犯罪防止
犯罪は世界のいたるところで市民の安全を脅かし、国の経済社会開発を妨げる。グローバル化は新しい形態の国際犯罪を作り出した。多国籍の犯罪組織連合はその活動範囲を広げ、薬物や武器の取引から資金洗浄にまで手を広げている。取引人は毎年何百万人もの違法移住者となって各地を移動し、何十億ドルにも達する不正利益を得ている。腐敗に犯された国への投資は、比較的腐敗の少ない国に比べて少なく、その結果として経済成長の低下を招く。
犯罪防止刑事司法委員会(Commission on Crime Prevention and CriminalJustice)(https://www.unodc.org/unodc/en/commissions/CCPCJ/index.html)は、40カ国で構成され、経済社会理事会の機能委員会の一つである。委員会は犯罪防止と刑事司法に関する国際的な政策を作成し、活動を調整する。国連薬物犯罪事務所(UNODC)はその犯罪プログラムを通して委員会が求める任務を果たし、犯罪防止、刑事司法、刑法の改正に責任を持つ国連の事務所である。とくに力を入れていることは、国境を越える組織犯罪、腐敗、テロリズム、人身売買との闘いである。その戦略は国際協力と国際的な活動に対する支援という二つの柱に基づいている。また、誠実と法の尊重に基づく文化の育成に努め、犯罪と腐敗との闘いに市民社会が参加するように助長する。
UNODCは、グローバルな犯罪に対処する新しい国際法律文書の発達を支援する。たとえば、2003年に発効した「国連国際組織犯罪防止条約(United Nations Convention against Transnational Organized Crime)」とその三つの議定書(人身取引防止、移民密入国防止、銃器の不正製造と取引防止)や2005年に発効した「腐敗の防止に関する国連条約(United NationsConvention against Corruption)」がある。また、締約国がこれらの条約を具体的に運用できるように支援する。刑事司法制度を近代化できるように政府の能力を強化する技術協力も行っている。その「組織犯罪対策・法の執行班」は、各国が、組織犯罪と闘うために、腐敗防止条約の線に沿った対策を採るように支援している。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、犯罪防止や刑事司法における国連の基準や規範は、人道にかなった、効果的な刑事司法制度の基石であるとして、その運用を進める。それは国内犯罪や国際犯罪との闘いに不可欠な条件である。世界の国々は、国内の立法措置や政策を策定する際にこうした国連の基準を取り入れてきた。それに加え、同事務所は犯罪と司法における新たな動向について分析し、データベースを開発し、グローバルな調査を発表し、情報を収集し、広める。同時に、特定の国のニーズを評価し、たとえばテロリズムの拡大に関することなど、早期警戒措置を呼びかける。
UNODCグローバル・プログラム。一連のテーマ別グローバルなプログラムを通してUNODCは様々な問題から生じる脅威に取り組んでいる。銃器、人身売買、移民の密入国、野生生物と森林犯罪、海上犯罪、犯罪捜査と刑事司法の協力などである。2015年の国連犯罪防止刑事司法会議から生まれた「ドーハ宣言」は、学際的なグローバル・プログラムの設立をもたらした。それは、司法の廉潔性の強化、囚人の更生と社会復帰の育成、スポーツによる若者の犯罪防止、「司法教育」イニシアチブによる学校及び大学における法の支配の文化の奨励、のような問題を取り上げる。
国連地域間犯罪司法研究所(United Nations Interregional Crime and Justice Research Institute: UNICRI)」(www.unicri.it)は、UNODCの犯罪プログラムと密接なつながりを持つ地域間研究機関である。犯罪防止と犯罪者の処遇、改善された政策の策定に関する研究を行い、かつ奨励する。総会の決定に従って、犯罪防止・犯罪者の処遇に関する国連会議(United Nations Congress on the Prevention of Crime and the Treatment of Offenders)」が5年ごとに開かれ、犯罪防止政策に関する情報を交換し、進歩を促す場となっている。会議には犯罪学者や行刑学者、上級警察官、それに刑法や人権、社会復帰の分野の専門家が参加する。第13回会議は、60周年を記念したが、2015年4月にカタールのドーハで開かれた。テーマは、「社会的、経済的課題に取り組み、国家及び国際のレベルで法の支配と国民参加を促進すために、犯罪防止と刑事司法をより幅広い国連アジェンダに統合する」であった。次回会議は2020年に日本で開かれる。