より大きな自由を求めて:すべての人のための開発、安全保障および人権(A/59/2005)
2005年03月21日
第59会期
検討項目45および55
経済、社会および関連分野における国連の主要会議およびサミット最終文書の総合的、協調的実施とフォローアップ
ミレニアム・サミット最終文書のフォローアップ
目次
- 世界的な変化という課題
- より大きな自由:安全保障、開発、人権
- 集団行動の重要性
- 決断の時
- 開発のビジョン共有
- 国家戦略
- 目標8の達成に向けて:貿易と開発資金
- 環境の持続可能性確保
- グローバルな行動が必要なその他優先課題
- 実施面での課題
- 集団安全保障のあるべき姿
- 大惨事につながるテロの予防
- 核、生物、化学兵器
- 戦争のリスク軽減と戦火拡大の抑制
- 武力行使
- 法の支配
- 人権
- 民主主義
- 総会
- 理事会
- 事務局
- システムの一貫性
- 地域機構
- 国連憲章の改正
付属
各国首脳による決定に向けて
新千年紀の到来から5年を経た今、我々は子どもたちに対し、これまでどの世代が受けついだものよりも輝かしい財産を残せる力を握っている。今後10年で地球上の貧困を半減させ、既存の主な病気の蔓延を食い止めることができる。暴力的な紛争やテロをおさえることができる。世界各地で人の尊厳の尊重を高めることができる。そして、人類がこれら崇高な目標を達成できるよう、時代にあった国際機構を作り上げることもできる。大胆に、そして一丸となって取り組めば、我々は全世界の人々がより安全に繁栄して、そして基本的人権を享受できるように改善できるのである。
その実現に向けた条件はすべて整っている。グローバルな相互依存が高まる現代に、共通の利益を正しく認識できれば、この目標追求における各国の結束力は強まろう。我々に共通の人間性も、これを突き動かす力となるはずである。また、富にあふれる現代世界には、すべての人々のために使うことさえできれば、現存する大きな貧富格差を劇的に縮められるだけの資源が存在する。困難な国際関係の時代を経て、新しい脅威と、姿を変えて現れた従来の脅威とに直面する現在、集団行動の基盤となる新たなコンセンサスを求める声が多方面で強まっている。また、国際連合がこの21世紀の課題に立ち向かうための備えと資源を確保できるよう、国連史上最大の改革敢行を望む向きも多い。
2005年は、この方向で決定的な一歩を踏み出す機会となる。世界の指導者は9月、ニューヨークに集い、2000年に全加盟国が採択した「国連ミレニアム宣言 」以降の進捗状況を審査することになっている。このサミットに向けた準備作業として、加盟国は私に対し、ミレニアム宣言の実施状況に関する包括的な報告を行うよう要請した。私は今日、謹んでこの報告を提出する。また、サミットで取り上げ、対応すべき課題も付属として提示する。
本報告書を作成するにあたっては、私の事務総長としての8年にわたる経験、私の良心と信念、そして、私自身がその原則と目的を推進する責務を負う国連憲章に対する私なりの理解を拠り所とした。また、我々が抱えるグローバルな課題に関して提示された2つの広範な検討結果からも着想を得た。そのひとつは、国連の集団安全保障体制強化を目的とする勧告の提示要請を受け、16人のメンバーによる「脅威・挑戦・変化に関するハイレベル・パネル」が私に提示した報告(A/59/565を参照)であり、もうひとつは、2015年までにミレニアム開発目標を達成するための行動計画策定を目指し、ミレニアム・プロジェクトに取り組んだ専門家250人からの提言である。
本報告書で私は、進展が必要であるか望ましい分野すべてに手を広げたいという誘惑に抗した。検討項目は、対策が極めて重要、かつ今後数カ月で実現可能と考えられるもののみに絞られている。これらの改革は手の届く範囲にある。つまり、必要な政治的意思を集められれば、直ちに実行可能な改革といえる。ごくわずかな例外を除き、9月のサミットではこの改革が最優先議題となる。これ以外にも、他のフォーラムで他の機会に検討が必要な課題も多くある。そしてもちろん、本書で提示した提言はいずれも、長きにわたって地域的、世界的安定を脅かしている紛争の解決に向けた緊急行動を今年に限って猶予するものではない。
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A.世界的な変化という課題
世界の指導者はミレニアム宣言で、人類が今後、平和、安全、軍縮、人権、民主主義、良い統治に向け、目に見える前進を遂げられるだろうという確信を示した。そして、合意済みの目標を2015年までに達成するため、開発のためのグローバルな連携を求めた。また、弱者を守り、アフリカの特殊なニーズに取り組むことも誓った。さらに、我々に共通の未来の形成に向け、国際連合が積極的に関与する必要は高まりこそすれ、減少することはないとの認識で一致した。
それから5年を経た今、私は、ミレニアム宣言の実施状況をひとつひとつ報告してみたところで、さらに大きな点が置き去りにされるのではないかと感じている。それはすなわち、新たな状況の出現により、我々には、主要な挑戦と優先課題に関するコンセンサスを再活性化し、これを集団行動に移すことが求められているという点である。
ミレニアム宣言の採択後、このようなアプローチを否応なく迫る事態が多く発生した。2001年9月11日のおぞましい同時多発テロを境に、非国家主体、すなわちテロリストの小さなネットワークは、最も強大な国々をも震撼させている。その一方で、世界における著しい力の不均衡こそが、不安の根源だと感じる国々も多くなってきた。重要課題について大国間に見られた亀裂は、最終目標と到達方法に関するコンセンサスの欠如を露呈させた。その一方で、暴力的な紛争に苦しむ国々は40を超える。1,100万人から1,200万人に及ぶ全世界の難民の中には、戦争犯罪や人道に対する罪の犠牲となっている者もいる。さらに国内避難民の数は現在、およそ2,500万人に達しており、そのほぼ3分の1には国際連合の援助が届いていない。
これとは趣を異にする暴力によって引き裂かれ、空洞化している国々も多い。現代世界の疫病といえるHIV/エイズで命を失った男女と子どもは2,000万人を超え、感染者数も4,000万人を突破した。多くの人々にとって、ミレニアム開発目標は依然として絵に描いた餅に等しい。1日1ドル未満の極貧ライン以下で生活する人々は、今でも10億人を超えるだけでなく、毎日2万人が貧困で死亡している。世界の富は全体として増えているが、国家間、地域間、そして全世界における分配はますます不平等になっている。一部の国々では、目標のいくつかに関して実質的な進展が見られてはいるものの、2015年までの目標達成に向けて十分な策を講じている政府は先進国、開発途上国ともに、あまりにも少ない。また、移住や気候変動など、多様な問題について重要な作業が続いているものの、このような長期的課題の規模は、従来の集団行動で取り組むにはあまりにも大きすぎる。
近年の出来事により、国際連合自身に対する世論の信頼も揺らいでいるが、その原因は見る人によって正反対である。例えばイラク戦争に関する議論では、一方の側はその決議を執行できないことにより、もう一方の側は時期尚早または不必要な戦争を止められなかったことにより、ともに国連に幻滅を感じている。それでも、国際連合を批判する人々のほとんどは、国連が我々の世界にとってかけがえのない存在と考えるからこそ、あえて批判を行っている。国連に対する信頼が揺らぐものの、実効的な多国間主義の重要性に対する確信は高まっている。
これまでの5年間に、悪いニュースしかなかったなどというつもりはない。それどころか、2001年9月11日の同時多発テロを受けた世界の強い結束から、数多くの内戦解決に至るまで、また、開発資金の大幅増から、一部の戦災地域で見られる平和構築と民主化の着実な前進に至るまで、集団行動が実質的成果をあげられることを実証する例には事欠かない。我々は決して絶望すべきでない。我々は解決できない問題を抱えているわけではないのである。しかし、不完全な成果に満足することも、露呈した欠点に付け焼き刃的に対応することもしてはならない。我々はその代わりに、大々的な変革が達成できるよう、力を合わせねばならないのである。
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B.より大きな自由:安全保障、開発、人権
我々は、世界各地の人々のニーズと期待を指針とせねばならない。私はミレニアム報告書『われら人民』(A/54/2000)で、国際連合憲章冒頭の文言を用い、国際連合が主権国家の組織でありながらも、人々のニーズを満たすために存在し、また最終的にはこれに応えねばならないことを指摘した。私が8年前、はじめて事務総長に選出された際に述べたとおり、我々は「開発、自由、平和の三角形を完成させる」ことを目指さねばならないのである。
国連憲章の起草者たちは、このことをはっきりと見抜いていた。戦争の惨劇から将来の世代を救うことを定めた段階で、起草者たちは、幅広い基盤がなければこの試みは成功しえないことを理解していた。だからこそ、基本的人権の尊重を確保し、正義と法の支配を維持できる条件を整備し、「一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進する」ための組織の創設を決定したのである。
私が本報告書に「より大きな自由を求めて」というタイトルを付けたのは、国際連合憲章が今でも妥当であることを強調するとともに、男女を問わず、各個人の生活において憲章の目的を推し進めねばならないことを強調するためでもある。より大きな自由という概念はまた、安全保障、開発、人権が三位一体であるという考え方も内包している。
読み書きができず、エイズに感染し、飢餓すれすれの生活を送る青年は、統治者を選ぶことができたとしても、真に自由だとはいえない。同じく、日々の暴力におびえながら生活し、自国の統治に口を出せない女性は、生計を立てるのに十分な稼ぎがあったとしても、真に自由とはいえない。より大きな自由とは、すべての個人が差別や処罰を受けることなしに、発言、信仰、結社の自由を享受できる社会の中で、男女がどこでも、自らの同意により、法に従って統治を受ける権利を有することを意味する。また、極端な貧困や感染症という死刑判決を逃れられるよう、貧困からの自由を得るとともに、暴力や戦争で生活と生計を破壊されないよう、恐怖からの自由も享受できねばならない。事実、すべての人々には安全と開発を手にする権利がある。
安全保障、開発、人権はいずれも不可欠なだけでなく、お互いを補強する存在でもある。急速な技術進歩、経済的な相互依存の強化、グローバル化、そして劇的な地政学的変化を特徴とする現代において、この関係は強まる一方である。貧困と人権の否定が内戦やテロ、組織犯罪の「原因」であるとはいえないかもしれないが、それによって情勢不安や暴力の危険性が高まることは事実である。同様に、諸国が貧困に陥る理由を戦争と残虐行為のみに求めることは決してできないが、これらが開発を妨げることは間違いない。また、豊かな国で金融の中枢が攻撃されるなど、地球のどこかで破壊的なテロが生じれば、経済が一気に停滞し、多くの人々が貧困に陥るため、その反対側に暮らす数百万人の開発見通しにも影響が出かねない。そして、統治が行き届き、国民の人権を尊重する国々は、紛争という恐怖を回避し、開発への障害を克服できる可能性も高いのである。
従って、安全保障なしに開発はあり得ず、開発なしに安全保障は享受できないばかりか、人権の尊重がなければ、そのどちらも手に入らない。この3つの目標すべてに向かって進まなければ、どれも達成することはできないのである。新千年紀を迎えた国際連合は、どのような暮らしをしたいのかを選択する自由、このような選択を意味あるものにするための資源へのアクセス、そして、平和の中でこれらの享受を確保するための安全を、すべての人々に保障できるような世界の実現に向け、歩を進めねばならない。
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C.集団行動の重要性
脅威と課題が相互に絡み合う世界では、これらすべてに効果的に取り組むことが各国にとって利益となる。よって、より大きな自由に向けた前進は、国家間の広く深い持続的な協力がグローバルに展開されてはじめて可能になる。このような協力を行うためには、各国がそれぞれの政策で、自国民のニーズだけでなく、他国民のニーズも考慮に入れねばならない。この種の協力は、あらゆる人々の利益にかなうだけでなく、我々に共通の人間性を認識するものでもある。
本報告書に盛り込まれた提言は、国家を強化するとともに、各国が共有された原則と優先課題、すなわち-国際連合の存在理由それ自体-を基盤とした連携を通じ、自国民によりよく奉仕できるようにすることを目的とする。主権国家は、国際システムの根本的で不可欠な基盤である。国民の権利を保障し、犯罪、暴力、侵略から国民を守り、法に基づき個人の繁栄と社会の発展を可能にする自由の枠組みを提供する義務は、各主権国家にある。国家が弱ければ、世界中の人々が安全、開発、正義を権利として享受できなくなる。よって、すべての国家を強化し、直面する多くの問題に取り組めるようにすることは、新千年紀の重要な課題のひとつといえる。
しかし、国家だけでこの任務が果たせるわけではない。能動的な市民社会と活力ある民間セクターも必要である。これらはともに、かつては国家だけのものとされていた分野でますます大きく重要な役割を果たすようになっており、本書で概略を示す目標も、その全面的な関与なしには達成できない。
また、集団行動を結集、調整するためには、機動力と実効性を備えた地域的・世界的政府間機構も必要である。安全、開発、人権の問題に取り組む職務権限を与えられた世界で唯一の普遍的機関として、国際連合は特殊な責任を担っている。グローバル化によって世界各国の距離が縮まり、この3つの問題が相互の関連性をますます強める中で、国際連合の比較優位は一層明らかになっている。しかしその一方で、国連の実質的な弱点もいくつか露呈してきた。基本的な管理実践を徹底的に見直し、より透明、効率的かつ実効的な国際連合システムを作り上げることから、今日の世界を反映し、本書で提示した優先課題に取り組めるよう、国連の主要な政府間機構を刷新することに至るまで、我々はこれまでに想像もしなかったやり方で、かつ、これまでに見られなかった大胆さとスピードをもって、国連の変革を図らねばならないのである。
国家、市民社会、民間セクターおよび国際機構による貢献を高め、より大きな自由というビジョンに向けて邁進するための取り組みの一環として、我々は、すべての関係者が確実に有言実行の責任を担うようにせねばならない。そのためには、責任をしっかりと問えるような新しいメカニズムが必要である。ここでいう責任とは、各国が自国民に対して、各国が相互に対して、国際機構がその構成員に対して、そして現在の世代が将来の世代に対して担う責任にほかならない。責任を問えるようになれば、我々は前進を遂げるだろう。逆にそれがなければ、満足な結果は出せないだろう。2005年9月に予定されるサミットの本題は、信義誠実である。
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D.決断の時
この歴史を左右しかねない大事な時に、我々は野心的でなければならない。必要性と同じくらいの緊急性と規模を備えた行動が必要である。差し迫った危険には直ちに対処せねばならない。グローバルな経済と社会の開発を促す方法について、前例を見ないコンセンサスが得られていることを活用し、新たな脅威にどう対処すべきかについても、新たなコンセンサスを作り上げねばならない。安全上の喫緊の課題に対処するとともに、2015年までにグローバルな貧困との闘いで決定的な勝利を収めるためには、今の時点で決定的な行動がどうしても必要である。
しかし今日の世界では、いかなる強国といえども、独力で自衛することはできない。同様に大国、小国に関係なく、いかなる国も真空状態の中で繁栄を実現することもできない。我々は力を合わせることができる。また、そうせねばならない。我々は互いに対してそうすべきであり、また、我々がどのように取り組んでいるかを相互に説明せねばならない。この相互に対する約束を守ることができれば、我々は新千年紀をその名にふさわしいものとできよう。
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過去25年の間に、これまで世界がみることのなかった極貧状態の最も劇的な減少が見られた。中国とインドでの前進を筆頭に、文字どおり全世界で数億人の男女と子どもが、極端な貧困という重荷から解放され、食糧や保健医療、教育、住宅を多く享受できるようになってきた。
ところが、それと同時に、数十カ国では貧困がさらに進み、破壊的な経済危機で数百万世帯が貧困に陥っただけでなく、世界の大部分で格差が拡大し、経済成長の恩恵が平等に行き渡らないという事態も生じている。現在でも、世界人口の6人に1人にあたる10億人以上が1日1ドル未満での生活を強いられ、慢性的な飢餓や病気、環境災害に直面したとき生きのびる手段を欠いている。つまり、貧困は人を殺している。蚊帳も1ドルの治療費も持たない子どもにとっては、マラリア蚊の一刺しでさえ致命傷となる。干ばつや病害虫で不作が生じれば、最低限の生活もたちまち飢餓へと様相を変える。毎年1,100万人の子どもが5歳の誕生日を迎える前に命を落とし、300万人がエイズで死亡するような世界は、より大きな自由の世界とはいえない。
これまで数世紀にわたり、このような貧困は人間にとって悲しくも避けがたい現実と見なされてきた。現在、この考え方は知的にも道徳的にも到底受け入れることはできない。世界各地域の諸国が見せた前進の規模と範囲を見れば、貧困や母子死亡率を短期間で劇的に減らす一方で、教育や男女平等といった開発側面を劇的に促進できることは明白である。以前には存在しなかった資源と技術を組み合わせて利用できるようになったことを考えれば、我々は実質的に、「発展の権利をあらゆる人々にとって現実のものとし、人類全体を欠乏から解放する」という、ミレニアム宣言ですべての国が行った公約を果たすための手段、知識、資源を与えられた初の世代ということができる。
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A.開発のビジョン共有
開発課題は多面的であり、ジェンダーの平等から健康と教育、さらには環境に至るまで、極めて幅広い相互に関係性をもった問題に絡んでくる。1990年代に開かれた歴史的な国際連合の会議やサミットは、開発目標の共有という広範なビジョンを描き出すことにより、このような連関を軸とする包括的な規範的枠組みをはじめて作り上げることに役立った。これを土台として開かれたミレニアム・サミットでは、いずれも2015年を期限として、極端な貧困の半減から初等教育の全面普及に至るまで、これらの分野全体をカバーする一連の時間的目標が定められ、これが後にミレニアム開発目標(Box 1を参照)として具体化したのである。
Box 1
ミレニアム開発目標
目標1
極端な貧困と飢餓を解消する
具体的目標1
1990年から2015年までに、1日の所得が1ドル未満の人々の割合を半減させる。
具体的目標2
1990年から2015年までに、飢餓に苦しむ人々の割合を半減させる。
目標2
初等教育を完全に普及させる
具体的目標3
2015年までに、男女を問わず、あらゆる子どもたちが各地で初等教育を修了できるようにする。
目標3
男女平等と女性のエンパワーメントを図る
具体的目標4
できれば2005年までに初等教育と中等教育で、少なくとも2015年までに全教育レベルで、男女の格差を解消する。
目標4
幼児死亡率を低下させる
具体的目標5
1990年から2015年までに、5歳未満の幼児死亡率を3分の2引き下げる。
目標5
妊産婦の健康状態を改善する
具体的目標6
1990年から2015年までに、妊産婦死亡率を4分の3引き下げる。
目標6
HIV/エイズ、マラリアなどの病気と闘う
具体的目標7
2015年までにHIV/エイズの蔓延を食い止め、後退させる。
具体的目標8
2015年までに、マラリアその他の病気の蔓延を食い止め、後退させる。
目標7
環境の持続可能性を確保する
具体的目標9
各国の政策と計画に持続可能な開発の諸原則を取り入れ、環境資源の損失を逆転させる。
具体的目標10
2015年までに、安全な飲み水と基本的な衛生設備を持続可能な形で利用できない人々の割合を半減させる。
具体的目標11
2020年までに、少なくともスラム住民1億人以上の生活を大幅に改善する。
目標8
開発のためのグローバル・パートナーシップを構築する
具体的目標12
開放的でルールに基づいた、予測可能で非差別的な貿易・金融システムをさらに発展させる(国内的にも国際的にも、良い統治、開発および貧困削減を目指す公約を含む)。
具体的目標13
後発開発途上国の特殊なニーズに取り組む(後発開発途上国の輸出品に対する関税のないかつ無制限のアクセス承認、重債務貧困国向けの債務救済プログラム強化と公的二国間債務の帳消し、および、貧困削減に真剣に取り組む国々へのさらに寛大なODA供与を含む)。
具体的目標14
陸封国と小島嶼開発途上国の特殊なニーズに取り組む(「小島嶼開発途上国の持続可能な開発のための行動計画」および第22回国連特別総会の最終文書を通じて)。
具体的目標15
長期的に債務に持ちこたえられるようにするため、国内的・国際的措置を通じ、開発途上国の債務問題に包括的に取り組む。
具体的目標16
開発途上国との協力により、若者に一定水準の生産的雇用を確保するための戦略を策定、実施する。
