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第79回国連総会でのアントニオ・グテーレス国連事務総長演説(ニューヨーク、2024年9月24日)

プレスリリース 24-074-J 2024年10月16日

© UN Photo/Loey Felipe

総会議長、

各国代表の方々、

皆様、

私たちの世界は嵐の只中にあります。

私たちは大変革の時代の中で、かつて経験したことのないような課題や、グローバルな解決策を必要とする課題に直面しています。

地政学的分断は深まり続け、地球は温暖化の一途をたどっています。

戦争も激化しており、終結の糸口が見えません。

そして、核態勢と新たな兵器が暗い影を落としています。

私たちは、想像できない事態へと少しずつ向かっています。そこは世界を飲み込みかねない火薬庫です。

一方、2024年は人類の半数が投票に向かう年であり、その影響は全人類に及びます。

この嵐の中、私は2つの重要な真実を確信し、皆様の前に立っています。

第一に、私たちの世界の現状は持続不可能だということです。

このままでいいはずがありません

そして第二に、私たちが直面している課題は解決可能だということです。

しかしそのためには、国際的な問題解決のメカニズムが、実際に問題を確実に解決するようにしなければなりません。

「未来サミット」はその第一歩でした。しかし、道のりはまだ長く続きます。

そこに辿り着くためには、持続不可能な状況をもたらした3つの主要因に立ち向かわねばなりません。

不処罰の世界。すなわち、違反や乱用が国際法と国連憲章の土台そのものを脅かす世界。

不平等の世界。すなわち、不公正や不満が各国を弱体化するだけでなく、国の存亡を脅かす世界。

そして、不確実の世界。すなわち、管理されていないグローバル・リスクが、予見できない形で私たちの未来を脅かす世界。

こうした不処罰・不平等・不確実の世界が、絡み合い衝突しています。

各国代表の方々、

世界の不処罰の水準は、政治的に擁護できず、道義的にも容認できません。

今日、ますます多くの政府やその他の主体が、「免罪符」を得る権利があると考えるようになっています。

彼らは、国際法を踏みにじりかねません。

国連憲章に違反しかねません。

国際的な人権条約や国際裁判所の判決に目を閉ざしかねません。

国際人道法を嘲笑しかねません。

他国を侵略し、社会全体を荒廃させ、自国民の福祉を完全に無視しかねません。

それでも、それに対して何も起こらないのです。

私たちは、中東や、欧州の中心部、アフリカの角をはじめ、あらゆる場所でこの不処罰の時代を目の当たりにしています。

ウクライナでの戦争は、終結する気配もなく拡大しています。

民間人は、その代償を払っています。死者が増加し、生活やコミュニティーが崩壊しています。

今こそ、国連憲章、国際法、国連決議に基づく、公正な平和を実現する時です。

一方で、ガザ地区は終わらない悪夢となり、地域全体を巻き込みかねない状況です。

それは、レバノンを見れば明らかです。

私たちは皆、エスカレーションを警戒すべきです。

レバノンは、瀬戸際に立たされています。

レバノンの人々、イスラエルの人々、そして世界中の人々は、レバノンが第二のガザ地区となるのを許してはなりません。

はっきり申し上げましょう。

10月7日にハマスが行った忌まわしいテロ行為や、人質の拘束について、正当化できるものは何一つありません。私はいずれの行為に対しても、繰り返し非難をしてきました。

そして、パレスチナの人々に対する集団的懲罰を正当化できるものも何一つありません。

ガザ地区における殺戮や破壊の速度と規模は、私の事務総長の在任中でも類を見ないものです。

200人を超える国連職員が命を落としました。その多くが家族と共に亡くなっています。

それでも、国連の女性・男性職員たちは人道支援をし続けています。

私は、皆様が私と共に、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)とガザ地区で活動しているすべての人道支援従事者たちに対し、格別の敬意を表してくださることを理解しています。

