第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長挨拶 (ニューヨーク、2022年8月1日)
プレスリリース 22-038-J 2022年08月04日
スラウビネン大使閣下、
この会議の議長に選出されたことをお祝いします。
私は、これから私たちがすすめるべき取り組みについて大使を全面的に支援します。
各国代表の方々、皆様、
この会議は長期にわたって延期されてきました。
しかし、その重要性と緊急性が低下したわけではありません。
この会議は、私たちが共有する平和と安全にとって極めて重要な岐路を前に開かれています。
気候危機、明らかな不平等、紛争と人権侵害、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが引き起こした個人と経済への打撃により、世界は私たちが生涯で直面したことがない緊張下に置かれています。
そしてそうした緊張は、冷戦中に最も緊張が高まった時期以来経験したことがない、核の脅威の中で起きています。私がこの会議の重要性を強調する理由は、ここにあります。数日後、私は、人類史上初めて核爆弾が投下された広島を訪れ、平和記念式典に出席します。その後、核兵器の不拡散を重要な訪問目的として、同地域の2つの国を訪問します。
冷戦後の初期に、平和に対する暫定的な新しい希望がもたらされました。
大規模な兵器削減において、また、非核宣言を行ったすべての地域において、そして、核兵器の使用・拡散・実験に反対する規範の確立において、希望が見えました。
私はポルトガルの首相であった時に、初めて国連への代表団に対して、太平洋での核実験再開に反対票を投じるよう指示しました。それまでのポルトガルは、まるで棄権してもよい問題であるかのように棄権することが慣例でした。
そして、コミットメント、判断、幸運が重なり合うことで、世界は核紛争という自滅的な過ちを回避してきました。
しかし年月の経過とともに、こうした希望の成果は失われつつあります。
人類は、広島と長崎の惨禍によって刻み込まれた教訓を忘れ去る危機に瀕しています。
地勢学的緊張が、新たな段階に達しつつあります。
競争が、協力と協調に勝りつつあります。
不信が対話に、分裂が軍備縮小に取って代わっています。
国々は、私たちの地球にふさわしくない破滅的な兵器を備蓄し、数千億ドルを支出し、誤った安全保障を追求しています。
今や約1万3,000発の核兵器が、世界各地の兵器庫に貯蔵されています。
これらすべてが、核兵器拡散のリスクが高まり、拡大を回避する手段が弱まりつつある時に起きています。
そして、核を底流に抱えて、
中東、朝鮮半島から、
ロシアによるウクライナ侵攻、そして世界各地のその他多くの要因に至るまで、
危機が高まっている時に起きています。
皆様、
冷戦終結後に霧散した暗雲が再び立ちこめています。
私たちは、これまで限りなく運が良かったのです。しかし、運は戦略ではありません。
また、核紛争に発展する地政学的緊張を防ぐ盾にもなりません。
今日、人類は、1つの誤解、1つの判断ミスで核により壊滅する瀬戸際に立っています。
私たちは、これまでと変わらず、核兵器不拡散条約を必要としています。
だからこそ、この運用検討会議が極めて重要なのです。
それは、この核の惨事を避けるのに役立つ措置を形づくる機会です。
そして、人類を、核兵器のない世界へと向かう新しい道に導く機会なのです。
さらに、この条約を強化し、私たちを取り巻く憂慮すべき世界情勢に適合させる好機でもあります。
私は、行動すべき5つの分野を提案します。
1つ目に、77年間ずっと続いてきた核兵器使用を許してはならないという規範を、緊急に強化し、再確認する必要があります。
これには、すべての締約国からの確固としたコミットメントが必要です。
つまり、核戦争のリスクを軽減し、私たちを軍縮への道に戻す、実用的な措置を見つけるのです。
私たちは、対話と透明性を確保するあらゆる手段を強化する必要があります。
信頼と相互尊重がないところに、平和が定着することはありません。
2つ目に、戦争のリスクを減らすだけでは不十分です。
核兵器の廃絶が唯一、二度と使用されないことの保証となるのです。
私たちは、絶えずこの目標に向かって取り組まねばなりません。
これは、人類を危機にさらさないようにするために、すべての種類の核兵器の数を削減する新たなコミットメントから始めなければなりません。
そしてこれは、国際原子力機関(IAEA)の重要な取り組みを含む、軍縮と不拡散に関する多国間協定と枠組みを再活性化し、十分な資源を与えることを意味します。
3つ目に、私たちは中東とアジアにおける一触即発の緊張状態に対処する必要があります。
長引く紛争に核兵器の脅威が加わることで、これらの地域は破滅に向かって進んでいます。
私たちは、新しい信頼の絆があまりにも少ししか見られなかった地域で、緊張を緩和し、信頼の絆を打ち立てるための対話と交渉に対する支援を倍増させる必要があります。
4つ目に、私たちは医療やその他の用途を含む、持続可能な開発目標(SDGs)を進展させる手段としての核技術の平和利用を推進する必要があります。
この技術を平和目的に使用すれば、人類に大きな利益をもたらすことができます。
そして5つ目に、私たちは条約自体に残されたすべてのコミットメントを実行し、この試練の時代にこの条約が目的に沿うよう維持する必要があります。
私たちは皆、条約の目的と役割を信じているからこそ、今日ここにいるのです。
しかし、条約を未来に生かすには、現状を超えていく必要があります。
そのためには、新たなコミットメントと真の意味で誠実な交渉が要求されます。
さらに、すべての締約国が耳を傾け、歩み寄り、過去の教訓と未来の脆弱さを常に考慮することが求められます。
皆様、
未来の世代は、奈落の淵から一歩退くことへの皆様のコミットメントに期待しています。
私たちは、世界を、私たちが出会ったものよりも、より良い、より安全な場所として残す義務を共有しています。
この会議は、私たちがこの基本的な試練を乗り越え、核による壊滅の暗雲を今回限りで消し去る時です。
ありがとうございました。