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国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)開会式におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長挨拶(マドリード、2019年12月2日)

プレスリリース 19-112-J 2019年12月09日

各国代表の方々、
来賓の方々、
その他代表団の方々、
皆様、

包摂的マルチラテラリズムの精神で連携し、今回のCOP25開催を可能にするとともに、これほどの短期間で完璧な会議の開催にこぎつけたチリ、スペイン両国政府に対し、感謝と祝福を申し上げたいと思います。おめでとうございます。そして、ありがとうございます。

気候緊急事態との競争で私たちに必要なのは、まさにこのような連帯と柔軟性です。

私たちは、危険な地球温暖化を抑えるための集団的な取り組みで、重大な岐路に立っています。

これからの10年間が終わるころ、私たちは2つの道のどちらかを歩んでいることになるでしょう。

そのうちの1つは、降伏の道です。この場合、私たちは知らず知らずのうちに、後戻りできない地点を通過し、地球上のあらゆるものの健康と安全を脅かすことになります。

私たちは本当に、目と耳をふさぎ、地球が燃えている間に何もしなかった世代として、記憶に残りたいのでしょうか。

もう1つは、希望の道です。

それは決意と、持続可能な解決策の道でもあります。

この道を進めば、さらに多くの化石燃料は本来あるべき場所、すなわち地中に留まり、私たちは2050年にカーボンニュートラルの実現に向けて歩を進めることになります。

今世紀末までに、地球の平均気温上昇を1.5˚Cという必要な水準に抑えるためには、この道を進むしかありません。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告にもあるとおり、現時点で最新の科学的知見によると、温暖化がそれ以上に進めば、私たちは壊滅的な災害に襲われることになるでしょう。

若者をはじめ、全世界で何百万もの人々が、あらゆる部門のリーダーに対し、私たちが直面する気候緊急事態にもっと、そしてはるかに真剣に取り組むよう呼びかけています。

明日ではなく、今すぐに正しい道を進むことが必要だとわかっているからです。

それはつまり、今こそ重要な決定を下さねばならないということです。

COP25はそのための機会なのです。

代表の皆様、

今回の会議で何をする必要があるかに踏み込む前に、一歩下がって、私たちの議論の全体像を捉えてみたいと思います。

世界気象機関(WMO)が発表したばかりの最新のデータを見ると、大気中で熱を閉じ込める温室効果ガスの濃度は、さらに記録を更新しています。

二酸化炭素(CO2)濃度は2018年、世界平均で407.8ppmに達しました。

そして私の記憶では、400ppmが現実的に考えられない転換点として捉えられていたのも、さほど昔のことではないはずです。私たちはこのレベルを大きく超えています。

CO2の濃度が以前、これだけ高くなったのは、今から300万年から500万年前のことで、その時の気温は現在よりも2˚Cから3˚C、海水面も現在より10メートルから20メートル高かったと見られます。

その兆候は見逃すことができません。

過去5年は記録に残る中で、最も暑い5年間となっています。

その影響はすでに、ハリケーンから干ばつ、洪水、山火事に至るまで、異常気象とそれに関連する災害の増大となって表れています。

氷冠は融解しています。グリーンランドだけでも、7月に1,790億トンの氷が解け出しました。

北極圏の永久凍土層は、予想よりも70年早く解けてきています。

南極大陸でも、10年前の3倍の速さで融解が進んでいます。

海面も予測を上回る速さで上昇し、最大の、かつ経済的に最も重要な都市のいくつかが、リスクにさらされています。

世界のメガシティー の3分の2以上は、海のすぐそばにあります。

また、海面の上昇だけでなく、海水の汚染も進んでいます。

海洋は大気中のCO2全体の4分の1以上を吸収し、私たちに必要な酸素の半分以上を作り出しています。

CO2の吸収が進めば、海洋が酸性化し、そこに暮らす生物全体が脅かされます。

IPCCによる土地海洋と氷圏地球温暖化1.5˚C目標に関する3件の重要な報告書はいずれも、私たちが自らの生命維持システムを承知の上で破壊していることを確認しています。