具体的目標17
製薬会社との協力により、開発途上国で必須医薬品を安価に提供する。
具体的目標18
民間との協力により、とりわけ情報および通信技術といった先端技術の恩恵を広める。
世界の最貧層のニーズに対する前例を見ない取り組みを活性化させたミレニアム開発目標は、より幅広い前進を測る尺度として、全世界のドナー(援助供与国)、開発途上国、市民社会、開発援助機関から一様に受け入れられた。よって、ミレニアム開発目標は、さしせまった、グローバルに共有、支持された一連の優先課題を反映したもので、2005年9月のサミットでは、これに取り組むことが必要となる。ミレニアム・プロジェクトは2005年1月、私宛に報告書『開発への投資:ミレニアム開発目標達成のための具体的計画 』を提出したが、この作業により、目標達成に向けた行動計画が出来上がった。また、そのために不可欠な要素である政治的意思が生まれつつあるという、心強い兆候も見られる。しかし、真の意味での成否は、先進国、途上国双方によるこの課題への広範な取り組みが、ここ数年のうちに開発援助総額の少なくとも倍増という形で現れるかどうかにかかっている。なぜなら、この要素は目的達成を助ける上で必要だからである。
同時に我々は、さらに大きな開発課題の一環としてミレニアム開発目標を捉えねばならない。これらの目標は、国際連合の内外で盛んなフォローアップ活動の対象となってはいるが、それだけで開発課題すべてを表しているものではないことは明らかである。1990年代の諸会議で検討対象とされたさらに幅広い課題の中には、ミレニアム開発目標に直接取り入れられていないものもある。また、中所得開発途上国の特殊なニーズにも、格差拡大、さらに幅広い人間開発、良い統治といった次元の問題にも取り組めていない。こうした課題に取り組むためには、いずれも会議最終文書の実効的な履行が必要とされる。
とはいえ、ミレニアム開発目標達成の緊急性は、いくら強調しても足りない。多くの分野で進展が見られてはいるものの、全体的に見れば、世界、特に最貧国は必要な成果をあげられていない(Box 2を参照)。ミレニアム・プロジェクト報告書が明らかにしているとおり、我々の目標はほとんどの国々、さらに突き詰めていえばすべての国々で、引き続き達成可能ではあるが、そのためには、これまでのやり方を改め、2015年まで行動を劇的に加速、拡大せねばならない。特に今後1年間の努力が鍵となる。目標を達成するには、今から期限までの10年間全体を通じ、持続的な行動が必要となろう。なぜなら、開発の成果は一夜にして現れないばかりか、多くの国々では能力に大きな制約が見られるからである。教員や看護師、エンジニアを養成し、道路や学校、病院を建設し、必要な雇用と所得を創出できる大小の企業を育成するには、どうしても時間がかかる。
ミレニアム開発目標達成に向けた進捗状況
ミレニアム開発目標に向けた進捗度には、世界各地で大きな差が見られる。最も大きな改善が見られた東アジアと南アジアでは、1990年以降だけをとってみても、2億人が貧困から脱出した。それでもアジアでは、世界の最貧層のほぼ3分の2にあたる7億人近くが、1日1ドル未満での生活を強いられる一方で、最も急速な成長を遂げている国々の中でも、環境の保護や妊産婦死亡率の引き下げなど、所得以外の目標で立ち遅れが出るケースが見られる。危機の中心にあるサハラ以南アフリカでは、一部の国々で大きな進展が見られるものの、食糧不安、極めて高い母子死亡率、スラム住民の増大、極端な貧困の増加傾向が続き、ほとんどの目標について大きな遅れが生じている。格差拡大にしばしばみまわれているラテンアメリカ、経済体制移行国および中東・北アフリカでは、成果が一様でなく、進捗状況にも大きな違いが見られるが、全般的傾向としては、2015年の期限前の目標達成に必要な成果は見られない。
進捗状況は目標によっても異なる。サハラ以南アフリカとオセアニアは、ほとんどすべての分野で立ち遅れているが、その他の地域では、飢餓の削減、飲み水へのアクセス拡大、小学校の就学者数増大という点で、大きな進展が見られている。幼児死亡率も全般的に低下しているが、前進が減速してきた地域も多いほか、中央アジアの一部では再び上昇を見せている。一方、衛生設備へのアクセスについては、一部の国々で大幅な前進が見られるものの、全体として目標達成には不十分である。特にアフリカとアジアでは、スラム住民の数も急増している。妊産婦死亡率は開発途上地域全体で、容認しがたいほど高い状態が続いている。HIV/エイズ、結核およびマラリアの罹患率と感染率についても同様である。ジェンダーの平等も達成できておらず、2005年までに教育面での平等を目指す目標を達成できていない国が多い。あらゆる開発途上地域では、環境破壊が重大問題化している。
2005年には、豊かな国と貧しい国のグローバル・パートナーシップ(それ自体、第8のミレニアム開発目標であり、3年前にメキシコのモンテレーで開かれた開発資金国際会議と、南アフリカのヨハネスブルクで開かれた持続可能な開発に関する世界サミットでも再確認、検討済み)を実現せねばならない。この歴史的取り決めの規定は想起に値しよう。各々の開発途上国は、ガバナンスを強化し、汚職と闘い、民間主導型の成長促進と国家開発戦略の財源として利用できる国内資源の極大化を図るための政策と投資を導入することで、自国の開発に一義的責任を負う。一方、先進国は透明で信頼でき、適正なコストを伴う開発戦略を採用する開発途上国が、開発援助の増額、より開発を重視する貿易システム、および債務救済の拡大と増額という形で、必要な全面的支援を得られるようにすることを約束する。これらはすべて公約済みであるが、実行されていない。その失敗のバロメータは死者数で、それは毎年数百万人ずつ増えているのである。
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B.国家戦略
不利な地理条件から劣悪な、または腐敗したガバナンス(疎外されたコミュニティの軽視を含む)をとおした有害な状況から、紛争による破壊からその後遺症に至るまで、極端な貧困の原因は数多い。特に最貧国の多くは、誠実で献身的な政権のもとでさえ、極貧の悪循環に苦しまねばならないという、致命的な貧困の罠にはまっている。これらの国々は基本的なインフラ、人材、行政能力を欠き、病気、環境破壊、限られた天然資源という重荷を負っているため、持続的で焦点を絞った支援を外部から得られない限り、新たな繁栄への道を歩む余裕などないのである。
こうした問題への取り組みに向けた第一歩として、各国は、少なくともミレニアム開発目標の数値目標達成に向けた投資増額を図るため、今後10年間について大胆な目標重視型の政策枠組みを採用する必要がある。よって、極端な貧困を抱える開発途上国はそれぞれ2006年までに、2015年を期限とするミレニアム開発目標を達成できるような大胆な国家開発戦略を採択し、その実施に踏み切るべきである。この戦略は公共投資、能力育成、国内の資源動員、さらには必要な場合、政府開発援助(ODA)の実質的な拡充に根ざしたものとすべきである。この勧告に新鮮味はないかもしれないが、実際の行動を野心的かつ監視可能な具体的目標から派生するニーズと直接に結びつければ、その実施は貧困の撲滅のたたかいをさらに大胆で責任あるものとして根本的に重要な突破口となろう。
これには新たな手段の構築が何ら必要ないことを強調しておくべきだろう。必要なのは、既存の手段の設計と実施に対するアプローチの変更だけである。貧困削減戦略書(各国が独自に策定する3カ年歳出枠組みで、世界銀行をはじめとする国際開発金融機関との合意が得られているもの)を作成済みの国々は、ミレニアム開発目標の達成と矛盾しない10カ年政策・投資枠組みとの整合を図るべきである。すでに目標が達成できそうな中所得国やその他の国々の政府は、さらに大胆な具体的目標を掲げる「ミレニアム開発目標プラス」戦略を採用すべきである。
行動に向けた枠組み
ミレニアム開発目標達成に向けた投資戦略を机上でいかにうまく作り上げようとも、法の支配に根ざし、市民的・政治的権利と経済的・社会的権利の両方を取り込み、責任のある効率的な行政に裏打ちされた透明で責任ある統治・システムを備えた国家による支えがない限り、それが実際に機能することはあり得ない。多くの最貧国が必要なインフラを整備、維持し、有能な人材を養成、採用するためには、多額の能力育成投資が必要となろう。しかし、たとえ強力な制度機構に加え、汚職やずさんな管理が明るみに出るごとに、これらをすべて根絶するという明確な決意があったとしても、良い統治がない限り、さらに幅広い進展はなかなか達成できないだろう。
同様に、雇用の創出、所得および税収の創出ができる健全な民間セクターを支える積極的な成長志向の経済政策がない限り、持続可能な経済成長はあり得ない。そのためには、人材はもとより、エネルギー、輸送、通信などの開発志向インフラへの投資も大幅に増やす必要がある。また、中小企業については、契約や財産権を定義、保護する実効的な商法、腐敗を抑制し、取り締まる合理的な行政、少額融資を含む金融資本へのアクセス拡大など、有利な法規制環境が必要である。昨年、グローバル化の社会的側面に関する世界委員会3および民間セクターと開発に関する委員会3という2つの重要な委員会が私に報告したとおり、とりわけ女性と若者の貧困層の所得創出とエンパワーメントの両方につながる一定水準の雇用を提供するためには、こうした施策が欠かせない。
このプロセスを前進させて「貧困を過去のもの」とするために、市民団体の果たす役割は極めて大きい。市民社会は、ミレニアム開発目標によって必要とされる規模で貧困層にサービスを提供する際に、不可欠なパートナーとなるばかりでなく、裾野の広い運動を展開し、草の根から指導者に約束を守る責任を果たす圧力をかけることにより、各国国内で喫緊の開発課題に取り組む行動を触発することができる。国際的にも、一部の市民団体は特定の問題に関するグローバル・パートナーシップの創設や強化に貢献したり、先住民族をはじめとする疎外された集団の窮状を訴え、これに関心を引きつけたりすることができる。また、コミュニティの交流や政府への技術的支援と助言を通じ、国際的な模範例の共有に貢献できる市民団体もある。
国内の投資面、政策面の優先課題
各国の戦略では、ミレニアム開発目標に直接に取り組み、民間主導型の成長基盤を整備する7つの幅広い公共投資・政策「問題群」を考慮する必要がある。ミレニアム・プロジェクトでも詳しく検討されたとおり、ミレニアム開発目標や、さらに幅広い開発ニーズを充足するためには、これらすべての要素が不可欠である。
ジェンダーの平等:広範なジェンダー偏見を克服する
エンパワーメントを受けた女性は、開発推進の主力となる。ジェンダーの平等を目指す直接的施策としては、小学校を卒業し、中学へと進学できる女児を増やすこと、女性の安定した財産保有権を確保すること、性と生殖に関する保健サービスを利用できるようにすること、労働市場への平等なアクセスを促進すること、政府の政策決定機関に参加できる機会を与えること、女性を暴力から守ることなどがあげられる。
環境:資源管理の改善に投資する
各国は特に、森林の再生、統合型水資源管理、生態系保全、汚染緩和などの優先課題に関し、期限付きの環境目標を導入すべきである。こうした目標を達成するためには、環境マネジメントへの投資増額だけでなく、幅広い政策改革も必要となる。取り組みの進展は、部門別戦略-環境面のセーフガードを盛り込んだ農業、インフラ、林業、漁業、エネルギー、輸送などの分野-に左右される。また、貧困を削減する上でも、環境を保護する上でも、近代的なエネルギー・サービスを広く利用できるようにすることが極めて重要である。さらに、安全な飲み水と衛生設備へのアクセス拡大を必ず開発戦略に盛り込む必要もある。
農村開発:食糧生産と所得を増大する
貧しい農村地域に暮らす小自作農などの人々には、土壌養分、作物の品種改良、水管理の改善、環境面で持続可能な近代的営農実践の訓練とともに、輸送手段、水資源、衛生設備、近代的エネルギー・サービスへのアクセスも必要である。サハラ以南アフリカでは、これらの要素を一本化し、2005年から直ちに21世紀版「アフリカ緑の革命」に着手せねばならない。
都市開発:雇用を促進し、スラムを改善し、スラム形成に代わる道を開く
さらに増大を続ける膨大な都市貧困層にとっては、エネルギー、輸送、汚染防止、ゴミ処理などの中核的基盤サービスに加え、土地保有権の安定化と、一定水準の住宅建設や都市計画を支援するコミュニティ主導型の取り組みも必要である。そのためには、地方自治体を強化し、都市貧困層の団体との関係を緊密化する必要がある。
保健システム:不可欠なサービスを全員が利用できるようにする
母子の健康増進やリプロダクティブ・ヘルスの支援、エイズ、結核、マラリアなど致命的な病気の予防(Box 3を参照)を図るサービスを含め、基本的保健サービスをすべての人々が利用できるようにするためには、しっかりとした保健システムが欠かせない。そのためには十分な投資、動機づけされた、十分な給与を支給された多数の保健医療従事者、インフラと備品の整備、厳格な管理体制および自己負担の廃止が必要である。
教育:初等教育を完全に普及し、中等・高等教育を拡充する
あらゆるレベルで教育を推進するためには、親やコミュニティが学校の責任を問えるようにすべきである。その一方で、政府はカリキュラム、教育の質と授業方法の改善、必要に応じた人材とインフラ能力の育成、および、教育の無償化を含め、弱者層の子どもを学校に通わせるための誘因の導入を図らねばならない。
科学技術と革新:国内能力の育成
情報通信技術を含め、各国独自の科学技術能力を高めるためには、政府が学術諮問機関を設置し、技術学習の機会としてのインフラ整備を促進し、理工系の学部を拡充し、科学技術カリキュラムで開発と実用化を重視すべきである。
HIV/エイズの悲劇
HIV/エイズの蔓延による死者は今では年間300万人を超え、人間開発と人間の安全保障にとって未曾有の脅威となっている。数百万の家庭が崩壊し、数千万人の孤児も生まれている。エイズは単なる公衆衛生危機の域を超え、保健、教育、農業、社会福祉のシステムに壊滅的な打撃を与えることで、経済と社会の安定を根底から損なう。経済成長にとって大きな足かせとなるばかりか、統治や治安機構も弱体化させるという点で、その脅威は計り知れない。
エイズ禍には特殊な対応が必要である。治癒の方法が見つからない中で、エイズを後退させる手段は、社会各層の大がかりな動員を置いて他にないが、このような取り組みは公衆安全史上、まったく前例がない。そのためには予防、教育、治療、影響軽減を目指す包括的なプログラムが必要である。しかし、真に部門横断的なエイズ対策を支援、指導するという個人的な決意が各国首脳に欠けていれば、このようなプログラムを導入しても成果は望めない。
2000年以来、世界のエイズ対策はある程度の成果をあげつつある。エイズ対策を戦略的優先課題に据え、これを指導、調整するための総合的行政機構を設ける政府も増えてきた。私が2001年に設置を求めた「HIV/エイズ、結核およびマラリア対策のためのグローバル基金」は、こうしたグローバルな取り組みにおいて主導的役割を果たすとともに、他の致命的感染症にも集中的な対策を講じるまでになった。抗レトロウイルス治療を受けている開発途上国の人々は、2004年12月時点で計70万人に達しているが、その数はほんの5カ月間で6割も増えている。この事実は、国際社会が治療の急速な拡大を優先課題としていることだけでなく、ほんの短期間で実質的な成果が得られることも如実に示している。
しかし、HIV感染率を引き下げ、今後10年間で必要な人々すべてに適切な抗レトロウイルス治療を施すことを現実的な目標とするためには、さらに多くの課題が残っている。エイズという病気とこれに対する偏見に公の取り組みを行っていなかったり、男女平等の問題について、必要とされる率直な議論や行動に着手するという十分な決意を備えていなかったりする政府も依然として多い。特にエイズ対策資金は、十分に裾野の広い対応策を講じるにはまったく不十分な状態が続いている。各国政府と多国間・二国間ドナーは今こそ、こうしたコストを負担する策を講じなければならない。
4年前、私は国際社会に対し、開発途上国で見込まれるHIV/エイズ対策のニーズに取り組むため、年間70億ドルから100億ドルを拠出するよう呼びかけた。その全額が拠出されるまでには至っていない。その間にもエイズの蔓延は続いているため、必要な資金と拠出額とのギャップは広がる一方である。この現状は放置できない。予防と治療の双方について、さらに野心的でバランスのとれた戦略が必要である。よって、私は国際社会に対し、国際連合合同エイズ計画(UNAIDS)とそのパートナーが明らかにしたところに従い、さらに広範かつ包括的なHIV/エイズ対策に必要な資金を早急に拠出し、HIV/エイズ、結核およびマラリア対策のためのグローバル基金に対する十分な拠出を確保するよう呼びかける。
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C.目標8の達成に向けて:貿易と開発資金
多くの中所得国と一部の低所得国は、歳入の配分を見直し、税金、民間投資を借入で補強する形で、これら戦略に必要な資金の大半を国内で調達することができる。また、そうすべきでもある。しかし、大半の低所得国とほとんどすべての後発開発途上国では、このような取り組みでできる限りの資金を調達しても、ミレニアム開発目標の達成に必要な金額には到底及ばないだろう。ミレニアム・プロジェクトによると、典型的な低所得国では、ミレニアム開発目標達成のための投資コストだけでも、2006年に1人あたりおよそ75ドルに上るが、これが2015年には約140ドル(不変ドルベース)に跳ね上がると見られる。その額自体は少ないものの、1人あたり年収の3分の1から半分にも及ぶため、ほとんどの低所得国には実現不可能な数字である。これら諸国が民間投資増大の条件を整備し、長期的な援助からの「脱却戦略」を作り上げるためには、開発援助による大きな後押しが必要である。
援助
近年の最も有望な動きとして、1990年代を通じて減少を続けていた政府開発援助(ODA)が増大に転じたことがあげられる。全世界のODA総額は現在、先進国のGNP比で0.25%に上るが、この数字は、2002年のモンテレー合意で再確認された従来の目標値0.7%5はおろか、1980年代後半の0.33%にさえはるかに及ばない。一部ドナーが最近になって公約した将来の拠出増額によれば、年間のODAフローは2010年までに約1,000億ドルに達するはずである。この額はモンテレー会議当時と比べればほぼ2倍に上るが、その多くはネットの長期資金供与ではなく、債務の帳消しやドルの下落によるものである。いずれにせよ、この総額は、ミレニアム・プロジェクトがミレニアム開発目標の達成に必要と試算するODA水準を約500億ドル下回る。より幅広い開発優先課題に取り組むには、さらに多くの資金が必要であることはいうまでもない。
幸いにも、さらなる進展の兆候は見られる。欧州連合(EU)の新加盟国やブラジル、中国、インドなどの比較的豊かな開発途上国など、新たなドナー・グループが台頭してきたからである。これら諸国はいずれも、技術協力を通じて他の開発途上国に専門的知識を移転することが多くなっている。0.7%の目標値を達成したドナー国は5カ国あるほか、さらに6カ国が最近、その達成に向けたスケジュールを設定している。2015年までに総国民所得の0.7%をODAにあてるという目標達成に向けたスケジュールを設定していない先進国は、これを定め、手始めに2006年までに大幅な増額と、2009年までに0.5%の暫定目標達成を図るべきである。
多くの開発途上国に能力面での制約があることは明らかなため、準備のできた国々が直ちに援助の増額を受けられるようにせねばならない。2005年より、健全かつ透明で責任ある国家戦略を定め、開発援助の増額を必要としている途上国は、ミレニアム開発目標を達成できるよう、十分な質と十分スピードで十分な援助増額を受けるべきである。
ODAを量的に増大する最も直接的な方法は、援助国の国家予算のうち、援助に充当する割合を増やすことである。しかし、ミレニアム開発目標を達成するためには、今後数年間でODA総額の急増が必要となるため、短期、中期的に資金需要を満たす方法を模索する価値はあろう。より長期的にODAを補完する資金源について、革新的アイデアがいくつか出されており、その一部については、ブラジル、チリ、フランス、ドイツ、スペインの主導による重要なイニシアティブが検討を加えているところである。しかし、今すぐに必要なのは、当面の援助増額を賄う資金を確保するメカニズムである。提案中の国際金融ファシリティは、既存の資金供与経路を利用しつつ、将来のODAフローを「前倒し」することで、その実現を図るものである。国際社会は2005年中に、当面のODAの前倒しを支援する国際金融ファシリティを立ち上げるとともに、これを根底から支えるため、2015年までにODAの0.7%目標を達成するという決意をさらに固めるべきである。より長期的には、国際金融ファシリティを補完するため、その他の革新的な開発資金源も検討すべきである。
これらの手段は、直ちに一連の「即効策」、すなわち、短期的に大きな利益をもたらし、数百万人の命を救える可能性のある比較的安価な、効果の大きい取り組みを支援する行動によって補完でき、また、そうすべきでもある。具体的には、マラリア予防用の蚊帳と、有効なマラリア治療薬を無償で大量に配給することから、現地で生産される食糧を用いた学校給食プログラムを拡大すること、さらには初等教育と保健サービスを無償化することに至るまで、幅広い措置があげられる。このような即効策は、各国のミレニアム開発目標戦略に不可欠な支援を提供するものとなろう。また、取り組みに急激な勢いがつき、早期に成功事例も生まれることで、ミレニアム開発目標達成に向けた決意も広がろうが、これをもってさらに長期的かつ持続的な投資に代えてはならない。
