第78回国連総会でのアントニオ・グテーレス国連事務総長演説(ニューヨーク、2023年9月19日)
プレスリリース 23-059-J 2023年10月11日
総会議長、各国代表の方々、皆様、
わずか9日前、世界中の多くの課題が、一枚の恐ろしい地獄絵図に凝縮して現れました。
リビアの都市デルナに暮らす数千の人々が、未曽有の大洪水によって命を落としたのです。
デルナの人々は、これまで何度も犠牲になってきました。
長年にわたる紛争の犠牲。
気候カオス(大混乱)の犠牲。
平和への道を見出せなかった、近隣や遠隔にいる指導者たちによる犠牲。
わずか24時間のうちに空が1カ月分の雨量の100倍もの雨を降らせ、長年の戦争と放置の末にダムが決壊し、彼らの知っていたすべてが地図上から消し去られてしまったのです。デルナの人々は、こうした「無関心」の中心に生き、そして亡くなりました。
こうして私たちが話している今も、億万長者たちが豪華ヨットの上で日光浴を楽しむその同じ地中海から、遺体が岸辺へと打ち上げられているのです。
デルナは、不公平、不公正、そして私たちの只中にある課題に立ち向かえない無力さが洪水のように溢れた世界の現状を写し出す、悲しい情景の一つなのです。
各国代表の方々、
世界は、不安定化しつつあります。
地政学的緊張が高まっています。
グローバルな課題が山積しています。
しかし私たちは、団結してそれらに対応することはできていないようです。
私たちは、気候危機から破壊的テクノロジーに至るまで、数多くの人類生存の脅威に直面しています。しかも混迷を極める移行期においてです。
冷戦時代の大半の期間、国際関係は、主として2つの超大国のめがねを通して眺められていました。
その後、短い一極体制の時代が到来しました。
そして今、急速に多極的世界へと向かっています。
これは多くの点において良いことでもあります。多極的世界は、国際関係における正義と均衡に新たな機会をもたらします。
しかし、多極性だけでは、平和を保障することはできません。
20世紀初頭、ヨーロッパには多くの強国が存在しました。真に多極的でした。しかし、堅固な多国間制度が存在していませんでした。その結果が、第一次世界大戦です。
多極的世界には、強力かつ効果的な多国間制度が必要です。
しかし、グローバル・ガバナンスは、過去に閉じ込められています。
国連安全保障理事会とブレトンウッズ体制に目を向ければ、十分でしょう。
これらは、この総会議場に集う多くの国々がまだ植民地支配下にあった1945年当時の政治的・経済的現実を反映したものです。
世界は変わりました。
私たちの制度は変わっていません。
制度が世界の現実を反映していなければ、私たちは実情に即して問題に対処することはできません。
問題を解決するどころか、制度が問題の一部になる危険性があります。
そして実際に、分断は深まっています。
経済、軍事大国間の分断。
北と南、東と西の分断。
私たちは少しずつ、経済・金融システムや貿易関係における「大断裂」に、これまでになく近づいています。それは、単一の開かれたインターネットを脅かすものであり、テクノロジーと人工知能(AI)に対する異なる戦略を携え、安全保障枠組みに衝突の恐れを生むものです。
21世紀の経済的・政治的現実に基づいて、公正さ、連帯、普遍性に根差し、国連憲章と国際法の原則に支えられた多国間制度へと更新すべき時が来ています。
これは、安全保障理事会を今日の世界に合わせて改革することを意味します。
国際金融アーキテクチャを再設計して真に普遍的なものとし、困窮する開発途上国に対するグローバルなセーフティーネットとして機能させることを意味します。
私は、いかなる幻想も抱いてはいません。改革とは、力の問題です。
多くの競合する利益や課題があることは承知しています。
しかし、改革の代替案は、現状を維持することではありません。
改革に代わる選択肢は、更なる分裂なのです。
改革するか、さもなくば断裂するかなのです。
同時に、分断は各国内でも広がっています。
