人口と開発
国連の推計によると2015年の世界の人口(年央推計)は73億人で、2010年から2015年まで年率1.2パーセントの増加であった。2030年までに世界の人口は85億人に達し、2050年には97億人に増加するものと予測されている。こうした増加のほとんどがアフリカとアジアで発生すると思われる。主に出生率のレベルや傾向が異なることから、すべての国や地域にみられる最近の人口のすう勢や将来の動向は多様である。2010年から2050年にかけてはいくつかの国は人口減少を経験すると思われるが、他の国では人口の増加が続くと予測される。2015年から2050年には人口増加の多くは貧困と飢餓を終わらせ、すべての人に健康、教育、平等を確保する最大の課題に直面する国々に集中すると思われる。人口動態のパターンは国や地域によって異なり、次々に変化するパターンは社会に新たなニーズを作り出す。たとえば、60歳以上の世界人口 ――もっともはやく増加する人口層―― は、2015年の9億100万人から2050年の21億人に増加すると予測されている。その時点で、アフリカ以外のすべての国は60歳以上の人口は、国内総人口の4分の1もしくはそれ以上になっていると思われる。
持続可能な開発は、人間居住と移動性の様式に密接に結びついている。世界人口のほとんどすべての増加は都市地域で発生する。急速な都市の成長への対応は、都市や人間居住を包摂的、安全、強靭かつ持続可能なものにするという野心的な都市開発の課題を実施するという機会を提供する。同様に、国内及び国境を越えた人々の移住は、持続可能な開発への機会とともに課題ももたらす。2015年、国際的な移住者の数は2億4400万人であった。そのうちの58パーセント近くは開発先進地域に住み、開発途上国が受け入れたのは全体の42パーセントであった。移住は社会を変革する力を持つ。何百万という人々が貧困から抜け出し、より良い生活のための機会を創り出す。
国連は、人口データの収集、編纂、普及、分析のための能力を構築できるように国々を支援している。国勢調査からの情報や国家の人口予測の作成も含まれる。国連の数量的かつ方法論的な作業、とくに世界人口、地域人口、農村人口、それに国際的移民のストックについての権威ある推計と予測はこの分野でパイオニア的なものであった。これによって、各国は、将来の計画を策定し、人口政策を国家の開発計画に組み込み、健全な経済的、社会的決定を行えるようになった。
人口開発委員会(Commission on Population and Development)(www.un.org/en/development/desa/population/commission)は、47カ国の加盟国で構成され、人口の変化とそれが経済や社会に与える影響について研究し、経済社会理事会に助言を与える。主要な責任は1994年の国際人口開発会議で採択された行動計画の実施を評価することである。
国連経済社会局(DESA)人口部(Population Division)(https://www.un.org/development/desa/pd/)は人口開発委員会の事務局をつとめ、国際移民と開発の問題の審議について総会の第2委員会の作業を支援する。また、人口と開発に関して時宜を得た、質の高い、比較可能な、信頼に足る、科学的に客観的なデータと情報を国際社会に提供し、SDGsも含め、国際的に合意された開発目標の監視に貢献する。人口のレベル、動向、推定、予測をはじめ、人口政策、人口と開発との関係などについて研究する。人口部は「世界人口推計」、「世界人口政策」、「世界都市化予測」、「国際移民ストックの傾向」など、主要なデータベースを維持している。また、人口問題の研究や人口データの普及や利用も含め、能力構築や研修なども実施している。
国連人口基金(United Nations Population Fund: UNFPA)(www.unfpa.org)は、国連システムの中にあって人口の分野で実際的な事業活動を先導する機関で、開発途上国や市場経済移行国が自国の人口問題を解決できるように支援する。また、国家が個人の選択に基づくリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)や家族計画のサービスを改善し、持続可能な開発に沿った人口政策を策定できるように支援する。そのミッション・ステートメントにそって、UNFPAは、すべての妊娠が望まれたものであり、すべての出産が安全であり、すべての若者の可能性が成就されるような世界の実現を目指している。このミッションを達成するに当たっての主要な役割は、政府や国連機関、非政府組織(NGO)が実施する人口プロジェクトや計画に財政支援を行うことである。
- リプロダクティブ・ヘルス ―― 政府が、とくに妊産婦の健康に注意を払いながら、家族計画も含め、性と生殖に関する健康をケアできるように支援する。両親が子どもの数や出産間隔を選べるようにすることは、リプロダクティブ・ヘルス(生と生殖に関する健康とその権利)のもっとも重要な要素である。現在少なくとも2億2500万人の女性が安全かつ効果的な家族計画の方法を利用したいと望んでいると推定される。しかし、情報やサービスを利用できないことや、夫や地域からの支援がないためそうすることができない。UNFPAは家族計画のニーズを満たすために政府や民間部門、NGOと連携している。中絶に対する支持は行わず、家族計画を利用できるように支援することによって中絶防止に努める。また、青年期の性と生殖に関する健康の問題にも取り組んでいる。 そのため、10代の妊娠を防止し、HIV/エイズやその他の性感染症を予防し、フィスチュラの予防と治療を進め、サービスや情報を十分に得られるようにする。
- 若い人々 ―― 世界の18億人の若者(10歳から24歳まで)の大部分は社会に十分に参加することが困難であると考えている。質の高い教育や保健サービス、ディーセント・ワークの機会が限られているからである。主にアフリカやアジアのおよそ60カ国において、人口の配当の窓は開かれつつある。出生率は低下し始め、若者の比較的多くの人々が労働年齢に達しようとしている。サハラ以南のアフリカ諸国が若者に正しい投資を行うならば、この地域は年間およそ5,000億ドルの人口の配当を30年にわたって実現できる。UNFPAは政府やパートナーとともに、若者の健康、教育、労働と生活のための訓練を提供している。
- 緊急事態 ―― 紛争中や自然災害、その他の緊急事態においては、性とリプロダクティブ・ヘルスの問題は容易に見落とされる。それにかかわらず、これらのニーズはしばしば驚異的である。危機的な情勢にあっては、妊娠可能年齢の女性5人に1人は妊娠しているように思われる。彼女たちには生命を脅かす合併症の危機が高まる。人道危機もしくは脆弱な情勢の国では女性10人に6人が出産時に死亡している。女性や若い人は性的暴力、搾取、HIV感染に対して脆弱である。UNFPAは、リプロダクティブ・ヘルスが緊急対応に組み込まれるように政府、国連機関、他のパートナーとの協力を進めている。
国際移住機関(International Organization for Migration: IOM)(www.iom.int)は、移住の秩序ある、人道的な管理を確実にし、移住問題について国際協力を促進し、移住問題の具体的な解決を支援し、難民や避難民も含め、困窮している移民に人道的支援を提供する。2015年、およそ5人に1人の移民がトップ20の都市に住んでいた。女性は国際移民の48パーセントを占めた。同じ年、第二次世界大戦以来最大レベルの強制避難が記録され、難民、庇護を求める者、国内避難民が急増した。2012年に比べ45パーセント増の難民は、シリアで進行中の対立によるものであった。IMOは移住管理に関して四つの広い領域の中で活動する。移住と開発、移住の促進、移住の規制、強制移住、である。