同時に、ODAの質、透明性および責任を向上させるための緊急措置も必要である。援助を行う際には、援助国の納入業者の利益ではなく、被援助国の国内戦略で明らかにされた現地のニーズと、ミレニアム開発目標の達成に関連づけられるべきである。これが開発途上国のためになることは明らかだが、先進国自身にとっても、援助が効果的に行われていることを納税者に示すというメリットがある。2005年3月のパリ援助効果向上ハイレベル・フォーラム(Paris High-level Forum on Aid Effectiveness)のフォローアップとして、援助国は2005年9月までに、それぞれの援助供与メカニズムを被援助国のミレニアム開発目標に基づく国家戦略に適応させるためのスケジュールと監視可能な具体的目標を定めるべきである。具体的な策としては、ミレニアム開発目標に基づく投資計画の実施約束、2015年という期限の設定、予測可能な多年度資金の供与、手続きの大幅簡素化、適切なメカニズムを導入した国々に対する直接財政支援などがあげられる。
債務
ODAと密接に絡み合うものとして、債務の問題がある。重債務貧困国(HIPC)イニシアティブにより、決定時点または完了時点に達した27カ国を対象に、これまで540億ドルの債務救済が約束されている。これによってミレニアム開発目標の実現に不可欠な資金が生まれるという十分な証拠はあるが、それでも必要とされる資金の全額には満たない。さらに前進を遂げるためには、ある国がミレニアム開発目標を達成でき、かつ、2015年まで債務比率の増大を抑えられる水準に、債務を持続可能なものとして定義し直すべきである。ほとんどのHIPC諸国について、これは無償資金協力のみの供与と債務全額の帳消しが必要となる水準である。また、HIPCに含まれない重債務国と中所得国の多くについても、これまでに提示された債務削減額の大幅な積み増しが必要になろう。追加的な債務帳消しは、その他の開発途上国が利用できる資金を減らさず、また、国際金融機関の長期的な財務基盤を危険にさらさないような形で行うべきである。
貿易
貿易により、ODAを通じた大規模な開発投資の必要性がなくなるわけではないが、開放的で公平な貿易システムは、特に十分な援助と組み合わせれば、成長と貧困削減の強い推進力となりうる。世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド多角的貿易交渉が開発を主眼としているのも、このためである。現状では、豊かな国々がさまざまな関税、輸入割当、補助金を用いて自国市場へのアクセスを制限し、国内生産者の保護を図っているため、開発途上国はしばしば、グローバル市場で公平な競争ができていない。2005年12月のWTO閣僚級会合はひとつの好機であり、この機会を捉えて、こうした異常な状況を是正する方策を明らかにせねばならない。先進国が市場障壁を撤廃し、特に農業分野において貿易をゆがめる国内補助金を段階的に廃止するスケジュールを確立することは、緊急優先課題のひとつである。この優先課題に取り組むため、ドーハ・ラウンド多角的貿易交渉は、開発に関する約束を充足し、2006年までに交渉妥結を図らねばならない。その第一歩として、加盟国は後発開発途上国からの全輸出品に対し、無税かつ無制限の市場アクセスを認めるべきである。
モンテレー合意は、とりわけわずかな数の一次産品に依存する最貧国の、供給サイドの問題もあり、これが輸出多様化を図る能力の欠如、価格変動に対する脆さ、交易条件の継続的悪化となって現れているという点を強調した。特に後発開発途上国、陸封開発途上国、小島嶼開発途上国の貿易競争力を育成するためには、各国のミレニアム開発目標戦略で、農業生産性の向上、貿易関連のインフラ整備、輸出産業の競争力強化への投資を強調する必要がある。こうした問題に取り組み、多様化を奨励し、商品価格の乱高下に対する脆弱性を低くするためのイニシアティブは多くあるが、これらに対する支援は、必要な水準に程遠いのが現状である。
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D.環境の持続可能性確保
人間の生存と開発は根本的に、自然のシステムと天然資源に依存する。環境破壊と天然資源の枯渇が野放しのまま続けば、貧困対策と持続可能な開発にいくら取り組んでも意味がない。各国レベルでは、国内戦略に環境マネジメント改善への投資を組み入れ、環境の持続可能性に必要な構造変革を遂行せねばならない。共有水路や森林、海洋漁業、生物多様性など、多くの環境優先課題について地域的、世界的取り組みを強化せねばならない。グローバルな解決策をどのように見いだせるかについては、すでに有望な先例がひとつある。「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書6」により、有害な放射が生じるリスクは遠のきつつあると見られるが、このことは、すべての国々が国際的に合意された枠組みの実施に断固として取り組めば、地球環境問題が管理できることを如実に物語っている。国際社会が抱える今日の重大課題のうち、特に緊急の対策を要するものは下記の3つである。
砂漠化
10億ヘクタールを超える土地の退化は、世界各地の開発に破壊的な悪影響を与えている。数百万人が自らの土地を捨てることを余儀なくされ営農や遊牧生活が持続できなくなっている。さらに、環境難民となるおそれのある人々も数億人いる。国際社会は砂漠化と闘うため、「深刻な干ばつおよび(または)砂漠化を経験している国、特にアフリカ諸国の砂漠化防止に関する国際連合条約7」を支持、履行せねばならない。
生物多様性
生物多様性の損失も懸念すべき深刻な問題であり、これは国内的にも、国内的にも先例のないスピードで進行している。この動向はそれだけでも気がかりなだけでなく、健康や生計、食糧生産、きれいな水に重大な悪影響を与え、自然災害や気候変動に対する住民の脆弱性も高める。この動きを逆転させるためには、すべての政府が個別に、また全体として生物多様性条約8や、2010年までに生物多様性損失のペースを大幅に減速させるというヨハネスブルク・サミットでの公約9を履行するための策を講じるべきである。
気候変動
気候変動を抑制し、これに対処することは、環境と開発に関する21世紀最大の課題のひとつとなろう。科学者の大多数の間では、人間の活動が気候に顕著な影響を及ぼしているとの合意が出来上がっている。18世紀半ばに産業革命が始まって以来、大気中の温室効果ガス濃度は顕著に高まり、地球温暖化は急速に進み、海水位も大きく上昇した。1990年代の10年間には、平均気温が過去最高を記録し、氷河や北極の氷が解け出した。今後100年間で温室ガス濃度はさらに上昇すると見込まれるため、これに応じて平均地表温度も上昇し、さらに大きな気候変動が生じたり、ハリケーンや干ばつなどの異常気象が頻度と激しさをともに増したりするおそれが大きい。小島嶼開発途上国、低地に暮らす住民を多く抱える沿岸国、熱帯や亜熱帯の乾燥、半乾燥地帯にある国など、こうした気候変動の影響を最も受けやすい国々は、自らを守る能力も最も低いが、その一方で、温室ガス排出総量に占める割合は最も小さい。対策を講じなければ、こうした国々は他国による行動の大きなツケを回されることになる。
2005年2月に気候変動に関する国際連合枠組条約10の1997年京都議定書11が発効したことは、地球温暖化への取り組みに向けた重要な一歩だが、その対象期間は2012年までにすぎない。国際社会はこの期限以降についても、温室効果ガス濃度の安定化を図る具体的目標に合意せねばならない。気候変動を緩和し、新たな条件への適応を促進する上で、科学の進歩と技術革新が果たす役割も重要である。これらは、必要な手段を必要な時までに開発するには、直ちに結集されねばならない。特に、再生可能なエネルギー源、炭素管理およびエネルギー効率向上のための研究開発資金を大幅に増額する必要がある。炭素取引市場などの政策メカニズムも拡充すべきである。ヨハネスブルクで合意されたとおり、気候変動や他の持続不可能な生産・消費パターンを縮小する責任は、主としてこの問題を最も助長している国々が負わねばならない。すべての主要排出国と先進国、途上国双方のさらに幅広い参加により、2012年以降についても、技術革新によるものを含め、差異ある共通の責任という原則を考慮しつつ、気候変動の軽減に向けたグローバルに定められた協調的行動を確保するため、より裾野の広い国際的枠組みを開発せねばならない。
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E.グローバルな行動が必要なその他優先課題
さらに幅広い開発ニーズに取り組むためには、下記のようなその他多くの分野でも対策を講じる必要がある。
感染症の監視
新たな感染症への国際的な対応は、衝撃的なほど遅く、依然として恥ずべきほどの資源不足の状態にある。極めて有効な予防・治療措置が利用できるにもかかわらず、マラリアは熱帯地方で猛威を振るい続けている。HIV/エイズや結核をはじめ、開発途上国で蔓延している感染症の中には、特に薬剤耐性がついていることで、世界全体に深刻なリスクをもたらすものが多い。既存、新規を問わず、感染症には協調的な国際対応が必要である。2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行したことで、長距離航空便の所要時間が多くの感染症の潜伏期間よりも短く、国際便を利用する毎年7億人の乗客の誰もが、無意識のうちに保菌者として病気を蔓延させかねないという事実に関心が集まった。
また、SARSへの素早い対応は、世界保健機関(WHO)をはじめとする実効的なグローバル機構が、しっかりと機能を果たせる国内保健機関や専門的機構と密接に連携すれば、感染症の蔓延は食い止められることも実証した。どの国も単独で、このような対策効果をあげることはできなかっただろう。時宜にかなった効果的な国際協力を目指す既存のメカニズムを強化するため、私は加盟国に対し、2005年5月に開催予定の世界保健総会で、国際保健規則の改正に合意するよう呼びかける。将来的な大流行を食い止めるためには、WHOの「世界的な集団発生事例に対する警戒と対応のためのネットワーク」への資金供与を増大し、各国の保健監視・対応システムを支援する幅広い国際的パートナーシップによる取り組みを調整できるようにすべきである。
自然災害
インド洋で発生した津波の破壊的な影響により、我々は人間の生活が自然災害に対していかに脆いか、そして、貧困層にどれだけ並外れた被害が及ぶかを思い知らされた。人命、生活、インフラの損失に取り組む決意をさらに強くしない限り、災害はミレニアム開発目標の達成にとり、ますます深刻な障害となろう。2005年初頭に開催された国連防災世界会議は「兵庫行動枠組み2005-2015」を採択し、今後10年間の災害リスク削減に向けた戦略目標と優先分野を明らかにした。我々はその実施を進めねばならない。
インド洋地域諸国は、国際連合その他の援助を受け、地域津波早期警報システムの設置に取り組んでいるところである。しかし、あらゆる地域の人々は暴風雨、洪水、干ばつ、地すべり、熱波、火山噴火など、その他の危険にもさらされていることを忘れてはならない。災害への備えと被害緩和に向けたさらに幅広い取り組みを補完するため、私は各国と地域の既存の能力を土台として、あらゆる自然災害に対応する全世界的な早期警報システムの設置を勧告する。その設置を助けるため、私は国際防災戦略事務局に対し、国際連合システム内のあらゆる関連主体と協力の上、既存の能力と欠陥に関する調査の調整を要請する所存である。私はその結果と勧告を心待ちにしている。災害発生の際、直ちに人道援助を展開できるよう、緊急対応取り決めを改善しておく必要もあるが、これについては下記の第V章で触れる。
開発のための科学技術
経済開発の推進を助け、開発途上国が自らの問題についての解決策を見いだせるようにするためには、グローバルな取り組みを大幅に強化し、保健、農業、天然資源と環境マネジメント、エネルギー、気候の分野で貧困層の特殊なニーズに取り組む研究開発を支援する必要がある。とりわけ、熱帯病研究に関するグローバルな大型イニシアティブを発足させることと、熱帯農業について国際農業研究協議グループ(CGIAR)に追加支援を行うことの2つを優先課題とすべきである。
情報通信技術はミレニアム開発目標の達成に大きく貢献しうる。情報通信技術(ICT)の潜在能力をいかんなく活用するためには、最近になって発足したデジタル連帯基金をはじめとする自発的資金拠出メカニズムを通じるなどして、デジタル・ディバイドに取り組む必要がある。
地域的なインフラと機構
経済開発を支援する上で、地域的なインフラと政策協力は欠かせない。特に陸封開発途上国や小島嶼開発途上国については、特別の支援が必要である。しかし、その他の国にも、人口が少なかったり、輸送、食糧、水またはエネルギーを近隣国に依存していたりするために、援助を必要とするものがある。国際ドナーはこれら問題に取り組む地域協力を支援すべきであり、開発途上国はこうした協力を国内戦略と不可分の要素として位置づけるべきである。この協力は経済協力にとどめず、アフリカン・ピアレビュー・メカニズムやアフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)のように、地域的な政治対話とコンセンサス構築のためのメカニズムも取り込んだものとすべきである。
グローバルな機構
世界全体の開発とミレニアム開発目標の成就を確保する上で、国際金融機関の存在は欠かせない。私は国際金融機関に対し、彼らが支援する国別プログラムがミレニアム開発目標を達成できるだけの野心的なものであることを奨励する。また、これら金融機関とその出資者は、1945年以降の世界政治・経済の変化をよりよく反映するために、どのような変革を遂げられるかも検討すべきである。この取り組みは、国際経済に関する意思決定と規範設定への開発途上国と経済体制移行国の参加を拡大、強化するというモンテレー合意との関連で実施すべきである。ブレトンウッズ機関はすでに、開発途上国の発言力と参加を強化するための策をいくつか講じている。しかし、世界銀行とIMFのいずれにおいても十分に意見を表明できていないとの不満が開発途上国の間で広まり、その正当性が疑問視されつつあることを考えれば、さらに思い切った手段が必要である。
移住
今日、出身国を離れて暮らす人々は、これまでのどの時代よりも多くなっているが、今後その数はさらに増えると見られる。移住は移住者自身や若年労働力の受入国だけでなく、特に最近では仕送り額の急増という点で、出身国にも多くの機会を与えている。しかし、移住には複雑な課題も多く絡んでいる。ある地域や部門での失業増と、別の地域や部門での人手不足や「頭脳流出」を同時に助長しかねないからである。また、慎重な管理が行われなければ、社会的、政治的に激しい緊張を招くおそれもある。このような動向が及ぼす影響はまだよく把握されていないが、私としては、2005年中に提出を受ける予定の国際移住に関するグローバル委員会報告書が、いくつか貴重な指針を提示するものと信じている。2006年には、総会で移住問題に関するハイレベル対話も予定されているが、これは移住関連の困難な課題に取り組む重要な機会となろう。
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F.実施面での課題
2005年の喫緊の課題は、すでに行われた公約を全面的に履行し、発足済みの枠組みを真の意味で実施に移すことである。モンテレー合意の基盤となった相互責任の原則は理にかなったものであり、これを行動で示す必要がある。9月のサミットでは、すべての国々が支持し、あらゆる事柄の判断基準とすべき行動協定を成立させねばならない。ミレニアム開発目標はもはや、進捗状況を見るために場当たり的に引き合いに出される流動的な目標となってはならない。それは日常的に、各国の戦略と国際援助の指標とせねばならない。2005年中に、今後の急速な進展の基盤を整える大胆な突破口を作らなければ、目標は達成できないだろう。このチャンスを逃すことの代償をはっきりと自覚せねばならない。それは、救えたはずの数百万人の命が失われ、確保できたはずの自由が否定され、そして我々は、より危険で不安定な世界に暮らすことになるのである。
同様に、暴力的紛争によって引き裂かれたり、テロと大量破壊兵器の恐怖が広がっていたり、人権が踏みにじられ、法の支配が尊重されず、無責任で国民を代表しない政府が市民の意見やニーズを無視する世界では、開発が少なくとも妨げられ、最悪の場合には後退してしまう。よって、開発がそれ自体、より長期的な安全、人権、法の支配に不可欠であるのと同じように、以下の第III章および第IV章で検討する課題の克服に向けた前進は、上記に定めた目標の実現に欠かせないのである。
アフリカの特殊なニーズ
本書で論じる問題はグローバルな性質を有するため、その解決策もグローバルなものとしなければならない。しかし、そのほとんどの問題がアフリカを直撃していることは事実である。真の意味でグローバルな問題解決を果たすためには、ミレニアム宣言で世界の指導者たちが行ったように、アフリカの特殊なニーズを認識せねばならない。ミレニアム開発目標達成に向けた行動から、平和を構築し、国家を強化する集団的能力の改善に至るまで、アフリカの特殊なニーズは、本書各部の中心をなす要素である。
過去5年間には、アフリカでもいくつかプラスの動きが見られた。民選政府を有するアフリカ諸国は、これまでになく多くなっているほか、軍事クーデターの回数も急減した。アンゴラやシエラレオネをはじめ、長引く紛争が解決に至ったケースも見られる。ウガンダからモザンビークに至るまで、急速かつ持続的な経済と社会の回復を遂げている国々も多い。また、アフリカ大陸全体で、一般市民が団結し、発言力を強めている。
それでも、サハラ以南をはじめとするアフリカ諸国の中には、依然として長期化する暴力的紛争、極端な貧困、さらには病気による悲劇的影響を被っている国々が多い。280万人の難民のほか、全世界の国内避難民2,460万人の優に半数は、アフリカでの紛争や激動の犠牲者である。ミレニアム開発目標の達成においても、アフリカは引き続き、他の開発途上地域よりも大きく遅れている。毎年、世界でエイズによって命を失う人々の約4分の3はアフリカ人であり、中でも女性の死者は最も多い。多くのアフリカ諸国でHIV/エイズの流行率が高くなっていることは、人類の悲劇であると同時に、開発にとっての大きな足かせでもある。全世界では、毎年100万人以上がマラリアで死亡しているが、そのおよそ9割がサハラ以南アフリカに暮らす人であり、しかもその大半は5歳未満の子どもである。サハラ以南アフリカ諸国の多くは依然として、高い輸送費と狭小な市場、低い農業生産性、病気の流行による大きな負担、そして外国からの技術移転の停滞に苦しんでいる。こうした要素が相まって、サハラ以南アフリカは長期的な貧困を抱えやすくなっているのである。
アフリカ諸国は今、新たな精力と決意をもってこれらの問題に取り組んでいる。2015年までにミレニアム開発目標を達成するため、しっかりとした開発戦略が採用されるようになった。アフリカ連合やアフリカ開発のための新パートナーシップなど、暴力的紛争を予防、管理、解決し、良い統治と民主化を推進し、持続的な経済成長と繁栄の条件を整備するため、新たな制度機構も構築されている。
英国が設置したアフリカ委員会が2005年3月に報告したとおり、アフリカの指導者と人民がこうした先駆的な取り組みを成功に導くためには、世界の他地域からの特別な支援が必要となろう。国際社会はこの必要性に対応せねばならない。そして、パートナーシップと連帯の精神のもとで、アフリカの諸国と地域・小地域機関に具体的かつ持続的な支援を提供せねばならない。それはすなわち、現行の、そして必要とされる債務救済策の遂行を確保し、市場を開放し、政府開発援助を大幅に増額することに他ならない。また、平和活動のための兵力を提供すること、および、アフリカ諸国が自国民の安全を確保し、そのニーズに応えられる能力を強化することも意味する。
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開発の領域では実施面の弱さが問題となっているのに対し、安全の領域では、ますます脅威を感じる向きが増えてはいるものの、基本的な合意や実施さえできておらず、仮にそれがあったとしても、論争となることがあまりにも多い。
こうした脅威についての共有の評価と、これに取り組む上での義務に関する共通の理解に合意できない限り、国際連合はその全加盟国と世界のすべての人々に安全を提供できないだろう。そうなれば、恐怖からの自由を求める人々を助ける国連の能力も、せいぜい部分的なものにとどまろう。
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A.集団安全保障のあるべき姿
私は2003年11月、集団安全保障の確保において国際連合が果たすべき役割はもとより、我々が直面する最大の脅威とは何かについてさえ、加盟国間の合意が出来上がらないことを懸念し、脅威・挑戦・変化に関するハイレベル・パネルを設置した。パネルは2004年12月に報告書『より安全な世界:私たちに共通の責任』(A/59/565)を発表した。
