アントニオ・グテーレス国連事務総長 メディアのぶら下がり取材での発言(横浜、2019年8月29日)
プレスリリース 19-070-J 2019年08月30日
テーマ別会合「気候変動・防災」がたった今終わりました。その内容に触れる前に、日本政府のアフリカ開発に対するコミットメントに対し、深い感謝の意を表したいと思います。アフリカ開発会議(TICAD)において、日本のコミットメントの意義を明確に見ることができます。
中でもTICAD7に特に大きな意義があるのは、人材、イノベーション、そしてテクノロジーというその優先議題が、アフリカがまさに直面している課題に完全にマッチしているからです。
第4次産業革命を受け、私たちが暮らすデジタルの世界が、アフリカにとって、その市民によりよい生活を提供できるよう、大きな飛躍を遂げる機会となるためには、アフリカに対する強力な支援が欠かせません。これについて適切な取り組みを行わなければ、デジタル格差がさらに拡大したり、アフリカと他の大陸との距離がさらに開いたりすることになりかねないからです。
しかし、気候変動に関する私たちの会合との関連においては、極めて明快な議論が展開されたことをお伝えしたいと思います。それはつまり、アフリカにとって、気候変動は将来のありうる見通しなどではなく、今まさに起きている危機だということです。私自身、モザンビークを訪問し、サイクロン・イダイによる大きな被害を目撃しました。サヘル地方を訪問した際は、干ばつの広がりと、それに伴う人々の生計手段の消滅、移動を強いられる人々、そして、気候変動が紛争やテロの蔓延を一気に加速させているという事実を目の当たりにしました。
アフリカには道徳的権威もあります。アフリカの人々は事実上、気候変動を助長していないからです。アフリカからの温室効果ガス排出量は、世界の他の地域と比べて極端に少ないにもかかわらず、アフリカは気候変動の影響による壊滅的な被害をまともに受けています。
もちろん、それはアフリカに限った話ではありません。世界気象機関(WMO)によると、今年の7月はこれまでで最も暑い月となりました。記録がある中で、2015年から2019年がこれまでで最も暑い5年間となる可能性は濃厚となっています。同時に、WMOは、大気中のCO2濃度が人類史上最高となっていることも示しています。これと同じ水準を見つけるためには、歴史を300万年から500万年も遡らねばなりませんが、その当時、気温は2˚Cから3˚C高く、海水面も10メートルから20メートル高かったことも覚えておくべきです。
その一方で、グリーンランドや南極、北極では、氷冠の劇的な融解が進んでいるほか、シベリアその他の北極圏地域では、破壊的な山火事も発生しています。アマゾンで起きていることは、誰もがご存じのとおりです。
私たちは明らかに、気候危機に直面しています。気候変動が私たちの対策を上回る速さで進行しており、私たちがこの傾向を逆転させなければならないことも明らかです。
ご存じのとおり、国際科学界が明らかにしたところによれば、この傾向を逆転させるためには、気温の上昇を1.5˚Cに抑える必要があり、そして、そのためには、2050年までにカーボンニュートラルを達成することと、温室効果ガス排出量を劇的に削減することが必要となります。世界的レベルで必要な削減幅は、2030年の時点で45%と見られています。
そこには強い政治的意志が要求されます。そのためには、私たちが土地を利用したり、食料を生産したり、経済に電力を供給したり、輸送システムに燃料を供給したりするやり方を、一気に転換せねばなりません。
そして、私たちには政府と、あらゆる場所の企業、都市、市民社会による強力なコミットメントも必要です。それがアフリカにとって利益となることは間違いありません。気候変動をほとんど助長していないアフリカには、先進地域や温室効果ガスの大量排出国に対し、 その排出量を削減するとともに、気温上昇の1.5˚Cへの抑制と2050年までのカーボンニュートラル達成に関し、科学界が表明した要件を満たすよう要請する権利があるからです。
しかし、気候変動がすでに現実のものとなり、私たちが危機的な緊急事態の中で暮らしているからには、適応とレジリエンスも欠かせません。
そしてアフリカでは、自然災害であれ、干ばつであれ、その他の側面であれ、気候変動の最悪の影響から人々を守るために、防災に多額の投資を行わねばなりません。
また、アフリカにおける防災と適応面でのレジリエンスを高めるためには、国際社会からの多大な支援が必要となります。そこには技術支援だけでなく、財政支援も含まれます。その意味で、緑の気候基金の補填と、緑の気候基金によるアフリカ大陸への支援に対する要請に加え、2020年以降、開発途上地域における緩和と適応の効果的実施を図るため、官民の財源から1,000億ドルを拠出するというパリ協定の約束を守るべく、世界の先進各国からの二国間支援もはっきりと求める声が上がりました。
非常に実り多い議論が行われ、アフリカの声も明確になりました。現状は深刻であり、私たちは気候緊急事態の中で暮らしています。私たちは気候変動との競争に敗れつつあります。この傾向を逆転させるとともに、アフリカが直面するリスクを軽減し、その社会やコミュニティー、経済を適応させ、気候変動の最悪の影響を避けるのに必要なレジリエンスを構築できるよう、アフリカ支援に投資しなければなりません。
記者からの質問:アマゾンについて言及がありました。アマゾンでの現状について、どう考えますか。国際社会の支援についても触れられていますが、ブラジルや世界は十分な取り組みをしていますか。国連には何ができるのでしょうか。
事務総長:状況が極めて深刻であることは間違いありません。アマゾンは私たち全員にとって欠かせない資源です。地球の肺にも例えられる存在であるため、現在のような山火事はいずれも極めて危険であり、これを食い止めるために全力を尽くすとともに、しっかりとした植林計画を立てることが必要です。私としては、2つのことを行うために、国際社会はアマゾン諸国の支援に向けて結集する必要があると確信しています。まず、あらゆる可能な手段を用いて、山火事をできるだけ早く食い止めること、そしてその次に、一貫性のある植林政策を導入することです。
これまでの取り組みが不十分だったことは明らかです。私たちは協力して、これまでよりもはるかに多くの取り組みを行う必要があります。今回はアマゾンですが、それは世界各地に当てはまることです。北極圏でも、コンゴ民主共和国でも、アフリカのその他の地域でも山火事による被害は発生しているので、私たちは全力を挙げて、地球の緑の肺を守らねばなりません。
記者からの質問:国連には何ができるのでしょうか。
事務総長:国連はかなりの関与を行ってきました。私たちの国別チームはこの点で、それぞれの政府を支援しています。私たちは資源の動員を強く訴え、国連総会のハイレベル会合開催中にも、アマゾンに対する支援の結集を図る会合を開けるかどうか、各国に打診しています。
記者からの質問:アフリカにおけるイノベーションとテクノロジーについて、質問します。特に若者についてですが、イノベーションは若者の暮らしを改善する役割を演じられると考えますか。
事務総長:イノベーションは欠かせません。アフリカでは現在、多くの若者が失業しています。アフリカの人口は急増しています。人口が急増する中で、雇用を創出できなければ、人々の暮らしが非常に厳しくなるだけでなく、国全体も貧しくなってしまいます。安全という点でも、障害や問題が生じます。あらゆる種類の形態の過激主義が助長されるからです。ですから、私たちは各国がこの著しい雇用の欠如に対応できる能力を高めねばなりませんが、その意味でもイノベーションが必要です。これまでどおりのやり方で、これを達成することはできません。つまり、イノベーションや新技術を導入し、デジタルの時代を十分に理解し、これらの国々でインフラを整備すると同時に、教育や生涯学習への投資を充実させることが絶対に欠かせないのです。
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