コフィー・アナン国連事務総長
第60回総会での演説
プレスリリース 05/082-J 2005年09月26日
(ニューヨーク、2005年9月17日)
議長
各国代表の方々
皆様
私たちは、国連にとって歴史的な1週間を締めくくろうとしています。
60年にわたる国連の歴史で、これほど幅広い進展が見られた機会はありませんでした。
世界の指導者たちはこの場で、テロの扇動を禁じ、民主化支援の資金拠出を約束し、HIV/エイズやマラリア、鳥インフルエンザの脅威について話し合いました。国連と東南アジア諸国連合(ASEAN)は関係の緊密化に合意しました。EU3カ国とイランの指導者は、事態の打開に向けて会談しました。中東、ブルンジ、コートジボワール、ハイチについても、重要な議論が行われました。
しかし、何と言っても最大の成果は、世界サミットそれ自体でした。すべてが達成されたわけではありません。結局のところ、多くを期待し、目標を高く設定しすぎた感は否めません。それでも、幅広い問題を一括して取り扱うことで、大きな成果が生まれたことは明らかです。
貧困や病気と闘う戦略の採択、戦争で荒廃した国々に和平をもたらすための新機構の創設、ジェノサイドを防止する集団的行動の約束という点で、サミットは大きな突破口を開きました。テロ、人権、民主主義、事務局運営、平和維持、人道援助についても、実質的な進展が見られました。さらに、グローバルな公衆衛生や地球温暖化、調停に関し、一層の行動を起こす道が開けました。
今後は新たな課題が控えています。合意されたことを実行に移すとともに、残された意見の溝を埋めるための取り組みを続けなければなりません。サミットの成果は私たちに、個別責任と連帯責任の両方を突きつけています。第60回総会で決着をつけなければならない項目も多くあります。
このように課題が山積する1年間の幕を開けるに当たり、私は説明責任の協約を結ぶことを提案したいと思います。それぞれがサミットの成果に盛り込まれた義務を果たすこと、そしてお互いに対して説明責任を負うことを誓おうではありませんか。
私としては、要請された行動をすべて成し遂げる所存です。加盟国である皆様に対しては、もし私がこの約束を守っていないとお考えになるなら、すぐにそう伝えていただくことをお願いしたいと思います。私のほうも、皆様が合意内容の実施をどれだけ進めているかをチェックし、遅れがある場合には、これをはっきりとお伝えします。グローバルな世論もまた、皆様の取り組みの進展状況をつぶさに監視するに違いありません。
ここで改めて、私たちのチェックリストにある重要項目のいくつかと、これをクリアするために必要なそれぞれの取り組みについてお話ししたいと思います。
第1の項目は管理改革です。
サミットの最終文書は、事務局の効率、効果、説明責任を向上するための大がかりな管理改革を承認しています。私は来週の月曜日から、このプロセスの前進に取り組みます。皆様の要請に従い、私は次の事柄に着手する所存です。
国連での仕事のやり方を刷新し、効果と効率を向上させるため、私は、創立後55年間に合意され、現在も続いている活動に関する皆様の審査を支援するよう勧告する予定です。また、国連の予算と人事に関する規則を全面的に洗い直し、事務局が時代に合った形で運営されるよう、その適応を図る方法も勧告します。さらに、皆様が設定した優先課題への取り組みに最もふさわしい人材を確保できるよう、一時的な早期退職勧奨制度に関する詳しい提案も提示する予定です。
説明責任の向上については、国連の監査・管理システムの第三者による全面的な審査を委託した上で、独立の監査委員会設置の青写真を提示します。また近々、私が設置を予定する独立の倫理部についての詳細も発表します。これにより、内部告発者の保護と、より幅広い財務情報の開示が図られるはずです。私はさらに、事務総長が今後、最高総務責任者としての任務を果たすために十分な手段を備える一方で、加盟国である皆様が説明責任を問えるようにするための提案を行います。
皆様に対しては、これらすべての項目を十分に検討し、内部監査のための資金を増額するという約束を守っていただくようお願いします。これから1年間の集中的な取り組みで、こうした改革を実現しようではありませんか。国連の誠実性と実行力に対する信頼を世界各地で回復する方法は、これ以外にないのですから。
第2に、国連の人権機構を強化しなければなりません。
人権高等弁務官は、自らの行動計画を推進してゆきます。そして皆様は、人権高等弁務官事務所の強化と予算倍増に対する支援を約束されました。皆様はまた、人権条約機関の強化にも合意されています。
しかし最も重要なのは、皆様が人権理事会の創設に合意されたということです。エリアソン総会議長は今後数カ月間、その重要な詳細について詰めの交渉を行うことになりますが、そのためには皆様の全面的な支援が必要です。議長、私はこの交渉を、サミットの準備作業で策定された詳細な文面を基に再開すべきだと考えます。この文面については、加盟国の大多数の支持が得られているからです。私としては、多数意見が主導権を握る一方で、依然として留保を行っている国々は、柔軟性を示すよう一層の努力を行うべきだと考えます。尊敬を受け、成果を出せる人権委員会を作ろうではありませんか。
