核兵器不拡散条約(NPT)2010年再検討会議 潘基文(パン・ギムン)国連事務総長による演説 (2010年5月3日、ニューヨーク国連本部)
プレスリリース 10-029-J 2010年06月02日
核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議議長のカバクテュラン大使、
イラン・イスラム共和国のマフムード・アフマディネジャード大統領、
各国閣僚の方々、
来賓の方々、
各国代表の方々、
皆様、
皆様を国連にお迎えでき、大変嬉しく、また光栄に存じます。私はまず、今次再検討会議の議長を務められるカバクテュラン大使にお祝いを申し上げます。大使は今回のきわめて重要な再検討会議を大きな成功に導くことで、国際社会の期待に応え、世界から核兵器をなくすという人類の夢の実現に向けた重責をお引き受けになりました。
来賓の皆様、各国代表の皆様、
きょう皆様が取りかかる作業は、人類にとって非常に重大な意味を持っています。
希望、そして期待は高まっています。
世界の人々は皆様の行動を待っています。
それは、核兵器の破壊的な力から人々を守るための行動です。
核兵器に使う軍事費の増大に歯止めをかけるための行動です。
より安心で安全な世界を作るための行動です。
皆様、
軍縮と不拡散は私にとって最優先課題の一つです。
それが可能なことは、私たちの誰もが知っています。しかし、率直に申し上げれば、この取組みはあまりにも長い間、足踏みを続けています。
私が核兵器の脅威について警鐘を鳴らし続けてきたのも、そのためです。
私は今こそ行動の時と確信し、具体的なアクション・プランを提示しました。
これまで私は、時には根本的に見解を異にする民族、国家間の架け橋となることを決意し、私たちの法律と制度の強化に努めてきました。
先月、私は核実験場があったカザフスタンのセミパラーチンスクを訪問しましたが、その時の背筋が寒くなるような記憶は、今でも脳裏に焼きついています。
原爆が初めて投下された日にあたる8月6日、私は広島を訪問する予定です。私はその際、私たちが核兵器のない世界を目指していることを改めて明言します。
当時から65年を経た今も、世界は核の影におびえながら暮らしています。
私たちはどれだけ待てば、この脅威から逃れられるのでしょうか。私たちはいつまで、この問題を子孫に残し続けるのでしょうか。
5年前にも、私たちは同じような再検討会議を開きましたが、その失敗は誰の目にも明らかでした。
今度はもっとうまくできるはずです。そうしなければなりません。
恐怖と無策のツケをそのまま残し続けるのか、それとも、ビジョンと勇気、リーダーシップを持って行動を起こすのか。道は二つに一つです。
来賓の方々、皆様
核兵器不拡散条約(NPT)は歴史上、最も重要な多国間協定の一つです。
それは完全ではないにせよ、世界の核不拡散体制を支える基盤です。
ほとんどの国々が、その締約国となっています。
私たちには、この体制が今までどおり必要です。
核の脅威は現実のものとして存在しています。
その形は新たに、多様な形で進化しています。
皆様がここにお集まりになったのも、そのためです。
世界の人々は、私たちにさらに多くを望んでいます。
それは、軍縮のさらなる進展です。
一層の軍備削減と透明性の向上です。
条約の遵守については、疑念の声が上がっています。
核を「持てる者」と「持たざる者」の間で反感が高まっています。
核テロや、原子力技術と核物質の闇市場、さらには地域紛争が「核化」しかねない危険に対する懸念は深刻で、しかも強まっています。
条約が抱える数多くの課題は、その3つの柱に優先順位をつけることでは解決しません。
戦争や核拡散、テロのない世界の到来を待ってから、軍縮を進めることなどできません。
最後の核兵器の廃絶を待ってから、不拡散を進めることもできません。
また、原子力の平和利用推進を盾に、軍縮や不拡散をないがしろにすることもできないのです。
NPT成立当初の段階から、国際社会はこれら目標を同時に追求せねばならないことを理解していました。目標は相互に依存し、補強する関係にあるからです。
皆様、
第8回NPT再検討会議の開幕にあたり、心強い前進の兆候も見られています。
ロシアのメドヴェージェフ大統領と米国のオバマ大統領は、戦略兵器削減条約(START)後継条約に署名しました。
ワシントンで開かれた核セキュリティ・サミットはさらに2年後、ソウルでも開催されることになりました。
他の核兵器国によるものを含め、これ以外にも多くの取組みがなされています。
市民社会も結集しています。
このはずみを生かさねばなりません。
成否を判断する基準は5つあるといえます。
第一に、軍縮に向けた実質的進展です。
私は核兵器国に対し、核兵器廃絶という「無条件の約束」を再確認するよう求めます。さもなければ、前進は後戻りしてしまうからです。今こそ、この約束を実行に移す時です。
また、私は皆様に対し、10年前の再検討会議で採択された「13項目の実際的措置」を更新し、これを拡大するようお願いします。これらの措置は、今後の進展の強固な土台となるからです。欠けていたのは、言葉を行動に移すための政治的意志です。皆さんが一からやり直す必要はありません。
第二に、条約の普遍化に向けた動きです。
私は現在、条約を締約していない国々に対し、できるだけ早く条約体制に加わるよう求めます。
