『私たちの共通の課題』/「未来サミット」についての総会協議に向けたアントニオ・グテーレス国連事務総長発言(ニューヨーク、2023年2月13日)
プレスリリース 23-020-J 2023年04月13日
総会議長、各国代表の方々、皆様、
『私たちの共通の課題(Our Common Agenda)』に関する報告の発表から18カ月の間に、私たちは重要な進展を遂げました。
皆様は、その進展に欠かせない存在でした。
損失と損害に関する飛躍的な進歩、クリーンで健康、かつ持続可能な環境への権利の認識、「教育変革サミット(Transforming Education Summit)」、雇用および社会的保護のグローバル・アクセラレーター、そして国連ユース・オフィス開設の決定はいずれも、私たちが必要とする変革に向けた重要なステップです。
しかし、それらが始まりにすぎないことは明らかです。私たちは、さらに深く踏み込まなければなりません。
気候、紛争、不平等、食料不安、核兵器について、私たちはかつてないほど瀬戸際に近づいています。
にもかかわらず、私たちの集団的な問題解決の仕組みは、課題のペースや規模に見合っていません。
現在の多国間ガバナンスの形態は、過去の時代に、そして過去の時代のために設計されたものであり、今日の複雑で相互に絡み合い、急速に変化する危険な世界に適していないことは明らかです。
グローバルな対応の分断と世界の分断が、互いに助長し合っています。
本日、私たちは『私たちの共通の課題』の提言を理念から行動に移す、つまり抽象的なものを具体化させる仕事を始めるべく、ここに集まりました。
最初に、『私たちの共通の課題』の目的は、2030アジェンダの加速と、あらゆる場所の人々の生活における持続可能な開発目標(SDGs)の実現であることを強調したいと思います。
なぜなら私たちは、2030年までの中間点にある現在、達成に向けた軌道を大きく外れているからです。
政府間協力のギャップを含め、2015年以降に表面化したギャップや課題に対処しなければ、この遅れを取り戻すことはできません。
9月の「SDGサミット」は、今年の私たちの取り組みの中核を成すものであり、大きな進展を示さなければなりません。
加盟国は、具体的な計画、ベンチマーク、コミットメントに基づいた、変革のための国家ビジョンを打ち出しつつ、SDGsを救うという明確なコミットメントを携えてSDGサミットに臨まなければなりません。
野心的な政治宣言は、国と世界の両レベルで必要とされる広範な変革を踏まえたものでなければなりません。
また、目標を達成する上で必要な、中核となる移行のすべてにおいて、投資と行動に優先順位をつけて動員する必要があります。
SDGサミットでは、「誰一人取り残さない」という私たちのコミットメントを法律や政策で実現しなければなりません。
そして、金融、貿易、債務、テクノロジーに関する国際的なシステムが、開発途上国にとって不利にではなく、有利に働くようにする措置を採り入れなければなりません。
私はG20諸国に対して、グローバル・サウスの国々を支援すべく、SDGサミットまでに、少なくとも年間5,000億ドルのグローバルなSDG刺激策(SDG Stimulus)に合意するよう、改めて要請します。
皆様、
『私たちの共通の課題』は、SDGサミットを土台に前進しなければなりません。
この私の報告には多くの提案が含まれており、これから、その主旨と細目を精査していただく必要があります。
本年を通じて、事務局では、具体的なアイデアを盛り込んだ11の政策概要を発表し、皆様に検討していただく予定です。
概要内の提案はSDGsと強く結び付けられています。これは昨年の5つのテーマ別協議における皆様のご意見に応えたものです。
最初の概要は、「新たな平和への課題」に関するもので、移行期の世界と地政学的競争の新時代に向けた平和と安全に関する私たちの取り組みのビジョンを明確にし、あらゆる形態と領域の脅威に対抗するための提案をするものとなります。
これは、予防、紛争解決、平和維持から、平和構築、持続可能な長期的開発へとつながる平和の連続体を全体から捉えたものとなるでしょう。