民主主義が脅威にさらされています。権威主義が台頭し、不平等が拡大しています。そして、ヘイトスピーチが増加の一途をたどっています。
これらすべての課題や他の問題を前にして、妥協は禁句となっています。
私たちの世界は、駆け引きや行詰まりではなく、政治的手腕を必要としています。
私がG20諸国に向けて述べたように、今は世界が妥協する時です。
政治とは、妥協することです。
外交とは、妥協することです。
効果的なリーダーシップとは、妥協することです。
指導者たちは、私たちの共通の利益のために、平和と繁栄という共通の未来を築く上で妥協を実現する(特別な)責任を負っています。
各国代表の方々、
過去一年にわたり、私たちは多国間行動の約束を提示してきました。
生物多様性の保護や、公海の保全、気候変動による損失と損害、クリーンで健康、かつ持続可能な環境に対する権利などに関する、重要で新たな合意を通して。
私たちは、共通の課題を解決するためのツールも資源もすべて持ち合わせています。
私たちに必要なのは、決意です。
決意は私たち国連のDNAに組み込まれており、国連憲章の最初の言葉によって私たちを奮い立たせます。
「われら連合国の人民は、…決意し(We the peoples of the United Nations…determined)」、すなわち
戦争の惨害を終わらせることを決意し、
人権に関する信念を改めて確認することを決意し、
正義を守り、国際法を尊重することを決意し、
社会的進歩とすべての人々の生活の向上促進を決意したのです。
国連憲章に忠実なこの決意を今日の課題に生かせるのかは、私たちの行動にかかっています。
各国代表の方々、
それは、国連憲章の平和への誓いを守る決意から始まります。
しかし私たちは、戦争の惨害を終わらせるどころか、紛争、クーデター、混沌の急増を目にしています。
もしあらゆる国が憲章に基づく義務を果たすなら、平和に対する権利は保障されるでしょう。
各国がこの誓約を破るのであれば、すべての人々にとって不安定な世界が生み出されます。
第一の証拠として、ロシアによるウクライナ侵攻。
国連憲章と国際法に違反するこの戦争は、恐怖の連鎖を引き起こしました。生活は破壊され、人権は蹂躙され、家族は引き裂かれ、子どもたちは心に傷を負い、希望や夢は打ち砕かれました。
そしてこの戦争は、ウクライナだけでなく、私たちすべてに深刻な影響をもたらしています。
核の脅威は、私たち全員をリスクにさらしています。
国際条約や協定が無視されることで、私たち全員がより危険な状況に置かれます。
さらに、国際外交が蝕まれることで、あらゆる面での前進が妨げられます。
私たちは、平和、すなわち国連憲章と国際法に沿った公正な平和に向けた取り組みの手を緩めてはなりません。
そして、戦闘が激化する間にも、私たちはウクライナの、そしてその他地域の市民たちの苦しみを和らげる、あらゆる手段を追求しなければなりません。
黒海穀物イニシアティブは、そうした手段の一つでした。
世界は、市場を安定させ、食料安全保障を担保するために、ウクライナ産食料とロシア産食料や肥料を切に求めており、私はその実現に向けた努力を決してあきらめません。
各国代表の方々、
世界では、古い緊張がわだかまる一方で、新たなリスクも浮上しています。
核軍縮が行き詰まる一方で、各国で新兵器が開発され、新たな脅威が生まれています。
サヘル地域一帯では、テロ行為が勢いづく中で、一連のクーデターが地域をさらに不安定にしています。
スーダンは、全面的な内戦に陥りつつあり、何百万もの人々が避難し、国が分裂する危機にあります。
コンゴ民主共和国東部では、数百万人が避難民となり、ジェンダーに基づく暴力が恐ろしい日常の現実となっています。
数世紀にわたる植民地時代の搾取に苦しんだハイチでは今、犯罪組織による暴力行為がはびこり、なおも国際的な支援を待ち望んでいます。
アフガニスタンでは、女性と女児たちの権利が組織的に踏みにじられていることで、人口の70%という驚くべき数の人々が人道支援を必要としています。
