軍縮会議でのアントニオ・グテーレス国連事務総長の演説 (ジュネーブ、2019年2月25日)
プレスリリース 19-022-J 2019年03月01日
議長(英国のエイダン・リドル〈Aidan Liddle〉大使)、
各国大使、代表の方々、
皆様、
この(国際連盟)理事会会議場で演説できることを名誉に思います。この会議場は昔、世界をより安全な場所にするための条約を考案する目的で創設されたところだからです。
この会議場のドアの外に刻まれている「国家は軍備を縮小しなければ、滅亡する」という言葉は、かつてなく緊急性を帯びています。
率直に申し上げて、国際的軍備管理体制は、崩壊しつつあります。
化学兵器の使用が何の処罰を受けずに続き、新たな拡散を進めています。
違法な小型武器や、開かれた戦場用に製造された爆弾が都市部で使用されることによって、何千もの民間人が引き続き生命を失っています。
新たな兵器技術は、私たちが理解はおろか、想像さえできない形でリスクを高めています。
今日の複雑な国際安全保障環境において、私たちは、新たな軍備管理のビジョンを必要としているのでしょう。
しかし、今なお重要な利益を私たちにもたらしている既存の軍備管理枠組みも維持しつつ、この新しい取り組みをともに進めるよう、細心の注意を払わねばなりません。
過去数十年間にわたり、もっとも大きな成功を収めた意欲的な軍縮と軍備管理のイニシアティブの多くは、大国の主導によるものでしたが、それは自然なことです。
大国は、協力と合意こそが、武力紛争の予防や緩和、解決に資する最も効果的な安全保障上の手段になり得ると戦略的に理解し、それが兵器の規制、廃絶にかかわる様々な取り組みを生んだのです。
私が兵器の規制、廃絶を最優先課題の一つに挙げている理由も、そこにあります。
国連加盟国は過去70年間にわたり、これらの分野で大きな成果を上げてきました。
しかし、私たちの努力はますます危険にさらされています。
国家は、外交と対話といった実績のある集団的な価値感ではなく、新型兵器の開発や蓄積によって、安全保障を確保しようとしているからです。
核兵器をめぐる情勢は特に危険です。
もし、中距離核戦力全廃条約(INF)の終焉を許せば、世界はさらに危険で不安定なところになるでしょう。その安全と安定の欠如は、ここヨーロッパで痛感されるでしょう。冷戦という暗い時代の野放しの核軍拡競争へと逆戻りすることは許されないのです。
私はINF条約締約国に対し、残された時間を利用し、これまでに提起された諸問題について真摯な対話に取り組むよう呼びかけます。この条約を維持することは、極めて重要です。
私はまた、米国とロシア連邦に対し、いわゆる「新START」条約を2021年に有効期限が切れる前に延長するよう呼びかけます。
この条約は、世界の二大核戦力を規制する唯一の国際条約です。その査察規定は、全世界にとって有益な重要な信頼醸成措置となっています。
私はロシアと米国に対し、条約延長によって得られる時間を利用し、戦略核戦力のさらなる削減を検討するよう強く訴えます。
そして私の夢は、これらの二国間の取極めが多国間のものになることです。
今週後半にハノイで開催される米朝首脳会談で、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)と米国の指導者が、朝鮮半島の持続的、平和的、かつ完全で検証可能な非核化に向けた具体的なステップに合意することを希望します。
各国大使の方々、
皆様、
既存の核軍備管理・軍縮体制を構成する条約と協定は、長年にわたり苦労を重ねて構築されたものです。
国家はお互いに深い猜疑心を抱きながらも、対話を始めました。そしてその当時も、世界は深刻な「信頼欠乏症」をわずらわっていたのです。
信頼が欠如する中で、各国政府はもっとも厳しい検証措置を求めました。
ロシア連邦と米国の二国間軍備管理プロセスは50年にわたり、国際安全保障象徴の一つとなってきました。
両国の努力のおかげで、全世界の核兵器備蓄量は現在、1985年当時と比べ6分の1以下に減少しています。
この偉大な実績が大きな危険にさらされているのです。
