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広島での歓迎セレモニーにおける潘基文(パン・ギムン)国連事務総長 講演(和文)

2010年08月06日

秋葉 広島市長、
有岡 広島県副知事、
藤田 広島市議会議長、
各国大使の方々、
来賓の方々、
皆さま、

広島の皆さま、学生の方々、おはようございます。

私は世界平和のために、広島に参りました。

私は平和を求める巡礼として、広島を訪れています。

世界のどの指導者も、私たちとともにこの道を歩むべきです。

軍縮は国連にとって、最も重要かつ崇高な目標、そして優先課題の一つです。

それはまた、私が核兵器による許しがたく、また想像しがたい破壊について理解するようになってから、一生を捧げ続けてきた目標ともいえます。

日本と韓国は隣同士です。私たちもまた、核の影におびえながら暮らすこととはどういうことかを知っています。

ですから私は、皆さんとともに、国連事務総長としてはじめて、被爆65周年に当たる今年の平和記念式典に参加できたことを、特に光栄に思っています。65年という年月こそかかりましたが、決して遅すぎることはないと、私は信じています。また、極めて意義のある、荘厳な式典に参加できたことを名誉であると同時に、特権であるとも考えています。多くの被爆者の方々にも実際にお会いしたほか、核兵器がもたらす筆舌に尽くしがたい破壊の全貌を、この目で確かめることもできました。

広島は古くも新しくも、伝説に彩られた都市です。それは象徴であると同時に、着想の源でもあります。

遠くから広島のことを読んだり聞いたりすることと、きょうのように自分自身で体験し、感じ、深く考え、そして皆さんと共有することとは、まったく違います。

広島の皆さんこそ、戦争の暗闇を誰よりもよくご存知なのではないでしょうか。

皆さんはまた、希望の光、つまり、人間の不屈の精神が輝く姿についても、誰よりもよくご存知のはずです。

皆さんは社会の復興以上のことを成し遂げました。皆さんは子どもたちのために、よりよい世界を作り上げているのです。

65年前のきょう、暗黒の日の恐怖に襲われた皆さんは、苦悩や怒り、絶望の中へと沈みこんでしまっていたかもしれません。

しかし、皆さんはまったく違うメッセージを世界に流しました。

皆さんにしかできない話を伝えてきたのです。それは、皆さんの家族や友人、最愛の人々が死んでゆく様を目の当たりにした話であり、皆さんの美しい町が消え去る姿を目撃した話であり、その後何年にも、また、何世代にもわたって病気や子どもへの後遺症におびえながら暮らす様子を伝える話でもありました。

皆さんは私たちに、核兵器が人間にもたらす大きな犠牲について、真実を克明に語られました。

そのうえで、決して忘れることのないよう、私たちに求めたのです。

そして何よりも、皆さんは私たちに行動を求めました。行動すること、そして皆さんと手を携えてゆくこと。それこそ私が今ここにいる理由です。

皆さんはそうすることで、広島の市民を越える存在となりました。

世界市民となった皆さんの声は、世界各地に響き渡っているのです。

ノー・モア・ヒロシマ。

ノー・モア・ナガサキ。

決して同じ過ちを繰り返してはならない、と。

皆さん、

皆さんと同様、私も明快なメッセージをお伝えします。

それは希望のメッセージ、平和のメッセージです。このメッセージは、平和への希望、核の影をなくすことへの希望を託すものです。

各地で気運が高まっています。

各地で広島の名が響き渡っています。

それは爆心地(グラウンド・ゼロ)から核兵器のない世界(グローバル・ゼロ)を目指す行動を求める全世界的な呼びかけに他なりません。

世界の核兵器保有国からも、新たな心強い決意が示されています。

ロシア連邦と米国との間で成立した新たな核兵器削減条約(START)もその一つです。

去る4月には、ワシントンの核セキュリティーサミットで重要な前進が見られ、2012年には韓国で第2回サミットが開催される予定です。

最近、国連で開かれた核不拡散条約の再検討会議でも、進展が見られました。

そして何よりも、市民社会から良心の大合唱が沸き起こっています。

まず、秋葉市長や長崎の田上市長、平和市長会議をはじめとする指導者の方々がいらっしゃいます。現在、全世界で4,000人以上の市長がこの運動に参加していますが、今年中にその数は全世界5,000都市を超え、実に10億人以上の市民が代表されることになると聞いています。

また、世界の宗教指導者、法律家、医師、環境保護団体、労働組織の指導者、女性、人権活動家、国会議員などの代表からも、同じ声が沸き起こっています。

さらに、かつては核兵器政策を担当していた元軍当局者の中にも、積極的に意見を述べる向きが見られるようになりました。

もちろん、これに疑いのまなざしを向ける人々がいることは、私も承知しています。

空想的、時期尚早、実際に不可能、非現実的などといった理由から、軍縮など夢物語にすぎないというのです。

しかし、こうした指摘はむしろ、軍縮に代わる策のほうに見事に当てはまります。

それでは、軍縮に代わる策とは何でしょうか。それは核抑止力への際限ない依存、飽くなき軍拡競争、野放しの軍事費増大、そして税金の無駄遣いに他なりません。

私たちはこれらにふさわしい呼び名を付けなければなりません。それこそまさに幻想であり、安全保障に名を借りた妄想なのです。

現実世界を直視しようではありませんか。

世界には現在、2万発を越える核兵器が存在します。

朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)の核兵器能力は、域内のみならず、域外にも深刻な脅威となっています。私はDPRKに対し、朝鮮半島の検証可能な非核化に向け、具体的な措置を講じるよう求めます。