ミャンマーでは、残忍な暴力、深刻化する貧困、そして弾圧が、民主主義への復帰の希望を打ち砕こうとしています。
中東では、パレスチナ被占領地で激化している暴力や流血によって、市民に深刻な犠牲が生じています。
一方的な行動が強まり、パレスチナ人とイスラエル人の永続的平和と安全への唯一の道である、2国家共存による解決の可能性が損なわれています。
シリアは荒廃したままであり、平和は依然として遠い彼方にあります。
そうした中で、自然災害が紛争という人災を悪化させています。
山積するこれらの危機を前に、グローバルな人道システムは崩壊寸前です。
ニーズは増しています。
そうした中、資金は枯渇しつつあります。
国連の人道活動は、大幅な縮小を強いられています。
しかし、空腹な人々に食物を提供しなければ、紛争を拡大することになるのです。
私は、すべての国に対し、一歩踏み出して世界人道支援要請(Global Humanitarian Appeal)の全額を出資するよう要請します。
各国代表の方々、
平和と安全のアーキテクチャは、かつてない緊張にさらされています。
国連が「未来サミット」の準備作業として、加盟国が国連憲章と国際法に基づいて「新たな平和への課題」を検討するためのアイデアを提案した理由は、ここにあります。
これは、過渡期にある世界において、すでにある脅威と新たな脅威に対処するための統一的なビジョンを提供するものです。
各国に対して、核兵器のない世界を改めて約束し、核軍縮と軍縮管理の浸食を終わらせるよう求めること。
国連とその周旋の役割が持つ能力および結集力を最大化させることで地政学的分断を埋め、グローバル・レベルで予防を強化すること。
平和に向けた行動を持続可能な開発目標(SDGs)の進捗と結び付けることで、国家レベルで予防を強化すること。
女性のリーダーシップと参画を意思決定の中核に据え、女性に対するあらゆる形態の暴力を根絶するようコミットすること。
平和維持活動に関して幅広い見地から振り返るように呼びかけ、当初から将来を見据えた移行および出口戦略をもって、その活動をより機動的で適応可能なものとすること。
そして、地域機関、とりわけアフリカ連合(AU)による平和執行行動を、安保理の明確なマンデートと予測可能な資金提供をもって支援すること。
また、平和への決意においては、人工知能(AI)から人間による制御なしで機能する自律型致死兵器(システム)に至るまでの、新たな脅威に備えた新たなガバナンス枠組みも必要です。
各国代表の方々、
平和は、持続可能な開発と密接に関連しています。
ある国が紛争に近づけば近づくほど、SDGsから遠ざかっていくというパターンが、世界中で見受けられます。
国連憲章は私たちに、社会的進歩を促進する決意をするよう求めています。21世紀の言葉に置き換えれば、それはSDGsを達成するということです。
しかし、不平等が私たちの時代を特徴付けています。
それは、スラム街の上に超高層ビルがそびえ立つ都市から、
国民の生活を優先するか、債務の返済を優先するかの選択を迫られている国々に至るまで広がっています。
今日、アフリカでは、医療費よりも債務の利払いに、より多くの金額が費やされています。
昨日開催されたSDGサミットでは、支援額を十億ドル規模から兆ドル規模へと拡大させる世界的な救済計画が話し合われました。
各国代表の方々、
国際金融アーキテクチャは、機能不全に陥っており、時代遅れで不公正なものにとどまっています。
必要とされる大規模な改革は、一夜にして実現するものではありません。
しかし、私たちは今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックなどの危機の著しい影響を被った国々が危機を乗り切るのを助けるために、断固として措置を講じることができます。
年間5,000億ドルの「SDG刺激策」を早急に進めること、そして開発途上国と新興経済国が抱える財政負担を軽減することによって。