報告書が明確に示した幅広いビジョンと、より包括的な集団安全保障の理念の根拠を、私は全面的に受諾する。それは、新旧の脅威に対処するとともに、全加盟国の安全上の懸念に取り組むものだからである。私は、この理念が安全に関する見解のギャップを埋め、今日のジレンマに取り組むために必要な指針を与えてくれるものと信じている。
21世紀の平和と安全に対する脅威には、国際的な戦争や紛争だけでなく、内戦や組織犯罪、テロ、大量破壊兵器も含まれる。その他、貧困、致命的な感染症や環境破壊なども、同じように壊滅的な影響を及ぼす危険性を秘めている。これらの脅威はいずれも、多くの人命を奪ったり、生存の可能性を薄くしたりしかねない。また、国際システムの基本単位としての国家の基盤を損なうおそれもある。
豊かさや地理的条件、権力などにより、我々が最も重大と考える脅威は異なる。しかし現実に、どの脅威が最も重要か選択する余裕などない。今日の集団安全保障は、世界の各地域で最も差し迫っていると見なされる脅威がすべての地域にとっても最も差し迫った脅威だという事実を認識することから始まる。
今日のグローバル化が進んだ世界で、我々が直面する脅威は相互に絡み合っている。豊かな者は貧しい者を直撃する脅威から逃れられず、強者は弱者からの影響を逃れられない。その逆もまた真である。米国や欧州で核テロ攻撃が生じれば、世界全体に破壊的な影響が及ぶことになろう。しかし、実効的な保健医療システムを持たない貧困国で、新たな感染症が大流行した場合でも、同じ結果が生じるのである。
こうした脅威の相互連関に関し、我々は安全保障上のコンセンサスを新たに構築せねばならない。また、そこでは真っ先に、恐怖からの自由を得る権利がすべての人にあること、ある者に対する脅威は全員に対する脅威であることを規定せねばならない。この理解が出来上がれば、あらゆる脅威に取り組むしか道はなくなる。HIV/エイズについてもテロと同様に強硬な対策を練り、貧困に対しても兵器拡散と同様に実効的な取り組みを図らねばならない。また、大量破壊兵器の脅威をなくすことだけでなく、小型武器の脅威をなくすことにも、同じく全力を注がねばならないのである。しかも、これらの脅威については、利用できる限りの手段を駆使し、十分に早期の対策を講じることで、事前の取り組みに努めねばならない。
各国が署名した安全保障条約の遵守を確保することにより、すべての国々が継続的に利益を得られるようにする必要がある。各国が多国間メカニズムを信頼し、これを用いて紛争を回避するようになるためには、監視の一貫性を向上させ、実施の効果を高めるとともに、必要に応じ、執行を強化することも不可欠となる。
これらは理論的な問題ではなく、生死にかかわるほどの緊急課題である。今年中にこれらに関するコンセンサスを作り上げ、これに基づく対策を講じはじめなければ、もう二度とチャンスは巡ってこないかもしれない。いくつかの重要政策と制度的優先課題に基づく策を講じることにより、国際連合を本来あるべき姿、すなわち紛争予防のための実効的手段へと変容させるべき時は、今年を置いて他に考えられない。
大惨事につながるテロを決して現実のものとしないための行動を起こさねばならない。そのためには新たなグローバル戦略が必要となる。まず加盟国がテロの定義について合意し、これを包括的条約に盛り込まなければ、ならない。また、すべての国々が組織犯罪と汚職を防止する包括的条約の署名、批准、実施および遵守を行うことも必要となる。すべての国々はさらに、核兵器、化学兵器、生物兵器がテロ集団の手に入らないよう、緊急の措置を講ずることを約束する必要がある。
核兵器、生物兵器、化学兵器による脅威を取り扱うための多国間枠組みをさらに活性化せねばならない。これら兵器から生じる脅威は、テロリストによる使用にとどまらない。国家間で軍縮を促進し、兵器拡散を予防するための国際的文書は、その採択以来、国際の平和と安全の維持に中心的役割を果たしている。しかし、これらは現在、衰退の危機に瀕している。軍縮の継続的前進を確保し、特に核兵器のなし崩し的拡散のリスク増大に取り組むためには、これらの条約体制を立て直さねばならない。
我々は引き続き、紛争の蔓延とリスクを食い止めなければならない。そのためには、上記第II章で概説した開発の重視とともに、戦争の予防と終結、および持続可能な平和構築に必要な軍民支援を提供する手段の強化が必要となる。予防、平和創造、平和維持および平和構築に投資すれば、数百万人の命を救うことができる。1990年代前半、ビセス合意とアルーシャ合意という2件の和平合意が、それぞれアンゴラとルワンダできちんと履行されていれば、ほぼ300万人の命を救えた計算になる。
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B.大惨事につながるテロの予防
越境テロ
テロは国際連合が体現する理念、すなわち人権の尊重、法の支配、民間人の保護、民族・国家間の寛容、そして紛争の平和的解決のいずれにとっても脅威となる。過去5年間で、この脅威はますます差し迫ってきた。国境を越えたテロ集団のネットワークは全世界的に拡大、連携し、普遍的な脅威を及ぼすに至った。このような集団は核兵器、生物兵器および化学兵器を入手し、大量殺傷行為に及ぶ意図を明確に示している。このような攻撃が1度でも起きて連鎖反応が生じれば、我々の世界の様相は永遠に変わってしまうかもしれない。
我々の対テロ戦略は包括的でなければならない。そして、これを5つの柱で支えるべきである。まず、人々にテロ行為やテロ支援を思いとどまらせることをねらいとせねばならない。次に、テロリストが資金や物資を利用できないようにせねばならない。また、国家によるテロ支援を抑止せねばならない。さらに、国家のテロ対策能力を育成せねばならない。そして最後に、人権を擁護しなければならない。私は加盟国と各地の市民団体に対し、この戦略に加わるよう求める。
下記に述べるとおり、緊急にいくつかの措置を講じる必要がある。
テロ支援に回りかねない人々すべてに対し、テロはその主張を展開する上で容認できるやり方でも、効果的なやり方でもないことを説得しなければならない。しかし、国際連合の道徳的な権威も、テロ非難における強みも、加盟国がテロの定義を盛り込んだ包括的条約に合意できないことで、大きく揺らいでいる。
いわゆる「国家テロ」についての議論を保留すべき時期が来ている。国家による武力行使はすでに、国際法で十分に規制されている。また、占領に対する抵抗権は、その本質的な意味において理解せねばならない。そこに民間人を故意に殺傷する権利が含まれてよいはずはない。私は、ハイレベル・パネルがテロの定義を求めていることを全面的に支持する。これにより、現行条約ですでに禁じられている行為に加え、ある国民を脅したり、ある政府または国際機関に何らかの作為または不作為を強いることを目的に、民間人または非戦闘員を殺害するか、これに重傷を負わせたりすることを意図する行為はいずれもテロを構成することが明らかになろう。私は、この提案に明確な道徳的力があると信じ、世界の指導者に対して、この趣旨のもとに結束し、第60回総会閉幕までにテロに関する包括的条約を締結するよう強く求める。
核物質がテロリストの手に入らないようにすることは、極めて重要である。これは、危険物を特定の場所に寄せ集め、その安全を確保し、できればこれを廃棄するとともに、実効的な統制を図ることを意味する。主要先進8カ国(G8)と安全保障理事会は、これに向けて重要な措置を講じているものの、これら措置の全面的な執行と相互補強を確保する必要がある。私は加盟国に対し、核テロ行為防止のための国際条約を遅滞なく策定するよう求める。
生物テロの脅威と核テロの脅威は異なる。全世界の数千カ所の施設で、恐ろしい殺傷能力を備えたデザイナーバグを製造できるようになる日は近い。この危険に対する最善の防御は、公衆衛生の強化にあるが、上記第II章で提示した関連勧告には、二重のメリットがある。伝染病の自然発生による惨劇の防止に役立つだけでなく、人為的流行に対する安全確保にも貢献できるからである。我々は各地の公衆衛生システム強化に向けて邁進する-この課題克服には1世代かかる-だけでなく、既存のグローバルな対策も十分に確保せねばならないのである。世界保健機関の「世界的な集団発生事例に対する警戒と対応のためのネットワーク」は、自然発生か人為的発生が疑われるものかにかかわらず、致命的な感染症の流行を監視し、これに対応する上で大きな成果をあげている。しかし、この取り組みはごくわずかな資金で細々と続いているのが実情である。私は加盟国に対し、我々全員の利益を考え、ネットワークが十分な任務を果たすために必要な資金を提供するよう求める。
テロリストは誰に対しても責任を負わない。一方、我々は全世界の市民に対する責任を決して忘れてはならない。我々はテロとの闘いにおいて、人権を決して犠牲にしてはならない。そうすれば、テロリストの目標のひとつが達成に近づくからである。道徳的な優位性を譲ってしまえば、まさにテロリストの供給源となっている人々の間で、緊張、憎悪、政府に対する不信を煽ることになる。私は加盟国に対し、テロ対策措置と国際人権法との整合性について人権委員会に報告する特別報告者のポストを置くよう求める。
組織犯罪
テロの脅威は組織犯罪の脅威と密接に結びいており、組織犯罪はあらゆる国々の安全に影響するほど多発するようになった。組織犯罪は国家の弱体化を助長し、経済成長を阻害し、多くの内戦の火種となり、国際連合による平和構築努力を常に損なうほか、テロ集団の資金源にもなる。組織犯罪集団はまた、移住者の密航や火器の密輸にも深く関与している。
国際連合は近年、いくつかの重要な条約と議定書の採択または発効により、組織犯罪対策と汚職対策に向けた国際的な基準や規範の枠組み整備という点で大きな前進を遂げた。しかし、これら条約の締約国には、実質的にその能力がないなどの理由から、十分な実施を行えていないものが多い。すべての国は、これら条約を批准、実施すると同時に、国内の刑事司法・法治制度強化に向けた共助を行うべきである。加盟国はまた、国際連合薬物犯罪事務所が条約実施の監督に重要な役割を果たせるよう、十分な資金を提供すべきである。
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C.核・生物・化学兵器
核技術の危険性を抑えつつ、その将来性を生かそうとする多国間の取り組みは、ほぼ国際連合創設と同じ時期から続いている。今月35周年を迎える核兵器不拡散条約 は、この点で欠かせない存在となった。核の危険性を低めただけでなく、国際の平和と安全を保障する上での多国間合意の価値も実証したからである。しかし、NPTは今日、初の脱退国を出したほか、検証面と執行面での重圧の高まりから信頼と遵守の危機を迎えている。また、軍縮会議も、意思決定手続きの機能不全やこれに伴う麻痺状態などにより、妥当性の危機に瀕している。
軍縮と不拡散両面での前進が不可欠であり、そのどちらかを他方の条件とすべきではない。最近の核保有国による軍縮への動きを認識すべきである。米国とロシア連邦が署名した2002年戦略攻撃力削減条約を含め、二国間合意の中には、数千発の核兵器の廃棄に加え、兵器備蓄のさらなる大幅削減の公約に至ったものもある。しかし、核保有国という特殊な地位には特殊な責任が伴うため、これらの国々は、非戦略核兵器数の一層の削減や、軍縮とその不可逆性をともに規定する軍備管理合意の模索など、さらに取り組みを進めなければならない。核保有国はまた、消極的安全保障の公約を新たにすべきである。核分裂性物質カットオフ交渉の早期妥結は不可欠である。核実験による爆発の停止措置は、包括的核実験禁止条約が発効にこぎ着けるまで継続すべきである。私は核兵器不拡散条約締結国に対し、2005年の再検討会議でこれらの措置に支持を表明するよう強く促す。
核技術の普及は核不拡散体制内部に古くから存在する緊張関係を悪化させているが、これは、民生用核燃料の確保に必要な技術が核兵器の開発にも転用できるという、単純な事実に起因している。この緊張を緩和するための措置を検討する際には、核拡散の危険性に立ち向かうだけでなく、核技術の環境、エネルギー、経済および研究面での重要な応用例にも配慮せねばならない。第一に、国際原子力機関(IAEA)の検証権限は、モデル追加議定書の普遍的採択によって強化せねばならない。第二に、非核保有国が核技術の恩恵に浴する権利を犠牲にすべきではないものの、各国が国内でのウラン濃縮・プルトニウム分離能力の育成を自主的に放棄するインセンティブの整備に重点を置きながら、平和目的の追求に必要な燃料の供給を保証すべきでもある。取り極めを通じ、民生用の核利用者向けに市場価格で核分裂性物質の供給を保証する役割をIAEAに与えることも、ひとつのやり方である。
核兵器不拡散条約が不拡散体制の根本であることに変わりはないが、これを補完しようとする最近の取り組みも歓迎すべきである。具体的には、核、化学および生物兵器や関連技術、関連物質が非国家主体の手に入らないようにすることを目的とした安全保障理事会決議1540(2004)、ならびに、核、生物および化学兵器の不正取引予防に関する国際協力を拡充しつつある自主的な拡散安全保障イニシアティブがあげられる。
弾道ミサイルの射程と精度の向上は、テロリストでも利用が可能な携帯式ミサイルの拡散とともに、多くの国々にとってますます大きな懸念となりつつある。加盟国はそれぞれ、核兵器、生物兵器および化学兵器を搭載できるミサイルやその他の運搬手段、ロケット、ならびに、携帯式ミサイルを対象とする輸出規制のほか、これらすべての非国家主体への移転禁止措置を導入すべきである。安全保障理事会もまた、テロリストによる携帯式ミサイルの取得や使用を難しくするための決議採択を検討すべきである。
進歩が見られている場合には、これを定着させるべきである。1997年の「化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約13」は、すべての国による化学兵器の全面的な廃絶と廃棄を求めることにより、1世紀以上も前に着手された取り組みを完了させる歴史的な機会を提示している。化学兵器禁止条約締約国は、届け出た備蓄化学兵器を予定どおり廃棄するという決意を新たにすべきである。私はすべての国に対し、直ちに同条約に加入するよう求める。
1975年の「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約14」は、幅広い支持と加入を受けており、最近の年次会合でもさらに強化が進んでいる。加盟国は2006年の再検討会議で、これら会合の成果を定着させるとともに、生物・毒素兵器禁止条約を強化するため、一層の措置を講じることを公約すべきである。私はすべての国に対し、同条約に直ちに加入し、生物テロ対策の透明性を向上させるよう求める。
バイオセキュリティ体制の強化については、一層の取り組みが必要である。総会決議42/37により、事務総長には生物剤使用の疑いを調査する能力が与えられているが、これをさらに強化し、最新の技術や専門的知識も取り入れるようにすべきである。また、安保理決議620(1988)に沿い、安全保障理事会もこの能力を活用すべきである。
実際、安全保障理事会は核兵器、化学兵器および生物兵器の脅威に関連するあらゆる事項について、より多くの情報を入手せねばならない。私は安保理に対し、保障措置と検証プロセスの現状に関するIAEA事務局長および化学兵器禁止機関事務局長からのブリーフィングを定期的に招請するよう促す。私自身としても、世界保健機関事務局長と協議の上、国際連合憲章第99条により与えられた権限を行使し、国際の平和と安全を脅かす感染症の大流行があった場合、これに対して安全保障理事会の注意を喚起する用意がある。
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D.戦争のリスク軽減と戦火拡大の抑制
悲惨な紛争の予防と解決ほど、国際連合にとって根本的な任務はない。特に予防は、貧困対策や持続可能な開発の促進から、各国の紛争管理、民主化および法治能力の強化や小型武器流通の取り締まり、さらには調停、安全保障理事会ミッション、予防展開をはじめとする予防活動の指揮に至るまで、我々の取り組みの中心に据えねばならない。
加盟国は、国際連合がこれら死活的な任務を果たすのにふさわしい構造と十分な資源を備えられるようにせねばならない。
調停
実証は難しいものの、国際連合が事務総長による「調停」を用いて紛争の平和的解決に貢献することで、多くの戦争を予防してきたことはほぼ間違いない。過去15年間を見ると、調停により終止符が打たれた内戦の件数は、それ以前の2世紀を上回っているが、これも国連が指導力を発揮し、交渉の機会を作り、戦略的な調整を行い、和平合意実施のための資源を提供したことによるところが大きい。しかし、そのための能力と人員を確保できていれば、さらに多くの人命を救えたはずである。私は加盟国に対し、事務総長が調停の役割遂行に使用できる追加的資源を割り当てるよう促す。
制裁
制裁は、国際の平和と安全に対する脅威に安全保障理事会が前もって取り組む上で、極めて重要な手段である。戦争と文言間の、必要不可欠な妥協点である。時には、制裁は合意の形成に貢献できる。また、軍事的圧力と組み合わせれば、安全保障理事会決議に公然と違反する反体制勢力や国家を弱め、孤立させることもできる。
交戦主体、特に非難されるべき政策の最も直接的な責任者に焦点を絞り、金融、外交、武器、航空、渡航および物資面の制裁を発動することは引き続き、国際連合にとって極めて重要な強制手段である。各国の制裁実施能力を高め、十分な資源を備えた監視メカニズムを確立し、人道面での影響を軽減することにより、安全保障理事会が発動するすべての制裁を効果的に実施、執行すべきである。また、制裁発動が直面することの多い困難な状況と、近年に得られた教訓に鑑み、将来の制裁体制は、対象国の民間人をはじめとする無実の第三者が被る影響を最小限に抑えつつ、関連する計画や機構が筋の通った活動を続けられるよう、慎重に構築せねばならない。
平和維持
国際連合はこれまで数十年にわたり、紛争地帯の安定化に真剣に取り組んできたが、15年ほど前からは、平和維持軍の展開により、紛争終結国の復興にも力を貸している。国際連合平和維持に関するパネル報告(A/55/305-S/2000/809, annex)の発表を受け、我々の平和維持活動管理が大幅に改革されると、国際連合平和維持に対する加盟国の信頼は再び強まり、要求も急速に高まったため、国際連合は現時点で、過去最多のミッションを展開するに至っている。その大半が活動しているアフリカでは、残念ながら、先進国が兵力提供を渋るようになってきた。このため、要員は手薄になり、能力ぎりぎりでの活動を迫られている。
私は加盟国に対し、自らの要求に見合う実効的な平和維持能力を国際連合が備えられるよう、一層の取り組みを行うよう訴える。特に、国際連合との取り極めの枠組み内で迅速に展開できる戦略予備部隊を創設することにより、我々の展開オプションを広げるよう求める。国際連合の能力育成は、多くの地域機関が実施中の称賛に値する取り組みと競合する形ではなく、これと協力する形で行うべきである。例えば、欧州連合による待機戦闘群創設の決定や、アフリカ連合によるアフリカ予備部隊の創設決定は、我々の取り組みを補完できる極めて有意義な出来事である。私は実際、決定的な一歩を踏み出す機は熟したと信じている。国際連合が妥当な地域機関との間で予測可能な信頼できる連携を図れるよう、今こそ連動的な平和維持体制を確立すべきである。
法の支配は恒久的平和に欠かせない要素であるため、国際連合の平和維持・平和構築要員には、自らが法を守り、特に援助対象の人々の人権を尊重するという厳粛な責任がある。最近になって、国際連合の行政官や平和維持要員による不品行の疑いが明るみに出たことを踏まえ、国際連合システムは国際法、基本的人権、および適正手続きの基本的な規範を尊重、遵守、履行するという決意を再確認すべきである。私としては、平和維持活動を監督する国際連合内部の能力の強化に努める所存であるが、加盟国に対しても、自国から派遣された要員が展開先の国で罪を犯した場合、これを訴追する義務があることを改めて強調したい。私は国際連合平和維持要員が、性的に少年少女や弱者を搾取したという疑いがあることにとまどいを感じており、このような国際連合活動に従事している全ての要員にあてはまる罪を「まったく許さない」政策を施行した。私は、加盟国が自国の分遣隊に対して、同様の措置を取ることを、強く奨励する。
平和構築
和平合意の調停、実施面で我々があげた成果は、悲しいことに、いくつかの破滅的な失敗によって損なわれている。事実、1990年代で最も暴力的かつ悲劇的な事例の中には、1993年のアンゴラ、1994年のルワンダをはじめ、和平合意の締結後に生じたものもある。紛争終結国の実に約半数は、5年後までに再び内戦に突入している。この2点から明らかなのは、和平合意の継続的で持続可能な実施を確保できなければ、紛争は予防しえないということである。ところが、まさにこの点で、国際連合の制度機構には大きな欠陥がある。国際連合システム内には、各国の戦争から恒久的平和への移行を助けるという課題を実効的に取り扱う部分がないからである。よって、私は加盟国に対し、この目標を達成するため、政府間の平和構築委員会とともに、国連事務局内に平和構築支援事務所を設けるよう提案する。
平和構築委員会は次のような役割を果たすことができよう。
紛争直後の時期について、必要な制度の確立に向けた早期の取り組みに重点を置いた、国際連合による持続的な復興に向けた計画策定を改善すること
分担金、自発的拠出金および常設基金による資金供与メカニズムの概要を提示するなどして、初期の復興活動に対する予見可能な資金供与を確保すること
