平の見通しの改善にも貢献しました。
アフリカ連合(AU)からアラブ諸国連盟、欧州連合を経て東南アジア諸国連合(ASEAN)に至るまで、地域機関との関係も緊密化しています。総会は人間の安全保障に関する重要な決議を採択しました。国連ミッション要員の選定手続きも厳格化されています。自然災害その他の被害を受けた国々の援助に当たる中央緊急対応基金の資金供与額と供与対象国がともに過去最大となったことは、このメカニズムがあらゆる人々のために、あらゆる人々が資金を提供するものであるという事実をよく表しています。
昨年はチャールズ・テイラー元リベリア大統領が、戦争犯罪と人道に対する罪により有罪判決を受け、私たちが責任の時代を迎えたことが明らかになりました。また、法の支配に関する総会初のハイレベル会合で採択された野心的な宣言も、各国と国際社会が平和と安全、開発、人権の推進に向けた行動をさらに強化するきっかけとなるはずです。
議長、
各国代表の方々、
皆様、
これらをはじめとする多くの成果は、国連の優先課題全体に及んでいます。私たちは危機に対応し、新たなアプローチを試行し、よりよい未来に向けて新たな基盤を作り上げたのです。
私はこのことに勇気づけられてはいますが、決して満足はしていません。現代の世界が抱えるストレス、地球に対する圧力、私たちが奉仕する人々が受けている苦痛-そのどれを取ってみても、私たちが2013年にさらなる向上を遂げねばならないことは明らかだからです。
その手始めに、私は1月30日、クウェートでシリア人道支援会議を招集します。加盟国に対し、ハイレベル代表団を派遣し、寛大な支援表明を行うよう要請します。シリアの近隣国に対しては、庇護を求めて越境する難民の安全を確保するよう呼び掛けます。また、この会議の共催を受け入れていただいたクウェート首長の寛大な配慮にも感謝いたします。
私たちは困窮するシリアの人々に支援の手を差し伸べるため、全力を尽くさねばなりません。シリア、地域諸国、安全保障理事会それぞれの分裂を克服し、外交を通じて暴力に終止符を打つための取り組みをさらに強化しなければなりません。私は改めて、すべての国々に対し、シリアの政府、反政府勢力双方への武器供与を停止するよう呼びかけます。
政府と反政府勢力を交渉の席に着かせ、シリア国民自身が国の未来に関する重要な決定を下せるようにするためには、まだ長い道のりが残っています。私たちはそれまでの間、シリアでの残虐行為の実行犯が必ずその責任を問われることを明確にしなければなりません。
シリア危機は13年前のコソボ危機以来、最も多数の難民流出をもたらした危機の一つです。その他、マリやサヘルでも、多数の難民、避難民が発生しています。
マリはテロリストの脅威にさらされており、その影響は周辺地域、さらには全世界に及んでいます。この課題に立ち向かうためには、政治、治安、人道面での取り組みが必要です。同時に、国連がどの程度の関与を行うべきかを判断する際には、取り組むべき人権、安全、治安問題に慎重に配慮しなければなりません。
私たちはアフリカおよび全世界のパートナーと協力しながら、マリの憲法秩序と領土的一体性の全面的回復を支援するため、独自の役割を果たさねばなりません。その一方で私たちは、この深刻な苦難と治安悪化の根本的原因、すなわち過激主義、貧困、干ばつ、ガバナンスが複雑に絡み合う課題に取り組むべく、サヘル地域に関する総合的戦略の策定に向けた作業を続けています。
今年はコンゴ民主共和国(DRC)に対する私たちのアプローチも再検討しなければなりません。恐ろしい暴力の連鎖を断ち切るための新たな平和と安全の枠組みの構築に向け、私はカビラDRC大統領をはじめとする大湖地域の指導者と、緊密な協議を行っているところです。私は来たるAUサミットで、この枠組みに署名が行われるものと期待しています。
