本文へスキップします。

  • プリント

ここから本文です。

2025年の優先課題に関する アントニオ・グテーレス国連事務総長の総会発言(ニューヨーク、2025年1月15日)

プレスリリース 24-009-J 2025年02月26日

©UN Photo/Evan Schneider

各国代表の方々、皆様、

はじめに、2025年が皆様とご家族にとって幸せで健康な年となるようお祈りいたします。

皆様、

まずは良いニュースから始めましょう。

世界が混乱していることに圧倒されてしまうのも無理はありません。

しかし、これからの1年を見据える中で、私たちは決して前進と可能性を見失ってはなりません。

そして、希望の兆しもあります。

ガザ地区では、交渉担当者たちが停戦と人質解放をめぐる合意の最終段階に入っています。

一方レバノンでは、停戦が概ね維持されており、2年を超える膠着状態を経て、遂に大統領を選出することができました。

気候分野では、現在、世界のクリーンエネルギーへの投資額は、化石燃料の2倍近くになっています。

そしてほぼあらゆる場所で、太陽光や風力が今や最も安価な新電力源となっており、史上最も早い速度で成長しています。

世界の多くの地域では、女児たちが教育における平等を実現しています。

今日、かつてないほど多くの子どもたちが生き延びています。HIVの感染者数やマラリアの死亡率は劇的に減少し続けています。

私たちは、児童婚を減らし、海洋を守り、インターネットへのアクセスを拡大させる有意義な措置が新たに講じられているのを目にしています。

そして私たちは、「未来のための協定」「グローバル・デジタル・コンパクト」と「将来世代に関する宣言」の約束に鼓舞されながら2025年を迎えました。

これらの措置は、創設80年を迎える国連の力と目的を確認するものです。

良い時も悪い時も終始一貫して、世界は国連を通じて団結し、最も解決が困難ないくつかの課題に取り組んできました。

緊張の緩和。

平和の構築と維持。

貧困、飢餓、不平等、気候変動と闘うための大胆な目標の設定。

国際人権法を含めた国際法違反に対する説明責任の追及。

地球上で最も絶望的な場所での救命援助の提供。

国連は、創設されたその日から世界の良心を代弁してきました。

あたかも破壊に躍起になっているような世界において、国連は建設の原動力となってきました。

そして、私たちは日々、活動のあり方や成果を上げる方法を強化し続けています。

現場での国連開発システムの強化から、上級幹部のジェンダー・パリティー(男女同比率)の実現に至るまで。

私たちは、効率性や費用対効果を高めるべく、飽くなき改革に取り組んでいます。手続きの簡素化や意思決定の分散化。透明性と説明責任の強化。「国連2.0」イニシアチブを通じた、データ、デジタル、イノベーション、戦略的先見性、行動科学に投資するためのリソースの転換。

国連は、重要な真実を反映しています。すなわち、グローバルな課題にはグローバルな解決策が必要だということです。

国連が団結して世界中の大きな課題に取り組めば取り組むほど、各国が単独で取り組む負担は軽減されます。

皆様、

この行動に根差した希望の精神によって、私たちは前進しなければなりません。

そうです。この激動の世界にも、前進はあるのです。

しかし、幻想を抱いてはなりません。この世界は、混乱と深刻な不確実性の中にあるに他ならないからです。

私たちの作為、あるいは不作為により、現代の災厄のパンドラの箱が開かれました。

これらの災厄のうち、際立っているのが次の4つです。というのも、これらは良くても私たちのアジェンダのあらゆる側面を妨げるものとなり、悪ければ、人類の存続そのものを根底から覆しかねない脅威となるからです。

