人間の安全保障に関する国連総会非公式会合におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長発言(ニューヨーク、2024年4月2日)
プレスリリース 24-021-J 2024年04月25日
総会議長、各国代表の方々、皆様、
本日、皆様とこうして「人間の安全保障」について議論できることを嬉しく思います。人間の安全保障は、不確実性が高まり、混迷を深めている時代の中で、大胆かつ決定的で一致団結した行動を取るための枠組みです。
私は先日、エジプトとヨルダンでのラマダン連帯の訪問から戻ったところです。
「人間の安全保障」という言葉を聞いて思い浮かべるのは、200万人のガザ地区の人々です。彼らは、何の安全保障もないままに、飢餓や疾病、そしてイスラエルによる容赦ない爆撃から必死に身を守ろうとしています。
私はまた、人間の安全保障が著しく欠如していると感じているイスラエルの人々を思い浮かべます。彼らは、10月7日のテロ攻撃によって心に深く傷を負い、ハマスによる無差別なロケット攻撃にさらされています。
こうした攻撃を正当化できるものは何一つありません。
しかし、ガザ地区のパレスチナの人々に対する集団的懲罰を、正当化できるものは何一つありません。
イスラエルの凄惨な空爆により、昨日ワールド・センター・キッチンのメンバーが殺害され、この紛争における人道支援従事者の死者数は196人に上りました。そのうちの175人以上は、私たち国連のスタッフです。
これは、無理非道です。しかし、戦争がこうした形で行われている以上、避けられない結果です。
このことは、先週の安保理決議が求めているように、即時の人道的停戦、人質全員の無条件解放、ガザ地区への人道支援拡大が喫緊に必要であることを、改めて示しています。
決議は、遅滞なく履行されねばなりません。
皆様、
私たちの世界は、極めて深刻な課題に直面しています。紛争、気候緊急事態、そして世界的な生活費の危機が相まって、数十年にわたる開発の成果が後退しつつあります。
多くの国々が、2030アジェンダと持続可能な開発目標(SDGs)の実施に苦慮しています。分断の深刻化と不平等の拡大によって、人々の不安感が高まり、恐怖心さえも募らせています。
世界の生活水準はかつてないほど高まったかもしれませんが、世界人口の7人に6人が不安を感じていると言います。このことが誤情報・偽情報の世界的な蔓延を助長し、ひいては制度への信頼を低下させ、不安定さを高めています。
私たちは、軌道を修正し、信頼を取り戻し、共通の解決策をめぐって人々を団結させる必要があります。
世界レベルでは、時代遅れの多国間枠組みが、今日の現実に合致し、今日の課題に対処できるものとなるよう、更新・強化するために、私は9月に「未来サミット」を招集します。
私たちが提案している世界的枠組みの改革は、2030アジェンダとSDGsを再活性化させ、予防とレジリエンス(強靱性)に投資し、私たちの気候と地球を守り、新たな社会契約を通じて公平と信頼を取り戻すことで、人間の安全保障を促進することを目的としています。
しかし、世界的な解決策だけでは不十分です。
「人間の安全保障」の概念には、人と予防に重きを置きつつ、地方、国家、地域レベルでの連携を強化し、共通の課題に取り組む機運を醸成するという重要な役割があります。
私は、その動きを強化し、あらゆる人々にとってより安全で、より豊かで、より安心できる世界に貢献するため、人間の安全保障に関する第4次報告書を委嘱しました。
この報告書は、加盟国、地域機関、政府間機関、そして国連の本部および現場の経験に基づいて、人間の安全保障の実践的・運用的な価値に焦点を当てています。
そこには、人間の安全保障のアプローチの実践例として、各国の平和および開発における目標に対する支援、地域協力の強化、国連システムとパートナー間の連携改善を挙げています。
報告書はまた、リスクを軽減し、信頼を高め、危機やショックの影響を予防・軽減するために、人間の安全保障がどのように、戦略やパートナーシップ、ツールを導くことができるのかを説明しています。
皆様、
SDGsは、深刻な問題に陥っています。2030年までの中間点を過ぎ、各国はターゲットの半分以上で後れを取っています。一部の国では、深刻な貧困と飢餓をなくすという、最も基本的な目標においても後退しているのです。
近年の度重なる災禍から得た教訓は、開発に向けた取り組みを、未来においても耐え得るものにしなければならないということです。
私たちは、開発の成果を守り、政治的、経済的、健康、気候関連を問わず、あらゆる危機において、成果が失われるのを防ぐ必要があります。
「人間の安全保障」というレンズは、さまざまな部門にわたって新たなリスクを把握するのに役立ち、「不安定なもの」だけでなく、同等程度に危険になり得る「不安定と見なされているもの」に対する理解も深めます。
それにより、開発、気候行動、平和構築戦略に、予防を体系的に組み込むことが促進されます。
これは、早期警報、社会的保護その他の措置に向けた投資を優先し、社会の結束を最大化させ、一人ひとりの安全を守るということを意味しています。これらのアイデアは、人権に根差し、信頼、正義、包摂に基づいた新たな社会契約を求める私たちの呼びかけと、密接に結び付いています。
人間の安全保障はまた、気候変動や生物多様性の喪失、デジタル・トランスフォーメーション、紛争や強制移住の拡大など、現代における主要課題の分析を深めることもできます。
人間の安全保障に関するプロジェクトでは、レバノンから東南アジアに至るまで、食料安全保障、雇用や社会的保護、パンデミックからの復興といった、相互につながり合った問題に対処するためにステークホルダーを団結させてきました。
人間の安全保障のアプローチは、相互に連鎖する今日の危機を理解する際の盲点やギャップを浮き彫りにすることができます。
また、開発、人道、平和構築の取り組みの有効性を評価する上で、普遍的な評価基準を提供することができます。
さらには、差し迫ったリスクの分析に長期的視点を取り入れ、将来の災禍に対処するためのレジリエンスや能力の構築を優先させることもできるのです。
皆様、
「人間の安全保障」は、人々が欠乏と恐怖から解放され、尊厳を持って生きるための支援に重きを置く枠組みとして、その価値を証明してきました。
人間の安全保障は、2030アジェンダに向けた前進を加速させ、将来的な危機の発生を予防し、そして、人々が求める希望を実現することに寄与します。
私は、すべての国々に対し、「人間の安全保障」という重要なツールを利用して今日の重層的な危機に対処するとともに、その洞察を将来の課題に備える取り組みに取り入れるよう要請します。
ありがとうございました。
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