2013年は中東和平プロセスにとっても重要な年となります。違法な入植活動が続き、イスラエル人とパレスチナ人の立場が真っ向から対立を続ける中で、5つの重要な優先課題への取り組みが急務となっています。第1に、私たちは改めて、国際社会全体として本格的な取り組みを行わねばなりません。第2に、私たちは意味のある交渉を再開せねばなりません。第3に、私たちはガザ地区の安定を維持しなければなりません。第4に、私たちはパレスチナ人の間の和解を前進させなければなりません。そして第5に、私たちはパレスチナ自治政府の財政的破綻を防がなければなりません。二国家共存という解決策を温存するためには、協調的な行動が欠かせません。
各国代表の皆様、
重大な犯罪や扇動が起きる中で保護の責任を推進し、私たちがこれまでに遂げた大きな前進を後戻りさせないようにするためには、さらなる取り組みが必要です。私たちはシリアでもマリでも、紛争が報復的な殺害を生み、幅広い民族間、宗派間の戦闘、さらにはジェノサイド的な行為へと発展することがないよう、全力を尽くさねばなりません。
軍縮と不拡散についても、法の支配を進める必要があります。私は皆様に対し、包括的核実験禁止条約を発効させ、3月の武器貿易条約交渉を妥結に導き、2010年核不拡散条約(NPT)運用検討会議で採択された「行動計画」を履行し、これ以上の遅滞なく軍縮条約の交渉に取りかかるとともに、中東に大量破壊兵器のない非核地帯を確立するための交渉を今年中に招集するよう、強く促します。
議長、
各国代表の方々、
皆様、
私たちは2013年も、持続可能な開発という最重要課題への取り組みを進めます。
9月には、ミレニアム開発目標(MDGs)に関する特別イベントを開催し、進捗状況の検証と、野心的、実際的かつ整合的なポスト2015年開発枠組みの概要に関する議論を行う予定です。この関連で、私たちは5月末に報告の提出を予定しているハイレベル有識者パネルの作業に依拠することになります。このプロセスには、グローバルな協議その他の過程も組み込まれています。
私は、総会が近々「持続可能な開発目標(SDGs)に関するオープン・ワーキンググループ」設置の決議採択を予定していることを嬉しく思います。この取り組みに全世界の英知を結集すべく、全力を尽くそうではありませんか。
総会は9月、移住と障害者の権利に関するハイレベル会合を各々開催します。2014年に開催される後発開発途上国と小島嶼開発途上国に関する会議に向けた準備も行います。さらに、2015年に開催予定の「世界人道サミット」に向けた準備も進めます。
私たちは、性的嗜好を理由とする暴力に反対するキャンペーンを続けます。私は加盟国に対し、3月の女性の地位委員会会合に、UNウィメンによる新たなCOMMITイニシアチブを通じたものを含め、女性に対する暴力を終焉させるための具体的な計画を持ち寄るよう強く促します。西アジア経済社会委員会(ESCWA)は最近、地域機関との連携により、女性の地位向上、保護、参加の監視と推進を行う「アラブ地域の女性のための監視機構」の設立に向けた作業に着手しましたが、私たちはこれに大きな期待をかけています。
私たちの国内、国際レベルでの活動には、連帯と相互理解が必要です。「文明の同盟」は来月、ウィーンで行われるフォーラムで、過激主義と憎悪に対処するための作業を継続します。国際舞台であれコミュニティの中であれ、リーダーには分裂や中傷ではなく、寛容と尊重を説く責任があるのです。
各国代表の皆様、
グローバルな課題の恒久的な解決はもはや、政府の専権事項ではありません。21世紀の国連は、ネットワークや連携を念頭に物事を考えなければなりません。
私は、Every Woman Every Child(女性と子どもの健康の実現に向けたグローバル戦略)が、救命医療の資金として新たに100億ドル以上を確保できたことを報告でき、嬉しく思います。 Scaling Up Nutrition(栄養増進)運動は、栄養不良と子どもの成長阻害への対策で、成果を挙げつつあります。2013年には、Sustainable Energy for All(すべての人に持続可能なエネルギーを)イニシアチブも、さらに多くのパートナーと拠出を得ることでしょう。