暴走する紛争。

蔓延する不平等。

猛威を振るう気候危機。

そして、制御不能なテクノロジー。

良い知らせは、私たちにはこうした課題に取り組む計画があるということです。

それを一から作り直す必要はありません。

それを動かすことが必要なのです。

加速と変革を通じて、「未来のための協定」を軸とし、その実施を2025年の中心的な優先課題としましょう。

皆様、

まずは平和から始めましょう。

紛争が増加し、より混乱し、より致命的なものになっています。

地政学的な分断や不信が深まり、火に油を注いでいます。

核の脅威がここ数十年で最も高まっています。

あらゆる人権が常に攻撃にさらされています。

不処罰が蔓延しており、国際法、国際人道法、国連憲章の違反が繰り返され、国連の制度そのものに対して組織的な攻撃が行われています。

ガザ地区では、私たちは即時停戦を絶えず呼びかけてきました。人質の即時かつ無条件の解放。そして、民間人を保護し、救命援助を確実に提供するための即時の行動。

私は、人道対応の中心にいる国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の同僚たちに改めて敬意を表します。

もちろん、2023年10月7日にハマスが行ったテロ攻撃を正当化できるものは何一つありません。

また、パレスチナの人々に対する劇的なレベルの死と破壊を正当化できるものも何一つないのです。

長期間にわたり、苦しみには天井がなく、恐怖には底がありませんでした。

私は、すべての当事者に対し、停戦と人質解放をめぐる合意を早期に締結するよう強く求めます。

皆様、

中東全体において、地域の再編が進んでいます。

今後何が起きるのか、極めて不透明です。

イスラエルとパレスチナでは、私たちが常々訴えてきたように、国連決議、国際法、そしてこれまでの合意に沿った、2国家共存による解決に向けた不可逆的な動きが見られるのでしょうか。

それとも、代わりにイスラエルによる併合が着実に進み、パレスチナの人々の人権と尊厳が否定され、持続可能な平和の可能性が失われていくのでしょうか。

シリアは、私たちがあらゆる支援を続けていく中で、長年の流血を経て、遂にさまざまな信仰、伝統とコミュニティーにとって光となり、包摂的で自由で平和な未来が築かれる国になれるのでしょうか。

それとも、分断が進み、少数者や女性と女児たちの権利が踏みにじられるのでしょうか。

イランでは、いかなる核兵器開発計画も明確に放棄するような具体的な行動が取られ、あらゆる国の主権が尊重される新たな地域安全保障の枠組みへの貢献が見られ、イランがグローバル経済へ完全に統合される道筋が開けるでしょうか。私たちはそれが可能になることを望んでいます。

それとも、エスカレーションが起こり、予期せぬ結果を招くのでしょうか。

この地域全体で、私たちは、過激派に平和な未来に対して拒否権を突きつけさせないようにしなければなりません。

私は今夜、レバノンに向けて出発します。レバノンの人々、そして国連の平和維持部隊との連帯を示すためです。

国が自国民を保護する能力を十分に備え、レバノンの人々が秘める大きな可能性が開花する体制が整い、制度的に安定した新時代への扉が開かれました。

その扉、すなわちレバノン人とイスラエル人が共に安全に暮らせる機会が大きく開かれ続けるよう、私たちは全力を尽くします。

皆様、

中東以外にも、苦しみに満ちた世界があります。

ウクライナでは、戦争が4年目に突入しようとしています。私たちは、国連憲章、国際法、総会決議に沿い、公正で持続的で包摂的な平和に向けて、努力を惜しんではなりません。

スーダンでは、紛争当事者によって広範な流血の惨事と、世界最大の避難民危機と飢餓が引き起こされています。私たちはすべての当事者を参加させ、民間人を保護し、紛争を沈静化し、平和への道筋を見出そうとしています。

サヘル地域では、私たちはパートナーたちと連携し、地域協力を強化して、共通の脅威、特にテロや暴力的過激主義の脅威に対処するための新たな対話を求めています。

ハイチでは、依然として武装した犯罪組織が猛威を振るっています。私たちは、少なくとも、多国籍治安支援ミッション(MSS)が持続可能で予見可能な資金援助を受けられるようにしなければなりません。