自己資本を強化するとともに国際金融機関のビジネスモデルを変更して、開発金融と気候変動対策資金を拡大することによって。
効果的な債務救済の仕組みを確保し、最も必要とする国々に緊急財政支援を振り向けることによって。
各国代表の方々、
私たちは、過熱する地球という、私たちの未来にとって最も差し迫った脅威に取り組む決意をしなければなりません。
気候変動は、単なる気象の変化ではありません。
気候変動は、地球上での私たちの生活を変えつつあります。
それは、私たちの活動のあらゆる側面に影響を及ぼしています。
それは、人々の命を奪い、コミュニティーを破壊しています。
私たちは世界中で、気温上昇が加速するのを目にしているだけでなく、海面上昇が加速し、氷河が後退し、致命的な疾病が広がり、種が絶滅し、都市が脅威にさらされる様を目の当たりにしています。
そして、これは始まりに過ぎないのです。
私たちは、記録上最も暑い日々、最も暑い数カ月、最も暑い夏を乗り越えたところです。
破られたすべての記録の背後には、破綻した経済、破壊された生活、全国民が破壊の限界にまで達した国々があります。
あらゆる大陸、あらゆる地域、あらゆる国が、この熱を感じています。
ですが、すべての指導者たちがこの暑さを実感しているのかは、私には確信が持てません。
行動は、あまりにも不十分です。
気温上昇をパリ(気候)協定の1.5℃の上限までに抑えるための時間は、まだあります。
しかしそれには、温室効果ガスの排出量を削減し、危機の原因に最も寄与していないにもかかわらず、最も高い代償を払っている人々に対し気候正義を確保するために、今すぐ、思い切った措置を講じる必要があるのです。
私たちには処方箋がわかっています。
G20諸国は、温室効果ガス排出量の80%を占めており、これらの国々が先頭に立たねばなりません。
G20諸国は、化石燃料への依存を断ち、新たな採炭を中止し、これらの国々が石油・天然ガスの採掘を新たに認可することは気温上昇を1.5℃の上限までに抑えることと相容れないという、国際エネルギー機関(IEA)の調査結果を聞き入れなければなりません。
世界の気温上昇を抑える闘いに勝つチャンスを得るためには、石炭、石油、天然ガスを公正かつ公平な方法で段階的に廃止し、再生可能エネルギーを大幅に推進しなければなりません。
これこそが、すべての人々、とりわけ、依然として電気へのアクセスがないアフリカの多くの人々に対し、手ごろな価格で利用できる再生可能エネルギーの実現に向けた唯一の道筋なのです。
つまり、化石燃料の時代は破綻したのです。
化石燃料企業が解決策の一翼を担いたいと望むのなら、再生可能エネルギーへの移行を先導しなければなりません。
汚染に寄与する生産は、もうやめましょう。偽りの解決策も要りません。気候変動の否定に資金供与することも。
私の提唱している「気候連帯協定」は、そこですべての主要排出国に対して排出量の削減に向けた更なる取り組みを求めるとともに、より富裕な国々に対してそのための資金とテクノロジーで新興経済国を支援するよう求めています。
例えばアフリカは、世界の太陽光の潜在的な発電能力の60%を有していますが、再生可能エネルギーへの投資額はわずか2%に過ぎません。
私は、こうした取り組みを強化するための「アクセラレーション・アジェンダ」も提案しています。
先進国は、2040年にできるだけ近い時期に、新興経済国は2050年にできるだけ近い時期に、国ごとに異なるとはいえ、共通の責任に従って排出量正味ゼロを達成しなければなりません。
緊急の措置には、以下が含まれます。
経済協力開発機構(OECD)加盟国は2030年までに、その他の国は2040年までに、石炭火力発電を停止すること。
化石燃料への補助金を廃止すること。
そして、二酸化炭素排出に価格を設定すること。
先進国はさらに、開発途上国の気候行動のための資金1,000億ドルを今度こそ約束通りに拠出し、
適応資金を約束通り2025年までに倍増させ、
そして、「緑の気候基金」を約束通り補充しなければなりません。
今年、すべての国が「損失と損害基金」の稼働に取り組まねばなりません。