そして、平和、持続可能な開発、気候変動対策、人権と結び付き、女性と若者のアプローチや知見を活用した、予防と平和構築のための包括的なアプローチを提示します。
このような提案は、平和維持が直面する課題に取り組み、拠出が保証された予測可能な資金を備え、地域の部隊が主導する新世代の平和執行ミッションやテロ対策活動の必要性を認識するものです。この点で、アフリカ連合(AU)がパートナーであることは明白です。
概要には、軍縮と軍備管理を平和と安全の議論の中心に戻すための提案や、人工知能(AI)やサイバー戦争といった新興テクノロジーがもたらす脅威に対処するための提案も盛り込まれます。
皆様、
金融に関する2つの政策概要の目的は、世界経済のさらなる公正化や効率化について現在進められている重要な議論を前進させることです。
その一つは、国内総生産(GDP)を超える指標を目指している私たちの取り組みを前進させるものです。債務救済、譲与に近い条件での資金提供、国際協力に関する決定において、脆弱性、ウェルビーイング、持続可能性やその他の重要な進展の尺度を考慮することにつなげます。
現在の指標は、ケア・エコノミーといった社会への重要な貢献の多くを単に無視する一方で、森林破壊や魚の乱獲などの有害行為を有益なものとして提示しています。これらは、GDPを測定する際には、逆説的に計上されてしまうのです。
2つ目の概要は、グローバルな金融構造がすべての人、特にグローバル・サウスに効果的かつ公平に資するよう、徹底的に改革する提案を行うものです。
この概要では、すべての人に恩恵をもたらすグローバル化に必要な抜本的変革について考察します。
提案には、金融ガバナンスにおけるグローバル・サウスの発言力の強化、中所得国を含むすべての脆弱な国々が債務救済や再編を利用できるグローバルな金融セーフティネットと債務構造の構築、そして金融システムの目的をSDGsと一致させることが含まれます。
また、国際金融機関が引き受けるリスクを増やし、これらの銀行が民間資金を大規模に動員することによって、開発途上国が再生可能エネルギーへの移行を加速させてSDGsに投資できるようにするため、国際金融機関のビジネスモデルを変える方法も提案します。
バルバドス政府と国連の協働によって生まれた「ブリッジタウン・アジェンダ」は、この分野で重要な進展を遂げています。
その目的は、金融を2030アジェンダに沿って人、地球、繁栄のために機能させることです。
皆様、
将来世代のニーズに対する私たちのコミットメントに関する政策概要には、将来世代のグローバルな声としての役割を担う特使を任命する提案が盛り込まれます。概要では、将来に対する私たちの義務を定義する政治宣言や、経験の共有や実施の推進を目的とする政府間フォーラムについて伝えるコンテンツを提案します。
また、現行の政策や活動の影響を予測・理解するための、これまでにない能力を最大限に活用するアイデアも提示されます。
複雑に絡み合う世界的ショックへの国際的な対応の改善に関する政策概要には、緊急時において、適切なデータや知見、資源、能力へのアクセスを確保し、主要なプレーヤーを迅速に招集・調整する提案が盛り込まれます。
新しい機関を設立したり、既存組織の権限を侵害したりする意図はなく、この概要では、緊急プラットフォームを通じて首尾一貫したグローバルな対応を動員するためのガイドラインを提案します。このことによって、効果的な多国間行動、アドボカシー、説明責任を調整する、ハイレベルの政治的リーダーシップがもたらされます。
グローバルなデジタル協力に関する概要では、デジタル技術がもたらし得る害を防ぎつつ、その恩恵を最大化して共有するアイデアを提供します。
これらのアイデアは、一つのグローバル・インターネットに基づき、すべての人々にとって包摂的で開かれた、自由かつ安全なデジタルの未来というビジョンに着想を得て、私たちの従来のロードマップに基づき推進されます。
「グローバル・デジタル・コンパクト」は、テクノロジーが人類の進歩の原動力であり、それが及ぼし得る害に対処してこそ、その恩恵を最大限に実現できるというビジョンに向かうことを目的としています。
これに関連して、情報の誠実性に関する概要を発表します。
