「仙台から始まる持続可能性」
創設70年を迎える国連の重要課題として国連事務総長、日本から発信
2015年03月31日
「持続可能性はここ仙台から始まります」―。国際的な防災枠組を話し合う『第3回国連防災世界会議(WCDRR)』に出席するため来日した潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は、3月13日夜から17日まで5日間にわたって精力的に活動、持続可能な世界を築くための重要なメッセージをさまざまな人々に発信しました。その活動ぶりを振り返ります。
潘事務総長の来日は今回で8度目。前回の訪日は、2年前に横浜で開かれた『アフリカ開発会議(TICAD V)』に出席するためでした。今回は、持続可能な世界を築くための重要な戦略的行動の年を仙台でキックオフするためにやってきました。仙台に引き続き7月にアディスアベバで開発資金調達に関する会議、9月にニューヨークでポスト2015の新しい開発アジェンダの協議、そして12月にはパリで気候変動に関する国際合意を目指す会議が予定されており、次の15年間の防災枠組みを決める仙台の防災会議は、まさに持続可能な住み良い世界づくりの重要な第一歩となります。
防災会議には、「187の国連加盟国が参加し,元首7か国,首相5か国(含日本),副大統領級6か国,副首相7か国(以上国連発表),閣僚級84か国(3月12日時点)を含め,6,500人以上が参加し,関連事業を含めると国内外から延べ15万人以上が参加し,日本で開催された史上最大級の国連関係の国際会議となった(参加国数では過去最大)」(外務省ホームページより) とあります。このような規模の国連会議が加盟国のホストで開かれるのは初めてのことだそうです。
「今回の会議は、全世界の人々と地球を持続可能な道へと導く私たちの道程の出発点に当たります」。潘事務総長は14日、防災会議の開会の辞の中でこう述べ、この会議の重要性を強調。会議での成果が次の持続可能な開発アジェンダの策定や普遍的な気候変動協定、実行力のある資金調達につながる、と訴えました。
世界各国の首脳陣が集まる会議で潘事務総長は、みんなで知恵を絞り合い、世界が今後、自然災害による被害を最小限に食い止め、被災後も力強く復興していけるようなレジリエントな人と町をつくるための行動指針づくりに励んでほしい、と期待を寄せました。
そんな願いを届けるべく潘事務総長が選んだ視察先は、仙台市内にある海沿いの小さな街、南蒲生(みなみがもう)。4年前の東日本大震災では、ここ仙台をはじめ東北地方全体が巨大地震と津波、そして一部では原発事故で未曾有の被害を受けました。しかし、東北の人々は打ち拉がれているだけではなく、生活を立て直し、以前にも増して災害に強い町づくり、人づくりに励んでいます。そんなたくましい復興を遂げる南蒲生は、まさに潘事務総長をはじめとする国連が目指す持続可能な世界を築くための「レジリエントな人と町」を体現したものでした。
潘事務総長がまず立ち寄ったのが、仙台市内の汚水の約7割を処理する下水処理場・南蒲生浄化センターでした。ここは市民に不可欠な下水道サービスを提供する基幹施設でしたが、震災で施設建物が破壊され電気設備なども冠水でダメージを受けるなど処理機能に甚大な被害を受けており、現在、大掛かりな復旧工事が続いています。復旧では、単に従前の機能回復にとどまらず、災害に強く環境にも優しい未来志向型の下水処理場として再生するよう工事を進めています。潘事務総長は、奥山恵美子仙台市長からそんな説明を受けながら、『ビルド・バック・ベター(より良い復興)』を進める浄化センターの復興努力を目に焼き付けました。
