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未来サミットの支援のための国連市民社会会議における アントニオ・グテーレス国連事務総長発言 (ナイロビ、2024年5月10日)

プレスリリース 24-028-J 2024年05月23日

ケニア共和国のウィリアム・ルト大統領、各国代表の方々、友人の皆様、

まず、ケニアと近隣諸国を襲った壊滅的な洪水によって被災されたすべての方々に対し、深い哀悼の意を表します。

私は、破壊と失われた生命、そしてすべてを失った家族たちの姿に、心を痛めています。

この会場には、(同じく洪水被害にあった)ブラジルの方々も多く参加しておられ ます。その方々にも深い連帯を表明します。

私たちは今日、ケニアの祝日である(第二の)「植樹の日」にあたり、すべての犠牲者たちに敬意を表します。

また、私たちは協力することで、私たちを待ち受ける課題に対処し、未来の損害を防ぐことができることを認識しています。

そのチャンスに賭けるという決意により、私たちは今日ここに集まったのです。

友人の皆様、

この市民社会会議の閉幕にあたり、ご一緒できることを嬉しく思います。

そして、ケニアの政府と人々に対し、私たち皆を快く迎えてくださったことに感謝申し上げます。

また、共同議長と運営委員会の努力に対しても謝意を表します。

私は、ここにお集りの代表団の多様性を大変喜ばしく思います。

皆様は、国際組織から地方団体に至るまで、市民社会の幅広さを表しています。

ここにおられる代表の半数超は、女性です。そして、大勢の若者たちが参加しています。

皆様一人ひとりの、この2日間とそれ以前からの取り組みに感謝いたします。

私はこれまで幾度となく、世界各地で市民社会がもたらす多大な影響を目の当たりにしてきました。

皆様が、人々の苦しみを和らげ、平和と正義を推進し、変化を求めて結集する姿を目にしています。

餓えた人々に食料を提供し、真実のために立ち上がり、ジェンダー平等を前進させ、持続可能な開発を推し進める姿を。

皆様の多くが、我が身を危険にさらして活動しています。気候活動家たちは犯罪者扱いを受けて迫害され、人権擁護活動家たちは脅迫を受け、人道支援従事者たちは殺害されています。

私は皆様に、敬意を表します。感謝を申し上げます。そして、より良い世界を築くために私たちとともに取り組みを続けてくださるようお願いいたします。

今日、私たちは、危機に絡め取られています。

持続可能な開発が、脅威にさらされています。

紛争が憂慮すべき頻度で勃発し、恐るべき帰結をもたらしています。

不平等と貧困が、社会を引き裂こうとしています。

多くの開発途上国が、債務と生活費の危機によって窒息しつつあります。

気候カオス(大混乱)が、コミュニティーの足元を揺るがし、最も貧しい人々が最も苦しめられています。

そして新たなテクノロジー、特に人工知能(AI)が、新たな脅威を生み出すとともに古くからの偏見や分断を煽っています。

こうした恐ろしい傾向は、ここアフリカで残酷なかたちで現れています。

そこでは、紛争が激化しています。

気候危機によって加速した異常気象が、コミュニティーを崩壊させ、恐ろしい結果をもたらしています。ケニアで起きた壊滅的な洪水は、その典型的な例です。

そして、数百万の人々が、デジタル格差の最底辺にいるのです。

友人の皆様、

これらの危機は、国際的な解決を必要としています。しかしながら、国際システムは、それに対応していません。

国連安全保障理事会は、地政学的分断によって麻痺しており、国際法の明白な違反に対して共同行動を起こせていません。

国際金融システムは時代遅れであり、機能不全で、不公正に陥っています。

債務救済の仕組みはまったく不十分であり、債務を抱える国々は法外な利子の支払いと債務返済コストの大海に置き去りにされています。

多くの国際的な制度が、80年近くも前に設立された当時の世界を反映したままです。

開発途上国は十分に代表されておらず、十分な対応を受けていません。

そして市民社会は、しばしば社会の主流から取り残されています。

私たちは、マルチラテラリズム(多国間主義)が今日の世界の現実を反映し、待ち受ける課題に対処できるものとなるよう、改革し、再活性化する必要があります。

『私たちの共通の課題(Our Common Agenda)』について私が発表した報告書は、より包摂的で、ネットワーク化された、効果的なマルチラテラリズムを目指すビジョンを示しています。

市民社会による貢献が、名ばかりや付け足しのようなものではなく、中心的なものとして認められるマルチラテラリズムです。

そしてこの野心は、皆様が果たす極めて重要な役割を反映しています。

私は長らく、優れたドイツの哲学者、ユルゲン・ハーバーマスを尊敬してきました。彼はおそらく、私の若い頃の政治哲学的な思想に、より多くの影響を与えた人物です。

彼の主要な思想の1つは、近代民主主義における市民社会と政治領域との間の相互のコミュニケーションについてであり、コミュニケーションが、民主主義にとっていかに不可欠であるか、どのようにして意思決定を形作り、市民にとって受け入れ可能な法や政策を立案する上でいかに重要であるかを指摘しています。

