『SDG進捗報告書・特別版』の発表に関するアントニオ・グテーレス国連事務総長発言(ニューヨーク、2023年4月25日)
プレスリリース 23-024-J 2023年05月15日
総会議長、皆様、
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」達成期限への中間点にさしかかる中、いま私たちは世界の半分以上を置き去りにしています。
今回の『SDG進捗報告書・特別版』によると、持続可能な開発目標(SDGs)の(データに裏打ちされたおよそ140の)ターゲットのうち、順調に進んでいるのはわずか12%のみです。
ターゲットのうち、50%の進捗は乏しく、不十分です。
何よりも悪いことに、SDGsのターゲットの30%以上が、行き詰まっている、あるいは後退しています。
私たちがいま行動しなければ、2030アジェンダは「かつて実現すると思われた世界」の墓に刻まれた碑銘となるでしょう。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと、気候、生物多様性、汚染という三重の危機は、ロシアのウクライナ侵攻によって増幅され、壊滅的な影響を及ぼしています。
今日、極度の貧困状態で暮らす人々の数は、4年前より増加しています。
現在の傾向では、2030年までに貧困に関するSDGs目標1を達成する見込みがあるのは、すべての国の30%にすぎません。
飢餓に苦しむ人々の数も増え、2005年のレベルに戻っています。
ジェンダー平等の実現は、およそ300年先になるでしょう。
同時に、不平等は過去最高水準となり、さらに拡大しています。
わずか26人が、世界人口の半数と同等の富を保有しています。
そして、私たちと自然との戦争が加速しています。
温室効果ガスの排出量は、信じられないほど増え続けています。
二酸化炭素濃度は、200万年の中で最も高いレベルにあります。
種の絶滅リスクは2015年以降に3%増加し、現在、5種のうち1種以上の種が絶滅の危機に瀕しています。
皆様、
多くの開発途上国が資金調達のブラックホールに直面しており、SDGsに投資できていません。
パンデミック以前の年間SDG資金不足は、2.5兆米ドルでした。
経済協力開発機構(OECD)によると、この数字は今や少なくとも4.2兆ドルとなっています。
そして、開発途上国の多くが山のような借金を背負っています。
世界中で3カ国に1カ国が、財政危機の高いリスクにさらされています。
先進国は、財政・金融政策を拡大することでパンデミックから復興し、大部分がパンデミック以前の成長軌道に戻っています。
一方、開発途上国は、通貨暴落のおそれがあることが一因となり、そうした政策を実行できませんでした。
脆弱な中所得国は、債務救済と譲与に近い条件での融資を拒否されています。そして、債務措置のための共通枠組みはまるで機能していません。
金融市場に目を向けると、中所得国は先進国に比べ、最大8倍の金利に直面しています。
政府開発援助(ODA)の流入は、GDPの0.7%という長年にわたるコミットメントをはるかに下回っています。
昨年、国際通貨基金(IMF)は、危機の際に流動性を高める主要なグローバル・メカニズムであるSDR(特別引き出し権)6,500億ドルを配分しました。
現在の割り当てに基づき、私の出身国を含むEU諸国は、SDRとして合計1,600億ドルを受け取りました。一方、その3倍の人口を抱えるアフリカ諸国が受け取ったのは、340億ドルです。しかもこれは、何もないところから作り出された資金です。
再配分は最小限にとどまっています。
こうした結果を生み出すシステムのルールとガバナンスは、根本的に何かが間違っています。
気候変動対策資金もまた、コミットメントをはるかに下回っています。
先進国は、約束した年間1,000億ドルの提供を2020年から未だに果たしていません。
適応資金を2025年までに倍増することをグラスゴー(でのCOP27)でコミットしたにもかかわらず、適応のための資金は緩和のための資金との同額にははるかに及びません。
皆様、
2015年にニューヨーク、アディスアベバ、およびパリで締結された協定は、平和と繁栄、人と地球を支持するものです。
この約束が、いま危機的状況にあります。
繰り返して機会を喪失していることには、多くの原因があります。
中でも重要なのは、国連を含むグローバルな機関から、国際金融アーキテクチャ、民間銀行、信用格付け機関に至るまで国際関係に存在する根本的な不平等と不公正です。
こうした制度は、78年前の世界の現実を反映したものです。
それらは時代遅れで、現代に合っていません。
なぜなら、開発途上国は嫌というほど経験してきました。
この二重の世界を。
自分たちが起こしたのではない気候危機の報いを受けることを。
高騰する金利や債務不履行を。