国際社会は、即時の停戦、即時かつ無条件の人質の解放、そして2国家共存という解決策に向けた不可逆的なプロセスの開始に向けて、結集しなければなりません。

入植地を増やし、より多くの土地を収奪し、扇動をさらに行うことでその目標を阻害し続ける人々に対して、私は問います。

代替策は何なのでしょうか、と。

数多くのパレスチナの人々が、自由も、権利も、尊厳もないままに一つの国家に組み込まれるような未来を、世界はどうして受け入れることができるでしょうか。

スーダンでは、残忍な権力闘争によってレイプや性的暴行がはびこるなど、恐ろしい暴力が引き起こされています。

飢饉の拡大に伴い、人道上の大惨事が起きています。しかも外部の大国は、和平を追求する統一的なアプローチが取られないまま、干渉を続けています。

サヘル地域では、テロリストの脅威が劇的かつ急速に拡大しており、連帯に根差した共同アプローチが必要ですが、地域的・国際的な協力体制が崩壊しています。

ミャンマーからコンゴ民主共和国、ハイチ、イエメンやそれ以遠の地域に至るまで、長らく解決策を見出せないまま、恐ろしい水準の暴力や人々の苦しみが続いています。

一方で、国連の平和維持活動は、往々にして維持すべき平和が存在しない場所で展開しています。

世界各地における情勢不安は、不安定な権力関係や地政学的分断の副産物です。

冷戦時代は危険ではあったものの、ルールが存在しました。

ホットライン、レッドライン(越えてはならない一線)、ガードレールがありました。

今日、そうしたものがないように感じます。

また、一極化した世界も存在しません。

私たちの世界は多極化された世界へと移行しつつありますが、まだそこには辿り着いてはいません。

私たちは対立という煉獄の中にいるのです。

そしてこの煉獄の中で、地政学的分断の隙を突いて、何の説明責任も果たさないままやりたい放題の国がますます増えています。

だからこそ、国連憲章を再確認し、国際法を尊重し、国際裁判所の決定を支持・履行し、世界中で人権を強化することがこれまで以上に重要なのです。

どこであろうと、あらゆる場所において。

各国代表の方々、皆様、

不平等の拡大は持続不可能な状況をもたらした第二の要因であり、私たちの集団としての良心にとって恥ずべきものです。

不平等は技術的な問題でも、官僚的な問題でもありません。

その核心にあるのは、歴史的な根源を持つ権力の問題なのです。

紛争、気候の激変、生活費の危機は、これらの根源をより深いものにしています。

一方、世界は、パンデミックが引き起こした不平等の急速な拡大からいまだに回復していません。

世界で最も貧しい75の国のうち、3分の1は5年前よりも困窮しています。

同時期に、世界で最も豊かな5人はその資産を2倍超に増やしました。

そして、地球上の1%の最富裕層が、世界のすべての金融資産の43%を保有しているのです。

国レベルでは、一部の政府が企業や超富裕層に巨額の税制優遇を行って不平等に拍車をかけている一方で、保健、教育、社会的保護への投資を削減しています。

世界の女性と女児ほど不当に扱われている人々はいません。

各国代表の方々、

ジェンダーに基づく差別や虐待の横行は、あらゆる社会で最もはびこっている不平等です。

私たちは日々、平時においても戦争の武器としても、胸の悪くなるような女性殺害、ジェンダーに基づく暴力や集団レイプ事件のさらなる増加に直面しているように思えます。

一部の国では、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康・権利)が法律によって脅かされています。

また、アフガニスタンでは、女性と女児に対する組織的抑圧が法律によって固定化されています。

そして私は、何年も議論されてきたにもかかわらず、ジェンダーの不平等が露わになっていることを残念に思いますし、まさにこの議場でもジェンダーの不平等が露わになっていると、ここで指摘することを残念に思います。