それこそまさに、私たちがしていることです。

世界のいくつかの地域では、石炭火力発電所が今でも多く計画、建設されています。

この炭素中毒をやめなければ、私たちの気候変動対策は間違いなく無駄になるでしょう。

また、国連環境計画(UNEP)が明らかにしたように、各国は今後10年間で、気温の上昇を1.5˚Cに抑えるために必要な水準の2倍を超えるペースで化石燃料の生産を計画しています。

問題は化石燃料業界だけではありません。

農業から輸送、都市計画や建設からセメント、鉄鋼その他炭素集約型産業に至るまで、私たちは持続可能な道から大きく外れたところを歩いています。

持続可能なビジネスモデルに向けた前進は徐々に見えているものの、必要な範囲にも規模にも程遠い状況です。

私たちに必要なのは積み上げ方式ではなく、転換をもたらすような手法です。

私たちのビジネスのやり方、発電の仕方、都市の作り方、移動の仕方、そして世界への食料供給のやり方を急速かつ根本的に変えていく必要があります。

私たちの暮らし方を早急に変えなければ、生活それ自体が危うくなるからです。

私はこの1年間、カーボンプライシングを進め、課税対象を所得から炭素へとシフトさせ、2020年以降の石炭火力発電所の新設を禁じ、納税者の負担を歪んだ化石燃料補助金に充てることをやめる必要があると申し上げてきました。

私たちは、グリーン経済への移行を公正な移行、すなわち、新規雇用や生涯教育、社会的セーフティーネットという形で、悪影響を受ける労働者の将来に気を配る必要性を認識する ものとせねばなりません。

変化を望むなら、私たち自身が変わらなければなりません。

希望の道を選ぶことは、特定の人や特定の産業、特定の政府の責任ではありません。

私たち全員がそこに関わってきます。

科学界は、明快なロードマップを描いています。

今世紀末までの地球の気温上昇を必要な1.5˚Cに抑えるためには、2030年までに排出量を対2010年比で45%削減するとともに、2050年までに気候中立性(クライメイト・ニュートラリティー)を達成せねばなりません。

10年前、各国が当時の科学的証拠に基づき行動していたとすれば、排出量を年3.3%削減すれば済んでいたことでしょう。しかし、私たちはそうしませんでした。

そして今、私たちが目標を達成するためには、年7.6%の排出量削減が必要になっています。

よって、各国政府はパリ協定に基づく自国の貢献を実現するだけでなく、その野心を大幅に高めなければなりません。

仮にパリ協定に基づく約束がすべて守られたとしても、それで十分ではないでしょう。しかし残念なことに、多くの国はその約束さえ守っていません。結果はまさに、ご覧のとおりです。

UNEPによる最新の『排出ギャップ報告書(Emissions Gap Report)』によると、温室効果ガス排出量は直近の10年間にわたり、年1.5%増大しています。

このペースが続けば、今世紀末までに3.4˚Cから3.9˚Cの地球温暖化が起きることになるでしょう。

そうなれば、私たちを含む地球上のあらゆる生物に、壊滅的な影響が及ぶことでしょう。

これを避けるためには、政府や地域、都市、企業、市民社会が一丸となって、共通の目標達成を目指し、急速かつ野心的で転換につながる行動を起こすしか解決策はありません。

それは9月、私が気候行動サミットを招集した目的でもありました。

サミットは多くの点で、心強い成果をもたらしました。

小島嶼国や後発開発途上国、大都市や地域経済主体と、民間・金融部門の多数の代表者がすべて、何らかの取り組みを持ち寄りました。

約70カ国は、2020年中に自国の約束をさらに強化する意向を示す一方で、65カ国と自治体レベルの主要経済圏は、2050年までに正味ゼロ・エミッションを実現するために取り組むことを約束しました

