デジタル世界での犯罪
サイバー犯罪は、最も速いスピードで増大している犯罪であり、新種の脅威が絶えず生まれています。日常生活でインターネットを利用する人々が増えるにつれ、犯罪者も私たちの相互接続性とコミュニケーションのネット依存に付け込んでいます。国際電気通信連合(ITU)によると、全世界のインターネット利用者は41億人に上ると見られていますが、インターネットの安全に対する脅威は飛躍的に増大しています。犯罪者は匿名のまま、オンラインで保存された膨大な量の個人データにアクセスできるため、サイバー空間における犯罪の機会も数限りなく広がっています。犯罪の実行がかつてなく容易になる一方で、それを検知することは一層難しくなっているからです。
サイバー犯罪とは
サイバー犯罪について、国際的に合意された定義はありませんが、2つのはっきりとした領域と、オンラインでの子どもの性的搾取・虐待という具体的な犯罪類型があることは確かです。サイバー利用犯罪とは、フィッシング詐欺や不正薬物のオンライン売買、マネー・ローンダリングなど、従来型の犯罪がオンラインで実行されることを指します。もう1つの領域はサイバー固有犯罪で、ランサムウェア攻撃やマルウェア、国の重要インフラに対するハッキング攻撃など、犯罪の実行にコンピューターが必要になるものを指します。
ランサムウェア攻撃とは、犯罪者がファイルやサーバーなどを暗号化し、使えなくしたうえで、その回復の条件として多額の「身代金」を要求する行為です。
サイバー犯罪は、サイバー空間という国境のない領域で生じますが、必ずしも国際的組織犯罪というわけではありません。犯人は集団ではなく個人の可能性もあり、越境的に活動しているとも限らないからです。しかし、データは国境を越えて流れ、サイバー犯罪も犯罪集団に関係することが多いため、この種の犯罪に効果的に対処し、これを防止するためには、国際的、動的かつ協調的な対応が不可欠となります。
サイバー犯罪は人々にどう影響するか
インターネットを使わない人でも、サイバー犯罪の被害者になることはあります。例えば、政府のサービス提供能力がサイバー攻撃によって低下すれば、インターネットを使っているかどうかに関係なく、あらゆる市民に影響が及びかねません。
サイバー犯罪は誰もが被害者になり、私たち全員に影響を及ぼします。子どもや若者は、オンラインでの子どもの性的搾取・虐待など、一定のリスクにさらされる一方で、大人もデート詐欺や結婚詐欺などに巻き込まれるおそれがあります。十代の若者が性的なコンテンツを自撮りすることも多くなっており、こうした写真を自分でネットに投稿すれば、無意識のうちに犯罪者として処分されることにもなりかねません。若者がオンラインで安全を確保し、自分自身を守る賢明な判断を下せるよう、エンパワーメントを図る必要があります。
社会の中には、サイバー犯罪によって特に大きな悪影響を受けている集団や部分があります。オンラインでの子どもの搾取・虐待は、増大の一途をたどっている犯罪の1つです。国際刑事警察機構(INTERPOL)の子どもの性的搾取データベースには、150万件を超える画像と動画が保存され、全世界で2万700人の被害者と9,400人の犯罪者が割り出されるきっかけとなりました。INTERPOLと児童買春根絶国際キャンペーン(ECPAT International)による共同調査によると、身元の分かっていない被害者の65%は女児ですが、深刻な虐待画像には男児のほうが多く見られています。
インターネット利用者なら誰でも、オンラインで個人情報の盗難に遭う可能性があります。具体的な手口としては、だまして個人情報を入力させるフィッシング、個人情報を収集するソフトを意図せずに機器にインストールさせるマルウェア、ハッカーがコンピューターや携帯電話に不正にアクセスするハッキングなどが挙げられます。犯罪者はこうした手口を用いて、クレジットカード情報や金銭を盗むことが多くあります。
企業がランサムウェア攻撃を受ければ、企業活動の中断に追い込まれ、高い「身代金」を払わされるおそれもあります。
サイバー犯罪はSDGsとどう関係するか
持続可能な開発目標(SDGs)は、公正なグローバリゼーションと、持続可能であると同時に包摂的な開発に向け、各国を結集させるために国連が作った青写真です。