イランの核開発計画についても、深刻な懸念があります。私はイラン政府に対し、関連の安全保障理事会決議をすべて履行するとともに、国際原子力機関(IAEA)と全面的に協力し、その核開発プログラムに関する懸念を払拭するよう、改めて求めます。

皆さん、そして親愛なる学生の方々、

全世界で核拡散のリスクが広がっています。それはテロリストが核兵器の入手を図るリスクであったり、何らかの事故で大災害が起きるリスクであったり、さらに最悪の場合には、戦争が勃発するリスクであったりします。

こうしたリスクを解消できる方法は、核兵器の廃絶以外にありません。

ですから私は、核兵器の廃絶は私たちに共通の夢であると同時に、常識的な政策であると言いたいのです。

私が2年前、核軍縮と核不拡散に関する5項目計画を提示した理由もそこにあります。

第一に、軍縮は安全保障に資するものでなくてはなりません。

私は安全保障理事会に対し、軍縮への取組みを強化し、非核兵器保有国により大きな保障を提供するよう求めました。

第二に、軍縮は確実に検証できるものでなくてはなりません。

私は新たな核兵器条約に関する交渉を開始するよう提案しました。

第三に、軍縮は法的義務に基づくものでなくてはなりません。

そのためには、あらゆる国が多国間条約に加入し、各地域に非核地帯を設置することが必要です。

第四に、軍縮は目に見えるものでなくてはなりません。

私はこの理由から、核兵器保有国に対し、軍縮の約束を果たすための取り組みに関する情報をさらに多く共有するよう促しました。皆さんもご存知のとおり、米国と英国は保有核弾頭の数を公表し、ロシアと米国は核弾頭数削減に向けた交渉を進めていますが、こうした核兵器はすべて、この地球上から一掃されなければならないのです。

そして第五に、軍縮ではその他の兵器がもたらす危険にも取り組まなければなりません。

私は、あらゆる大量破壊兵器の廃絶だけでなく、ミサイルや宇宙兵器、通常兵器の制限についても、前進を強く求めてきました。

皆さん、

きょう私がここに来たのは、希望のメッセージを伝えるだけではありません。行動への呼びかけをするためです。

きょう、この場所から、世界に呼びかけようではありませんか。

今こそ政治的な勢いをつける時です。

私は9月に、軍縮に関するハイレベル協議を招集する予定です。このような形で、軍縮会議を支援するハイレベル会合がニューヨークで開催されるのは、初めてのことです。

私たちは、昨年の安全保障理事会サミットの成功も土台とすべきです。私は来年から、定期的に安全保障理事会サミットを開催し、私たちの約束と決意のフォローアップを図ることを提案します。

私は日本政府に対しても、核軍縮と核不拡散に関する5項目行動計画を前進させるため、地域会議の開催を検討するよう働きかけます。

今こそ、包括的核実験禁止条約(CTBT)の迅速な発効を図るべき時です。

その期限を2012年と定めようではありませんか。

今こそ、兵器目的の核分裂性物質の生産を禁止すべき時です。

今こそ、核兵器による先制攻撃禁止の原則に関する合意に向けて歩を進め、その実現への道を切り開くべき時です。

平和市長会議は、2020年までに核兵器のない世界を実現するという目標を定めました。

これこそ完璧なビジョンと呼べるものです。

その日を心待ちにしながら、広島と長崎への原爆投下75周年には、再び一堂に会し、被爆者の方々とともに、核兵器の終焉を祝うことを誓おうではありませんか。

そして、子どもたちにも正しい道、つまり、軍縮を通じて平和へと至る道を教えようではありませんか。その一環として、被爆者の方々の証言を翻訳すべきです。私は被爆者の方々の証言に強く心を動かされました。私たちがこうした生存者の証言を記録し、全ての人類に伝えていくために何ができるのかを、これから日本政府と話し合っていきます。

このような生の証言は語り継がねばなりません。その数は数万件に及ぶにもかかわらず、世界各国の言語に翻訳されているものは1%にも満たないのです。

そして最後に、今こそ平和へ投資すべき時です。

昨年、世界の軍事費は1.5兆ドルを越えました。これは133兆円以上に相当する金額です。

その一方で、人々と平和への投資は後回しにされています。

世界は兵器過剰の状態にあります。平和の資金が足りません。

皆さん、そして若い学生の方々、

こうした課題のすべてに取り組むことは、私たちに共通の責任です。

それこそまさに、不滅の広島の教訓なのです。

核兵器が使われれば、傍観者でいられる人は誰もいません。

核兵器廃絶を求める闘いでも、傍観者がいてはなりません。誰もが私たちの行動に加わるべきです。

誰もが得をします。ですから、誰もが加わらなければなりません。さもなければ、誰もが損をすることになります。

広島の皆さんは、先頭に立って行動を進めてこられました。

皆さんが語るお話、皆さんの精神力、そして皆さんの高い道徳観は、よりよい世界を目指す私たちの夢を育んできたのです。

私たちは世界になり代わり、皆さんに感謝の言葉を送ります。

皆さんの勇気と、平和のためのリーダーシップに感謝します。そして、国連と連携しつつ、核兵器のない世界の実現に努めるという皆さんの決意にも感謝します。

皆さん、皆さんの子どもたち、そして私たちすべてに平和が訪れますように。

ありがとうございました。