アフリカ連合(AU)ソマリア支援安定化ミッション(AUSSOM)に対してそうしなければならないのと同様に。

ミャンマーからコンゴ民主共和国、イエメン、そして他の地域に至るまで、私たちは平和のために努力し続けなければなりません。それが国連の存在理由だからです。

そして、国連の存在理由には「未来のための協定」の約束を推進することが含まれます。すなわち、紛争の予防、調停、紛争解決と平和構築を優先すること。平和維持を強化し続けること。政治・和平プロセスに意味ある形で女性を包摂すること。10年超ぶりに多国間での核軍縮に合意すること。化学兵器・生物兵器の使用に終止符を打つ新たな戦略を策定すること。宇宙での軍拡を防止し、自律型致死兵器の使用に関する議論を進める上で不可欠な取り組みを実施すること。そして、今日の軍拡が持続可能な開発、つまり協定に基づくプログラム全体に及ぼす影響について理解を新たにすることです。

皆様、

不平等もまた、現代のパンドラの箱から広がりつつあります。

広範な不平等は、私たちの社会・経済・政治・金融システムに深刻な問題があることを示す、紛れもない兆候です。

不平等は克服できます。もし私たちが、同じ失敗したアプローチに固執するのではなく、公平性を推進する政策に取り組むのであれば。

私たちは、複数の分野でそうしなければなりません。

それは、持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けた行動を加速させることから始まります。

2030年まであと5年ですが、軌道に乗っている目標は5分の1にも至らず、年間4兆ドルの資金ギャップによって事態は深刻化しています。

「加速」とは、貧困の根絶、食料安全保障、すべての人々のための質の高い教育、社会的保護、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、エネルギーへのアクセス、デジタル化、気候変動による被害の軽減など、インパクトの大きな分野に焦点を当てるということです。

そして私たちは、アフリカが抱えるニーズに特に重点を置かねばなりません。

資金調達が不可欠です。

「未来のための協定」は、資金ギャップを埋める「SDG刺激策」を明確に支持しています。

そして、ドナー国に対しては政府開発援助(ODA)に関する約束の順守を、民間セクターに対しては持続可能な開発への投資を呼びかけています。

また、強固な社会的保護システム、各国の成長・発展の足がかりとなる開かれた貿易、公平性と幅広い繁栄をもたらす税制を訴えています。

私たちはさらに、グローバル金融機関を改革および現代化し、1945年の経済ではなく、今日の経済を反映したものにすることで不平等と闘わねばなりません。

開発途上国には、自国が頼りにしている機関そのもののガバナンスにおいて、公平な代表権がなければなりません。

私たちは、グローバル・セーフティネットを強化し、国際開発金融機関の融資能力を大幅に向上させ、それらの機関をより大規模で大胆なものにしなければなりません。

そして、一人あたりGDPだけでなく脆弱性も考慮に入れ、譲許的融資が最も必要とされるところで展開されるようにしなければならないのです。

私たちは、債務問題に陥っている、あるいは瀕している国々を支援するための意義ある行動を求める呼びかけを強化し、そうした国々がSDGsに投資する財政余地をより確保できるようにしていきます。

同時に「2030アジェンダ」が求めているように、公的債務アーキテクチャーを強化・改善することで、各国が安心して借り入れをできるようにしなければなりません。

私は、この難局を乗り越え、債務に関する行動への支援を喚起するための実質的な措置を特定する専門家グループを任命しました。

皆様、

今年は、SDGsにおいて画期的な進展を遂げる極めて重要な機会があります。

開発資金国際会議、世界社会開発サミット、南アフリカを議長国とするG20サミット、ブラジルでの気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)、国連海洋会議、北京プラス30。

