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「国際の平和と安全の維持における法の支配の推進と強化:国家間の法の支配」に関する安全保障理事会公開討論におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長発言(ニューヨーク、2023年1月12日)

プレスリリース 23-002-J 2023年01月23日

日本に対し、安全保障理事会理事会での任期のはじめに議長国を務めることに祝意を表するとともに、新年の幕開けにあたり、法の支配に関するこのような討論を開催していただくことに感謝します。

また、報告者として同席する2人の同僚、国際司法裁判所所長のジョーン・ドナヒュー判事とダポ・アカンデ教授を歓迎します。

法の支配は国連の礎であり、平和というその使命の礎を成しています。安保理には、法の支配を堅持する上で重要な役割があります。

法の支配の基本は、あらゆる人々、機関、主体が、官民を問わず、国家そのものも含め、法の下で説明責任を負うということにあります。

最も小さな村から世界の舞台に至るまで、平和と安定と、権力と資源をめぐる残忍な闘争との間に立つのが、法の支配です。

法の支配は、脆弱な立場に置かれた人々を守ります。

差別やハラスメント、その他の虐待を防止します。

ジェノサイドを含め、残虐な犯罪に対する防御の最前線です。

法の支配は、制度に対する信頼を醸成・強化します。

公平で包摂的な経済および社会を支えます。

そして、国際協力とマルチラテラリズム(多国間主義)の基盤です。

国連憲章には、「われら連合国の人民は、(中略)正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立する(中略)ことを決意」するとうたわれています。

1970年の「国連憲章に従った諸国間の友好関係及び協力についての国際法の原則に関する宣言」と、2012年の「国内および国際レベルにおける法の支配に関する宣言」は、憲章にうたわれている原則をさらに発展させたものです。

国際人道法の体系は、紛争時に人命を救い、苦難を軽減します。第二次世界大戦の恐怖の後に合意されたジュネーブ条約は、戦争にさえ法があることを示しています。

本日の討論は、法の支配を確保することが私たちの優先課題であり、すべての国々が国際基準を遵守しなければならないという、強いメッセージを送るものです。

すべてのステークホルダー、すなわち加盟国、地域機関、市民社会、民間セクターには、法の支配の構築・擁護に貢献する責任があるのです。

しかし国際情勢は、私たちにはまだ長い道のりがあることを示しています。

私たちは、無法の支配に陥る重大な危険にさらされています。

世界のあらゆる地域において、民間人が破壊的な紛争、人命の喪失、貧困や飢餓の深刻化に伴う影響に苦しんでいます。

核兵器の違法な開発から武力の違法な行使に至るまで、各国は、その責任を問われぬまま、国際法をないがしろにし続けています。

ロシアによるウクライナ侵攻は、人道・人権上の惨禍を引き起こし、子どもたちの世代に深い傷跡を残し、世界の食料・エネルギー危機を加速させています。

武力による威嚇または武力の行使によって一国の領土を他国が併合することは、いかなる場合も国連憲章と国際法に違反します。

2022年は、パレスチナ人とイスラエル人の双方に犠牲が生じた年となりました。私たちは、過激派によるあらゆる不法な殺害行為と違法行為を非難します。テロを正当化することはできません。

同時に、イスラエルによる入植地の拡大、住居の破壊や立ち退かせが、怒りと絶望を生んでいます。

また私は、最近の一方的な行動について非常に懸念しています。法の支配は、国連決議、国際法、これまでの合意に従った2国家共存による解決に基づいた公正かつ包括的な平和を実現する上で中核を成すものです。

憲法に反した政権交代、つまりクーデターが再び広まっていることを遺憾に思います。

すでに紛争やテロ、食料不安に耐えている場所、つまりサヘル地域では特にこうした動きが懸念されます。

国連には、民主的ガバナンス、平和、安全、持続可能な開発を強化する、地域的な取り組みを支援する用意があります。

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が推進している違法な核兵器開発計画は、明白かつ目下の危険であり、リスクと地政学的緊張がかつてないほどに高まっています。国際的な義務を遵守し、交渉のテーブルに戻る責任は、北朝鮮側にあります。

アフガニスタンでは、女性と女児の権利に対して未曽有の組織的な攻撃が行われ、また国際的な義務がないがしろにされており、ジェンダーに基づくアパルトヘイトが生まれています。

これは、持続的な平和に戻るためにあらゆる人々の貢献を切に必要とする国の発展を、意図的に阻害するものです。

2021年の軍による政権奪取以降、ミャンマーにおける法の支配の崩壊は、暴力、弾圧、そして深刻な人権侵害の悪循環につながっています。

私は当局に対して、国民の声に耳を傾け、民主主義への移行に復帰するよう要請します。

ハイチでの状況は、深刻な制度危機と脆弱な法の支配、広範な人権侵害、犯罪率の急上昇、汚職、国境を越えた犯罪を特徴としています。私は、ハイチのステークホルダーに対して、包摂的な民主的制度と法の支配を回復するため、協力するよう呼びかけます。

これらの例が示すように、法の支配の遵守はかつてない程に重要になっています。すべての加盟国には、あらゆる場面において法の支配を擁護する責任があります。

法の支配は、これらの紛争、災害、危機などに対する平和的解決策を見いだし、世界中の最も脆弱な立場に置かれた人々やコミュニティーを支援する国連による取り組みの礎を成しています。