新しい社会契約の実現とは、お互いの信頼と私たちの決断を支える事実への信頼を回復することを意味します。私たちは、すべての人を包摂する安全な「情報エコシステム」を必要としています。この概要により私たちは、誤情報や偽情報が気候危機を含むグローバルな課題の進展にどう影響しているかについてさらに注視するようになるでしょう。
宇宙空間とその資産や活動の、平和的で安全で持続可能な利用に関する概要では、SDGsとパリ協定の実現に向けて宇宙での手段によって提供される機会を活用し、脅威や新たなリスクに対処することを検討します。
概要で行う提案では、非政府系ステークホルダーのさらなる参画方法を提言しつつ、宇宙管理において加盟国が果たす中心的な役割を強化します。
そしてこの概要には、平和と安全、宇宙交通の調整、宇宙ゴミ(スペースデブリ)、宇宙資源、深宇宙探査への新たな取り組みに関する提言が含まれます。
「教育変革サミット」のフォローアップとしては、教育の再考と進展の加速に関する政策概要を発行します。
私のビジョン・ステートメントとサミット報告に基づく概要には、国、地域、世界レベルの政治課題の最上位に教育を位置付け、教育資金の変革を加速させるための提案が含まれます。
これらの提案では、SDGsの目標4に従い、「教育の目的」「学習環境」「教職」「デジタル変革の活用」「教育への投資」「すべての人のための質の高い教育に向けた多国間支援」の6つの主要分野を網羅します。
もう一つの概要では、世界レベルの意思決定プロセスに若者がより体系的に参画する方向へ向かうステップを提示します。
新しい国連ユース・オフィスの開設は、前進のための重要なステップでしたが、私たちはこれを足掛かりとしなければなりません。
そのため概要では、若者の保護から、国や世界レベルの意思決定における若者の強い発言権の確保に至る、主要な行動分野を強調します。
これは、総会、経済社会理事会(ECOSOC)、場合によっては安全保障理事会が行う決定の準備など、国連システム内部にも当てはまります。
最後に、21世紀における国連の能力をいかに強化し、「国連2.0」を構築するかについて検討します。
国連は、正しいアジェンダを持つだけでは不十分です。加盟国と協力してそのアジェンダを実行するための知見も必要です。加盟国と同様に、私たちも新しいスキル、新しい知見、新しい戦略やプログラムを必要としています。
国連2.0に関する政策概要では、いかにデータ、デジタル、イノベーション、先見性、行動科学に関する国連の専門性を強化し、今後加盟国をよりよく支援できる国連システムを構築できるかについて考察します。
そして、すべての政策概要には、SDGsを実施する際の影響分析が含まれ、私が発表した「人権のための行動呼びかけ(Call to Action for Human Rights)」の精神に則り、必然的に国連憲章と世界人権宣言に基づくものとなります。
ジェンダー平等は、間違いなく分野横断的なテーマとなります。
それぞれの概要には、女性と女児の権利の促進に向けた具体的な文言が採り入れられます。
皆様、
これら一連の政策概要に加えて、私は、「効果的なマルチラテラリズム(多国間主義)に関するハイレベル諮問委員会」からの提言と、提言において国連憲章および2030アジェンダを指針としてグローバル・ガバナンスにおける最も重大なギャップをいかにして埋めるのかが示されることに期待を寄せています。
共同議長を務めるエレン・ジョンソン・サーリーフ氏とステファン・ロヴェーン氏が明日(2月14日)、皆様に素案を共有します。4月には、諮問委員会が報告書を発表する予定です。
皆様、
これらの政策概要に含まれる提案の多くは、来年開催される「未来サミット」に向けた皆様の準備にも貢献するでしょう。
事務局では、共同進行役の完全な裁量の下で、政府間プロセスの発展におけるその重要な職務を支援します。
未来サミットは、グローバルな行動を再活性化し、私たちの基本原則に再びコミットするとともに、今日の世界において機能し、私たちを望む未来へと導く多国間枠組みを開発するための、一世一代の機会となるでしょう。
『私たちの共通の課題』の主要目的の一つは、2030アジェンダに対する障害や阻害要因に取り組み、ギャップを埋め、驚異的な速度と頻度で迫り来る新たな課題に立ち向かうことです。