軍備管理・軍縮体制は、条約規定の誠実な履行と、同時にその遵守の厳密な検証と強制執行という両者の上に成り立っています。私はまだ時間があるうちに、締約国がこの双方を活用することを望みます。
さらに幅広い意味で、核兵器不拡散条約は、今なお国際の安全と平和に不可欠な柱であり、核軍縮と不拡散の基盤となっています。
各国代表の皆様、
私は前回軍縮会議で演説を行った後、軍縮を支える40項目の具体的な行動を盛り込んだ軍縮アジェンダ、「共通の未来のために」を発表しました。
私は国連軍縮局に対し、国連システム全体と連携しこれらの行動を実行するよう指示しましたが、すでにかなりの進展が見られています。
このアジェンダは、国連システムによる行動のための有益な指針ですが、本来は、明確で野心的、かつ現実的なビジョンを提供する責任のある加盟国の活動をサポートする手段として考案されたものです。
このビジョンは過去の教訓と、21世紀に出現する挑戦をつなぐ架け橋であるべきです。
冷戦期の軍備管理体制が徐々に崩れていることで、すでに深刻な影響が生まれています。加盟国は、世界が夢遊病にかかったように核軍拡競争にのめり込むことを許してはなりません。
信頼回復に役立つ対話を通じ、既存の制度を守り、維持するために断固たる行動を取るよう、私はできる限り強い口調で、皆様に訴えます。
透明性や信頼醸成措置の手段をはじめ、変化する環境に適したリスク削減措置の確立が、緊張を緩和し、世界を核戦争の瀬戸際から引き戻す手助けとなります。
このような措置には、核問題の地域レベルの課題のほか、サイバー・セキュリティーや人工知能(AI)、そして未曾有のスピードで攻撃を仕掛けることのできるいわゆる「極超音速兵器」を含めた技術開発も考慮に入れるべきでしょう。
私は、今日の世界における軍備管理や不拡散、軍縮の新たなビジョンを構築しようとする皆様の努力を促進するために、できる限りの支援を差し伸べる所存です。
(以下はフランス語で演説)
各国代表の皆様、
核兵器禁止条約への強い支持は、大多数の加盟国がこの恐ろしい大量破壊兵器の廃絶を望んでいることを示しています。
それを実現するには、軍縮会議の枠組み内でおこなわれるべき、建設的な対話以外にありません。
ところが、この軍縮交渉のための国際社会の唯一の多国間機関は、もう20年にわたってこの問題について交渉を行っていません。
その結果、軍備管理交渉は、ますます軍縮会議でなく国連総会や国連の枠組みの外を含めた他のフォーラムで行われるようになっています。
私は軍縮会議がまだ多国間システムに寄与することができると証明するよう、強く訴えます。
もし、軍縮会議加盟国が、再びその創設者が構想した本来の機能を取り戻すことを望むのであれば、加盟国は新たに多国間条約の交渉を模索しなければなりません。
この会議場に立つと、その昔国際連盟理事会が、当時最も差し迫った安全保障問題に対処できなかったことが、理事会の存在理由を失わせた原因となったことを思い起こさせます。
補助機関の設立と、その作業には歓迎すべきことですが、私は加盟国に対し、そこで得られた進展を基盤にさらに押し進めるよう呼びかけます。
手続き上の改革も重要ですが、軍縮会議は、何よりもその成果によって評価されます。
私たちは、世界をリードする軍縮問題専門家としての皆様の技術的な専門知識と外交手腕に頼っています。皆様は本来の仕事に立ち返らねばなりません。
私は、皆様の先人たちが極めた高みに到達するよう進言したいと思います。
各国大使の方々、
皆様、
数年ぶりに初めて、軍備管理と軍縮が(新聞の)一面をかざるようになりましたが、それは安全保障環境の悪化という残念な理由によるものです。
国際外交の主要な成果のひとつが、重大な危険にさらされており、私たちは断固とした行動が必要です。
国連も私自身も、力の限りあらゆることを行い、支援の手を差し伸べる所存です。
しかしながら、そのための戦略と潮流を作り出すのは加盟国次第です。私たちは速やかに行動しなければなりません。
ご清聴ありがとうございました。
* *** *
原文(English/French)はこちらをご覧ください。