国連生物多様性サミットでの アントニオ・グテーレス国連事務総長挨拶 (2020年9月30日)
プレスリリース 20-077-J 2020年10月14日
人類は自然に戦いを挑んでいます。
私たちは、自然との関係を築き直す必要があります。
乱獲や破壊的な慣行、気候変動により、世界のサンゴ礁の60%以上が存続を危ぶまれています。
過剰消費や人口増加、集約的農業の結果、野生生物の個体数も一気に減少しています。
また、生物種絶滅のペースも速まっており、議長の発言にもあったとおり、およそ100万種の生物が現在、絶滅の危機に瀕しているか、絶滅が危惧されています。
森林破壊や気候変動、さらには人類の食料生産を目的とする未開拓地の開墾は、地球の生命の網を破壊しています。
私たちは、この脆弱な網の一部なのです。私たちと将来の世代が豊かに暮らすためには、これを健全に保つ必要があります。
私たちと自然の不均衡がもたらした結末の一つとして挙げられるのが、HIV/エイズやエボラ、そして今は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と、私たちがほとんど、あるいはまったく防御できない致死的な病気の流行です。
既知の病気の60%と、新しい感染症の75%が、動物から人間に伝染する人獣共通感染症であるという事実は、地球の健全性と私たちの健康が切っても切れない関係にあることを表しています。
生物多様性と生態系は、人類の進歩と繁栄に欠かせません。
また、持続可能な開発目標(SDGs)の達成と、気候変動に関するパリ協定の履行にとっても、中心的な存在となっています。
しかし、約束が繰り返されているにもかかわらず、私たちの取り組みは、2020年を期限として設定された世界的な生物多様性目標を一つとして達成するにも十分ではありません。
単に政府だけでなく、社会のあらゆる主体が、より大きな野心をもつ必要があります。
はっきりと申し上げましょう。自然破壊は単なる環境問題ではありません。
そこには経済や保健、社会的正義、人権も関係しています。
私たちが貴重な資源を顧みなければ、地政学的な緊張や紛争の悪化にもつながりかねません。
ところが、環境衛生はその他の政府部門から見過ごされたり、軽視されたりすることが、あまりにも多くあります。
この生物多様性サミットは、私たちが世界に対し、別の道もあるのだということを示せる機会です。
私たちは進路を変え、自然界との関係を変容させなければなりません。
自然と調和して暮らすことにより、私たちは気候変動の最悪の影響を避け、人間と地球のために生物多様性を取り戻すことができるのです。
私は、生物多様性を保全し、持続可能な形で管理するための優先課題が、3つあると考えています。
第1に、自然に基礎を置く解決策をCOVID-19からの復興と、より幅広い開発計画に組み込まなければなりません。
世界の生物多様性の保全によって、私たちが現在、緊急に必要とする雇用と経済成長が生まれるかもしれません。
世界経済フォーラムは、自然にまつわる新たなビジネスチャンスが、2030年までに1億9,100万人の新規雇用を創出する可能性があることを示唆しています。
アフリカの「巨大な緑の壁」だけでも、33万5,000件の雇用を創出しました。
自然を基礎とする解決策は、私たちが気候危機を解決するための闘いにとっても欠かせません。
森林や海洋、手つかずの生態系は、効果的な炭素吸収源です。
健全な湿地帯は、洪水を軽減します。
自然災害や失業、経済的低迷から私たちを守る自然の解決策は、すぐに手の届くところにあります。
それらを活用しようではありませんか。
第2に、私たちの経済システムと金融市場は、自然に配慮するとともに、これに投資しなければなりません。
天然資源は依然として、国富の計算に含まれていません。
現在のシステムは保全ではなく、破壊に重きを置くものとなっています。
経済協力開発機構(OECD)によると、全世界の自然保護のために必要な資金は、年間3,000億ドルから4,000億ドルに上りますが、これは農業や鉱業、その他の破壊的産業に対して支給されている有害な補助金の額をはるかに下回ります。
自然に投資すれば、生物多様性を守るだけでなく、気候変動対策や人間の健康、食料の安定確保も改善します。
各国政府は、金融政策決定の判断基準に生物多様性を含める必要があります。
新たに設けられた「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」は、金融機関が資金の提供先を破壊的な活動から自然を基礎とする解決策へとシフトさせることを支援します。
第3に、私たちは生物多様性を守り、誰一人取り残さないよう、最も野心的な政策や目標を確保しなければなりません。
生物の多様性に関する条約事務局は、生態系に由来するサービスが、農村部や森林に暮らす貧困世帯の生計の50%から90%を占めると見ています。
自然は貧しいコミュニティーに対し、持続可能な農業から、エコツーリズムや自給漁業に至るまで、多くのビジネスチャンスを提供します。
それはいずれも、生物多様性の保全とその持続可能な利用にかかっています。
特に、ほとんどの先住民は、彼らの文化や生計を維持するために必要な経済・金融サービスを提供できる健全な生態系に依存して暮らしています。
私はこのサミットの期間中、生物多様性損失の傾向を大きく変えるため、強力なリーダーシップを発揮する強い意志を発信するよう、皆さんにお願いしたいと思います。
私は「指導者の自然保護誓約(Leader’s Pledge for Nature)」のほか、昨年の気候行動サミットで発足した「キャンペーン・フォー・ネイチャー」などの連合の立ち上げを歓迎します。
こうしたリーダーの連合は、生物の多様性に関する条約の第15回締約国会議(COP 15)に向け、政治的野心を高めるための強力な意志表示となっています。
その中には、生物多様性損失の原因に対する取り組みへの約束も含まれます。
私はすべてのリーダーに対し、こうした取り組みに加わるよう強く訴えます。
私たちは、野心的な「ポスト2020生物多様性枠組み」を確保する必要があります。
それは、私たちがSDGsを達成することに役立つ枠組みです。
具体的で測定可能な目標を定め、財務や監視のメカニズムをはじめ、実施手段を備えた枠組みでもあります。
そして、国と社会全体で、企業や若者、女性、先住民、地域社会との全面的かつ効果的なパートナーシップを活用していく枠組みにもなります。
私たちが10年前に取り付けた約束で、地球は守られるはずでした。
私たちは大きく失敗しています。
しかし、取り組みが行われているところでは、私たちの経済や健康、地球の健全性に反論の余地のない利益が生まれています。
自然はレジリエントであり、私たちが飽くなき攻撃を止めれば、回復を遂げることができるのです。
国連創設75周年の節目に開催されるこのサミットは、私たちが共有する未来の姿を作り上げる決定を皆さんが全員で下せる絶好の機会です。
私たちの社会が繁栄し、私たちの経済が立ち直るためには、健全な地球が必要です。
世界は皆さんを頼りにしているのです。ありがとうございました。
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