本文へスキップします。

  • プリント

ここから本文です。

薬物の統制出典「国連の基礎知識」

成人人口のおよそ5パーセント、もしくは15歳から64歳までの2億5000万人が少なくとも年に1回は不正薬物を使用し、このカテゴリーで薬物依存者と分類される人の数は2900万人を超える。さらに、およそ1200万人が薬物を注射し、これらの人々の14パーセントがHIVに感染している。薬物の乱用は賃金の損失、保健費の高騰、家庭の崩壊、地域社会の悪化をもたらす。とくに注射器による薬物の使用は、世界の多くの地でHIV/エイズ゙や肝炎の急激な蔓延の原因となっている。薬物と犯罪、暴力の増加とは直接結びついている。薬物のカルテルは政府の機能を損ね、合法的なビジネスを腐敗させる。不正薬物から得た収益はもっとも悲惨な紛争を継続させるための資金となっている。財政的な代価も驚くほどの額である。警察や司法制度、治療・社会復帰計画を強化するためには莫大な費用がかかる。社会費用も同じく高い。路上暴力、ギャングの戦い、恐怖、都市の衰退、こうしたことはどれ一つとってもその対策に莫大な費用がかかる。

国連は多くのレベルでグローバルな薬物問題と取り組んできた。UNODCは、その薬物プログラムを通して、国連によるすべての薬物統制活動の先導を務める。例えば、市民社会と協力し、乱用防止、治療、社会復帰などに関する地域ベースのプログラムを実施し、不正作物に経済的に依存する人々に新しい経済の機会を提供する。

麻薬委員会(Commission on Narcotic Drugs)(https://www.unodc.org/unodc/en/commissions/CND/index.html)は、経済社会理事会の機能委員会の一つで、国際的な薬物統制に関する政府間の主要な政策を決定し、事業活動の調整をはかる。53カ国で構成され、世界の薬物乱用や取引の問題を分析し、国際的な薬物規制の強化策を提案する。また、国際薬物統制条約や総会が採択した指針原則や措置の実施状況を監視する。

国際麻薬統制委員会(International Narcotics Control Board: INCB)(www.incb.org)は、13人の委員から構成される独立した準司法機関で、政府が国際的な薬物統制条約を順守しているかを監視し、そのことに関して政府を支援する。委員会は、薬物が医療上および学術上の目的だけに利用され、それが不正な経路に流出しないようにする。薬物汚染国に調査団を派遣し、かつ技術的な訪問を行う。また、主に開発途上国の薬物統制行政官を対象に研修計画を実施する。

国連主催のもとに採択された一連の条約のもとに、締約国政府は薬物や向精神薬の生産と分配を管理し、薬物乱用と不正取引と闘い、その行動について国際機関に報告することになっている。これらの条約には以下のものがある。

  • 「麻薬に関する単一条約(Single Convention on Narcotic Drugs、1961年)」は、麻薬を医療、学術目的に限定するためにその生産、分配、所持、使用、取引を制限し、ヘロインのような特定の麻薬に対して特別の対策を講じるよう締約国に義務付けている。1972年の条約への議定書は麻薬常習者の治療と社会復帰の必要を強調している。
  • 「向精神薬に関する条約(Convention on Psychotropic Substances、1971年)」は、向精神薬に関する国際統制制度を確立している。 薬物のスペクトラムの多様化と拡大に対応して多くの合成薬物に対する取り締まりを導入している。
  • 「麻薬および向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(United Nations Convention against Illicit Traffic in Narcotic Drugs and Psychotropic Substances、1988年)」は、資金の洗浄や前駆化学製品の転換などに関する規定も含め、薬物の取引に対する包括的な対策を規定している。締約国は薬物に対する需要を排除もしくは軽減させることを公約する。

2016年4月、総会は世界の薬物問題に関する特別総会を開催した。18年ぶりに開かれ、グローバルな薬物政策に関しては3回目の特別総会である。加盟国が採択した成果文書は、三つの国際薬物統制条約の枠組みの中で薬物の統制に対して革新的アプローチをとるとのコミットメントを再確認した。