これらの会議は、私たちが不平等と闘うもう一つの中核的な方法、すなわち女性と女児たちの機会を拡大させることにつながります。

「未来のための協定」は、すべての国々に対してジェンダー平等を全面的に実現するよう呼びかけています。

あらゆる法的、社会的、経済的障壁を取り除くことによって。

性的暴力やジェンダーに基づく暴力も含め、女性や女児に対するあらゆる形態の暴力やハラスメントに終止符を打つための的を絞った行動を加速することによって。

ケア・エコノミーも含め、ジェンダー間の賃金格差を埋めるための投資を加速させることによって。

そして、役員室から政治権力の場、グリーン・デジタル経済に至るまで、平等な参加およびリーダーシップの機会を確保することによって。

私たちはまた、あらゆる場所の若者たちと連帯することによって不平等と闘わなければなりません。

「将来世代に関する宣言」は、国レベル、グローバルレベルでの若者の意思決定への参加を強化することを約束しています。

私たちは、新たに設立され、現在本格稼働している国連ユース・オフィスを通じて、そうした取り組みを行っています。

またグローバル・デジタル・コンパクトは、各国に対し、若者のイノベーターを擁護し、起業家精神を醸成し、次世代にデジタル・リテラシーおよびスキルを身につけさせるように求めています。

不平等は、差別やヘイトスピーチの惨害によっても助長されています。

私たちは、帰属意識の持てるコミュニティーを育て、反ユダヤ主義、反イスラムの偏狭や、少数派キリスト教徒コミュニティーに対する差別も含め、憎悪や不寛容の拡大に終止符を打つために努力しなければなりません。

SNSプラットフォームをめぐるガードレールが取り払われ、偽情報やヘイトスピーチがはびこるようになった今、この取り組みはかつてなく重要になっています。

皆様、

パンドラの箱は、世界を荒廃させ、攻撃する気候危機をも解き放ちました。

ロサンゼルスの丘陵地帯を見れば一目瞭然です。

災害を描いた映画を生み出す現場から、災害現場へと変わり果てたのです。

世界各地の気候変動による破壊の代償は、一体誰が支払うのでしょう?

自社製品が大惨事をもたらしているにもかかわらず、利益や税金による補助金を懐に入れている化石燃料産業ではありません。

一般市民が苦しんでいるのです。生活や生計、保険料の引き上げ、光熱費の変動、食料価格の高騰によって。

とりわけ最も脆弱な立場に置かれた人々、すなわちこのような荒廃を引き起こした責任が最も少ない人たちが苦しんでいます。

パリ協定以前、私たちは今世紀末までに気温が4℃超上昇する道筋をたどっていました。確かに、その上昇曲線を緩やかに曲げつつあります。

しかしパリ協定以降、観測史上屈指の暑い年が毎年のように続いており、昨年は初めて1.5℃を超えました。

それと同時に、私たちの目の前には莫大な機会が広がっています。再生可能エネルギー革命は止められるものではなく、一般市民に恩恵がもたらされるでしょう。

生活費の低下や健康状態の改善、エネルギー安全保障、エネルギー主権、良質な雇用、数百万の人々が安価で利用しやすい電力に接続されることなどによって。

パリ協定から10年、今や世界の90%が排出量正味ゼロを約束しています。

しかし、私たちはさらに努力しなければなりません。

世界は総力を結集し、パリ協定の目標を大幅に加速させ、達成しなければなりません。

計算は明らかです。世界の長期的な気温上昇を1.5℃に抑えるというわずかな希望を抱くためには、世界の排出量のピークを今年として、それ以降は急速に削減していかねばなりません。

今年、各国は経済全体を対象とし、1.5℃と整合する、新たな国別気候行動計画(NDC)を提出することを誓約しています。

これらの新たな計画は、クリーンエネルギー時代がもたらす機会を活用するチャンスであり、あらゆる部門、あらゆる温室効果ガスを対象としたものでなければなりません。

これらの計画は、合算した際に、排出量を2035年までに2019年の水準と比べて60%削減し、化石燃料の生産・消費に関する明確な削減目標を掲げたものでなければなりません。