今週の一般討論での登壇者のうち、女性は10%にも満たないのです。

これは容認できません。ジェンダー平等が、平和や持続可能な開発、気候行動、その他多くの分野に貢献できるとわかっている今は、なおさらです。

国連の上級管理職においてジェンダー・パリティー(男女比同率)を実現するための的を絞った措置を講じた理由は、まさにここにあり、その目的はすでに達成されています。

実現可能なのです。

私は、世界各地の男性優位の政治・経済機関にもそうするように呼びかけます。

各国代表の方々、

世界の不平等は、私たち自身の国際機関においてさえ反映され、強化されてしまっています。

国連安全保障理事会は、第二次世界大戦の戦勝国によって設計されました。

アフリカの大半の国々は、依然として植民地支配を受けていました。

今日に至るまで、世界に冠たる平和のための理事会において、アフリカは常任理事国の席を得ていません。

この状況は変わらなければなりません。

80年前に構築された、グローバル金融アーキテクチャも同様です。

私は、世界銀行と国際通貨基金(IMF)の指導者たちが重要な措置を講じたことを称えます。

しかし、「未来のための協定」が強調しているように、不平等に対処するためには国際金融アーキテクチャの改革を加速させなければなりません。

過去80年間にわたって世界経済は成長し、変化を遂げてきました。

ブレトン・ウッズ機関(世界銀行とIMF)はそれに追い付いていません。

こうした機関はもはや、世界的なセーフティネットを提供したり、開発途上国が必要としている水準の支援を提供したりできていません。

現在、世界で最も貧しい国々における債務の利払いは、教育・保健・インフラへの投資総額よりも平均して高くなっています。

そして世界中で、持続可能な開発目標(SDGs)の80%超が達成への軌道から外れています。

各国代表の方々、

再び軌道に乗せるためには、2030アジェンダとパリ協定のための資金を大幅に増やす必要があります。

それは、G20諸国が、年間5,000億ドルの「SDG刺激策」を主導することを意味します。

また、国際開発金融機関の融資能力を大幅に引き上げ、手ごろな長期の気候・開発資金を飛躍的に拡大できるようにする改革を意味します。

さらに、特別引出権(SDR)の再利用を通じて、有事の際の資金を拡大させることを意味します。

そして、長期的な債務再編を推進することを意味します。

各国代表の方々、

私は、多国間システムの改革を妨げる障害に対して、幻想を抱いてはいません。

政治力・経済力を持つ者と、そうした力を持つと考えている者は、変化を厭うのが常です。

しかし現状は、すでに彼らの力を奪いつつあります。

改革しなければ分断化は不可避であり、国際機関はその正統性、信頼性、実効性をより失うことになります。

各国代表の方々、

持続不可能な世界をもたらした第三の要因は、不確実性です。

私たちの足元が揺らいでいます。

不安が途方もない水準に達しています。

そして特に若者たちは、私たちに期待し、解決策を求めています。

不確実性は、気候危機と、テクノロジー、特に人工知能(AI)の急速な進歩という2つの存亡に関わる脅威によって深刻化しています。

各国代表の方々、

私たちは気候が崩壊する真っ只中にいます。

極端な気温、猛威を振るう火災、干ばつ、大洪水は自然災害ではありません。

これらは化石燃料が一層拍車をかけている人災なのです。

それを免れることのできる国はありませんが、最も深刻な打撃を受けるのは最も貧しい国々や最も脆弱な国々なのです。

気候ハザードは、多くのアフリカ諸国の予算に穴を開け、毎年、国内総生産(GDP)の最大5%にも上る損失を与えています。

そして、これは始まりに過ぎません。

私たちは、1.5℃の気温上昇という世界的な上限を突破する方向に向かっています。

しかし、問題が深刻化するにつれて、解決策も改善されつつあります。

再生可能エネルギーの価格が急落し、導入が加速し、手ごろな価格の利用しやすいクリーンエネルギーによって人々の生活は大きく変わりつつあります。

再生可能エネルギーは単に電力を生み出すだけではありません。数百万の人々に雇用や富、エネルギー安全保障、そして貧困から抜け出す道をもたらします。

しかし、その過程で開発途上国が搾取されることがあってはなりません。

国連の「重要鉱物に関するパネル」は、再生可能エネルギー革命に欠かせない、これらの資源に対する国際的な需要を満たすための公平かつ持続可能な方法を提言しています。

各国代表の方々、

化石燃料のない未来は確実ですが、公正かつ迅速な移行は確実ではありません。

それは、皆様の手に委ねられています。

各国は、野心的な新しい国別気候行動計画、すなわち「自国が決定する貢献(NDC)」を来年(2025年)までに提出しなければなりません。

NDCは、国家エネルギー戦略、持続可能な開発の優先事項、気候野心を一つにまとめたものでなければなりません。

NDCは1.5℃の上限に沿い、経済全体をカバーし、気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)のエネルギー移行目標のすべてに資するものでなければなりません。

本日公表された国際エネルギー機関(IEA)による報告書では、それが分析されています。

2035年までに、先進国はエネルギー起源の排出量を平均80%、新興国は平均65%削減しなければなりません。

G20諸国は総排出量の80%を占めています。

G20諸国は、各国の異なる事情を考慮して、共通でありながらもそれぞれに異なる責任と各国の能力に基づくとする原則に沿って、先頭に立って行動しなければなりません。

しかしこれは、すべての国々が自国の目標を達成できるよう、資源、科学力、安価で確かなテクノロジーを結集した、共同の取り組みでなければなりません。

G20の議長国であり、COP30の開催国であるブラジルのルーラ大統領と緊密に協力し、最大限の野心、加速化、協力を確保できることを光栄に思います。私たちはまさにそのための会談を行ったところです。