加入が実現するまで、こうした国々の兵器や技術の安全を確保、保障する措置が必要です。国家以外の主体やテロリストが核物質を手に入れるようなことがあってはなりません。
追加的な措置には、核実験の一時停止、核分裂性物質と関連技術に対する厳しい輸出規制、これら兵器に関する厳格な指揮統制システムを含めるべきです。
また、平和目的で原子力を利用する権利が思いがけない結果を招かぬようにする必要もあります。
国家が条約を隠れ蓑に核兵器を開発し、後にこれを脱退することを許すべきではありません。
さらに、エネルギー需要が増大する一方で、温室効果ガス排出量削減の圧力も強まる中で、原子力の評価が再び高まるだろうとの見方を考えれば、原子力開発は合意されたセーフガードの下で行わねばなりません。
第三に、法の支配の強化です。
核兵器のない世界を目指す私たちの取組みには、NPTを補完する法的枠組みも含まれています。
私は、包括的核実験禁止条約(CTBT)準備委員会の委員長を務めていた1999年から、この重要な協定の早期発効を強く主張してきました。
批准に向けた時間枠の設定をきわめて真剣に考えるべき時が来ています。現行の発効に向けたメカニズムは、条約の監視・検証システムが疑問視されていた時代にでき上がったものです。しかし、状況は変わりました。このシステムの実効性が証明されたからです。
問題は、条約の署名式からすでに15年が経過しているという点に尽きます。ここでも、私たちはどれだけ待たねばならないのでしょうか。私たちは条約を発効させるため、別のメカニズムを真剣に検討する必要があります。
この関連で、インドネシアが間もなく条約の批准を予定しているとの発表を、私は温かく歓迎したいと思います。そして、他の国もこれに追随するよう求めます。条約の寄託先として、私には、その批准が欠かせない他の国々の首都を訪問し、指導者の方々とそれぞれの懸念についてお話しする用意があります。
もう一つ不可欠な協定は、画期的な核テロリズム防止条約です。私はその履行状況を審査する会議の開催を求めていますが、これは今年か来年に実現する予定です。
また、私は軍縮会議(CD)に対し、兵器目的での核分裂性物質の製造を禁止する条約に関する交渉を直ちに始めるよう呼びかけました。CDがその作業プログラムについて合意できなければ、より高い政治レベルで、さらに強い推進力が必要になるかもしれません。その目的で、CDメンバーが今年9月、ここニューヨークで開かれる国連総会と並行して、閣僚級会合の開催を検討するというのも一案でしょう。
私はさらに、すべての国々にIAEA追加議定書の受入れを求めます。核セキュリティ・サミットで私は、IAEAの能力とセーフガード制度の向上に対する圧倒的支持に勇気づけられました。
第四に、中東での非核地帯創設と、その他の地域的懸案事項に関する進展です。
非核地帯は、軍縮と不拡散に著しく貢献します。その他の地域における進展につながりうる信頼も醸成します。
私はこの理由から、中東に非核地帯を創設する取組みを強く支持するとともに、この問題に関し、本格的な議論に臨むよう皆様に求めます。
イランの核開発計画に関しては、安全保障理事会決議をすべて遵守し、IAEAと全面的に協力するようイランに呼びかけます。
私はイランに対し、IAEAが提示した核燃料供給案を受け入れるよう促します。これが成立すれば、重要な信頼醸成措置となるでしょう。
そして私は、イラン大統領に建設的な関与を促します。核開発計画に関する疑惑や懸念を晴らす責任はイランにあることを、ここで明らかにしておきましょう。
北東アジアについては、朝鮮民主主義人民共和国に対し、朝鮮半島の検証可能な非核化を実現すべく、できるだけ早く、かつ無条件で6カ国協議に復帰するよう促します。
第五に、そして最後に私が期待するのは、関連国連機関のさらに積極的な関与を通じたものを含む、NPT再検討プロセスの強化です。
これが実現すれば、各国による一層体系的な申告と具体的、組織的支援の改善により、条約の履行が促進されることでしょう。小規模の常設機構が役立つような方法を検討するのも一案でしょう。
条約が不遵守への対応に有効な手段を持たないことは、重大な制度的欠陥です。
安全保障理事会は、この欠陥を埋めるために特別かつ重要な役割を果たさねばなりません。その中には、昨年の歴史的サミットをフォローアップする定期的閣僚級会合が含まれます。
また、私はアクション・プランで示したとおり、総会による取組みの重要性も認識しています。
軍縮問題に関する私の諮問委員会も、検討に値する理にかなった提案を示しています。
来賓の方々、各国代表の方々、皆様、
皆様がこちらにいらしたのは、単に核の悪夢を回避するためではなく、すべての人々にとって、より安全な世界を作り上げるためであることを忘れないでください。
多くの国々が偉大なリーダーシップを発揮しています。その中には、核兵器を廃棄した国々、非核地帯を創設した国々、そして兵器を削減した国々が見られます。
私は皆さんに、さらなる前進をお願いしたいと思います。
今すぐに、今後の突破口の下準備となる措置を講じるようお願いします。
私たちに必要なのは、何が達成できるかを示す実例であり、なぜできないのかを示す言い訳ではありません。
私たちが人類の最も切なる望みの一つ、そして国連創設時の決議の一つを実現すべき時がやって来たのです。
すべては皆様次第です。私は皆様のリーダーシップと決意に期待しています。
どうもありがとうございました。