そして、森林破壊やエネルギー移行に関して、COP28で合意されたグローバルな目標に、各国がどのように貢献していくのかを示さなければなりません。

排出量の規模を考慮すれば、G20諸国が主導しなければなりません。

これらすべての取り組みは、共通だが差異ある責任の原則に沿って達成しなければなりません。

私たちは、世界中で事情も能力も異なることを認識しています。しかし、すべての国がさらに取り組まねばならないことも認識しています。

国連も同様です。

私は、COP30の開催国であるブラジルのルーラ大統領と緊密に連携し、行動を推進しています。

また、経済大国や排出量が最も多い国々の指導者たちに向けて書簡を送り、協力してこのチャンスをつかむよう促しています。

同時に、国連システムは、100カ国近い開発途上国が新たな国別気候行動計画を策定できるよう支援しています。

そして私たちは、すべての国の計画を評価し、1.5℃を引き続き達成可能なものにするための行動を推進し、気候正義を実現するための特別イベントを開催します。

私はまた、企業、金融機関、都市、地域と市民社会に対し、国連の「Integrity Matters(誠実か否かが問題)」報告書に基づき、1.5℃に沿った信頼できる移行計画を携えて参加するよう求めます。

あらゆる圧力にもかかわらず、信頼できる気候行動に引き続き尽力しているビジネス・金融などの分野の方々に対し、こう申し上げたい。

あなた方は、歴史の正しい側にいます。その調子で続けてください、と。

そして各国政府に対し、こう申し上げたい。

そうした人たちを支援してください。ビジネスが必要とする確固たる政策や規制を提供してください。

行動への障壁に対処し、グリーン移行を奨励してください。

そして、自発的な誓約から義務的な規則への移行を加速させてください、と。

皆様、

1.5℃に抑えるための闘いには、迅速かつ公正で、十分な資金が確保された化石燃料の段階的廃止を、世界的に実施することなくして勝利できません。

今日、各国政府は、クリーンエネルギーを消費者にとって手頃な価格にするために費している金額の9倍の費用を投じて、化石燃料の価格を引き下げています。

そして、高い資本コストなどの障壁によって、各国が再生可能エネルギー革命の恩恵を享受するのを妨げています。
こうした壁を打ち壊さねばなりません。

そして、国際金融アーキテクチャーの改革を通じたものを含め、気候変動対策資金を全面的に実現しなければなりません。

資金に関するCOP29での合意は、完全に履行されなければなりません。

国連は、公正なエネルギー移行に向けた支援を動員します。

私たちは、カーボンプライシングや、化石燃料への補助金の段階的廃止の推進を支援します。

そして、COP29とCOP30の議長国のリーダーシップを支援し、開発途上国における気候行動の支援に必要な年間1.3兆ドルを合意どおりに動員するための信頼できるロードマップを策定します。