さらに、2027年までに早期警報システムを普遍的なものにしなければなりません。
私は明日、信頼の置ける「ファースト・ムーバーおよびドゥーワー」(先行者および実行者)たちを国連の「気候野心サミット」に歓迎します。
COP28(気候変動枠組条約第28回締約国会議)は、間近に迫っています。
気候カオス(大混乱)は新たに記録を塗り替えていますが、私たちには、責任を転嫁して他の誰かが先行するのを待つという、古くから変わらないことを繰り返している余裕はないのです。
そして、すでに取り組み、前進し、真の気候行動を支持しているすべての人々には、あなた方が歴史の流れに乗っていること、そして私はあなた方とともにあることを知っていただきたいと思います。私はこの、私たちの生命を賭けた闘いを諦めるつもりはありません。
各国代表の方々、
私たちはまた、基本的人権に対する国連憲章を尊重することを決意しなければなりません。
国連の設立文書に署名した女性は、わずか4人でした。この会議場を見渡しても、十分な変化は起きていないのだとわかります。
(国連憲章前文の)「われら人民」とは、「われら男性」を意味するのではありません。
女性たちは、平等な機会と平等な給与が与えられ、法の下での平等が実現し、その仕事の価値が認められ、意見が尊重されるのを待ち続けています。
世界中において、性と生殖の権利を含めた女性の権利が抑圧され、後退さえすることもあり、女性の自由が奪われています。
女性と女児たちは、一部の国では、身に着ける衣服が多すぎるとして罰を受け、別の国では、身に着ける衣服が少なすぎるとして罰を受けるのです。
何世代にもわたる女性の人権活動家たちのおかげで、時代は変わりつつあります。
スポーツ競技場から学校や公共広場に至るまで、女性と女児たちは家父長制に闘いを挑み、勝利しつつあるのです。
私は、彼女たちとともにあります。
私は、国連におけるジェンダー・パリティー(男女比同率)の確保を約束し、この職務に就きました。
私たちは上級職レベルでこれを達成し、国連システム全体でも軌道に乗せているところです。
なぜなら、ジェンダー平等は、問題ではなく解決策だからです。
それは女性に対する特別扱いではありません。すべての人により良い未来を確保する上で基本的なものだからです。
各国代表の方々、
私たちは、活動の中核に人権を据えるよう求める行動呼びかけに応える決意をしなければなりません。
世界人権宣言から75年、一部の分野では植民地化および人種差別の終焉から女性の参政権の獲得まで、大きな前進がありました。
しかし、いまだ12億人が深刻な貧困の中で暮らし、飢餓が2005年以降見られなかった水準にまで達している時に、すべての人に対して基本的人権を達成したとは言えません。
人種や民族を根拠とする差別が、多くの国で完全に合法とされている時に。
より良い生活を求めるために、人々が死の危険を冒さねばならない時に。
難民、移民、少数者たちが、日常的に悪者扱いされ、追われている時に。
自らの性自認や、愛する人が誰かを明かすだけで投獄され、処刑さえされ得る時に。
声を上げることが、危険な結果をつながることがある時に。
政治的、市民的、経済的、社会的、そして文化的な人権は、世界にある相互につながり合った問題の多くを解決する鍵なのです。
脆弱な立場に置かれた人々を保護する法律を制定し、施行しなければなりません。少数者を標的とすることをやめねばなりません。人権と人間の尊厳を社会・経済・移民政策の中心に置かねばなりません。
すべての国の政府が、世界人権宣言での約束を果たさなければならないのです。
各国代表の方々、
私たちはまた、新しいテクノロジーが人権に及ぼす、迫りくる脅威に正面から立ち向かわなければなりません。
生成AIは多くの可能性を秘めていますが、それはまた、私たちにルビコン川を渡らせ、私たちが制御できない更なる危険へと導くかもしれないのです。
私が2017年の国連総会演説で人工知能(AI)に言及した時、他にこの言葉を口にした指導者は、わずか2人でした。