サイバー犯罪は、貧困の削減から平和、正義、強靭な制度に至るまで、多くのSDGs達成を妨げるおそれがあります。サイバー犯罪を具体的に取り扱う目標はありませんが、目標16のターゲットの中には、暴力やその他形態の犯罪に関連するものが含まれており、その達成がサイバー犯罪によって阻害されかねません。サイバー犯罪は、人身取引被害者の徴募など、一定の犯罪にも影響を与えるほか、女性に対する暴力の一形態である女性の性的搾取も、情報通信技術によって助長される可能性があります。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は状況を改善するために何をしているか
サイバー犯罪に関するグローバル・プログラムは、能力構築と技術援助を通じ、サイバー関連犯罪への取り組みを図る加盟国を支援しています。プログラムの主な実績は、下記のとおりです。
- 警察と検察によるサイバー犯罪の捜査と訴追を支援しています。
- 暗号通貨利用型犯罪の把握と捜査を行う捜査官を養成しています。
- 人権擁護を強化しながら、この分野でよりよい政策の策定を図る政府を支援しています。例えば、UNODCは、ラオス人民民主共和国があらゆる種類の犯罪捜査に利用できる、デジタル証拠を収集する能力を育成しました。
- 各国政府がサイバー犯罪の脅威とリスクをよりよく把握するための援助を提供しています。
- アフリカでは、INTERPOLとの連携により、各国がサイバー犯罪により効果的に対応するための支援を行うとともに、リスクの高い誘拐・性的人身取引事件の捜査官に戦術的な助言を提供しています。
グローバル・プログラムはオーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、日本、ノルウェー、カタール、米国から財政支援を受けています。
UNODCの「正義のための教育(E4J)」イニシアティブによる「サイバー犯罪に関する大学モジュール・シリーズ」は、学生と法執行研修センター向けに作成されたものです。この協業パートナーシップには、INTERPOLと国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)を含め、6大陸の25カ国以上から、著名な専門家や学識者が加わりました。
あなたにできること
デジタル市民は、オンライン上で自らの安全を守り、サイバー空間の衛生状況を改善するための対策を取ることができます。具体的には、クラウドやハードドライブでデータをバックアップすること、疑わしいリンクや添付ファイルをクリックする前に一度考えること、必要な場合、国内でサイバー犯罪関連の支援をどこで受けられるかを確認しておくことなどが挙げられます。
親が子どものオンライン上での安全を守れるようにしたり、若者がオンラインで適切な決定を下せるようにしたりするための情報やガイダンスは、多くの情報源から入手できます。
UNODCドーハ・プログラムのE4Jイニシアティブが提供する小中高校向けのツールと教材は、子どもと若者がオンライン上で安全を守る方法を学ぶことに役立ちます。
サイバー犯罪: 数字で見る動き
国際電気通信連合(ITU)の推計によると、2019年末時点で、世界人口の53.6%にあたる41億人がインターネットを使っているものと見られます。しかし後発開発途上国では、平均で10人に8人がインターネットを利用できていません。
全世界の携帯電話契約者数は、適切な衛生施設を利用可能な人々の数を上回っています。
欧州警察組織(Europol)の2019年版インターネット組織犯罪脅威評価報告書によると、
- ランサムウェアが引き続き最大の脅威となっているものの、ランサムウェア攻撃の件数は全体として減少し、より儲けが多く、経済的損害も大きいターゲットに焦点が絞られるようになっています。
- 法執行当局や民間組織がネット上で発見する子どもの性的搾取映像の数は増加しています。
- 性的搾取や虐待を目的に、子どもがオンラインで勧誘を受けるおそれは依然として大きくなっています。
- リスクを認識していない未成年者が、高画質のスマートフォンを手にすることが多くなるにつれ、自撮りの性的なコンテンツがネット上でますます多く見られるようになっています。