言い換えれば、市民社会は、国家レベルにおいて人々とその代表者との間の不可欠な架け橋であり、民主主義を維持する要素の一つなのです。

国家レベルの政治に当てはまることは、グローバルな政治にも当てはまるはずです。

それゆえ私は、すべての国際的な制度の中で、政策立案者と市民社会の対話を確立することが不可欠だと信じています。

その対話が、信頼を再構築して正当性を回復するための、さらには世界中の人々の関心や価値観、経験を基に国際的な意思決定がなされるようにする上での鍵なのです。

友人の皆様、

「未来サミット」は、刷新されたマルチラテラリズムを目指す私たちのビジョンを前進させる、重要な機会です。

サミットに向けて、私たちは、市民社会が十全に参画できるよう努力しています。

また、サミット自体が、主要課題を前進させることを目指しています。そして、マルチラテラリズムを強化し、刷新することで、全人類の利益のために前途に待ち受けるリスクとチャンスの両方に対処することを目指しています。

それは、持続可能な開発目標(SDGs)の実施を加速させるということです。

気候行動と開発のための資金を動員するということです。

さらに、現在の経済の現実に対応し、今のような困難な時に開発途上国に効果的なセーフティネットを提供できるよう、国際金融アーキテクチャの抜本的な改革に向けた前進を推し進めるということです。これは、当然、国連の安全保障理事会にも当てはまります。

私たちは、危機に襲われたら即座に協力できるよう、新たな緊急プラットフォームを共につくらなければなりません。

リスクを軽減し、恩恵を得られるよう、宇宙空間のガバナンスを更新しなければなりません。

マルチラテラリズムにおける意思決定の中核に、若者たちを組み込まなければなりません。

そして、今日の決定において将来世代の利益を考慮する方法について、合意しなければなりません。

私たちは、デジタル格差を埋め、新たなテクノロジーのための新たなガバナンス体制に向けて動き、人工知能(AI)を富める者だけでなく人類全体に利益をもたらす力として活用しなければなりません。

さらに、「新たな平和への課題」によって、平和と安全に向けた集団的アプローチを再活性化させなければなりません。

それは、予防を優先し、私たちのアプローチを変革することを意味します。

紛争はどこからともなく生じるわけではないことを認識するとともに、人権、ジェンダー、持続可能な開発、そして気候と安全保障の相関を網羅した広範囲のモデルを採用するということです。それこそが真の予防であり、戦争を始めないかどうかを確認するために一部の政治家たちと話をするだけではないのです。

現在、軍事費が記録的水準に達する一方で、社会や人々のための予算は削られており、優先順位が逆転しています。

私たちは、軍縮を再び国際的な議題の中心に据えて、核兵器のない世界を創るために迅速に行動する必要があります。

また、自律型殺戮兵器という邪悪な危険に対処し、人間の制御や説明責任なしに人命を奪うことができる兵器を禁止する必要があります。

こうした分野すべてにわたって、人権とジェンダー平等は極めて重要です。

そして市民社会による貢献もまた重要です。

友人の皆様、

ガザで、私たちが即時の人道的停戦、すべての人質の解放、そして制限のない人道的なアクセスを求めても無視され、痛ましくも記録的な数の市民が犠牲になっていることを目の当たりにしたとき。

スーダンで、自国民の計り知れない苦しみに対して無関心なように見える2人の指導者の間で、内戦が激化することを目の当たりにしたとき。

サヘル地域、大湖地域、アフリカの角で、紛争が衰えを見せることなく続くのを目の当たりにしたとき。

私たちは、あたかも国連憲章、国際法、国際人道法、人権、そして人間の基本的良識がもはや重要ではないかのように扱われている現在の世界秩序は、何か根本的に問題があることを理解します。

私たちは、平和、正義、人権を推進するためにこの状況を変える闘いをあきらめません。そして皆様も同じであることを、私は知っています。

私の、未来への一番の希望は、皆様なのです。

友人の皆様、

私たちには、皆様が持つ、最前線のノウハウについての情報が必要です。

私たちは、障害を克服し、革新的な解決策を見いだそうとする、皆様の積極的な姿勢を必要としています。

そして、解決策を実行し、各国政府に行動を促すために、皆様がそのネットワーク、知識、人脈を活用してくださることが必要です。

皆様の貢献は不可欠であり続けており、私は感謝しています。

そして、皆様の新しい「インパクト連合(ImPact Coalition)」は、新たな参画の時代への約束です。

これらの協力モデルは、さまざまな年齢層、地域、部門にまたがっており、私たちが直面する課題に最大のインパクトを与えるべく、市民社会のエネルギーと知見に焦点を当てます。

未来サミットの開幕にあたって開催する「アクション・デー」に、皆様がこの精神を持ち寄ってくださるようお願いいたします。

また、自身のチャネルやネットワークを利用し、自国の政府がサミットで通常以上の野心的なコミットメントを示すよう働きかけてくださることをお願いいたします。

友人の皆様、

未来サミットは、皆様にとって、そして私たちにとって、重要な課題を前進させるチャンスなのです。これは逃すことのできないチャンスなのです。

私たちの闘いは、一つです。

すべての人にとって、より良い世界とより明るい未来を創ること。

共にこのチャンスを掴み、未来サミットを真に意義あるものにしようではありませんか。

* *** *

原文(English)はこちらをご覧ください。