国際連合の基金、計画、機関による数多い紛争終結後活動の調整を改善すること
国際連合、主要な二国間ドナー、兵力提供国、関連地域主体と機関、国際金融機関、および関係国の中央政府または暫定政権が、一貫性を向上させるためにそれぞれの戦後復興戦略に関する情報を共有できるフォーラムを提供すること
中期復興目標に向けた進捗状況を定期的に審査すること
紛争後復興まで政治的な関心を持続させること
私としては、このような機関に早期警報や監視の役割を与えるべきではないと考えるが、加盟国が何らかの段階で、平和構築委員会の助言を活用し、法の支配に関する機構の強化によるものを含め、紛争緩和に向けた国内機構を構築するために、平和構築を目的とする常設基金からの援助を要請できれば、極めて有意義であろう。
このような機関は、紛争の段階に応じて、まず安全保障理事会に、次いで経済社会理事会に報告を行えば、実効性と正当性をともに最大限に高めることができよう。同時に両者への報告義務を課すことは、重複と混乱につながるため、回避すべきである。
平和構築委員会の核となるメンバーとして、安全保障理事会理事国の一部、同様の数の経済社会理事会理事国、主要な兵力提供国、および平和維持常設基金に対する主要資金拠出国から構成すれば、最も実効性が高まろう。国別活動を展開する際には、当該国の中央当局または暫定当局、妥当な地域主体と機関、適用する場合には兵力提供国、および当該国にとっての主要ドナーも平和構築委員会に参加させるべきである。
国際金融機関の参加は極めて重要である。私は、その職務権限や管理取り極めを十分に尊重しつつ、国際金融機関との間で、その参加のあり方を判断するための協議に着手した。
私は2005年9月に先立ち、この協議が終わり次第、さらに踏み込んだ提案を加盟国に提示し、その検討を仰ぐ所存である。
小型武器と地雷
小型武器の蓄積と拡散は依然として、平和、安定、そして持続的開発に対する深刻な脅威となっている。2001年に「小型武器非合法取引のあらゆる側面の防止、対策および根絶のための行動計画15」が採択されて以来、小型武器問題に対する認識は高まり、これに取り組むさまざまなイニシアティブが生まれている。武器禁輸措置の執行改善を確保し、除隊兵士の武装解除計画を強化するとともに、小型武器のマーキングと追跡を律し、不正な仲介の予防、対策および根絶を図る法的拘束力を備えた国際協定に向けた交渉を行うことで、今こそ実質的な前進を遂げなければならない。私は加盟国に対し、来年の行動計画再検討会議までに、マーキングと追跡を律する協定に合意し、不正仲介に関する協定に向けた交渉を迅速化するよう求める。
地雷はその他の爆発性戦争残存物とともに、全世界の国々のほぼ半数で無実の人々を殺傷し、コミュニティが貧困から脱出するための努力を妨げている。我々はこの惨劇を終わらせる取り組みも続けなければならない。「対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約16」と、これを補完する「過度に傷害を与え又は無差別に効果を及ぼすことがあると認められる通常兵器の使用の禁止又は制限に関する条約17」改定議定書II18の締約国は144カ国に達しており、実際面でも本質的な変化が見られている。地雷の移転は事実上、停止しており、地雷除去面積も広がっているほか、3,100万発を超える備蓄地雷が廃棄された。それでも、すべての締約国が条約を全面的に履行しているわけではなく、依然として締約国となっていない国々には、大量の地雷が備蓄されている。よって、私は加盟国に対し、その義務を全面的に履行するよう求めるとともに、条約と議定書の両方に未加入の国々に対し、できるだけ早くこれらに加入するよう呼びかける。
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D.武力行使
最後に、我々が目指すコンセンサスに不可欠な要素として、国際の平和と安全を守るために、いつ、どのように武力を行使できるかについて合意せねばならない。近年、この問題は加盟国間に深い亀裂をもたらしてきた。差し迫った脅威から身を守るために、先制攻撃を行う権利があるか、表面化していないあるいは差し迫っていない脅威から身を守るために、予防的に武力を行使する権利があるか、他の国家の一般市民をジェノサイドやこれに匹敵する犯罪から救うために、保護的に武力を行使する権利があるか、場合によってはその義務が国家にあるか否かという問題が争点となっている。
国際連合が単に見解の相違を明らかにするための舞台ではなく、当初の目的どおり、これを解決するための話し合いの場となるためには、こうした問題に関する合意にこぎ着けなければならない。それでも私は、現行の国連憲章が必要な合意の基盤として十分であると考える。
差し迫った脅威はいずれも、武力攻撃に対する自衛権を主権国家に固有の権利として認める第51条の適用対象となる。同条がすでに行われた攻撃だけでなく、差し迫った攻撃も対象とすることは、法律専門家の間でも以前から認識されている。
脅威が差し迫っておらず、表面化もしていない場合、国連憲章は安全保障理事会に対し、予防的な形も含め、国際の平和と安全を守るために武力を行使する権限を全面的に認めている。ジェノサイドや民族浄化をはじめとする人道に対する罪も、人類が安全保障理事会に保護を求めるべき国際の平和と安全に対する脅威とはいえないだろうか。
権威の源泉として安全保障理事会に代わるものを探すのではなく、その機能を改善することが解決策といえる。武力行使を承認したり、これに支持を表明したりすべきか否かを検討するにあたり、安保理は、脅威の深刻度をどのように測るか、予定される軍事行動の適切な目的とは何か、武力行使に至らない手段でも、脅威が食い止められる公算はあるか、軍事行動は対象となる脅威の度合いに応じたものであるか、そして、合理的な成功の見込みはあるかに関し、共通の見解を作り上げるべきである。このような形で軍事行動の正当化を図ることにより、安保理はその審議の透明性を改善できるだけでなく、その決定が政府と国際世論の双方によって尊重される可能性も高まろう。よって、私は安全保障理事会が、このような原則を定め、武力行使の権限または職務権限を与えるか否かを決定する際に、これを指針とする意図を表明する決議を採択することを勧告する。
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加盟国はミレニアム宣言で、民主主義を促進し、国際的に認識されたすべての人権と基本的自由とともに、法の支配も強化するため、努力を惜しまないことを明言した。そうすることで加盟国は、欠乏と恐怖からの自由が欠かせない一方で、それだけでは不十分なことを認めた。あらゆる人間は、尊厳と尊敬を伴った取り扱いを受ける権利を有するのである。
法の支配、人権、民主主義という普遍的な価値を守り、推進してゆくことは、それ自体が目標である。それは正義、機会、安定に恵まれた世界を構築する上でも欠かせない。安全上の課題や開発への取り組みをいくら進めようとしても、人間の尊厳の尊重という確固たる基盤がない限り、成果は見込めないのである。
紙の上の法律の数という意味では、我々ほど遺産に恵まれた世代はない。国際的な人権章典とも呼べるものが存在し、しかもその中には、紛争や迫害の犠牲者を含め、我々の中で最も弱い人々を保護するための基準も多く盛り込まれている。また、貿易から海洋法、テロから環境、さらには小型武器から大量破壊兵器に至るまで、あらゆる物事を律する国際的なルールも揃っている。我々は厳しい経験を通して、人権と法の支配の規定を和平合意に組み込み、その履行を確保する必要性を痛感するようになった。そして、一層厳しい経験を味わった上で、国家主権を含むいかなる原則も、ジェノサイドや人道に対する罪、膨大な人的被害の隠れみのとしてはならないという事実を認識するに至った。
しかし、宣言に実行が伴わなければ意味がない。政府による爆撃音や、残虐な民兵の影におびえながら肩を寄せ合って暮らす村民たちにとって、守られることのないジュネーブ条約の文言は、まったく慰めにならない。ましてや、10年前のルワンダの恐怖を思い返し、国際社会が「二度と過ちは犯さない」などと厳粛に約束したところで、何の意味も持たない。囚われの身で虐待を受けている人々にとっては、拷問を禁止する条約など存在しないも同然である。国際人権制度が犯罪の責任者たちに、有力者の陰に隠れることを許しているとなれば、なおさらである。戦争で疲弊し、和平合意の署名にようやく希望の灯を見いだした人々も、法の支配に服する政府の樹立に向けた具体的進展ではなく、軍閥やギャングの指導者が実権を握り、法を私物化している姿を目の当たりにすれば、一気に奈落の底へと突き落とされる。また、ミレニアム宣言ですべての国が行ったとおり、国内で民主化が厳かに公約されたとしても、統治者を投票で選んだことがなく、しかも状況が変化する兆しさえ感じられない人々にとって、それは死文に等しいのである。
国際連合とその加盟国は、より大きな自由のあるべき姿に向けて前進するため、過去60年間に大きな進展を遂げた規範枠組みをさらに強化せねばならない。そして、さらに重要なこととして、選択的な適用、恣意的な執行、何らとがめを受けない違反行為を減らすため、具体的な措置を講じなければならない。こうした措置を講じれば、ミレニアム宣言で行われた公約に、新たな生命が吹き込まれよう。
従って、私は2005年中に、国際的、国内的に法の支配の強化を助け、国際連合人権制度の地位と構造を改善し、全世界の国々で民主主義を確立し、深化させるための取り組みを一層直接的に支援する決定を下すべきだと考える。我々はまた、大がかりな残虐行為の潜在的または現実的な犠牲者を「保護する責任」を受け入れ、これに基づき行動する方向へと歩を進めなければならない。個人の尊厳の尊重が口先だけで終わることが多い中で、各国政府が国民に対しても、そして相互に対しても、これについて責任を問われるべき時期は来ている。我々は立法の時代から実施の時代へと足を踏み入れねばならない。我々が宣言した原則から見ても、我々に共通の利益から見ても、これは当然のことである。
* *** *
A.法の支配
国内で法の支配を宣言する国はいずれも、これを国外でも尊重せねばならず、国外でこれを主張する国々はいずれも、国内でこれを執行せねばならないと、私は強く信じる。事実、ミレニアム宣言は、人間の安全保障と繁栄を推進する上で極めて重要な枠組みとして、すべての国が法の支配を公約することを再確認した。それでも、依然として多くの政府や個人が法の支配を破り、自らはとがめを受けない一方で、傷つきやすい弱者には致命的な影響が及ぶというケースがしばしば見られる。また、武装集団やテロリストなど、そもそも法の支配による拘束など受けないとする者が、我々の平和維持機構や遵守メカニズムが弱いことにつけ込んで、これを簡単に突破できる場合もある。法の支配を単に理念として唱えるだけでは不十分である。新法を制定し、現行法を実施に移し、そして我々の機構に法の支配を強化できる十分な能力を備えさせねばならない。
理想と現実、すなわち宣言と行動との開きが最も大きく、最も致命的な分野は、国際人道法である。国際社会がジェノサイドや大がかりな人権侵害に直面している時に、国際連合がその進行を最後まで静観し、数千人の無実の人々に破壊的な影響が及ぶのをそのままにしておいてよいはずがない。私は長年にわたり、この問題に対する加盟国の注意を喚起してきた。ルワンダでのジェノサイド10周年にあたり、私はジェノサイド予防のための5項目からなる行動計画を提示した。行動計画では、武力紛争予防のための行動、民間人保護のための実効的措置、不処罰防止のための司法的手段、ジェノサイド予防担当特別顧問を通じた早期警報、および、ジェノサイドが発生したか、発生しそうな場合の迅速かつ決定的な行動の必要性を強調した。しかし、残虐行為を予防し、大がかりな違反に直面した場合の国際社会による迅速な対応を確保するためには、これよりはるかに多くの取り組みが必要である。
介入と国家主権に関する国際委員会、および、さらに最近では全世界の有識者16名からなる脅威・挑戦・変化に関するハイレベル・パネルは、いわゆる「集団的な保護の責任があるという新たな規範」(A/59/565第203項を参照)に対し、支持を表明した。この問題の取り扱いには慎重を要することを認識しつつも、私はこのアプローチに強く賛同する。我々は保護する責任を受け入れるとともに、必要な場合には、これに基づく行動を起こさねばならないと考える。この責任は何よりもまず、国民の保護を第一の存在理由および責務とする各国が負わねばならない。しかし、国内当局に国民を守る能力も意思もない場合には、国際社会が外交、人道支援などの手段を用いて、民間人の人権と安寧の保護を助ける責任を負うことになる。どの手段も不十分と見られる場合、安全保障理事会が要請に応じ、国連憲章に基づいて行動を起こす必要に迫られることもあろう。この場合においても、上記第III章に定める原則に従うべきであることはいうまでもない。
多国間条約への普遍的参加によって、法の支配に対する支援は強化されなければならない。現時点では、多国間条約の枠組み外にある国が多いほか、一部には重要条約の発効を妨げている国さえ見られる。私は5年前、私が寄託先となっている条約を各国が署名または批准できるよう、特別の便宜を図ることとした。これは大きな成果を生み、現在まで毎年、条約関連のイベントが開催されている。今年のイベントでは、31件の多国間条約を対象に、グローバルな課題への対応を促すこととなるが、中でも人権、難民、テロ、組織犯罪および海洋法が特に重視される予定である。私は指導者に対し、特に民間人の保護に関連するすべての条約を批准、履行するよう求める。
過去の暴力から立ち直ろうとする社会を助ける取り組みをすべて成功に導くためには、実効的な国内の法制度と司法機構が欠かせない。しかし国連にも、その他国際機関にも、さらには加盟国政府にも、このような機構を支援する十分な備えがない。紛争中および紛争後の社会における法の支配と移行期司法に関する私の報告(S/2004/616)でも取り上げたとおり、国連には現場レベルでも、本部レベルでも、適切な評価・計画策定能力が備わっていない。その結果、援助が断片化、遅延し、究極的目標にもそぐわないことが多くなっている。私は、本報告書で提案した平和構築支援事務所(下記第V章を参照)内に、国際連合システム内の既存スタッフを主力とする専門の「法の支配支援ユニット」を設置し、紛争中および紛争後の社会における法の支配再建に向け、各国の取り組みの支援にあたらせる所存である。
司法は法の支配にとって極めて重要な要素である。国際刑事裁判所の設立、旧ユーゴスラビアとルワンダに関する2つのアドホック裁判所の活動継続、シエラレオネにおける混成裁判所の創設により、大きな前進が見られているほか、間もなくカンボジアにも混成裁判所が設立される見通しが生まれている。その他、重要な取り組みとしては、ダルフール、東ティモール、コートジボワールなどについて設立された専門家委員会や調査委員会もあげられる。とはいえ、不処罰の継続は国際人道法の前進に暗い影を落としており、その悲劇的な結果として、今日もあからさまな人権侵害が幅広く続いている。残虐行為の被害者が救済を得られる可能性を広げ、さらなる恐怖を抑止するため、私は加盟国に対し、国際刑事裁判所をはじめとする国際または混成戦犯裁判所と全面協力し、その要請があった場合には被告の引き渡しに応じるよう促す。
国際司法裁判所は、国家間の紛争に裁定を下す国際的システムの中心に位置する。同裁判所が取り扱う事案の件数は、近年になって急増し、多くの紛争が解決を見ているものの、資金不足の状態が続いている。国際司法裁判所の機能を強化するための手段を検討する必要がある。私は、同裁判所の強制司法管轄権を認めていない国々に対し、できれば全般的に、さもなければ少なくとも具体的状況において、これを認めるよう求める。また、私はあらゆる当事者に対し、裁判所が勧告的意見を出せる権限に留意し、これをさらに活用するよう求める。さらに、訴訟当事国の協力により、裁判所の作業方法を改善し、手続きに要する時間を短縮するための措置も講じるべきである。
* *** *
B.人権
豊かな者にとっても、貧しい者にとっても、人権は基本的な存在であり、その保障は先進国だけでなく、開発途上国の安全と繁栄にとっても重要である。人権と安全や開発などの目標との間に、あたかも二者択一の関係があるような形で人権を取り扱うことは誤りといえる。極端な貧困やテロの恐怖と闘おうとしても、その過程において、まさにこれらの惨劇によって市民から奪い去られる人権それ自体を否定してしまえば、我々の立場は弱まるだけである。我々の道徳的立場から見ても、我々の行動の実際的効果という点から見ても、人権の保障に基づく戦略は死活的に重要である。
国際連合はその創設以来、人権の普遍的尊重に立脚した平和と正義の世界の実現に全力をあげてきたが、この使命は5年前のミレニアム宣言で再確認された。しかし、国際レベルで人権を保障するシステムは今日、大きな試練にさらされている。国際連合がその活動範囲全体において、人権問題への長期的なハイレベルの関与を維持するためには、変革が必要である。
すでに重要な変革は始まっている。ミレニアム宣言以降、国際連合の人権機構が保護活動、技術援助、および各国の人権機関に対する支援を拡大したため、国際的な人権基準の履行は多くの国々で改善されている。私は昨年、国別の国際連合機関合同チームが加盟国の要請に応じ、その人権推進・保障制度の強化に向けて当該国と協力できるようにするためのグローバル・プログラム「アクション2」を発足させた。このプログラムについては、国際連合人権高等弁務官事務所内で国別チームを養成する能力の強化を含め、さらに多くの資金と人員が緊急に必要である。
しかし、基本的な保護の原則が意図的に破られている状態では、技術援助や長期的な制度・機構構築を行ってもほとんど、あるいはまったく意味がない。危機の状況の下を、現地の人権プレゼンスをより行うことは、国際連合機関に時宜にかなった情報が提供できるだけでなく、必要に応じ、行動を要する事態に対する緊急の注意を喚起することもできよう。
安全保障理事会が人権高等弁務官に対し、具体的状況に関するブリーフィングを行うよう招請するケースが増えていることは、平和と安全に関する決議において、人権を考慮に入れる必要性に対する認識の高まりを示している。人権高等弁務官は、安全保障理事会決議の関連規定実施を重視しつつ、安全保障理事会、および本報告書で提案した平和構築委員会の審議で、さらに積極的な役割を果たさなければならない。事実、人権は国連の作業全体を通じた意思決定と議論に組み込まれなければならない。人権の「主流化(メインストリーミング)」という理念に対する関心は、近年になって高まってはいるものの、重要な政策決定や資源配分決定に十分に反映されるようになったとはいえない。
このような事実はいずれも、人権高等弁務官事務所を強化する必要性を物語る。危機対応、各国の人権保障能力育成、ミレニアム開発目標への支援および紛争予防の分野で、高等弁務官の役割は拡大しているものの、その事務所には、国際社会が抱える幅広い人権課題に対応できる備えが嘆かわしいほど欠けている。加盟国が公言した人権保障の決意には、人権高等弁務官事務所がその極めて重要な職務権限を遂行できる能力を強化するための資源が伴わなければならない。私は高等弁務官に対し、60日以内に行動計画を提出するよう要請済みである。
高等弁務官とその事務所は、国際連合活動のあらゆる側面に関与する必要がある。しかしそのためには、我々の人権機構の政府間基盤を強化せねばならない。よって、私は下記の第V章で、国際連合の人権システムの要となるべき機関、すなわち国連人権委員会の変革を提案することとする。
人権条約機関もまた、その実効性を高め、自らが守ることを任された権利の侵害に対応できる能力を強化する必要がある。人権条約機関システムの知名度は依然として低く、多くの国々が期限どおりに報告を行わなかったり、そもそもまったく報告を行わなかったりすることや、報告要件に重複が見られることによって機能不全に陥っているほか、勧告実施のずさんさによっても弱体化している。全条約機関に対する報告を調整し、その最終的指針を作成するとともに、これを実施に移し、これら機関が統一的システムとして機能できるようにすべきである。
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C.民主主義
国連総会が1948年に採択した世界人権宣言は、民主主義の本質を明言するものであった。世界人権宣言はその採択以来、世界各地での憲法起草に着想を与え、最終的には、民主主義が普遍的価値として全世界で受け入れられることに大きく貢献した。誰にどのような統治を受けるかを選ぶ権利は、すべての人々にとって生来の権利でなければならず、その普遍的な達成は、より大きな自由という目標達成に傾注する国連という組織の中心的目標でなければならない。
各加盟国はミレニアム宣言で、民主主義の原則と実践を履行する能力の強化を約束した。総会は同年、民主主義の促進と定着に関する決議を採択した20。「民主主義共同体に関するワルシャワ宣言」(A/55/328, annex Iを参照)の署名国はこれまでに100カ国を超えた。また、同共同体が2002年に支持を表明した「ソウル行動計画」(A/57/618, annex Iを参照)は、議会制民主主義に不可欠な要素を掲げ、その促進に向けた幅広い措置を定めている。世界各地の地域機構が、民主化を活動の中心的要素に据えているほか、民主的ガバナンスを促進する世界的、地域的市民団体の強力な共同体が生まれつつあることも心強い。これらはいずれも、民主主義がいずれかの国または地域の専売特許ではなく、普遍的な権利であるという原則を固める動きといえる。