今こそ、汚染する側に自らが引き起こした被害の責任を負わせることを含め、新しく革新的な気候変動対策資金源の導入を始める時です。

先進国は今年、適応資金を少なくとも年間400億ドルまで倍増させるという約束を果たさなければなりません。

私たちは、国連の「すべての人に早期警報システムを」イニシアチブを実施しなければなりません。

同時に、「損失と損害」に対する世界的なアプローチを変革し、新たな基金へ大幅な増資を行う必要があります。

はっきり申し上げましょう。大局的に見ると、これまでに誓約された金額は、ある野球選手がニューヨーク市で最近交わした契約額よりも少ないのです。

皆様、

最後に、テクノロジーもまたパンドラの箱から飛び出しています。

もちろん、技術革新はかつてない機会をもたらします。

しかしそれは、慎重な管理も必要とします。

私たちには、現在の革新が、少数の特権階級だけでなく、人類全体に恩恵をもたらすようにする歴史的な責任があります。

「グローバル・デジタル・コンパクト」は、特に人工知能(AI)に焦点を当てながら、願望を行動に変えていくロードマップを提供しています。

国連は、次の3つの方法で、迅速かつ決定的な形で行動していかねばなりません。

第一に、誰もがAIに関する最新の知識や知見に平等にアクセスできなければなりません。

コンパクトは、独立した「AIに関する国際科学パネル」の設立を呼びかけています。

地域や分野を越えて専門知識を集約することで、このパネルは知識のギャップの橋渡しとなり、各国がAI政策について最も多くの情報に基づいた決定を行えるよう支援します。

このパネルは最も頼れるリソースとなる可能性を秘めており、AIの能力、機会、潜在的リスクに関して、明確かつ公平な分析を提供します。

私は総会に対し、「AIに関する独立した国際科学パネル」を遅滞なく設置するよう要請します。

第二に、私たちはイノベーションを促進しつつ、人権を擁護するAIガバナンスを発展させなければなりません。

世界は、倫理的で安全で安心なAIを必要としています。

コンパクトは、「AIガバナンスに関するグローバル対話」を呼びかけています。

国連の支援の下で、ステークホルダーたちが政策を策定・調整し、ベストプラクティスを共有し、相互運用性を確保すべく一堂に会する包摂的な場。それは、既存のグローバルなイニシアチブを足がかりとするものです。

この対話を通じて、私たちは人権を擁護し、悪用を防止し、責任あるイノベーションを促進する国際的なガードレールを推進することができます。

アルゴリズムのバイアスからデータプライバシーの懸念に至る、新たな課題に対処することができます。

そして、AIベンチマークやガバナンスツールへの公平なアクセスを助長し、ガバナンス基準を定める中で低所得国の正当な発言権を確保できるようにします。

私は総会に対し、対話を今年から始め、定期的に継続するためのプロセスを開始するよう要請します。

そして、共同進行役を務めるスペインとコスタリカと協力して、これらの取り組みや、AIガバナンスをめぐるコンパクトのより広範なビジョンを実現するのを楽しみにしています。

第三に、私たちは開発途上国が持続可能な開発においてAIを活用することを支援しなければなりません。

AIは、貧困の削減、医療や教育の改善、科学的発見の加速や持続可能な成長の推進を後押しすることができます。
しかしそのためには、現在広がりつつある世界的なAI格差を埋める必要があります。

私は間もなく、グローバル・サウスがより大きな公益のためにAIを活用するのを支援すべく、革新的な自発的資金調達モデルと能力構築イニシアチブに関する報告書を提出する予定です。

これらすべての目標を推進するため、新設された国連デジタル・新興テクノロジーオフィスが加盟国を支援し、国連システムや既存メカニズム間における調整や行動を促進します。

私は総会に対し、このオフィスの設立について感謝するとともに、十分なリソースを提供するように要請します。

人類は、テクノロジーをその手でしっかりと管理しなければなりません。

AIが私たちの世界を再形成していく中、すべての国々がAIの形成に貢献しなければなりません。

共に、AIがその最も崇高な目的を果たせるようにしようではありませんか。

人類の進歩、平等、尊厳を促進するという目的を。

皆様、

紛争、不平等、気候危機、そして野放しにされたテクノロジーの危険性 — これらは、現代のパンドラの箱から飛び出した災厄であり、私たちはそれらに優先的に取り組まねばなりません。

しかし、こう申し上げて締めくくろうと思います。

多くの人々が知るパンドラの箱の神話には、もう少し続きがあります。

この古代の詩をよく読んでみると、恐怖が解き放たれた後、パンドラは箱の中にたった一つ残っているものがあることに気付きます。

詩人はこう記しています。

「そこには希望だけが残されていた」と。

ここに現代への教訓があります。

私たちは決して希望を見失ってはなりません。

そして、私たちはその希望の上にある蓋を、行動を通じて開けるよう努めなければなりません。

希望を実現するために。希望を広めるために。

原則を守ること。真実を語ること。決して諦めないこと。

国連創設80年にあたり、私たちが知る、より平和で、公正で、繁栄した世界を築こうではありませんか。どんな困難があろうと、手の届くところにあるとわかっているのですから。

ありがとうございました。

* *** *

原文(English)はこちらをご覧ください。