そして、自分たちには発言権もなく、国境を越えた移動を伴う自国民の生死にかかわる決定を。
2030アジェンダは、公正と平等、包摂性、持続可能な開発、そしてすべての人の人権と尊厳のためのアジェンダです。
これには、世界経済のあり方に根本的な変更が必要です。
SDGsは、経済的分断と地政学的分断の両方を橋渡しし、信頼を回復し、連帯を再構築するための道です。
はっきり言いましょう。どの国も、SDGsが失敗するのを傍観しているような余裕はないのです。
皆様、
これが、本日の報告書の主要な提言である「SDG刺激策」、そして国際金融アーキテクチャの抜本的改革を国連が呼びかける背景です。
SDG刺激策の目的は、必要とするすべての国に無理なく届けることができる長期融資を、少なくとも年間5,000億ドル増額することです。
この対策には3つの主な行動領域があります。
第一に、融資の大幅な拡大です。
国際金融機関はそのビジネスモデルを刷新し、リスクに対する新たなアプローチを受け入れるべきです。これには、各行がその資金を活用し、誰もが話題にするのに誰も目を向けない開発途上国への数兆ドルの民間融資を呼び込むことが含まれます。
国際金融機関はまた、譲許に近い条件での融資の資格基準を拡大して、融資を必要とする脆弱な中所得国が利用できるようにすべきです。
第二に、SDG刺激策では、窮地にある国々が短期の債務をより長期で低金利なものに交換できるようにする新たなイニシアチブによって、高コストの負債に対処します。
第三に、緊急融資を拡大しなければなりません。
SDRは、国際金融機関によるものを含め、これを必要とする国々へ向かうように改善すべきです。私は、これに関するアフリカ開発銀行の提案を歓迎します。IMFを通じてSDRを再配分すれば、これは1対1の運用です。国際金融機関を通じて再配分するなら、借入による準備金の増補に基づいて借り入れることができるため、これは1対5の運用になります。
これら3つの対策は、現行システム内で直ちに講じて状況を好転させることができます。
しかし、不公正で機能不全に陥った世界金融システムの根本的な問題を解決するわけではありません。
それには抜本的改革が必要です。
私は、新たなブレトンウッズ体制を改めて呼びかけます。
開発途上国は、世界の金融制度における意思決定への参加を、今よりもはるかに強めなければなりません。
私たちは、開発途上国のニーズを金融システムのあらゆる決定の中心に置くことで、グローバル化の流れがすべての国々に恩恵をもたらす金融システムを必要としています。
皆様、
報告書にはこの他に5つの重要な提言が含まれています。
第一に、社会契約を強化し、パリ協定に沿った低炭素でレジリエント(強靭)な道筋に向けて経済を再構築することによって、今から2030年までの間に国内および国際レベルでSDGsを達成するための行動に改めてコミットすることを、すべての加盟国に呼びかけます。
第二に、各国政府が2027年と2030年までに、貧困を削減し不平等を軽減する野心的な国内基準を設定し、達成することを要請します。
これには、社会的保護と雇用の拡大から教育危機への対処まで、ジェンダー平等からデジタル包摂まで、前進の鍵を握る領域へ注力することが求められます。
第三に、報告書は、自然との戦争を終わらせるためのコミットメントをすべての国に求めています。とりわけ、気候行動の「アクセラレーション・アジェンダ」を支援し、新しいグローバルな「生物多様性枠組み」を達成することを要請します。
第四に、国内制度と説明責任の強化を各国政府に呼びかけます。それには、新たな規制枠組み、より強固な公共デジタル・インフラ、およびデータ容量が求められます。
そして第五に、国連開発システムに対する多国間支援の強化と、2024年の「未来サミット」における決定的な行動が求められます。
私は皆さんに対し、この報告書を詳しく検討して提案を実行するよう要請します。
皆様、
世界のリーダーが9月のSDGサミットのためにここに集まります。
それは正念場となり、分岐点となるでしょう。
それはまた、私たちが一致団結して形勢を変え、SDG達成のための新たな活動を開始する希望の時としなければなりません。
なぜなら、SDGの進捗はグラフ上に描かれた線の問題ではないからです。
それは、健康な母親と乳児、潜在能力を十分に発揮するためにスキルを学ぶ子どもたち、家族を養うことができる両親に関することなのです。
再生可能エネルギーときれいな空気についてです。
誰もが人権と人間の尊厳を享受できる世界についてです。
目の前にある道は険しく、本日の報告書がその険しさを示しています。
しかし、それは私たちが尽くす人たちのために、手を携えて歩むことができ、そして歩まなければならない道です。
ありがとうございました。
* *** *
原文(English)はこちらをご覧ください。