また、近くの南蒲生コミュニティーセンターでは、地元の人々とふれあい、被災者の生の声を聞きました。南蒲生は、震災前は居久根(いぐね)と呼ばれる屋敷林に囲まれた人口900人足らずの小さな農村集落でしたが、震災によって多くの命と住まいを奪われました。生き残った住民たちは将来に希望を持てるふるさとを再生しようと住民同士の話し合いを重ね、『新しい田舎』づくりに励んでいます。新たなふるさとは、居久根を生き返らせ、仙台平野の豊かな暮らしや伝統文化を大事にした杜の都になると期待されています。
華やかなはっぴ姿の子どもや若者たちに拍手で迎えられた潘事務総長と夫人は、町内会長ら地元の代表者らに町づくりの復興にかける思いを聞いたあと、地元に古くから伝わる『すずめ踊り』を子どもたちが披露するのを、和やかに観賞しました。
視察を終えた潘事務総長は、「日本人が災害を、以前よりもさらに強いコミュニティーを目指す機会へと変えている姿に、深い感銘を受けています」と、感嘆の辞を述べました。「日本の人々は、悲劇をよりよく明るい未来へと変えることにより、すばらしい勇気と強靭な精神を実証しました」と言い、世界は多くのことをレジリエントな日本人から学べるだろう、と期待を寄せました。
世界に誇れる日本の指導力は、防災や復興におけるレジリエントさだけではありません。国連が関わるすべての活動において日本は計り知れない国際貢献をしています。
潘事務総長はそのことを伝えるために、国連グローバル・コンパクト(GC)のビジネス・パートナーと懇談、持続可能な開発へ向けたさらなる協力を協議しました。グローバル・コンパクトは企業等が責任あるリーダーシップを発揮し、持続可能な成長を実現するための世界的な枠組み作りに貢献する取り組みで、日本では200近い企業・団体が加盟しています。
懇談会では参加した約40社の代表らに、日本の実業界に企業の社会的責任という理念が浸透していったことへの貢献は大きいと感謝し、今後も世界的な課題に取り組むうえで日本のビジネス・パートナーの支援は欠かせないとして、さらなる協力を呼びかけました。特に、女性のエンパワーメントのために企業の果たす役割に期待を寄せました。
同様に、国連機関の親善大使として活躍する3人の著名人とも懇談しました。ユニセフの親善大使として30年以上、世界の子どもの窮状を伝え続けている女優の黒柳徹子さんや、ユネスコの親善大使として茶道から平和を訴える裏千家・千玄室大宗匠、モデルで国連WFP日本大使も務める知花くららさんと懇談した潘事務総長と夫人は、それぞれのアドボカシー活動に深謝しました。
さらに、国連大学で開かれた国連創設70周年を記念したシンポジウムにも出席、安倍総理とともに基調講演に立ちました。潘事務総長は、長年にわたり人道支援や国際開発、平和維持、人権、人間の安全保障における分野で積極的に貢献する日本を讃え、「国際舞台での日本の参画を高く評価」しました。
そのうえで、世界には武力紛争や人権侵害、女性差別など様々な問題が山積しており、国連が取り組むべき課題は多く、日本をはじめとした世界のパートナーを総動員してより良い未来のために課題解決に取り組みたい、と訴えました。
5日間という短い日程でしたが、事務総長はこのほかにも精力的に活動しました。皇太子殿下ご夫妻と懇談したほか、防災会議に出席している各国首脳との個別会談、安倍首相をはじめ、岸田文雄外務大臣や公明党、民主党の代表らと意見交換も行いました。
また、国連アカデミック・インパクトの参加大学である東北大学主催の復興シンポジウムで特別講演し、1,200人の聴衆に「若い皆さんこそ、将来の担い手。豊かな国に暮らす皆さんには、世界の紛争から逃れる難民や災害、人権侵害に苦しむ開発途上国の人々に思いを馳せ、行動してほしい」と語りかけました。
さらに国際ユース・フォーラムにも出席し、各大陸を代表する熱気あふれる若者200人とふれあい、「未来の指導者ではなく、今日のリーダー」として世界の課題解決に向けて声を挙げていってほしい、と訴えました。
国連が目指す持続可能性の道は、まさにここ日本から始まった―そう実感させられた5日間でした。