法の支配、説明責任、人権の各々の間の、強固かつ相互補強的な関係は、私の「人権に関する行動呼びかけ」に反映されています。

不処罰に終止符を打つことが重要です。

国際司法裁判所(ICJ)から人権理事会、同理事会の事実調査団や調査委員会に至るまで、国連の機関とメカニズムは法の支配を推進・実施しています。

独自の権限を持つICJは特別な地位を占めています。私は、(各国が)同裁判所の義務的管轄権を受諾することの重要性を指摘するとともに、すべての加盟国に対し、いかなる留保もなしに受諾するよう呼びかけます。安保理の理事国は、この点において特別な責任を負っており、主導的な役割を担うべきです。

国連は世界中で、不処罰に対して行動し、公平かつ独立した司法手続きを通じて加害者の責任を問うべく尽力しています。

私たちはまた、被害者やサバイバーを支援し、正義、救済、補償を受けられるようにすることで、法の支配を強化しています。

1990年代に安保理によって設立された裁判所や法廷、そして国際刑事裁判所残余メカニズムは、旧ユーゴスラビアやルワンダにおける残虐な犯罪に対する責任のある多くの人物に、その責任を問うてきました。

今日、国際刑事裁判所(ICC)は、国際刑事司法制度の中核的な機関であり、最も重大な犯罪に対する責任追及における希望となっています。

次に、法の支配を推進するために、加盟国が国連とその諸機関をどう強化できるのかということについて話します。

第一に、私はすべての加盟国に対し、国連憲章と世界人権宣言のビジョンと価値観を守り、国際法を遵守するよう要請します。

武力による威嚇または武力の行使によることなく紛争を平和的に解決するために。

すべての人々が有する平等な権利を認め、促進するために。

内政不干渉、人民自決権、加盟国の主権平等に向けて尽力するために。

私は、安保理を含め、法の支配を全面的に推進する国連の取り組みを、加盟国が支持してくれることを期待しています。

ある分野で紛争があるからといって、他の分野での前進をも阻むことがあってはなりません。

課題は多いものの、法の支配の優位は、国際の平和と安全の維持や平和構築の取り組みにおいて不可欠です。

これには、国連憲章第2条第4項と第7章のように、武力による威嚇または武力の行使について規定した明確な規則が含まれます。

第二に、私は加盟国に対し、法の支配を予防的ツールとして最大限活用するよう要請します。

国際レベルにおいては、国連憲章は、交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決など「紛争の平和的解決」に、一つの章全体を割いています。

これは国際法に根差した予防の実践です。

国内レベルでは、法の支配は人々と制度との間の信頼を構築します。腐敗を減らし、公平な競争の場を生み出します。社会と経済が円滑に運営され、すべての人々に恩恵をもたらします。

逆に、法の支配が脆弱であれば、不処罰がはびこり、組織犯罪が横行し、暴力的紛争のリスクが高まります。

第三に、私は加盟国に対し、2030アジェンダと持続可能な開発目標(SDGs)の実現をもたらす鍵となる要素として、法の支配を強化するよう要請します。

すべての人々に対する司法へのアクセスの提供と効果的で説明責任のある包摂的な制度の構築に関する目標16は、他のSDGsの目標の実現を可能にする重要な要素です。

貧困、不公正、排除は、効果的で差別のない、包摂的な公共政策を通じてのみ対処することができるのです。

民主主義による正統性が、法の支配を弱体化・阻害する政策の根拠として用いられることは決してあってはなりません。市民社会とその他のステークホルダーには、この点において欠かせない役割があります。

国連には、世界中の国別チームを通じて、加盟国を支援する用意があります。

議長、

今後を見据え、『私たちの共通の課題(Our Common Agenda)』に関する私の報告書は、「法の支配に対する新たなビジョン」を呼びかけています。このビジョンは、国連のあらゆる活動において、法の支配を中心に据えることを再び確立し、強化する機会です。

この新たなビジョンでは、法の支配と、人権と開発とのつながりを示し、誰もが法律と司法を利用できることを確かにする、人間中心のアプローチを呼びかけていきます。

私は、安保理の課題に沿った要素を含め、国連全体でこのビジョンが実施されるようにしていきます。

法の支配を堅持することの重要性は、「新たな平和への課題」にも反映されます。

法の支配は、核軍縮から気候危機、生物多様性の崩壊、パンデミックや危険な疾病に至るまで、現在と将来の課題に対処する鍵です。

法の支配に関する私たちの取り組みは、環境の変化と技術の進歩に適応していかなければなりません。

議長、

国連は、法の支配に基づいてイノベーションと進歩を推し進める上で主導的役割を果たす、独自の立場にあります。

国連のように、正統性、結集力、規範的影響を持ち合わせた国際機関は、ほかに存在しません。

安保理には、国際の平和と安全を維持し、人権を擁護し、持続可能な開発を推進する取り組みを通じて、法の支配を前進させる重要な役割があります。

共に、法の支配を推進し、すべての人々にとってより安定した安全な世界を築くことを決意しようではありませんか。

ありがとうございました。

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原文(English)はこちらをご覧ください。