本文へスキップします。

  • プリント

ここから本文です。

世界エイズ・デー(12月1日)に寄せる
コフィー・アナン国連事務総長メッセージ

プレスリリース 06/081-J 2006年11月30日

25年前に初の症例が報告されて以来、エイズは世界の様相を一変させてきました。死者は2,500万人、感染者は4,000万人に上ります。15歳から59歳までの年齢層では、エイズが男女ともに最大の死因となっています。これによって、人類発展の歴史上、最悪の後退が生じてしまいました。私たちの世代に突きつけられた最も難しい課題、それがエイズだといえます。

世界はあまりにも長い間、見て見ぬふりをしてきました。しかしこの10年間で、その態度には変化が見られています。世界はあるべき姿で、真剣にエイズ対策に取り組みはじめたのです。

エイズ対策に向けられる資金はこれまでになく増え、抗レトロウイルス治療はこれまでになく広まり、数ヵ国では、エイズ蔓延対策の管理がこれまでになく行き届いています。そして、感染者数がこれまでどおりの増加を続ける今、私たちが政治的意志を結集する必要性はこれまでになく高まっているのです。

10年前、国連ファミリー各機関の力と資源を寄せ集めた国連エイズ合同計画(UNAIDS)の創設は、世界のエイズへの取り組み方を大きく変える契機となりました。そして5年前、国連加盟国は「エイズ政治宣言(Declaration of Commitment)」を採択し、さらに新たな足跡をしるしました。この宣言には、エイズ流行と闘うための具体的かつ広範な期限付き目標が多く盛り込まれています。

私はこの同じ年、HIV/エイズを事務総長にとっての個人的優先課題と位置づけ、年間さらに70億ドルから100億ドルの「軍資金」の積み立てを呼びかけました。私は今、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(Global Fund to Fight AIDS, TB and Malaria)の後援者になれたことを、大変誇りに思います。基金はこれまで、全世界の対策プログラムに約30億ドルの資金を提供してきました。最近は二国間ドナー、各国の国庫、市民社会などから、多額の追加拠出もありました。低・中所得国でのエイズ対策への投資額は現在、年間で80億ドルを超えています。もちろん、これで十分なわけではありません。2010年までに、包括的なエイズ対策に必要な基金は、年間200億ドルを超えると見られるからです。しかし、私たちは少なくとも、必要な資源の確保や戦略の実施に向けて、一歩を踏み出したといえるでしょう。

対策に弾みがついてきたことで、失敗で失うべきものも多くなっています。これまでの進歩を無にする危険を冒すことなどできません。多くの人々の勇敢な努力を無駄にしてはならないのです。これまでの約束をすべて果たすことが、目下の課題といえるでしょう。その中には、2015年までにHIVの蔓延を食い止め、これを逆転させるという、全世界の政府が合意したミレニアム開発目標(MDGs)も含まれています。あらゆるレベルの指導者は、エイズの蔓延を食い止めることが、他のMDGsのほとんどを達成する前提条件であることを認識しなければなりません。MDGsは全体として、21世紀によりよい世界を構築するため、国際社会が合意した設計図にあたるからです。指導者は自らの説明責任を自覚しなければなりません。そして私たち全員も、その責任を問わなければなりません。

今年の世界エイズ・デーのテーマでもある説明責任は、あらゆる大統領や首相、議員や政治家に対し、「エイズは私が止める」ことを決意し、宣言することを義務づけるものです。HIV感染者、若者、売春婦、注射による薬物使用者、男性の同性愛者など、あらゆる弱者集団に対する保護を強化する義務も生じます。また、エイズ対策に欠かせない存在である市民団体とも手を携えなければなりません。さらに、女性と女児にさらに大きな力と自信を与え、社会のあらゆるレベルで男女の関係を変容させるようなプラスの変化を目指して、本格的な取り組みを展開する必要もあります。

しかし、説明責任は権力の座にある人々だけに当てはまるものではありません。私たち全員の義務でもあります。財界指導者は職場とさらに幅広いコミュニティでHIV予防に取り組み、感染した労働者とその家族に配慮しなければなりません。保健関係者、コミュニティの指導者、宗教的奉仕団体は、審判を下すことなく、耳と心を傾けなければなりません。父親、夫、息子、そして兄弟たちは、女性の権利を支持、確認しなければなりません。教員は女児の夢と希望を育てなければなりません。男性は、他の男性が責任を果たせるよう手を貸すとともに、他人を危険から守ることこそ、本当の男らしさなのだという理解を身につけなければなりません。そして私たちはすべて、エイズに光を当て、沈黙は死に等しいというメッセージを発信しなければならないのです。

私は間もなく、国連事務総長の職を退きます。しかし、私は力ある限り、このメッセージを広めてゆく所存です。ですから、世界エイズ・デーはこれからも、私にとって特別な日となることでしょう。今年の世界エイズ・デーにあたり、きょうだけでも、今年だけでも、来年だけでもなく、エイズ禍が克服されるまで毎日、この約束を守り抜くことを誓おうではありませんか。

コフィー・A・アナン