しかし、決意に見合う成果がなければならず、また、民主主義を守るためには用心も必要である。民主主義に対する脅威は決して消え去ったとはいえない。これまで幾度となく見られたように、民主化は微妙かつ困難な過程であり、大きな挫折に見舞われることもある。国連は法律、技術および資金面の援助と助言によって新興民主主義国を後押しすることにより、加盟国を援助している。例えば、国際連合が具体的選挙支援を提供する国々はますます多くなっており、それが歴史的な大転換期を意味することもしばしばである。昨年だけでも、アフガニスタン、パレスチナ、イラク、ブルンジを含む20カ国以上で選挙支援が展開されている。同様に、開発途上地域全体でガバナンスを改善し、戦災国で法の支配と国家機構を再建しようとする国連の取り組みは、民主主義を恒久的に根づかせる上で極めて重要である。
国連は、全世界で民主的な制度と実践を促進、強化する上で、どの組織よりも大きな貢献をしているが、この事実はほとんど知られていない。我々の活動の効果は、国連官僚機構の各所に拡散することで縮小している。点を線でつなぐべき時は来ている。しかし、いくつかの極めて重要な分野で、我々の能力には大きな破れ目がある。国連は全体として、調整を改善し、より効果的に資源を結集すべきである。国連は規範の設定のみに甘んじるのではなく、加盟国に援助の手を広げ、全世界で民主化の動きを拡大、深化させるべきである。私はこの目的で、国連に民主化基金を創設し、民主主義の確立または強化を図る国々に援助を提供することを支持する。私はさらに、国際連合国連開発計画の民主的ガバナンスに関する活動と、政治局選挙支援部との連携をさらに明確化することにより、この分野における国連活動の調整緊密化を確保してゆく所存である。
私は第II章から第IV章で、新世紀により大きな自由に向けて歩を進める上での課題が、相互に関連していることを概説した。また、国際連合が適切な貢献を行えるよう、さらに備えを充実させるべきと考えられる多くの分野を含め、私が国連の集団的対応に欠かせないと信じる要素も示した。下記の第V章では、グローバルな課題の全体について、このような集団的対応を形成し、実施していく際に国連が相応の役割を果たすため、私が必要と考える具体的な改革を詳しく取り扱うこととする。
* *** *
私は本報告書で、憲章に定められた国際連合の原則と目的が1945年当時と同様、今日も有効かつ妥当であり、今こそこれらを実行に移す絶好の機会だと論じてきた。しかし、一方で目的は強固に、原則は不変であるべきだが、実践と組織は時代とともに変える必要がある。上記第II章から第IV章で述べた課題に対応する上で、国際連合が加盟国にとっても、世界の諸民族にとっても有用な手段となるためには、21世紀のニーズと状況に全面的な適応を図らねばならない。国家に加えて、国内レベルでも国際レベルでも、世界の問題でますます重要な役割を演じつつある市民社会にも、門戸を開放しなければならない。国連の強みは、そのパートナーの幅広さと、より大きな自由に向かって進むために対策が必要な諸問題全体について、これらパートナーを結集し、変革のための実効的な連合を形成する能力から引き出さなければならない。
国連は組織として、明らかに過去の時代を念頭に構築された。同様に、我々の実践がすべて、今日のニーズに適応しているわけではないことも明らかである。こうした理由から、各国首脳はミレニアム宣言において、国際連合を強化し、優先課題に対処する上でさらに実効的な手段とする必要性を認識したのである。
事実、私は1997年の事務総長就任以来、国際連合内部の構造と文化を改革し、加盟国や全世界の諸民族にとっての有用性を高めることを、最優先課題のひとつとしてきた。そして多くの成果もあがっている。今日、国連の構造は合理化され、作業方法は実効性を増し、さまざまなプログラム間の調整も改善されているほか、多くの分野で市民社会や民間との作業上の連携も確立された。経済と社会の領域では、ミレニアム開発目標が国際連合システム全体、そして事実上、さらに幅広い国際開発共同体に共通の政策枠組みとしての役割を果たしている。今日の国際連合平和維持ミッションは、従来よりも設計が格段に改善されているほか、戦闘の再発を予防し、恒久的平和の礎を築くために必要な多様な任務も、さらに総合的に把握されるようになった。そして我々は、グローバルな安全、繁栄、自由に重要な貢献を行うべき幅広い非国家主体とも、戦略的連携関係を築き上げるに至った。
しかし、さらに多くの変革が必要である。現状では、国連システム内各所でのガバナンス構造の違い、職務権限の重複、および、現在ではなく過去の優先課題を反映する職務権限といった要素が相まって、我々の実効性を損なっている。管理者に実質的な権限を与え、システムの活動と加盟国が支持する目標(本報告書で概説した目標と同じであることが望まれる)との全面的な整合を図れるようにすべきである。我々はまた、事務局のプロ意識をさらに育み、スタッフや管理者にその業績に対する責任を厳しく問えるよう、さらに努力を重ねなければならない。また、特に経済と社会の分野において、国レベルでも、国際連合システム全体のレベルでも、さまざまな国際連合の代表と活動との一貫性をさらに高めるようにする必要がある。
しかし、改革の効果をあげるためには、その範囲を執行部門に限定してはならない。国際連合の政府間機関にも、新たな生命を吹き込むべき時が来ている。
* *** *
A.総会
ミレニアム宣言が再確認したとおり、総会は国際連合の主たる審議、政策立案および代表機関として、中心的な位置を占めている。特に、予算を審議、承認する権限を有するほか、安全保障理事会を含め、他の審議機関のメンバーも選出する。よって、加盟国が総会の威信低下と、国連活動への貢献度縮小に懸念を抱くのは、もっともなことである。この低落傾向を逆転させねばならないが、そのためには総会の実効性を高めること以外に方法はない。
近年、コンセンサスで採択される総会決議の件数は着実に増えている。それがグローバルな課題に対する加盟国の真の団結を示しているのなら、歓迎すべき動きといえよう。しかし残念なことに、コンセンサス(しばしば全会一致を必要とするものと解釈される)はそれ自体が目的化している。まず各地域グループ、そして次に全体レベルでコンセンサスが求められるのである。このやり方は、加盟国の利益を調整する効果的な手段となっていない。むしろ、それによって総会は一般論へと逃避し、行動を起こすための真剣な取り組みが行われなくなっているのである。現状において、実質的討議の対象は実体よりも過程に集中し、決定と呼ばれるものであっても、単に多様な意見の最大公約数を反映するのみであることが多い。
加盟国はこれまでと同様、総会がその手続きと構造を合理化し、審議過程の改善と実効性の向上を図る必要があるという点で合意している。ひかえめではあるが、多くの策も講じられてきた。そして今、幅広い加盟国が総会の「再活性化」を図る提案を提出している。総会は今こそ、特にその議題の簡素化、委員会の構造の改革、および本会議の開催と報告の要請に関する手続きを改善すること、ならびに、総会議長の役割と権威を強化することにより、その作業の合理化に向けて大胆な措置を講じ、審議過程を迅速化すべきである。
総会は現在、幅広い議題を検討しているが、これには広範な問題が取り込まれ、重複するものも多い。総会は国際移住や、長く討議が続いている包括的テロ対策条約など、今日の重要な実質的問題に集中的に取り組むことにより、実質的な議題の焦点を絞るべきである。
総会はまた、この10年で市民社会が国際連合との交流を急速に拡大し、よって国連のほとんどの活動に関与しているという事実に鑑み、市民社会との連携をさらに積極的に行うべきである。事実、市民社会と政府の全面的な関与がなければ、国際連合の目標は達成できない。私が2003年に任命した国際連合と市民社会の関係に関する有識者パネルは、市民社会と我々の仕事との関係改善に向けた有用な勧告を多く提示しており、私はその報告書(A/58/817およびCorr. 1を参照)を私自身の見解とともに、総会に託した。総会はこれら勧告を実行し、市民社会との全面的、組織的連携を可能にするメカニズムを確立すべきである。
総会はまた、その委員会の構造、委員会の機能方法、委員会に対する監督および委員会の成果物を見直す必要もある。資金による裏づけのない職務権限を次々と国連に与えたり、予算の管理および事務局のポスト配分といった現在の問題を長引かせることを避けるため、総会には委員会の決定を審査するメカニズムが必要である。総会がこれらの問題を解決できなければ、加盟国への実効的な奉仕に必要な焦点も柔軟性も確保できないだろう。
加盟国が最高レベルで総会に真剣な関心を寄せ、各代表が本物のそしてプラスの成果を達成するのだという思いで討議に参加しない限り、こうした目標がいずれも実現しないことは明らかなはずである。加盟国がこれを怠れば、総会が期待した役割を果たせなかったとしても、何ら驚くべき話ではない。
* *** *
B.理事会
国連の創設者たちは、安全保障理事会、経済社会理事会、信託統治理事会という3つの理事会を国際連合に設け、それぞれの分野で大きな責任を与えた。その後、理事会間の責任分担は均衡を欠くようになっていった。安全保障理事会はますますその権限を行使し、特に冷戦終結後は、理事国間での意思の統一もとれるようになったが、この権限は、安保理の構成が時代錯誤的で偏っているという理由から、疑問視されるようになってきた。経済社会理事会は、グローバルな経済・社会ガバナンスの縁辺に追いやられることがあまりにも多くなった。そして信託統治理事会は、その機能を無事全うし、現在は文字どおり形骸化している。
私としては、3つの理事会にそれぞれ、(a) 国際の平和と安全、(b) 経済・社会問題、(c) 人権を担当させ、均衡を回復する必要があると考える。特に人権は、創設当初から国連が追求すべき目的にひとつに掲げられているばかりか、今ではさらに実効的な作業構造を必要とすることも明らかになっている。これら理事会は全体として、サミットその他の加盟国会合から生じた課題に取り組む任務を担うとともに、安全、開発、正義の問題を適切に取り扱うグローバル・フォーラムとしての機能を果たすべきである。最初の2つの理事会はもちろん既存のものであるが、その強化が必要である。第三の理事会は国連の現行人権機構の抜本的な刷新と向上を必要とするものである。
安全保障理事会
すべての加盟国は国際連合憲章に従うことで、国際の平和と安全を維持する一義的責任が安全保障理事会にあることを認め、その決定に拘束されることに同意している。よって、安保理にこの責任を遂行するすべを与え、その決定が全世界で尊重されるようにすることは、国連だけでなく全世界にとって極めて重要である。
すべての国はミレニアム宣言で、「安全保障理事会の包括的改革をあらゆる側面で達成する」(総会決議55/2第30項を参照)ための取り組みを強化することを決意した。このことは、安保理の構成を変えることで、今日の地政学的現実はもとより、国際社会全体をより幅広く代表するようにし、全世界から見た正当性も高めるべきとする、かつてからの多数意見を反映している。その作業方法の効率と透明性を向上させる必要もある。安保理は幅広い代表を迎えるだけでなく、行動が必要な場合に行動を起こす能力と意思も強化せねばならない。どのような改革提案を行うにせよ、これら2つの要請の接点を見いだすという困難な試練を避けて通ることはできない。
私は2年前、安全保障理事会改革なくして国際連合改革なしという持論を明らかにした。今でも私の考えは変わっていない。安全保障理事会は、現代世界の力関係の現実を幅広く代表するものとせねばならない。よって私は、安全保障理事会改革に関し、脅威・挑戦・変化に関するハイレベル・パネル報告書(A/59/565)で提示された下記の提案を支持する。
(a)国連憲章第23条を履行する上で、財政面、軍事面および外交面での国際連合への貢献度、具体的には国際連合の分担金予算への拠出額、職務権限を得た平和活動への参加、安全と開発の分野における国際連合の自主的活動への貢献、および、国際連合の目標と職務権限を支援する外交活動という点での貢献度が最も高い国々の意思決定への参加を拡大すべきである。先進国については、GNPの0.7%をODAに充てるという国際的合意の達成、またはこれに向けた大きな前進を、貢献の重要な要件として考慮すべきである。
(b)より幅広い加盟国、特に開発途上地域をよりよく代表する国々を、意思決定プロセスに参加させるべきである。
(c)安全保障理事会の実効性を損なうべきではない。
(d)安保理の民主的で責任ある性質を高めるべきである。
私は加盟国に対し、同報告書で提示されたモデルAとBという2つのオプション(Box 5を参照)、または、いずれかのモデルに基づいて生まれた、規模とバランスという点で実現可能なその他何らかの案を検討するよう促す。加盟国はこの重要問題に関し、2005年9月のサミットまでに決定を下すことで合意すべきである。この極めて重要な決定は、加盟国がコンセンサスで合意することが極めて望ましいが、コンセンサスが得られないからといって、行動を先延ばししてはならない。
安全保障理事会改革:モデルAとB
モデルAは、拒否権を持たない常任理事国を6カ国増やし、任期2年の非常任理事国を新たに3カ国加え、これを下記のとおり主要な地域に配分するものである。
地域 | 国数 | 常任理事国 (継続) |
新たに提案される 常任理事国 |
新たに提案される 2年任期理事国 |
計 |
---|---|---|---|---|---|
アフリカ | 53 | 0 | 2 | 4 | 6 |
アジア太平洋 | 56 | 1 | 2 | 3 | 6 |
ヨーロッパ | 47 | 3 | 1 | 2 | 6 |
米州 | 35 | 1 | 1 | 4 | 6 |
モデルA計 | 191 | 5 | 6 | 13 | 24 |
モデルBは常任理事国を新設しないが、任期4年で再選可能な新たな理事国を8カ国設けるとともに、任期2年(再選不可)の非常任理事国を1カ国追加し、下記の主要な地域に配分するものである。
地域 | 国数 | 常任理事国 (継続) |
任期4年の再選 可能理事国(案) |
任期2年の理事国案 (再選不可)(案) |
計 |
---|---|---|---|---|---|
アフリカ | 53 | 0 | 2 | 4 | 6 |
アジア太平洋 | 56 | 1 | 2 | 3 | 6 |
ヨーロッパ | 47 | 3 | 2 | 1 | 6 |
米州 | 35 | 1 | 2 | 3 | 6 |
モデルB計 | 191 | 5 | 8 | 11 | 24 |
経済社会理事会
国際連合憲章は経済社会理事会に対し、調整、政策評価および政策対話を含む幅広い重要な機能を与えている。グローバル化が進む中で、1990年代のサミットや会議から国際連合の包括的な開発課題も生まれており、こうした機能の重要性はかつてなく高まったといえる。国際連合はこれまでにも増して、この分野の政策を一貫した形で策定、実施する能力を必要としている。全般的に、経社理の機能はこれらの課題と独特な関連性を有すると考えられているが、この機能は十分に発揮されていないのが現状である。
1945年、国連憲章の起草者たちは経済社会理事会に強制力を与えなかった。その前年、ブレトンウッズで強力な国際金融機関の創設が合意され、これをさまざまな専門機関のほか、世界的な貿易機関で補完することが予定されていたため、国際的な経済政策の決定を分権化するとの意図が明確化されたのである。しかし、このことによって調整者、会合招集者、政策対話フォーラム、そしてコンセンサス構築者としての経社理の潜在的役割は、なおさら重要になった。国連憲章によって、専門機関の活動を調整し、非政府組織と協議を行う職務権限を明確に与えられている機関は、経社理のみである。また、経社理は機能委員会と地域委員会のネットワークも傘下に抱えているが、これらは開発目標の実現に活動の焦点を絞るようになっている。
経済社会理事会は近年、こうした資産を有効に活用し、貿易・金融機関との年次特別ハイレベル会合などを通じて橋渡し役を演じているほか、独自の情報通信技術タスクフォースも設置している。また、国別グループの設置により、安全と開発の問題を関連づけることにも貢献した。
こうした取り組みは、さまざまな主体間の一貫性と調整の向上に役立ったが、明らかに取り組みが必要な部分もまだ残っている。
第一に、世界会議やサミットで生まれた国際連合開発課題の実施を統合、調整、審査する必要性が高まっている。この趣旨で、経済社会理事会はミレニアム開発目標をはじめ、合意済みの開発目標達成に向けた進捗状況を評価する年次閣僚級会合を開くべきである。こうした評価は、国連機関や地域委員会の支援を受けながら、加盟国が作成した進捗状況報告書のピアレビューに基づき実施できよう。
第二に、国際開発協力の動向を審査し、異なる主体による開発活動の一貫性を高め、国際連合システムによる活動の規範面と実践面の関連づけを強化する必要がある。この課題に取り組むため、経済社会理事会はハイレベル開発協力フォーラムとしての役割を果たすべきである。このようなフォーラムは、経社理のハイレベル部会を変容させることにより、隔年開催とすることができよう。
第三に、経済、社会面の挑戦、脅威、危機が発生するごとに、これに対応する必要もある。経社理はこの目的で、必要に応じて時宜にかなった会合を招集し、飢饉、感染症の流行、大規模な自然災害などの開発への脅威を評価するとともに、これらに対する協調的対応を促進すべきである。
第四に、紛争の経済的、社会的側面を体系的に監視し、これに対処する必要がある。経済社会理事会は、国別アドホック諮問グループの設置により、この必要を満たそうとしてきた。しかし、長期的な復興、再建および和解の規模と課題を考えれば、場当たり的取り組みには自ずと限界がある。経済社会理事会は、本報告書で提案した平和構築委員会との連携により、紛争後の管理に関する作業を制度化すべきである。また、構造的な予防促進のため、安全保障理事会との連携も強めるべきである。
最後に、経済社会理事会による規範・戦略設定の役割は、さまざまな国際機構の管理理事会が果たす管理と政策決定の役割と明らかに異なるものの、経社理がグローバルな開発課題への対応に主導権を握るようになれば、国際連合システム全体でこの分野にかかわるさまざまな政府間機関の取り組みに指針を提供できるものと期待される。
これらの勧告をすべて実行に移すためには、経済社会理事会が、現行の「部会」と「実質会期」という年間スケジュールに必ずしも束縛さない、新たな柔軟性の高い構造をもって機能を果たす必要があろう。加えて、経社理が金融と貿易を取り扱う機関のカウンターパートを関与させるためには、実効的、効率的かつ代表的な政府間メカニズムも必要となる。これは、経社理のビューローを拡大するか、地理的にバランスのとれた構成の執行委員会を設置するかのどちらかにより達成できよう。
人権理事会設置提案
国連人権委員会は国際社会に対し、世界人権宣言、2つの国際規約 およびその他中核的な人権条約からなる普遍的な人権枠組みを提供した。人権委員会は各年次会期で、人権問題と人権に関する議論に世論の注目を集め、国際連合の人権政策を策定するためのフォーラムを提供するとともに、テーマや国ごとに、人権遵守状況を監視、分析するため、独立した専門家による特別手続きという特異なシステムを設けている。人権委員会と数百の市民団体との密接な連携により、他に類を見ない市民社会との協力機会が生まれている。
それでも、委員会の任務遂行能力は、信頼性とプロ意識の低下により、ますます損なわれるようになった。特に、人権を強化するのではなく、非難をかわしたり、他国を非難したりする目的で、委員会メンバーに立候補する国が現れている。その結果、信頼低下はますます進み、国際連合システム全体の評判にも暗い影を落とすようになった。
国際連合が全世界の男女の期待に沿うためには-そして実際に、国連が安全と開発の問題と同様、人権擁護も真剣に考えられるようにするためには-、加盟国が国連人権委員会に代わり、より小規模で常設の人権理事会の設置に合意すべきである。加盟国はその際、人権理事会を国際連合の主要機関とするか、総会の補助機関とするかを決定する必要があろうが、いずれの場合にも、理事国は総会に出席し、投票する加盟国の3分の2により、総会が直接選出することになる。理事会の創設により、人権には、国際連合憲章に謳われた最高の重要性に見合う権威的な地位が与えられよう。理事会の構成と理事国の任期は、加盟国が決定すべきである。理事国に選出された国々は、最高の人権基準の遵守を約束すべきである。
* *** *
C.事務局
国際連合の活動にとって、能力と実効性のある事務局は不可欠である。国連のニーズが変化する中で、事務局も変革を遂げなければならない。こうした理由から、私は1997年、事務局の構造改革に乗り出し、さらに2002年には、国連の作業プログラムの重点化と計画・予算策定システムの改善を図り、事務局がよりよいサービスを提供できるようにすることをねらいとして、管理面、技術面でも一連の改善措置を導入した。
私は、総会がこれらの変革を幅広く支援したことをうれしく思う。また、変革によって、世界が国連に期待する仕事を成し遂げる能力も高まったと信じている。予算策定、調達、人材管理、平和維持ミッション支援方法に関する変革を通じ、我々の業務のやり方は一変した。しかし、こうした改革もまだ十分ではない。国際連合が真の実効性を備えるためには、事務局を完全に変容させねばならない。