私は、政府や投資家が化石燃料から手を引こうとしている様子を見ることができ、嬉しく思いました。

最近の例では、欧州投資銀行が2021年末までに、化石燃料プロジェクトへの資金提供を停止すると発表しています。

しかし、私たちは依然として、世界全体の排出量の4分の3以上を占めるG20諸国からの変革の動きを待っているところです。

サミットに関する私の新しい報告書では、これから何をする必要があるのかを紹介しています。

第1に、主要排出国すべてが、さらに取り組みを強化せねばなりません。

それはつまり、2020年にパリ協定に基づき自国が決定する貢献を強化し、2050年に向けたカーボンニュートラル戦略を提示し、エネルギー、工業、建設、輸送を含む主要部門の脱炭素化に乗り出すことに他なりません。

排出大国の全面的な関与がなければ、私たちの取り組みはすべて、根底から覆されてしまうでしょう。

グリーン経済は恐れるべきものではなく、受け入れるべき機会であり、持続可能な開発目標(SDGs)すべての達成を図る私たちの取り組みを前進させることができるものです。

しかし、私が苛立ちを感じているのは、必要なツールや技術がすでに使えるにもかかわらず、変革が遅々として進んでいないという現状に他なりません。

ですから、私がきょう、皆様にお願いしたいのは、野心と切迫感を高めることです。

代表の皆様、

皆様は重要な項目について前進を遂げること、つまり、第6条について成果を達成すること、そして、来年提出すべき各国の新たな修正版気候変動対策計画の策定に向け、野心を引き続き高めることを目的に、ここCOP25に参集されました。

第6条は、カトヴィツェでのCOP24で未解決のまま取り残された問題です。

私たちが地球の気温上昇を抑え、野放しの気候変動を避けられる可能性を残すためには、炭素に価格を付けることが欠かせません。

第6条の運用を開始できれば、市場を立ち上げ、民間セクターを動員し、誰にでも同じルールの適用を確保することに役立つでしょう。

第6条を運用に移すことができなければ、炭素市場が分断化し、マイナスのメッセージが発信されることで、私たちの気候変動対策全般が損なわれてしまいかねません。

私は全締約国に対し、現状の分裂を克服し、この問題について共通の理解を見出すよう強く訴えます。

今回のCOPでは、能力構築や森林破壊、先住民、都市、金融、テクノロジー、ジェンダーその他多くの分野に関する作業も進展することになるでしょう。

また、パリ協定に基づく透明性枠組みの全面的運用を実現するため、いくつかの技術的問題も詰めなければなりません。

やるべきことが多い一方で、時間的余裕はなく、しかもあらゆる問題が重要です。

私たちの作業を成し遂げることは義務であり、無駄にできる時間などありません。

しかし、交渉の妥結が重要である一方で、COP25は世界に対し、針路を変えるのだという固い決意を発信せねばなりません。

私たちは今度こそ、自然との闘いに終止符を打つという約束を本気で考えていること、そして、2050年までにカーボンニュートラルを達成する政治的意志があることを実証せねばならないのです。

私は、すべての政府がグラスゴーで開かれるCOP26に向け、この1年間で気候緊急事態を打破するために必要な野心をもって、自国が決定する貢献を見直すことを、今から約束できるものと期待しています。緩和への野心、適応への野心、そして資金調達への野心がいずれも必要なのです。

また、開発途上国による緩和と適応への取り組みには、年間少なくとも1,000億米ドルを使えるようにするとともに、レジリエンスの構築や災害対応、復興に必要な資源を確保するという、途上国の正当な期待を考慮すべきことも忘れないでおきましょう。

代表の皆様、

ここで私たちが下す決定は最終的に、希望の道と降伏の道のどちらを選ぶのかを決することになるでしょう。

忘れないでいただきたいのは、私たちがパリ協定を通じ、世界の人々に一つの約束をしたということです。

それは真剣な約束でした。

変革を求める人々の声に、耳を傾けようではありませんか。

私たち全員に迫っている脅威に、目を向けようではありませんか。

科学界の一致した見解に、心を開こうではありませんか。

これ以上、対策を遅らせる時間も理由もありません。

私たちにはそのためのツールがあります。科学があります。資源があります。

今こそ、人々が私たちに求める政治的意志もあることを示そうではありませんか。

それができなければ、人類全体、そして将来の世代に対する裏切りになるのですから。

ありがとうございました。

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原文(English)はこちらをご覧ください。