今やAIは、畏敬と恐怖の両方をもって、誰もが口にする話題です。
生成AIの開発者の中にも、規制の強化を求めている人たちがいます。
しかし、デジタル技術がもたらす危険の多くは、差し迫ったものではありません。
今ここにあるのです。
デジタル格差が不平等を煽っています。
ソーシャルメディアのプラットフォーム上のヘイトスピーチ、偽情報、陰謀論は、AIによって拡散・増幅され、民主主義を弱体化させ、現実生活における暴力や対立を煽っています。
オンライン監視とデータ収集が、大規模な人権侵害を可能にしています。
その上、テクノロジー企業や政府は、解決策を見いだすには程遠いところにいます。
各国代表の方々、
私たちは、迅速に行動して、事態を修復しなければなりません。
新たなテクノロジーには、その構築に関わった専門家とその濫用を監視する人たちから得られる情報を基にした、新しく革新的な形態のガバナンスが必要です。
そして私たちは、デジタル技術のリスクを軽減し、その恩恵を人類の利益のために利用する方法を特定する、政府、地域機関、民間セクター、市民社会間の「グローバル・デジタル・コンパクト」を早急に必要としています。
加盟国に向けて情報源や専門知識を提供できるような、AIに関する新たな世界的機関の設立を検討するよう求める声もあります。
国際原子力機関(IAEA)、国際民間航空機関(ICAO)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などの例に着想を得た、多くの異なるモデルが存在します。
国連は、加盟国の決定次第で、必要とされるグローバルかつ包摂的な議論を主催する準備を、常に整えています。
ガバナンスに関する具体的な解決策の検討を進めるために、私は今月「人工知能(AI)に関するハイレベル諮問機関」を任命し、同機関は今年末までに勧告を発表する予定です。
来年(2024年)に開催される「未来サミット(Summit of the Future)」は、国連憲章のビジョンに沿ってこれらの新たな脅威に対処するための前進を図る上で、一世代に一度の機会です。
加盟国は、「新しい平和への課題」や「グローバル・デジタル・コンパクト」、国際金融アーキテクチャの改革、そして課題に対処しながら世界のガバナンスに更なる正義と公正さをもたらすその他多くの提案を、どのように前進させるのかを決定します。
各国代表の方々、
国連はまさに現在のような瞬間のために創設されました。すなわち、最大の危険にあって最小の合意しか得られていない瞬間です。
私たちは、自分たちのツールを柔軟にかつ創造的な方法で使うことができるのですし、またそうしなければならないのです。
先月、イエメン沖では、私たちの決意がもたらした恩恵を目の当たりにしました。
100万バレルの石油を積んだ、老朽化した超大型タンカー「FSO(浮体式貯蔵積出設備)セイファー号」は、紅海に今にも生態学的災害をもたらしそうな、時を刻む時限爆弾と化していました。
しかし誰一人、この問題の解決を申し出る人はいませんでした。
そこで、国連が介入し、世界を一つにまとめました。
私たちはリソースを動員し、専門家を集め、困難な交渉の舵を取り、信頼を築いたのです。
この先、私たちには更なる仕事が待っており、更なるリソースが必要になります。
先月、石油は無事にセイファー号から回収されました。
この国連主導の行動が、紅海を救ったのです。
他の誰もできない、あるいはしようとしない時に、国連の決意により、事は成し遂げられました。
グローバルな課題が山積しているとしても、同様の決意の精神が私たちを前へと導いてくれます。
分断を癒し、平和を築く決意をしようではありませんか。
すべての人々の尊厳と価値を守るという決意を。
SDGsを達成し、誰一人取り残さないという決意を。
21世紀のためにマルチラテラリズム(多国間主義)を改革し、共通の利益のために団結する決意を。
ありがとうございました。
* *** *
原文(English)はこちらをご覧ください。