決定権限を有するもの-本質的には総会と安全保障理事会-は、事務局に職務権限を与える際、任務に見合った資源も提供するよう配慮しなければならない。その一方で、管理者の責任を厳しく問えるようにし、これを監督する政府間機関の能力を強化せねばならない。事務総長と直属の管理者には、世界各地で急速な変化を遂げる活動上のニーズへの対応を期待される組織の管理に必要な裁量権、手段、権限および専門的援助を与えなければならない。加盟国も同様に、事務総長の戦略と指導力の責任を真に問うために必要な監督手段を備えなければならない。
加盟国はまた、国連の職務権限更新を確保する上で、中心的な役割を果たすべきである。よって、私は総会に対し、5年以上を経過した職務権限をすべて審査し、該当する活動が今でも真に必要とされているか否か、または、これに割り当てられた資源を、新たに生じつつある脅威への対応に回せるか否かを判断するよう要請する。
今日の国際連合職員は、(a) 21世紀の新たな本質的課題に対応し、(b) 複雑な全世界的活動の管理権限を有し、(c) その責任を問われなければならない。
私は第一に、本報告書で提示した優先課題に見合うよう、事務局再編の措置を講じているところである。そのためには、平和構築支援事務所の創設、ならびに、私の調停機能、および民主主義と法の支配の両方に対する支援の強化が必要になろう。私はこれに加え、事務総長科学顧問も任命することとした。科学顧問は、国際連合システム内と、さらに幅広い学術研究共同体から科学的、技術的専門知識を結集しつつ、政策事項について戦略的、先見的かつ学術的な助言を提供することになる。
第二に、事務局にはその作業を実行する権限を与えねばならない。ハイレベル・パネルは私に対し、平和と安全に関する意思決定過程の改善を図るため、2人目の副事務総長を任命するよう提言した。私はこれに代え、閣議型の意思決定メカニズム(現在の上級管理グループよりも強い執行権限を有するもの)を創設し、政策と管理の両面で改善を図ることを決定した。このメカニズムは、意思決定の準備とフォローアップを確保する小規模な閣議型事務局によって支えられることとなる。国連という複雑な組織の全世界的活動を実効的に管理する上で、こうした仕組みは役立つだろうが、それだけで十分とはいえない。国連事務の最高責任者である事務総長には、より高度の管理権限と柔軟性を与えなければならない。事務総長は必要に応じ、不当な制約なしに人員配置を調整する能力を備えている必要がある。また、国連行政システムを徹底的に近代化する必要もある。よって、私は加盟国に対し、国連活動の予算と人事を律するルールの包括的な見直しを行うべく、私と協力するよう要請する。
第三に、我々は事務局の透明性と責任体制の改善を続けねばならない。総会は、加盟国が要請により内部監査報告を閲覧できるようにすることにより、透明性の改善に向け重要な一歩を踏み出した。私は目下、日常的に開示しうるものとして、その他どのような情報があるかを洗い出しているところである。また、国連の高官にその行動と担当部署の成果に関する責任を問えるようにするため、管理実績審議会も設置中である。他にも数多くの内部的改善措置が講じられている。こうした措置のねらいは、我々の管理システムと人事方針を、その他のグローバルな公共・営利組織の模範例に合わせることにある。責任・監督体制をさらに改善するため、私は総会に対し、内部監査部の独立性と権限、および知識と能力を強化することを視野に入れ、その包括的な審査を委託するよう提言した。私は、総会が速やかにこの提言に対応するものと期待している。
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D.システムの一貫性
事務局だけでなく、各種の基金、計画および専門機関からなる国際連合システムは全体として、グローバルな問題のすべてをカバーする独特の専門性と資源の富を蓄積している。また、国際連合本体についていえることは、システムの他の部分についてもいえる。すべてがその管理理事会だけでなく、奉仕対象である人々にも明らかな責任を負わなければならない。
ここ数十年間の要求の着実な増大を受け、国連システムはその構成要素だけでなく、活動の規模と範囲も拡大してきたが、このこと自体は歓迎すべきである。しかし、その残念な副作用として、システム内の各機関の間に、職務権限や行動の大きな重複がしばしば見られるようになった。また、必要な資金の大幅な不足も生じている。
こうした問題のいくつかに取り組むため、私は事務総長就任後、二度にわたって大々的な改革に着手した。まず、1997年に提出した報告書『国際連合の再生:改革に向けたプログラム』(A/51/950)において、私は事務局の指導力を強化し、人道、開発分野での調整を改善するため、執行委員会の創設をはじめとする措置を導入した。次に、2002年の第二の報告書『国際連合の強化:一層の変革に向けた課題』(A/57/387およびCorr. 1)で、私は、より直接的に国別レベルでの活動の改善をはかるために特に現地駐在調整官システムの強化により、さらなる措置を提示した。私はまた、事務総長特別代表の権限を拡大するとともに、統合型平和活動のシステムも制度化した。
こうした取り組みは、国別レベルでさまざまな国連機関が相互に、また世界銀行など他のパートナーとより密接に連携できるようにすることで、大きな効果をあげた。にもかかわらず、国際連合システムは全体として、世界の市民が必要とし、また当然受けるべきサービスを一貫した効果的なやり方で提供するまでには至っていない。
問題の一部は、我々が抱える構造的制約と明らかに関係している。中長期的には、これらに取り組むため、はるかに根本的な改革を検討する必要がある。具体的な改革としては、開発、環境、人道援助を扱う、さまざまな機関、基金および計画を強固に管理された統一体としてグループ分けすることがあげられよう。また、このグループ分けに伴い、職務権限や専門性が補完または重複関係にある基金、計画および機関の廃止や統合も必要となりうる。
その一方で、直ちに講じることができ、またそうすべきでもある緊急の対策もある。私は特に、国別レベルでの国際連合システムのプレゼンスと活動の調整に関し、一層の改善措置を導入しているところである。こうした措置は、国際連合活動のあらゆる段階で、特別代表、現地駐在調整官、人道調整官など、いずれかの特定国に駐在する国際連合高官に、統合型の国際連合ミッションまたは「国別プレゼンス」の管理に必要な権限と資源を与えることで、国際連合が真に一体となって機能できるようにすべきだという、単純な原則に基づいている。
国際連合の国別活動
国際連合が開発支援に従事するいずれの国においても、国際連合の機関、基金およびプログラムは、当該国が上記第II章に提示したミレニアム開発目標に基づく国内的貧困削減戦略を策定、実施するための手助けを行えるような形で、それぞれの専門的な取り組みを組織化せねばならない。現地駐在調整官システムの管理は引き続き、国連の主たる開発機関である国際連合開発計画(UNDP)が担当すべきであるが、適切な資源と権限を与えられた現地駐在調整官が率いる国連の各国駐在チームに指針を提供する役割は、より幅広い国際連合開発グループ(UNDG)が担うべきである。国際連合開発援助枠組みは、一連の明確な戦略目標を明らかにするとともに、パートナー各国がミレニアム開発目標を達成し、さらに幅広い開発ニーズを満たすための援助を行う上で、各国連主体が提供せねばならない具体的援助を定めるべきである。そうすれば、政府も国際連合自体も、この「成果連関表」を用いて、各国レベルでの国際連合システムの業績を監視、評価し、代表者に責任を問うことができる。
駐在調整官システムの強化
このプロセスを推進するため、私は現地駐在調整官の役割をさらに強化し、より大きな権限を与えることで、その調整能力を高めてゆくこととした。しかし、各機構の管理理事会もまた、このプロセスを支援するための指針を提供する必要がある。私は加盟国に対し、現地駐在調整官システム全体に職務権限を割り当て、資源を配分する上で一貫した政策の追求を確保できるよう、これら管理理事会に加わっている各国代表間で調整を図るよう呼びかける。また、私は加盟国に対し、システム内の一貫性向上を促すため、核となる資金供与額を増額し、用途を特定した資金の割合を低めるよう求める。先に触れたとおり、私としては、再活性化された経済社会理事会が、この新たな一貫性の全体的方向性を定めるものと期待している。
私は近年、国際連合が全世界の独立の科学者、政策立案者および政治指導者との密接な協力から、大きな恩恵を得ていることに満足している。このことは特に開発の分野に当てはまる。最新の科学技術を常に、我々の機関や計画の実践に統合することが必要だからである。国際連合の開発への取り組みと、関連分野における世界最高水準の頭脳との連携を定着させるため、私は2005年中に、開発顧問理事会を発足させるつもりである。この理事会は、世界トップレベルの科学者、政策立案担当者および政治指導者を幅広く代表する二十数名から構成され、先に触れた事務総長科学顧問と密接な協力を図る予定である。理事会は私とUNDGの双方に対し、ミレニアム開発目標達成支援のあり方についての助言を行い、定期的な報告書と解説書を発表するほか、学界、市民社会、その他関連する専門的な団体とも連絡を保つことになっている。経済社会理事会も、理事会の助言を活用できよう。
人道支援システム
最近の数カ月間には、インド洋の大津波から、ダルフールやコンゴ民主共和国東部での危機に至るまで、国際人道支援システムに対する要求がその範囲と規模をますます拡大していることを如実に物語る事態が相次いだ。このような状況の中で、各機関や非政府組織の人道援助共同体からなるシステムは、国際連合の指導と調整のもと、かなりの実績をあげてきた。人道援助を専門とする要員が展開されているほか、食糧をはじめとする大量の援助物資が数日以内に、世界各地の戦争や自然災害の被災者に届くようになった。機関間の業務重複も減り、現場での非政府主体と政府間主体の調整も効果をあげている。
大方の予想に反し、人道支援システムはほんの数週間で、インド洋の津波に襲われたあらゆるコミュニティに大量の援助を提供することができた。ところが、その一方で、ダルフールの避難民に対する援助は、誓約額を大きく下回っているほか、1997年以来、380万人以上の死者と230万人以上の避難民を出しているコンゴ民主共和国などの重大危機に対する資金拠出も、嘆かわしいほど不足している。あらゆる緊急事態において、人道支援の予測可能性を高める必要がある。そのためには、3つの点で大きな前進が必要となる。
第一に、人道支援システムは、水や衛生設備の提供から避難所やキャンプの管理に至るまで、手薄となることが多い領域において、より予測可能な能力を備える必要がある。すでに危機が進行している場合には、迅速かつ柔軟に活動することが必要である。このことは特に、複雑な緊急事態に当てはまる。人道支援の必要性が紛争の力学に影響され、しかも状況は急変しうるからである。概して、機会と制約を最もよく特定できる立場にあるのは、人道調整官が率いる国際連合国別チームである。しかし、現地の調整機構を強化する必要があることは明らかである。具体的方策としては、国際連合国別チームの準備態勢と装備を強化すること、人道調整官の指導力を強化すること、および、こうした現地機構を支えるため、十分かつ柔軟な資源の迅速な調達を確保することがあげられる。
第二に、弱いコミュニティのニーズに対応するため、予測可能な資金供与が必要である。津波危機に対する全世界からの寛大な支援提供が例外ではなく、原則となるようにする必要がある。これはすなわち、人道支援共同体とドナー共同体との協力を土台に、新たなドナー政府や民間企業とさらに組織的な関係を築くことを意味する。一貫性のある時宜にかなった危機対応を確保するためには、資金拠出の誓約を速やかに実際の資金へと転換すること、および、特に緊急事態の初期段階において、より予測可能で柔軟な資金を人道支援活動に利用できるようにすることが、ともに必要となる。
第三に、現地の人道支援要員と人道支援活動について、予測可能なアクセス権を確保し、その安全を保障する必要がある。政府軍または武装集団による活動の妨害により、人道支援要員が援助を提供できないことはあまりにも多い。また、テロリストが基本的な国際法に違反し、非武装の国連援助要員を攻撃して、活動を麻痺させるケースも見られる。
私はこれらの問題に取り組み、行動強化に向けた具体的勧告を策定するため、緊急援助調整官との連携を図っているところである。現在は包括的な人道支援の見直しを実施中であり、調査結果は2005年6月に発表される予定である。私は調査結果の中に、必要とあらば同時に数カ所において、大規模な災害その他の緊急事態に即座に対応できる能力を確保するため、要員と機材に関する新たな待機取り極めに向けた一連の提言が含まれることを期待している。私は加盟国や各機関との協力により、こうした提言が最終的に提示され次第、その速やかな履行を確保する所存である。
突然の災害や、放置された緊急事態で未充足の大規模なニーズに直ちに対応できるようにするためには、我々が利用できる財政手段の充実を検討する必要がある。我々は、既存の中央緊急回転基金を格上げるか、それとも新たな資金調達メカニズムを確立すべきかを検討すべきである。後者の場合、10億ドルの自発的基金を設けるとするドナーからの提案は、真剣な検討に値する。
国内避難民問題の深刻化には、特に関心を向けるべきである。国境を越えて移動する難民とは異なり、暴力や戦争によって国内での移動を強いられた人々は、確立された最低基準による保護の対象となっていない。
しかし、こうした極めて弱い立場にいる人々の数は約2,500万人と、推定難民数の2倍を超えている。私は加盟国に対し、国内避難民保護の基本的な国際規範として私の特別代表が策定した「国内避難民に関する指針」(E/CN.4/1998/53/Add. 2)を受け入れ、国内法を通じてこれら原則の採用を促進することを公約するよう求める。国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)の保護対象となる難民とは異なり、国内避難民とそのニーズは、さまざまな人道援助機関のはざまに位置することが多い。最近になって、各機関が協同し、それぞれの権限の範囲内で国内避難民に支援を提供できるようにするための策が講じられている。しかし、さらに最近のダルフール情勢は、一層の取り組みの必要性を示している。私は、緊急援助調整官のグローバルな指導力のもと、また、国別レベルでは人道調整官システムを通じ、国内避難民のニーズに対する機関間の対応をさらに強化してゆく所存である。私のこの取り組みは、加盟国からの支援も得られるものと信じている。
最後に、私は加盟国全般、そして特に安全保障理事会に対し、我々があまりにも多く直面する許しがたい人道支援が行きわたることへの妨害に取り組むよう、さらに組織的な呼びかけを行ってゆく所存である。不必要な苦痛と惨禍を防ぐためには、人道的空間を保護し、人道支援主体が弱い立場に置かれた人々に安全に、かつ妨害なく接近できるようにすることが不可欠である。私はまた、新設された事務局の安全局を通じ、人道支援要員がリスクの高い地域でも、不当に生命を危険にさらすことなく救命活動に従事できるようにするため、国連のリスク管理システムの強化を図ることとした。
地球環境のガバナンス
国際協定とこれに関与する機関の数および複雑性を考えれば、環境問題への対応で一貫性を確保することは特に大きな課題といえる。現行の地域的、世界的多国間環境条約の数は400を超え、その対象も生物多様性、気候変動、砂漠化など、広い範囲に及ぶ。これら法文書が部門的な性格を有し、その実施を監視する機構も細分化されていることから、全体的対応の実効性確保はさらに難しくなっている。これら条約のフォローアップと実施に向けた取り組みを整理統合する必要性は明らかである。2002年にはすでに、ヨハネスブルクで開催された持続可能な開発に関する世界サミットで、調整と監視の改善により、国際環境ガバナンスの制度的枠組みの一貫性を高める必要性が強調されている。環境基準の設定、科学的な議論、条約遵守の監視に向け、より総合的な機構を検討すべき時はすでに来ている。その際には、国際連合環境計画のほか、条約機関や専門機関など、既存の機構を土台とすべきである。その一方で、各国レベルでの環境対策にとって利益となるよう、規範と実際の活動の両面において、国連機関間の相乗効果を高め、それぞれの比較優位を最適活用することで、持続可能な開発への統合型アプローチを確保し、持続可能性と開発の双方に正当な重きが与えられるべきである。
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E.地域機構
全世界では現在、かなり多くの地域・小地域機構が活動しており、その加盟国だけでなく、さらに幅広い国際システムの安定と繁栄に多大な貢献をしている。国際連合と地域機構は、国際の平和と安全にとっての課題に対処する上で、相互補完的な役割を果たすべきである。援助国はこの関連で、アフリカ連合との間で10カ年能力育成計画を策定する必要性に特に関心を払うべきである。私は国際連合憲章の枠内において、国際連合と地域機構の協力を改善するため、国際連合と各地域機構との間で、場合に応じて適宜、情報、専門性および資源の共有を律する覚書を結んでゆく所存である。紛争予防または平和維持の能力を備えた地域機構については、これらの覚書により、その能力を国際連合待機制度の枠内で活用することもできよう。
また、私は地域機構に対し、それぞれが特に関心を有する問題が話し合われる場合、国際連合システム調整機関の会合への参加を招請してゆく所存でもある。
極めて例外的な状況において、国際連合がその分担金から、安全保障理事会によって承認された地域的活動の費用、または、全体として国際連合の傘下に置かれる多面的平和活動への地域機構の参加費用を支弁するオプションを与えるよう、国際連合平和維持予算のルールを改正すべきである。
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F.国際連合憲章の改正
第V章の冒頭でも指摘したとおり、国際連合憲章の原則は今でも十分に有効であるほか、全般的に見て、憲章はそれ自体、我々のあらゆる活動にとって強固な基盤を引き続き提供している。その本質は、60年前にサンフランシスコ会議で起草された文書と何ら変わっていない。憲章を改正することなく、実践を通して多くのことが変更されてきている。事実、憲章が修正されたのは国連史上わずか2回-安全保障理事会と経済社会理事会の理事国を増やす際-である。
とはいえ、国際連合は現在、1945年当時の世界とは根本的に異なる世界で活動しており、今日の現実は憲章にも反映させるべきである。特に、憲章第53条と第107条にある時代錯誤的な「敵国」条項については、削除すべき時がすでに来ている。
信託統治理事会は、信託統治地域の行政水準を向上させ、さらに幅広い非植民地化のプロセスを促進する上で、極めて重要な役割を果たした。しかし、その活動はかなり前に完了している。第13章「信託統治理事会」を憲章から削除すべきである。
同様の理由により、軍事参謀委員会に関する第47条は、第26条、第45条および第46条における同委員会へのあらゆる言及とともに、削除すべきである。
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人類の歴史上、今ほど一人一人の女性、男性、そして子どもの運命が全世界で絡み合った時期はない。我々は道徳的要請と客観的利益の両方によって結びついている。より大きな自由の中で世界を構築することは可能だが、そのためには、我々の立場の接点を見いだし、集団行動を維持しなければならない。これは気の遠くなるような話にも見える。一般論に終始したり、逆に意見の対立が深い領域に踏み込んで、相違が克服されるどころか、増幅されてしまったりすることが簡単に起こりうるからである。
それでも、現在の混沌とした時代が紛争の広がりや不平等の拡大、法の支配後退の前触れとなるのか、逆に平和、繁栄、人権を目指す我々の共通機構を再生するきっかけとなるのかを決めるのは、我々自身である。行動の時は来た。美辞麗句や善意はもう十分である。私は本報告書で、2005年中に必要かつ達成可能と考える決定のみを取り扱うこととした。そして付属には、各国首脳に検討を仰ぐべき多くの具体的項目を掲げた。
米国のフランクリン・D・ルーズベルト大統領は、国際連合の創設にとって中心的なビジョンの持ち主であった。指導者たちが正しい選択を行うためには、そのビジョン、すなわち「誰もが不完全と認める世界で、責任を果たす勇気22」が必要である。また、見解の相違を超越するための知恵も必要となろう。私は各国内、そして各国間に強固で明確な指導力があれば、相違の克服は可能だと確信している。また、そうせねばならないことも確かである。私が本報告書で呼びかけたことは実行可能である。手を伸ばせば届くのである。現実主義的な発想から、我々の世界の方向性を変える壮大なビジョンが生まれることもある。それこそ我々のチャンスであり、課題なのである。
1. 総会決議55/2。
2. Investing in Development: A Practical Plan to Achieve the Millennium Development Goals (United Nations Publication, Sales No. 05.III.B.4) 、http://www.unmillenniumproject.orgも参照。
