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異常な暑さに関する記者会見におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長発言(ニューヨーク、2024年7月25日)

プレスリリース 24-050-J 2024年07月31日

夏が来ました。しかしもはや、この季節を楽に過ごすことはできません。

この1週間は、前代未聞の暑さでした。まず、欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスが、7月21日(日)が観測史上最も暑い日だったと宣言しました。そして翌22日(月)に、気温は更に上昇しました。

さらに23日(火)の気温も同程度だったとの速報値を受け取ったところです。

つまり、この日曜、月曜、火曜は、観測史上最も暑い3日間だったのです。

ですが、事実と向き合いましょう。極度の高温は、もはや1日、1週間、1カ月限りの現象ではありません。

分断された私たちの世界をまとめるものが一つあるとすれば、それは、私たち全員がますます暑さを感じているということです。

地球は、あらゆる場所のあらゆる人々にとって一層暑く、より危険な場所になっています。

何十億もの人々が異常な暑さという疫病に直面しており、世界各地で気温が摂氏50度を超える中、ますます致命的になっている熱波の下で弱りつつあります。摂氏50度は、華氏122度に相当します。沸騰化の中間点まで来ているのです。

今年、生命を脅かす熱波がサヘル地域を襲い、入院患者や死者が急増しました。

また、アメリカ合衆国では全土で気温に関する記録が更新され、報道によると1億2,000万人に対して高温注意報・警報が発令されています。

ハッジ(イスラム教のメッカへの大巡礼)の間には、灼熱によって1,300人の巡礼者が亡くなりました。

サウナと化したヨーロッパの都市では、観光名所が休業に追い込まれました。

そして、アジアやアフリカの各地では学校が休校となり、8,000万人以上の子どもたちが影響を受けています。

もちろん、夏の暑さとは、とうの昔からの事象です。

しかし、世界気象機関(WMO)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などの観測によれば、異常な暑さの規模、強度、頻度、期間が急速に増していることが明らかになっています。

この背景には、継続的な気温上昇があります。世界の月ごとの気温に関する記録は、6月に13カ月連続で更新されたことが公式に確認されています。

異常な暑さは、経済により一層の打撃を与え、不平等を拡大し、持続可能な開発目標(SDGs)を弱体化させ、人々の命を奪っています。

暑さによる死者は年間50万人近くと推定されており、これは熱帯低気圧による死者数のおよそ30倍です。

私たちは、これ(異常な暑さ)を引き起こしているものが何なのか、知っています。化石燃料の使用によって人間がもたらした気候変動です。

私たちはこの事態が悪化することも知っています。

異常な暑さは新たなアブノーマル(非常態)です。

しかし、良い知らせは、私たちには解決策があるということです。

そして、命を守り、異常な暑さの影響を限定的にできるということです。

本日、国連は4つの重点領域について、グローバルな行動要請を行います。

第1に、最も脆弱な立場に置かれた人々を保護すること。

健康を損なうほどの暑さが至る所で見られますが、それはすべての人に等しく影響するわけではありません。

気温が上昇したときに最も危険にさらされる人々の中には、都市部の貧困層が含まれます。妊婦も、障害者も、高齢者もそうです。幼い子どもたち、病人、避難民、しばしば冷房設備のない標準以下の住宅に暮らす貧困にあえぐ人々もそうです。

例えば、65歳以上の熱関連死亡者数は、この20年で約85%増加しています。

国連児童基金(UNICEF)によると、現在、すべての子どもの25%近くが、頻繁な熱波にさらされています。この数字は2050年までに、実質的に100%に達する可能性があります。

また、異常な暑さの中で生活する都市部の貧困層の数は、700%増加する可能性があります。

異常な暑さは不平等を増幅し、食料不安に拍車をかけ、人々をさらに貧困へと追いやります。

私たちは、低炭素な冷房へのアクセスを飛躍的に高め、自然の力を利用した解決策や都市計画に基づくパッシブ・クーリング(機器に依存しない冷却方法)を拡大させるとともに、冷却装置の効率性を高めつつ温室効果ガスを排出させないように改良しなければなりません。

国連環境計画(UNEP)の推計によれば、こうした施策を合わせることで、2050年までに35億人を保護することができるとともに、温室効果ガスの排出量を削減し、消費者にとっては年間1兆ドルの節約をもたらすと見られます。

また、「すべての人に早期警報システムを」イニシアチブに沿って、最も脆弱な立場に置かれた人々の保護を強化することも極めて重要です。

世界保健機関(WHO)とWMOは、57カ国で高温による健康被害に関する警報を拡大させるだけで、年間10万人近くの命が救われる可能性があると見ています。

コミュニティーを気候カオスから保護するための資金提供が不可欠です。私は先進国に対し、自らの約束を守り、気候変動への適応における資金ギャップをどのようにして埋めるのかを示すよう要請します。