資金が不可欠です。

COP29が迫っています。

COP29で、重要かつ新たな資金目標を示さねばなりません。

私たちには、課題の規模に見合った「損失と損害基金」も必要であり、先進国は適応資金の約束を果たす必要があります。

私たちは、地球を破壊する汚染産業に報酬を与え続けているというおかしな状況をついに逆転しなければなりません。

化石燃料産業は巨額の利益と補助金を手にし続けています。その一方で、保険料の高騰から生計の喪失に至るまで、気候変動による惨禍の代償を負うのは、日々の生活を送る人々です。

私は、G20諸国に対し、化石燃料への補助金や投資から公正なエネルギー移行へと資金を振り向け、

炭素に効果的な価格を設定し、

そして化石燃料の採掘への連帯税を含め、法的拘束力と透明性のあるメカニズムを通じて、新たに革新的な財源を導入するよう呼びかけます。

これらすべてを来年までに行い、かつ責任を負う者が、その代償を負うべきことを考慮するということです。

汚染する側が支払わなければならないのです。

各国代表の方々、

新たなテクノロジーが急速に台頭し、予測不能な存亡に関わるもう一つのリスクをもたらしています。

人工知能(AI)は仕事、教育、コミュニケーションから文化や政治に至るまで、私たちが知るほぼすべてを変えるでしょう。

AIが急速に進展しているのはわかっていますが、AIは私たちをどこに導くのでしょうか。

さらなる自由か、それともさらなる対立か。

より持続可能な世界か、それともより不平等な世界か。

より多くの情報を得られるのか、それとも情報を操作しやすくなるのか。

一握りの企業、場合によっては一握りの個人が、すでにAI開発をめぐって強大な力を手にしていますが、今のところ、説明責任や監視はほとんど見られません。

世界的なアプローチで管理しなければ、AIは人工的に作られた全面的な分断へとつながります。つまり、2つのインターネット、2つの市場、2つの経済からなる「大分裂」が起こり、すべての国がどちらの側につくのか決めることを迫られ、あらゆる国々に甚大な影響を及ぼします。

国連は、対話とコンセンサスのための普遍的なプラットフォームです。

国連憲章と国際法の価値観に基づいてAIに関する協力を推進する、独自の立場に立っています。

世界的な議論はここで行われなければ、それが行われることはありません。

私は、重要な第一歩を歓迎します。

2つの総会決議、ならびにグローバル・デジタル・コンパクトと、AIに関するハイレベル諮問機関の提言は、AIの包摂的なガバナンスの基盤を築くことができます。

AIを善のための力とするために、ともに前進しようではありませんか。

各国代表の方々、

永遠に続くものなどはありません。

しかし、そうではないように見えるのが人生の特徴です。

現在の秩序は、常に固定されているかのように感じられます。

そうでなくなるまでは。

人類史の中では、帝国の盛衰がありました。かつて確実だったものが崩壊し、世界情勢に構造的な転換が生じました。

今日の私たちの進路は、持続可能ではありません。

現在進行中の大変革を管理し、私たちが望む未来を選択し、その方向へと世界を導くことは、私たちのためとなります。

多くの人々が、今日の相違や分断は余りに大きすぎると指摘してきました。

私たちが共通の利益のために団結することは不可能だとも指摘してきました。

皆様は、それが真実ではないことを証明しました。

「未来サミット」は、対話と妥協の精神をもってすれば、私たちは世界をより持続可能な道へと導くために協力できることを示しました。

それは終わりではありません。

旅の始まりであり、嵐の中での羅針盤なのです。

前進し続けようではありませんか。

不処罰を減らし、説明責任を増す方向へ、不平等を減らし、正義を増やす方向へ、不確実性を減らし、機会を増やす方向へ、私たちの世界を動かそうではありませんか。

世界中の人々が私たちのことを見ています。そして、将来の世代の人々が、いずれ私たちを振り返るでしょう。

私たちが国連憲章を支持していたことを、人々が共有する価値観と原則を私たちが支持していたことを、そして私たちが歴史の正しい側にいたことを、後の世代に示そうではありませんか。

* *** *

原文(English)はこちらをご覧ください。