3. A Fair Globalization: Creating Opportunities for All (Geneva, International Labour Organization, 2004).
4. Unleashing Entrepreneurship: Making Business Work for the Poor (United Nations publication, Sales No. 04.III.B.4).
5. Report of the International Conference on Financing for Development, Monterrey, Mexico, 18-22 March 2002 (United Nations publication, Sales No. E.02.II.A.7), chap. I, resolution 1, annexを参照。
6. United Nations, Treaty Series, vol. 1522, No. 26369.
7. United Nations, Treaty Series, vol. 1954, No. 33480.
8. United Nations Environment Programme, Convention on Biological Diversity (Environmental Law and Institution Programme Activity Centre), June 1992を参照。
9. Report of the World Summit on Sustainable Development, Johannesburg, South Africa, 26 August-4 September 2002 (United Nations publication, Sales No. E.03.II.A.1), chap I, resolution 2, annex, para 44を参照。
10. FCCC/CP/1997/7/Add.1, decision 1/CP.3, annex.
11. A/AC.237/18 (Part II)/Add.1 and Corr.1, annex I
12. United Nations, Treaty Series, vol. 729, No. 10485.
13. Official Records of the General Assembly, Forty-seventh Session, Supplement No. 27 (A/47/27), appendix Iを参照。
14. 総会決議2826(XXVI)付属書。
15. Report of the United Nations Conference on the Illicit Trade in Small Arms and Light Weapons in All Its Aspects, New York 9-20 July 2001 (A/CONF. 192/15), chap. IVを参照。
16. CD/1478.
17. CCW/CONF.I/16 (Part I), annex B.
18. The United Nations Disarmament Yearbook, vol. 5: 1980 (United Nations Publications, Sales No. E.81.IX.4), appendix VIIを参照。
19. 総会決議217 A (III)。
20. 総会決議55/96。
21. 総会決議2200 A (XXI)。
22. 米大統領の連邦議会に対する1945年1月6日付教書を参照。
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各国首脳による決定に向けて
1.今回のサミットは、世界の指導者が幅広い問題を検討し、全世界の人々の生活を大幅に改善する決定を下すうえでまたとない機会となる。これは壮大な取り組みであり、世界の指導者を結集させる価値のあるものといえる。
2.21世紀には、あらゆる国とその集団機構が、欠乏からの自由、恐怖からの自由、そして尊厳をもって生きる自由を確保することにより、より大きな自由という目標に向けて邁進せねばならない。ますます相互連関を強める世界では、開発、安全、人権の分野における前進を同時に図らねばならない。安全なくして開発はなく、開発なくして安全はない。そして、開発と安全はともに、人権と法の支配の尊重にかかっている。
3.今日の世界で完全に孤立できる国はない。我々はすべて、相互の開発と安全に対する責任を共有することになる。集団的戦略、集団的機構、そして集団的行動は欠かせない。
4.よって、各国首脳は我々が抱える脅威と機会の性質について合意し、決定的行動を起こさねばならない。
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I.貧困からの自由
5.貧困を削減し、万人にとってのグローバルな繁栄を推進するため、私は各国首脳に以下を求める。
(a)2002年に、メキシコのモンテレーで開催された開発資金国際会議と、南アフリカのヨハネスブルクで開催された持続可能な開発に関する世界サミットで合意された、相互責任に基づく開発コンセンサスを再確認するとともに、その履行を公約すること。この歴史的合意に沿い、また、ミレニアム開発目標を中心に据えつつ、
(i)開発途上国は、ガバナンスの強化、汚職対策、および、民間主導型の成長を促進し、国家開発目標の国内的資金源を極大化するための政策と投資の導入により、自国の開発について第一義的責任を担う決意を新たにすべきである。
(ii)先進国は、開発援助の増額、より開発志向型の貿易システム、および債務救済の拡大と増額により、こうした取り組みへの支援を約束すべきである。
(b)アフリカの特殊なニーズを認識し、緊急課題としてこれらのニーズに取り組むという厳粛な決意を新たにすること。
(c)極端な貧困を抱える開発途上国は、それぞれ2006年までに、2015年を期限とするミレニアム開発目標を達成できるよう、大胆な包括的国家戦略を採用し、その実施に着手する旨の決定を下すこと。
(d)2006年までに大幅な増額に着手し、2009年までに0.5%という暫定目標を達成することで、2015年までに総国民所得の0.7%を政府開発援助にあてるという目標を達成するというスケジュールを確立していない先進国に、これを行わせる旨を約束すること。
(e)ある国がミレニアム開発目標を達成でき、かつ、2015年まで債務比率の増大を抑えられる水準に、債務を持続可能なものとして定義し直すべきであること、ほとんどのHIPC諸国について、これは無償資金協力のみの供与と債務全額の帳消しが必要となる水準であり、また、HIPCに含まれない重債務国と中所得国の多くについても、これまでに提示された債務削減額の大幅な積み増しが必要になること、および、追加的な債務帳消しは、その他の開発途上国が利用できる資金を減らさず、かつ、国際金融機関の長期的な財務基盤を危険にさらさないような形で行うべきである旨を決定すること。
(f)ドーハ・ラウンド多角的貿易交渉では、開発に関する約束を充足し、2006年までに交渉妥結を図るとともに、その第一歩として、後発開発途上国からの全輸出品に対し、無税かつ無制限の市場アクセスを認めること。
(g)2005年中に、当面のODAの前倒しを支援する国際金融ファシリティを立ち上げ、これを根底から支えるため、2015年までにODAの0.7%目標を達成するという決意をさらに固めるとともに、より長期的には、国際金融ファシリティを補完するため、その他の革新的な開発資金源も検討する旨を決定すること。
(h)マラリア予防用の蚊帳と有効なマラリア治療薬の無償配給、現地で生産される食糧を用いた学校給食プログラムの拡大、初等教育と保健サービスの無償化などを通じ、ミレニアム開発目標達成に向けた前進を直ちに実現できるよう、一連の「即効策」に着手する旨を決定すること。
(i)UNAIDSとそのパートナーによって明らかにされた、さらに広範かつ包括的なHIV/エイズ対策に必要な資金の国際社会による早急な拠出、ならびに、HIV/エイズ、結核およびマラリア対策のためのグローバル基金に対する十分な拠出を確保すること。
(j)ジェンダーの平等に加えて、小学校を卒業し、中学へと進学できる女児を増やすこと、女性の安定した財産保有権を確保すること、性と生殖に関する保健サービスを利用できるようにすること、労働市場への平等なアクセスを促進すること、政府の政策決定機関に参加できる機会を与えること、および、女性を暴力から守るための直接的介入を支援することにより、広範なジェンダーの差別を克服する必要性も再確認すること。
(k)保健、農業、天然資源と環境管理、エネルギーおよび気候の分野において、貧困層の特殊なニーズに取り組むための学術研究と開発に対する国際支援を大幅に増額する必要性を認識すること。
(l)技術革新によるものを含め、気候変動の軽減に向けたグローバルな協調的行動を確保するとともに、そのために、すべての主要排出国と先進国、途上国双方のさらに幅広い参加により、2012年以降についても、差異ある共通の責任という原則を考慮しつつ、気候変動対策に向けたより裾野の広い国際的枠組みを開発する旨決議すること。
(m)各国と地域の既存の能力を土台として、あらゆる自然災害に対応する全世界的な早期警報システムの設置を決議すること。
(n)健全かつ透明で責任ある国家戦略を定め、開発援助の増額を必要としている国々は、ミレニアム開発目標を達成できるよう、2005年から直ちに、十分な質と十分スピードで十分な援助増額を受けるべき旨を決定すること。
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II.恐怖からの自由
6.21世紀に実効的な集団安全保障を提供するため、私は各国首脳に対し、国際の平和と安全に対する脅威全体について、協調的な対策を誓約すること、および、特に以下を行うことを求める。
(a)脅威は相互に連関しており、安全保障、開発、人権は相互に依存しており、いかなる国もまったくの単独行動によって身を守ることはできず、すべての国は公平、効率的かつ実効的な集団安全保障体制を必要としているとの認識に基づき、新たな安全保障のコンセンサスを実施に移すことを確認、約束するとともに、そのために、国際戦争から大量破壊兵器、テロ、国家崩壊および内戦、さらには生死にかかわる感染症の流行、極端な貧困、環境破壊に至るまで、あらゆる脅威に立ち向かうための包括的戦略に合意し、これを実施する旨公約すること。
(b)多国間の不拡散・軍縮枠組みをさらに強化するため、核兵器不拡散条約、生物・毒素兵器禁止条約および化学兵器禁止条約の全条項の完全遵守を誓約するとともに、特に、
(i)核分裂性物質カットオフ条約交渉の早期妥結を決議すること。
(ii)核実験による爆発の停止、および、包括的核実験禁止条約の発効という目標に向けた決意を再確認すること。
(iii)核兵器不拡散条約の遵守検証規範として、モデル追加議定書の採択を決議すること。
(iv)平和利用の権利と不拡散の義務という、核兵器不拡散条約の原則に沿い、ウラン濃縮・プルトニウム分離施設の国内設置に代わる選択肢に関する合意の早期達成を公約すること。
(v)生物・毒素兵器禁止条約の一層の強化を公約すること。
(vi)すべての化学兵器保有国に対し、予定された備蓄化学兵器の廃棄を速やかに実施するよう求めること。
(c)小型武器のマーキング、追跡および不正仲介を律する法的拘束力を備えた国際法文書を制定するとともに、国際連合による武器禁輸措置の実効的な監視と執行を確保すること。
(d)いかに理にかなっていようとも、民間人や非戦闘員を標的としたり、故意に殺害したりすることは、いかなる主義主張または不満によっても正当化されないことを確認するとともに、民間人または非戦闘員を殺害したり、これらに重傷を負わせたりすることを意図する何らかの行為で、その性質または文脈により、ある国民を威嚇するか、ある政府または国際機関に何らかの作為または不作為を強制する目的を有するものは、いずれもテロ行為にあたる旨宣言すること。
(e)事務総長が提示した包括的な国際連合テロ対策戦略の実施により、人々がテロに走ったり、その支持に回ったりすることを防ぎ、テロリストが資金や物資を利用できないようにし、国家によるテロ支援を抑止し、各国のテロ対策能力を育成し、人権を擁護する旨決議すること。
(f)12の国際テロ対策条約にすべて加入し、各国代表に下記を指示する旨を決議すること。
(i)緊急課題として核テロに関する条約を締結する。
(ii)第60回総会閉幕までに、テロに関する包括的条約を締結する。
(g)組織犯罪と汚職に関するすべての妥当な国際条約にできる限り早く加入することを公約するとともに、これら条約の規定を国内法に取り入れ、刑事司法制度を強化することを含め、その実効的な実施に向けて必要なあらゆる措置を講じること。
(h)安全保障理事会に対し、武力行使の原則を定め、武力行使の権限または職務権限を与えるか否かを決定する際には、これを指針とする意思を表明する、武力行使に関する決議を採択するよう要請すること。武力行使の原則には、第51条を含め、武力行使に関する国際連合憲章規定の再確認、平和と安全の領域で安全保障理事会が果たす中心的役割の再確認、ジェノサイド、民族浄化をはじめとする人道に対する罪の場合などに、国際の平和と安全を守るため、予防的なものも含めて安全保障理事会が武力を行使する権利の再確認、ならびに、武力行使を承認または支持するか否かについて考える際に、脅威の重大性、予定される軍事行動の適切な目的、武力行使に至らない手段でも、脅威を止められる公算があるか否か、軍事行動のオプションは、直面する脅威の度合いに応じたものか否か、および、合理的な成功の可能性があるか否かを検討する必要性を含めるべきである。
(i)本報告書の提案に沿い、平和構築委員会の設置に合意するとともに、平和構築のための自主的な常設基金の設置と支援にも合意すること。
(j)国際連合平和維持のための戦略予備部隊を創設し、連動的な平和維持能力システムの一環として待機部隊の設置を図る欧州連合、アフリカ連合その他による取り組みを支持するとともに、国際連合文民警察待機部隊を設置すること。
(k)加盟国の制裁実施能力を高めること、十分な資源を伴った監視メカニズムを確立すること、および、制裁の人道的影響を軽減するための実効的で責任あるメカニズムを確保することによるものを含め、安全保障理事会が決定した制裁の実効的な実施と執行を確保すること。
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III.尊厳をもって生きる自由
7.私は各国首脳に対し、国際連合憲章と世界人権宣言の中心をなす原則、すなわち法の支配、人権および民主主義を堅持する決意を新たにするよう求める。この趣旨で、各国首脳は下記を行うべきである。
(a)普遍的に認められた原則がすべての国で実施されるよう、法の支配を強化し、人権と基本的自由の尊重を確保し、民主化を促進するための策を講じることにより、人間の尊厳を守る決意を新たにすること。
(b)ジェノサイド、民族浄化および人道に対する罪に立ち向かう集団行動の根拠として、「保護する責任」を受け入れるとともに、この責任は何よりもまず、国民の保護を責務とする各国が負わねばならないが、国内当局に国民を守る能力も意思もない場合には、国際社会が外交、人道支援などの手段を用いて、民間人の保護を助ける責任を負うことになること、および、このような手段が不十分と見られる場合、安全保障理事会が要請に応じ、国連憲章に基づいて執行を含む行動を起こす必要に迫られうることを認識しつつ、この責任に基づいて行動する旨合意すること。
(c)31の多国間条約を対象とする2005年の条約関連イベントを支持するとともに、民間人保護に関する全条約の批准と履行を行っていない政府があれば、これに同意するよう促すこと。
(d)自国、地域および世界で民主主義を支持することを公約し、国際連合が新興民主主義国を支援する能力の強化を決議するとともに、この趣旨で、民主主義の確立または強化を望む国々に資金と技術援助を提供するため、国際連合民主化基金の創設を歓迎すること。
(e)国際紛争に裁定を下すという国際司法裁判所の重要な役割を認識するとともに、同裁判所の活動を強化するための方策の検討に合意すること。
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IV.集団行動の必要性:国際連合の強化
8.共通の脅威とニーズへの統一的対応を図る上で、国際連合をさらに実効性と効率の高い手段とするため、私は各国首脳に対し、下記を求める。
(a)国際連合憲章に定められた国際連合創設者の幅広いビジョンを再確認することで、安全、経済・社会問題および人権という幅広い分野で全世界の人々が抱える多種多様な課題すべてに取り組むための組織、資源および装備を国連に与えるとともに、この精神に沿って、国連の主要な組織と機構を改革、再編、再活性化し、必要に応じて、移り変わりの激しい21世紀の脅威、ニーズおよび状況に実効的な対応を行えるようにする旨公約すること。
総会
(b)下記により、総会を再活性化すること。
(i)それぞれの代表に対し、第60回総会において、総会の活動の合理化と審議過程の迅速化、議題、委員会構造、および本会議と報告要請手続きの簡素化、ならびに、議長の役割と権限の強化によるものを含め、総会を再活性化するための包括的な改革案を採択するよう指示する。
(ii)国際移住や、長く討議が続いている包括的なテロ対策条約など、昨今の重大な実質的問題に取り組みを集中させることにより、総会の実質議題の焦点を絞る旨決議する。
(iii)総会が全面的かつ組織的に市民社会とかかわれるようにするメカニズムを確立する。
安全保障理事会
(c)下記により、国際社会全体と今日の地政学的現実をより幅広く反映し、かつ、これらの目標を果たすように理事国数を増やす形で、安全保障理事会を改革すること。
(i)安保理改革の原則を支持するとともに、本報告書で提示したモデルAとBという2つのオプション、および、どちらかのモデルに基づいて生まれた、規模とバランスという点で実現可能なその他何らかの案を検討する。
(ii)2005年9月のサミットまでに、この重要問題に関する決定を下すことで合意する。この極めて重要な決定は、加盟国がコンセンサスで下すほうがはるかに望ましい。しかし、コンセンサスが出来上がらないからといって、行動を先延ばしする言い訳としてはならない。
経済社会理事会
(d)下記により、経済社会理事会を改革すること。
(i)経済社会理事会に対し、ミレニアム開発目標をはじめとする合意済みの開発目標に向けた進捗状況を評価するため、年次閣僚級会合を開く職務権限を与える。
(ii)経社理がハイレベル開発協力フォーラムとして、国際開発協力の動向を審査し、異なる主体による開発協力活動の一貫性向上を図り、国際連合の規範策定と実践的活動との関連性を強める役割を果たすことを決定する。
(iii)必要に応じ、飢饉、感染症の流行、大規模な自然災害など、開発に対する脅威を評価し、これらへの協調的対応を促進するため、時宜に応じた会合を招集するよう経社理に促す。
(iv)経社理は、本報告書で提案した平和構築委員会との連携により、紛争後の管理に関する作業を制度化すべきことを決定する。
人権理事会設置提案
(e)国連人権委員会に代わり、国際連合の主要機関または総会の補助機関として、より小規模で常設の人権理事会を設置し、その理事国は総会に出席かつ投票する加盟国の3分の2により、総会が直接選出する旨合意すること。
事務局
(f)下記により、事務局を改革すること。
(i)総会は5年以上が経過した職務権限をすべて審査し、該当する活動が依然として真に必要か否か、または、これに充当されている資源を新たに生じつつある課題への対応に回せるか否かを判断すべきだとする事務総長の要請に支持を表明する。
(ii)現状のニーズに見合う人事の刷新と再編を行うため、事務総長に一括して任用できる制度を導入する権限と資源を提供することで合意する。
(iii)加盟国は事務総長との連携により、国連の活動を律する予算と人事のルールの包括的な見直しを行うべきことを決定する。
(iv)事務局内の責任体制、透明性および能率を改善するために事務総長が実施中の管理改革一括政策案に対し、支持を表明する。
(v)内部監査部の独立性と権限、および専門性と能力を強化することを視野に入れ、その包括的な審査を委託する。
システム全体の一貫性
(g)駐在調整官システム全体に職務権限を割り当て、資源を配分する上で一貫した政策の追求を確保できるよう、各種開発・人道機関の管理理事会に加わっている各国代表の間で調整を図る旨決議することにより、システム全体の一貫性の向上を確保すること。
(h)人道的空間の保護と、弱者に対する人道支援要員の安全かつ妨害のないアクセスを確保する旨公約し、緊急援助資金を直ちに利用できるようにするための新たな資金供与取り極めの策定により、人道支援を迅速化するという提案に応じる旨決議するとともに、国内避難民のニーズに対する機関間の国別対応の強化を図る事務総長の取り組みを支持すること。
(i)環境面での基準設定、科学的な議論と監視、および条約遵守について、UNEPなどの既存の機構、および条約機関と専門機関を土台としつつ、実践的活動のレベルにおいて、持続可能な開発に対する統合型アプローチを確保するような形で開発機関に環境活動を割り当てる、より総合的な構造の必要性を認識すること。
地域機構
(j)第一歩として、アフリカ連合との間で10カ年能力育成計画を策定、実施すること、および、紛争予防または平和維持の能力を備えた地域機構については、国際連合待機制度の枠内においてその能力を提供することを検討させるなどによって、国際連合と地域機構との関係強化を支援すること。
国際連合憲章
(k)国際連合憲章第53条と第107条に含まれる「敵国」への言及を削除し、軍事参謀委員会に関する第47条、ならびに、第26条、第45条および第46条に含まれる同委員会への言及を削除するとともに、信託統治理事会に関する第13章を削除する旨決定すること。