未来サミットは、こうした課題に取り組み、短期的な思考がもたらす代償を明らかにして対処し、新たなテクノロジーの影響を取り囲む防護柵をつくるためのプラットフォームとなります。
私は、その成果が、公正かつ公平なグローバル金融システム、安全で平和で持続可能な地球へのコミットメント、人類の役に立つテクノロジーの活用、そして将来世代の保護に向けた行動を網羅する「未来のための協定」へと結実することを願っています。
私は皆様に対し、サミットの準備協議や9月の閣僚級準備会合における役割を十分に果たすよう要請します。
それらは、サミットの主要な軌道、原則、成果を特定する重要な機会となるでしょう。
その成果は加盟国の政府間で合意されることになりますが、皆様の準備は、市民社会、学術界、民間セクター、地方・地域政府などの意見によって補強されるでしょう。
決定権を持つのは皆様ですが、多くの分野からも刺激や活力、アイデアを得られるでしょう。
皆様、
『私たちの共通の課題』における提案の多くは、新たな課題を前に、既存の作業と権限を強化することを目的としています。各軌道において、作業は順調に進んでいます。
雇用および社会的保護のグローバル・アクセラレーターでは、女性の経済的包摂、グリーンでデジタルな雇用の創出、若者の労働保証、社会的保護のためのグローバル基金に関するアイデアを進めています。
アクセラレーターはG7とG20によって支持されており、世界銀行との間で、2025年までに社会的保護を10億人に拡大するパートナーシップを結んでいます。
また、ジェンダー平等のための5つの変革的措置についても、加盟国に対する国レベルでの支援に重点を置いた作業が続いています。国連のタスクチームでは、差別的な法律や規制に取り組む加盟国を支援しています。
より大局的には、司法制度の中心に人々を据えることを目的とした、法の支配に関する新たなビジョンが策定されています。この新たなビジョンでは、私たちの活動において法の支配が果たす中心的役割を強化し、法の支配、人権、開発間のつながりを強化します。
私たちは、2025年に開催される「世界社会サミット(World Social Summit)」に向けても準備を進めていますが、同サミットは、包摂、信頼、傾聴に基づき、不平等への取り組みと人々の主体性、機会、権利の強化に焦点を当てた、これまでとは違った形のグローバルな討議の機会となるでしょう。同サミットでは、雇用、教育、住宅、社会的保護の面で私たちが直面する、主要な社会課題に取り組みます。第3委員会ではこの提案に留意しており、私は加盟国に対し、これを支持するよう奨励します。
また、G20メンバー、ECOSOCメンバー、国際金融機関の長、国連事務総長である私の間で、隔年サミットを開催する案についての計画が進展しています。加盟国はこの案に留意しており、G20議長国であるインドと議論が進められています。
皆様、
このように、やるべきことは豊富にあり、それは私たち全員にとって難易度の高いものです。しかし、SDGsを達成し、私たちが共有する未来を確かなものとするために、避けては通れません。
数多くの複雑な交渉プロセスやイニシアチブが今年も進められています。政府間プロセスは多大な労力を要し、時間もかかります。しかしこうしたプロセスは、私たちが共通の目標を中心に団結し、ともに前進する上で不可欠です。
今年は、いま直面している課題だけでなく、この先の新たなリスクや脅威にも対処できる、より効果的なグローバル協力の基礎を築く年でなければなりません。
ガイ・ライダー国連事務次長を含め、私のチーム全体や私自身に、いつでも支援する用意があります。
より良い今と、より有望な未来に向けて一丸となるにあたり、皆様の継続的な参画と支援に期待しています。
ありがとうございました。
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原文(English)はこちらをご覧ください。
『私たちの共通の課題(Our Common Agenda)』に関する11の政策概要の詳細(英文)はこちらをご覧ください。発表済みの政策概要は PDFファイルをダウンロードできます。