国連は、その他どのような分野でこのモデルを適用できるか、模索を続けていきます。私は総会に対し、通常予算のプロセスを通じ、私たちの取り組みを加速するために「国連パートナーシップ・ファシリティ」の設置を提案しているところです。皆様の強力なご支援をお願いします。
「キャピタル・マスタープラン」への加盟国の寛大な投資に改めて感謝いたします。私たちは近代化された事務局棟に戻ることができました。総会の改修は今年5月にスタートし、すでに着工されている会議棟の改修とともに、来年末頃に完了する予定です。
皆様のご支援のもと、事業経営資源計画制度(Umoja)の展開と、国際公会計基準(IPSAS)の実施も進めています。その他、主な管理変革への取り組みとしては、研究、研修、図書館サービスの統合に加え、私がドーハの気候変動会議で目の当たりにしたペーパースマート・コンセプトをはじめとする技術的ソリューションを通じたデジタル事務局への移行があげられます。
私は3月、皆様からモビリティ(職場流動性)枠組みへの承認をいただけることを心待ちにしています。国連が真にグローバルな職員集団と事務局の恩恵を早く受けられるに越したことはないからです。
また、国連政治ミッションの支援体制と財源の改革に関する対話の継続にも期待しています。
国連は、事務局の活動に大きな財政的制約があることを十分に認識しています。今月初めのタウンホール・ミーティングで職員に告げたとおり、私たちの努力を開花させる太陽と水が常に存在するという「温室環境」を前提とすることなど、もう誰にもできないのです。
皆様からの要請に従い、私がすでに省いた無駄に加え、今後2年間でさらに1億ドルの予算削減を達成することは、極めて困難です。それでも私たちは、予算規律を守り続けることを約束します。
同時に、需要が増大の一途をたどる中で、大幅な予算削減の影響が生じないと考えるのは非現実的です。加盟国の要求が際限なく高まる一方で、事務局が際限なく削減を要求される状況は持続不可能です。
私は皆様に対し、マンデートを与えられた活動のうち、すでに目的が達成されたか、新たな動向によって無意味となったものの見直しを検討するよう、強く促します。また、皆様の実践も見直し、これについても効率を追求するようお願いします。一致団結して、財政難という大波を乗り切ろうではありませんか。
議長、
各国代表の方々、
皆様、
もう今までのやり方は通用しません。私たちが望む未来を実現するためには、これまでと違う斬新なアイデアと行動が必要です。私たちは現状維持という名の暴挙、すなわち、共通の前進を阻むもう一つの妨げを取り除かなければならないのです。
政府も私たちの国際機構も「自動操縦」状態に陥ることがあまりにも多くあります。問題はサイロの中に放置されたままです。懸念される動きがあっても、「今までもそうしてきたから」という言い訳や、実質的な変革が高くつくか、非現実的であるとか、既得権益が立法府を支配しているなどといった事情によって対処されないまま、手遅れとなってしまうのです。
国連という組織には、確かな成果の実績があります。世界中の国連職員は、しばしば過酷な状況の中で、英雄的な実績を積み重ねています。
しかし、人命の救助が私たちの中心的な任務だとしても、それだけでは足りません。私たち自身の未来も救わねばならないからです。
この1年を、私たちが不一致や最小公倍数での妥協を乗り越え、国際的に適切な解決策が国益にもかなうのだということを立証する年にしようではありませんか。もう一度繰り返します。国際的な解決策は国益にかなうのです。
これからの重要な数年間に、私たちがどのような決定を下すか、または下せないかが、今後数十年にわたり世界の形を決定づけることになります。賢く、責任を持って、将来を見据えようではありませんか。そして、一体となってすべての人のために任務を遂行しようではありませんか。
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