第2に、私たちは労働者の保護を強化しなければなりません。

本日発表された国際労働機関(ILO)の新たな報告書は、世界の労働人口の70%超にあたる24億人が、現在、異常な暑さの高いリスクにさらされていると警告しています。

アジア太平洋地域では、現在、労働者の4人に3人が、異常な暑さにさらされています。アラブ諸国では10人に8人、アフリカでは10人に9人を超えています。

一方、ヨーロッパと中央アジア地域では、過度の暑さにさらされる労働者が最も急増しています。

さらにアメリカ大陸では、熱関連の労働災害が最も急増しています。

これらすべてが、人と経済に深刻な影響を及ぼしています。

過度の暑さは、世界中で起こっているおよそ2,300万件の労働災害の原因となっています。

そして、日平均気温が摂氏34度(華氏93.2度)を越えると、労働生産性は50%低下します。

職場での熱ストレスが世界経済にもたらす損失は、2030年までに2.4兆ドルと推計されています。これは、1990年代半ばの2,800億ドルから増加しています。

私たちは、人権に根差した、労働者を保護する施策を必要としています。

そして、法律や規制を今日の異常な暑さの現実を反映したものとし、それを施行しなければなりません。

第3に、私たちはデータと科学を用いて、経済と社会のレジリエンス(強靭性)を大幅に高めなければなりません。

異常な暑さは、ほぼすべての領域に影響を与えます。

インフラは崩壊し、農作物は不作となり、水の供給、保健医療システム、電力網が圧迫され続けます。

とりわけ憂慮すべきは都市部であり、都市部は世界平均の2倍の速度で暑さを増しているのです。

各国、都市、部門は、最良の科学とデータに基づいた、包括的で、個々の状況に合った暑さ対策の行動計画を必要としています。

そして私たちは、経済、重要部門、建造環境を耐熱化させる、協調した取り組みを必要としています。

最後に、すべてに関わる重要な指摘をしたいと思います。

今日、私たちの焦点は、異常な暑さのもたらす影響に当てられています。しかし気候危機には、他にも多くの破壊的な症状があることを忘れないようにしましょう。これまでになく猛烈なハリケーン。洪水。干ばつ。森林火災。海面上昇。挙げればきりがありません。

これらすべての症状に立ち向かうためには、疾病そのものと闘う必要があります。

その疾病は、私たちの唯一の住処を焼き尽くそうとする狂気です。

その疾病は、化石燃料への依存です。

その疾病は、気候行動を取らないことです。

あらゆる指導者が目を覚まし、立ち上がらねばなりません。

これは、各国政府、特にG20諸国が、そして民間セクター、各都市、地域も同様に、私たちの未来がそこに懸かっているものとして、行動することを意味します。実際、そうなのですから。

すべての国々は、来年までに、世界全体の気温の上昇を1.5℃に抑えるという目標に沿った「自国が決定する貢献(NDC)」あるいは国別気候行動計画を策定しなければなりません。

国際エネルギー機関(IEA)は、化石燃料の拡大や石炭火力発電所の新設が、この目標の達成とは相容れないことを示しています。

私は、世界の最も富裕な国々の一部で見られる、化石燃料の大規模な拡大を非難せざるを得ません。このように急増している新規の石油・天然ガス事業の許可証に署名することは、私たちの未来を放棄する署名をするのと同じことなのです。

最大の能力とキャパシティを持つ人々の、リーダーシップが不可欠です。

各国は、速やかに、そして公正に、化石燃料の使用を段階的に廃止しなければなりません。

新規の石炭プロジェクトを止めなければなりません。

G20諸国は、化石燃料への補助金を再生可能エネルギーに振り向け、脆弱な立場に置かれた国々やコミュニティーを支援しなければなりません。

そして国別気候行動計画では、各国が、COP28で合意された2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍にし、森林破壊を終わらせるというグローバル目標に対してどのように貢献するのかを示さなければなりません。

また、各国は同期限内に、世界の化石燃料の消費量および生産量を30%削減しなければなりません。

そして、私が設置した「非国家主体の排出量正味ゼロ・コミットメントに関するハイレベル専門家グループ」の勧告に従い、企業、金融部門、都市、地域も、1.5℃目標に沿った同様の移行計画を策定することが必要です。

気候行動はまた、資金面での行動も必要としています。

これには各国が、COP29で強力な資本面での成果を上げるために団結すること、革新的な気候変動対策資金源について前進すること、開発途上国の気候危機への取り組みを支援するために国際開発金融機関の融資能力を劇的に高めること、そして、富裕国が気候変動対策資金に関するすべての約束を履行することが含まれます。

メッセージは明確です。私たちの足下に火がついています。

異常な暑さが、人々と地球に極度の影響を及ぼしています。

世界は、気温上昇という課題に立ち向かわねばならないのです。

ありがとうございました。

* *** *

原文(English)はこちらをご覧ください。