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「気候変動と食料安全保障が国際の平和と安全の維持に及ぼす影響」に関する安全保障理事会ハイレベル公開討論におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長発言(ニューヨーク、2024年2月13日)

プレスリリース 24-010-J 2024年03月11日

議長、各国代表の皆様、

気候危機と食料不安が世界の平和と安全に及ぼす影響に焦点を当てるべく、私たちが一堂に会する機会を与えてくださったガイアナ政府に対し、感謝の意を表します。

気候カオス(大混乱)と食料危機は、世界の平和と安全にとって、深刻かつ増大する脅威です。

こうした問題に、安全保障理事会が対処するのは当然のことです。

世界的な食料危機は、世界の最も貧しい人々の多くにとって、飢えと心痛という地獄絵図を描いています。

そして気候危機は、破壊的な力を持って加速しており、昨年は、観測史上最も暑い年となりました。

これらの2つの事実はいずれも、平和を脅かしています。

空腹は、混乱を煽ります。

ポルトガルには、「パンのない家では誰もが口論し、そして正しい人は誰もいない」という諺があります。

気候関連災害や紛争は、ともに不平等を煽り、生活を脅かし、人々は住まいを追われています。

それは関係を緊張させ、不信感をかき立て、不満を植え付けます。

一方で、資源の減少と人々の大量移住は、競争を激化させる恐れがあります。

緊張が高く、制度が脆弱で、人々が社会から取り残されている場所では、紛争が容易に起こり得ます。

そして、女性と女児たちが、最も大きな代償を払うことになるのです。食料が不足し、気候関連災害が襲ったときと同じように。

皆様、

それと同時に、気候変動と紛争は、世界的な食料危機の2大要因です。

戦争が激化すれば、飢餓が蔓延する——その原因が、人々の移住であれ、農業の破壊であれ、インフラの損壊であれ、意図的に拒否する政策であれ、です。

他方で、気候カオスが世界中で食料生産を危険にさらしています。

洪水や干ばつが農作物を台無しにし、海洋の変化が漁業を妨げ、海面上昇が土地や淡水を劣化させ、気象パターンの変化が作物の収穫を損ない、害虫を発生させています。

2022年に1億7,400万近い人々に深刻な食料不安をもたらした主な要因は気候変動と紛争でした。

そして多くの場合、これらは重なり、二重の打撃となってコミュニティーを襲うのです。

皆様、

私は、今日の世界が、飢餓と紛争が破滅的な関係にあることを示す事例であふれていることに失望しています。

シリアでは、10年以上にわたる内戦と恐ろしい地震を経験した後、およそ1,300万人が、空腹を抱えて眠りについています。

ミャンマーでは、紛争と政情不安により、飢餓撲滅に向けた前進が反転しています。

ガザでは、誰一人十分に食べることができていません。

世界で最も飢えに苦しんでいる70万人のうち、5人に4人はこの小さな細長い地区に住んでいるのです。

多くの場所で、気候関連災害が別の側面をもたらしています。

気候変動によるリスクが最も高い14カ国は、いずれも紛争に苦しんでいます。そのうちの13カ国が、今年、人道危機に直面しています。

ハイチでは、ハリケーンが暴力や無法状態と相まって、数百万の人々に人道危機をもたらしています。

エチオピアでは、干ばつが戦争に追い打ちをかけています。今年、およそ1,600万人が、食料援助を必要とすると推定されています。

そして、隣国スーダンの内戦から逃れてきた避難民たちが、元々乏しい資源をさらに圧迫しています。

サヘル地域では、気温上昇によって緊張が高まっています。

水資源が枯渇し、放牧地が荒廃し、地域経済の基礎食料を支える小規模農家の生業が崩壊することで。

長きにわたる政情不安を背景に、結果として農民と放牧民の争いが起きることで。

一方、世界的には、干ばつでパナマ運河の水位が下がり、暴力が紅海を襲い、サプライチェーンが混乱に陥っており、食料インフレが再燃する危険があります。

皆様、

行動を起こさなければ、状況はさらに悪化します。

紛争は拡大しています。

温室効果ガスの排出量が増加し続ける中、気候危機は確実に悪循環に陥っています。

そして、深刻な食料不安が、年々拡大しています。

世界食糧計画(国連WFP)では、2023年に3億3,000万人超が影響を受けたと推定しています。また、今年初めには18の「飢餓のホットスポット」において状況が大幅に悪化すると警告しています。

国際の平和と安全への増大する脅威を回避するために、私たちは介入しなければなりません。そして、紛争、気候、食料不安の間の破滅的な連鎖を断ち切るべく、今すぐ行動しなければなりません。

まず、すべての紛争のすべての当事者たちは、国際人道法を遵守しなければなりません。

これがなされていないことが、あまりにも多すぎます。

武力紛争における文民の保護に関する安全保障理事会決議2417は、民間人の生存に必須の物品は保護しなければならないことを、明確に定めています。民間人を飢餓に陥らせることは、戦争犯罪とみなされる可能性があります。そして、人道支援従事者たちによる援助を必要とする人々へのアクセスは、妨げられてはなりません。

