安定のための融資
多くの国は、内外の要因によって自国の国際収支、財政の安定、債務返済能力が大きく損なわれると、国連の専門機関の一つである国際通貨基金(Interanational Monetary Fund:IMF)(www.imf.org) に助けを求める。IMFはこうした問題の解決のために助言や政策勧告を行い、しばしば経済改革計画を支援して加盟国に資金を提供する。
国際収支に失調をきたすと、加盟国は一般にIMF の財源を利用する。そうした加盟国は、他の国の通貨もしくは特別引き出し権(Special Drawing Rights)の形で、自国通貨額に相当する額の準備資産をIMFから購入する。IMFはこのローン運用に手数料を徴収し、加盟国は特定の期間にわたってIMFから自国通貨を再購入することによってローンを返済する。
2010年、IMFは低所得国(LICs)に対する支援を高めた。これはこれらの国において経済状態の性格が変わり、またグローバルな経済危機の影響によってその脆弱性が増したことを反映してのことであった。通貨基金の財政支援をより柔軟なものにして、LICsのニーズによりよく合わせられるようにする目的の幅広い改革の一環として、IMFは「貧困削減・成長トラスト(Poverty Reduction and Growth Trust)」を設立した。三つの新しい譲許的融資の窓口、すなわち拡大クレジット・ファシリティ、スタンドバイ・クレジット・ファシリティ、ラピッド・クレジット・ファシリティを持ち、2010年1月に有効となった。2013年4月、これらの措置はIMF支援をより柔軟に適用できるように改善された。
IMFの主なファシリティは以下の通りである。
- スタンドバイ取り決め(Stand‒by Arrangement: SBA)短期の国際収支問題を抱える国を支援する。
- フレキシブル・クレジット・ライン(Flexible Credit Line: FCL)非常に強固なファンダメンタルズと政策、そして政策実施を備えた国を対象とする。FCLによる融資は、FCLを受ける資格のある国は適切なマクロ経済政策を実施してきたことから、SBAとは異なり、特定の政策合意の実施を条件とされることはない。
- 予防的流動性枠(Precautionary and Liquidity Line:PLL)健全なファンダメンタルズ及び政策を実施している国、もしくはその実績を有する国を対象とする。PLLを受ける資格があっても一定の脆弱性を抱えていて、FCLの適格基準に達しない国でも、SBAに通常伴うような大幅な政策調整は求められない。
- 拡大信用供与措置(Extended Fund Facility: EFF):抜本的な経済改革を必要とする大きなゆがみに起因する中・長期的な国際収支上の問題に取り組む国を支援する。
- 拡大クレジット・ファシリティ(Extended Credit Facility:ECF)慢性的な国際収支上の問題を抱える低所得国向けの中期的支援で、ECFの下での融資は現在ゼロ金利で、支払い猶予期間は5年半、最終満期は10年となっている。
- スタンドバイ・クレジット・ファシリティ(Standby Credit Facility:SCF)短期的もしくは潜在的な国際収支上のニーズを抱える低所得国へ金融支援をおこなう。SCFは、予防的な目的での運用も含め、様々な状況下での支援が可能となっている。現在、SCFの下での融資はセロ金利で、支払い猶予期間は4年、最終満期は8年である。
- ラピッド・クレジット・ファシリティ(Rapid Credit Facility: RCF)緊急を要する国際収支上の問題に直面している低所得国に対して、限定的なコンディショナリティの下で、迅速な金融支援を行う。RCFは、低所得国向けの緊急支援を合理化したもので、様々な状況の下で柔軟に活用することができる。RCFでの融資は現在ゼロ金利となっており、支払い猶予期間は5年半、最終満期は10年となっている。
- ラピッド・ファイナンシング・インストルメント(Rapid Financing Instrument: RFI)切迫した国際収支上の問題に直面しているすべてのメンバーに一定の条件で迅速な金融支援を行う。
健全な政策を進める重債務貧困国の債務救済のために、IMFと世界銀行は「重債務貧困国(HIPC)イニシアチブ」の下に、その対外債務を持続可能なレベルまで緩和する特別の支援を資格のある国に提供している。両機関は現在、HIPCイニシアチブを補足するものとして開発された「マルチ債務救済イニシアチブ(Multilateral Debt Relief Initiative: MDRI)」も支援している。
国際通貨制度において安定を維持し、危機を防止するために、IMFはサーベイランスとして知られる正式のシステムを通して国の政策や国、地域、グローバルな経済金融発展の再検討を行う。IMFはその189加盟国に対して諮問サービスを提供し、同時に経済の安定を促し、経済金融危機に対する脆弱性を軽減し、生活水準を引き上げる政策を奨励する。IMFはその刊行物、「世界経済概観(World Economic Outlook)」の中でグローバルな予想について定期的に評価し、「グローバル金融安定化報告(Global Financial Stability Report)」では金融市場、「金融モニター(Fiscal Monitor)」では、公共財政の発展を取り上げている。また、地域の経済概観もシリーズも発行している。
IMFは、財政および通貨政策の策定と実施、機構の整備、統計データの収集と効果的活用など、加盟国に対して幅広い領域で技術援助を行っている。 IMFは能力構築への地域的アプローチは、地域の特別のニーズ、他の支援機関との調整、発生するニーズへ敏速に対応するための能力強化、こうしたことに合わせた支援を提供する。IMFはまた、ワシントンDCにある本部や世界の地域センターにおいて加盟国の担当者に対するトレーニングを行っている。