第3に、テロの問題について前進を図らなければなりません。
サミットでは史上初めて、すべての加盟国が「誰がどこで、どのような目的で実行しようとも、あらゆる形態の」テロを、はっきりと無条件で非難しました。皆様は合意されたとおり、この簡潔な声明を土台として、1年以内に包括的なテロ対策条約を完成させるとともに、テロを弱め、国際社会を強めるグローバルなテロ対策戦略を作り上げなければなりません。私たちにはその能力と義務があるのです。
第4に、平和構築委員会を発足させなければなりません。
重要な点については、ほとんどすべて合意が達成されています。皆様の任務は、今後数カ月間に平和構築委員会を最終的に立ち上げ、その運営を開始することにあります。一方、私の任務は、コンパクトな支援室と、委員会をサポートする常設基金を設置することにあります。平和構築委員会が年内に作業を開始できるよう、互いに義務を果たしてゆこうではありませんか。
第5に、特に重要な項目として、開発に関する私たちの約束を果たすことがあげられます。
今年は開発にとって歴史的な年となりました。今週、ミレニアム開発目標(MDGs)が普遍的な支持を得られていないのではないかという疑念は、すべて消え去ったのです。私たちは5年以内に、開発援助資金を年間500億ドル増額するという意欲的な約束をしました。この成果の大きさを実感できていない向きもあるようです。ですから、世界の貧しい人々に対する私たちの約束を、是が非でも果たそうではありませんか。
各途上国は来年までに、2015年までのMDGs達成を含め、国際的に合意された開発目標を達成できる大胆な国内戦略を策定し、これに着手するという義務を負うことになりました。一方、先進国は、開発資金を増額し、債務を軽減するという約束を果たさなくてはなりません。
サミット文書では、普遍的でルールに基づき、開放的で差別のない公平な多国間貿易システムがうたわれていますが、これに向けた前進が可能であるという兆候も見られています。この約束を土台として、ドーハ貿易交渉ラウンドを推進しようではありませんか。
第6に、安全保障理事会改革に引き続き取り組まなければなりません。
私たちは、この非常に重要な課題について、懸命に打開策を模索してきました。これは容易な作業ではなく、まだ成果も得られていません。それでも、世界の指導者たちの言葉を借りれば、早期の安保理改革は「国連改革への全体的な取り組みにとって欠かせない要素」だという合意が出来上がっています。指導者たちは、年内に進展状況を審査するよう求めました。一部の特定集団だけでなく、国連全体のために幅広い支持を集められるような解決策が見つかるよう、すべての当事者に真剣な取り組みを求めたいと思います。
第7に、核不拡散と軍縮に関する交渉の決裂という挫折から、早急に立ち直る必要があります。
核不拡散条約(NPT)の根底をなすコンセンサスは大きく揺らぎました。今年だけでも、NPT再検討会議と今回のサミットの2度にわたり、数カ月にわたる交渉によって何の進展も見せませんでした。各国は現行の公約を再確認できず、しかも原則のレベルでさえ、進展を図ることができませんでした。解決に向けて努力するのではなく、他国に責任をなすりつけることに終始したのです。
こうした中でも、核拡散と破壊的テロの恐怖は増大しています。瀬戸際外交を演じ続ける危険性はあまりにも高いのです。これを直ちにやめ、不拡散、軍縮、平和利用という3原則をすべて強化するような協力を行おうではありませんか。ノルウェー、オーストラリア、チリ、インドネシア、ルーマニア、南アフリカ、英国の各国に対しては、打開策を探る取り組みに対するこれらの国々のイニシアチブを続けるよう促したいと思います。すべての国々は、この存亡の危機に対する取り組みを支援すべきです。
議長
各国代表の方々
多国間で解決策を見いだすのは不可能に見える時もあります。それでも時折、一歩下がって、これまでの長い道のりを振り返ってみる価値はあるはずです。
1999年にこの壇上から初めてごあいさつした際、私は国際社会がジェノサイドに対処する必要性を呼びかけました。私の発言は、加盟国間で大きな論議を呼びました。しかし、それから6年を経て、多くの国々が懸命な努力を行い、市民社会が全面的に関与し、本質的な懸念に対する取り組みがなされた結果、皆様はすべて、言葉だけではなく行動を起こす厳粛な責任を受け入れるに至りました。皆様のこの約束は今後、試練にさらされることになるでしょう。
この成果は間違いなく、辛苦の末に国際舞台で勝ち取られた革命であり、世界で最も弱い人々にとっての希望の灯なのです。このことはまた、私たちに貴重な教訓を与えてくれました。つまり、我慢強く取り組めば、共通の問題への集団的な回答が見つかるということです。
ですから、自信と決意を持って、作業に取りかかろうではありませんか。そうすれば、また、私たちが今週の約束を実行に移せば、数百万人の命が救われ、数十億人に希望が生まれるのです。国連創設60周年にとって、これほどふさわしい成果はないでしょう。それはまた、今後一層の成果をもたらす土台にもなるはずです。
ご清聴ありがとうございました。