安全保障理事会には、決議の遵守を求め、この決議に違反する者の責任を問う、極めて重要な役割があります。

2つ目に、災害や紛争が飢餓を生まないよう、人道支援活動に対して十分に資金を提供しなければなりません。

昨年、人道支援活動に対する援助額の充当は、40%にも至りませんでした。

こうした活動のための資金の約3分の1は、食料不安への対処に割り当てられました。

3つ目に、国内であれ国家間であれ、紛争を解決し、平和を維持するための条件を整えなければなりません。

排除、不平等、貧困は、いずれも紛争のリスクを高めます。

「飢餓をゼロに」という目標も含め、持続可能な開発目標(SDGs)に向けた前進を加速させることが答えです。

健全で、公平で、持続可能な食料システムへの公正な移行に対して、大規模な投資が必要です。

そして、こうしたシステムの実現に向けて、政府、企業、社会が協力する必要があります。

今日、配分とニーズの間には、異様なほどの不均衡が見られます。世界的には、食物の3分の1近くを無駄にしている一方で、何億もの人々が毎晩空腹のまま眠りについているのです。

そして、食料の消費、生産、輸送は、世界の温室効果ガス排出量の約3分の1の原因ともなっています。

私たちは、地球を破壊することなく、地球を養う食料システムをつくり出さねばならないのです。

それは、私が昨年7月に「国連食料システムサミット」のストックテイクで呼びかけたように、持続可能な開発、よい暮らし、健康な地球に住む健康な人々を実現することを支援すべく、気候行動と食料システムの変革の方向性を揃えることを意味します。

そのためには、協力し合うこと、そして、女性、若者、取り残されているコミュニティーも含めたすべての人を意思決定に参加させることが求められます。

私たちはまた、生活を守り、サービスや資源への基本的なアクセスを確かにするための社会的保護制度を構築し、そこに投資しなければなりません。

さらに、グローバルな平和と安全の枠組みを強化し、刷新しなければなりません。

今年開催される「未来サミット」を最大限に活用することが極めて重要であり、そこで加盟国は、私が提案した「新たな平和への課題」を検討します。

これは、予防と国際法に基づき、人権に根差した形で、この変わりゆく世界の中での平和に対する包括的なビジョンを提示しています。

また、持続可能な開発、気候行動、平和との間のつながりを認識しています。

4つ目に、世界全体の気温上昇を1.5℃に抑えるために、気候危機を制御しなければなりません。

なぜなら気候行動とは、食料の安全保障のための行動であり、平和のための行動でもあるからです。

G20諸国は、各国の異なる事情を考慮して、共通でありながらもそれぞれに異なる責任と各国の能力に基づくとする原則に沿って、世界中での化石燃料の公正な段階的廃止を主導しなければなりません。

そして、すべての国が2025年までに、1.5℃の上限に沿った野心的な国別の気候行動計画、すなわち「自国が決定する貢献(NDC)」を新たに策定しなければなりません。

さらに、気候変動への適応にも真剣に取り組まねばなりません。

2027年までに地球上のすべての人々が早期警報システムによって保護され、早期警報が早期行動につながるようにすることで。

そして、十分な適応資金を提供することで。

先進国は、2025年までに年間400億ドルの適応資金を拠出するという約束を守る方法を明確にしなければなりません。また、適応資金の不足を埋める方法も示さなければなりません。

私たちはまた、COP28で設立された新たな「損失と損害基金」に向けて、相当額を拠出する必要があります。

そして、地元の機関が各地域の災害リスクを主導的に軽減できるよう、これら機関を支援する必要があります。

5つ目に、資金において行動を起こさなければなりません。

SDGsは、紛れもなく、紛争を予防する最善のツールです。

その達成には、投資が必要です。

今日、生活費の危機や持続不可能なレベルの債務は、多くの開発途上国が、気候行動、レジリエント(強靭)な食料システム、またはその他の持続可能な開発の優先事項に投資する余裕など到底ないことを意味しています。

私は、持続可能な開発と気候行動に向けた、無理のない長期融資として、年間5,000億ドルの「SDG刺激策」を提案しています。

これには、債務に関する緊急の行動も含まれています。今後3年間にわたり、深刻な債務返済にあえぐ国々が一息つけるような方策を講じることが、極めて重要です。

私たちはまた、国際金融機関の資本構成を変更するとともに、開発途上国にとって合理的なコストではるかに多くの民間資金を活用できるよう、そのビジネスモデルも変更する必要があります。

そして開発途上国は、SDGsへの支出を優先する必要があります。

各国政府が、食料の安全保障、気候行動、より広範な持続可能な開発の予算を削っている一方で、兵器に対して巨額の資金を投じているさまは、嘆かわしいことです。

最後に、食料不安、気候、そして紛争が重なり合うポイントに焦点を置く必要があります。

これらの問題に一緒に取り組むパートナーシップ、政策、プログラムを生み出さなければしなければなりません。

例えば、平和構築において気候リスクや食料の安全保障を考慮することで、または、共有資源を管理するコミュニティーを支援する適応プログラムに投資することで。

国連の「気候安全保障メカニズム(CSM)」は、私たちの活動において、気候、平和、安全の間のつながりに対処することを意図しています。

また、昨年には、各国が気候行動と食料システムの変革を一体化させることを支援するために、コンバージェンス・イニシアチブが立ち上げられました。

私たちはまた、気候変動対策資金が紛争に苦しむ人々・場所に確実に届くようにしなければなりません。国連の「平和構築基金」は、この実現に向け、他のパートナーを動員する促進剤となることができます。

そして私は安全保障理事会に対し、気候、食料の安全保障、国際の平和と安全に対する相互に結びついた脅威に自身が最もよく対処できる方策を検討するよう要請します。

皆様、

メッセージは明確です。私たちは、飢餓、気候カオス、紛争間の「死の連鎖」を断ち切り、それらが国際の平和と安全にもたらす脅威を鎮めることができるのです。

そのために行動し、飢えや戦争の苦難から解放された、住み続けることのできる、持続可能な未来を築こうではありませんか。

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原文(English)はこちらをご覧ください。