女性への融資でスマートな経済を
革新的な方法でプロジェクト資金を調達する女性たち
筆者:ジッポラー・ムサウ
『Africa Renewal(アフリカ・リニューアル)』2015年8月号に掲載
「テーブル・バンキング」はそれ自体、複雑な金融の概念ではないものの、ケニア農村部では、数千人の女性とその家族の暮らしを明らかに改善しています。それは、メンバーが毎月集まり、文字どおり自分たちの所持金をテーブルの上に載せて、それを直ちにメンバーに貸し付けるという、単純なアイデアです。銀行への手数料も、貸付の承認を得るための待ち時間も、融資を必要としながら担保を持たないアフリカの女性が直面するその他多くの障壁も、この仕組みには無縁です。貸付は所得創出プロジェクトの立ち上げに用いられます。
ケニアで最も大きな成功を収めているテーブル・バンキング団体の一つ「Joyful Women Organization(JoyWo)」には、1万1,500を超える女性グループが加入していますが、各グループには平均15人から35人のメンバーがいます。ケニアのウィリアム・ルト副大統領夫人のレイチェル・ルトさんが2009年に設立したJoyWoのメンバーは当時、首都ナイロビの北西270kmにあるルトさんの出身地、ウアシンギシュ県の女性を中心に、わずか80人でした。発足当初の回転資金は約800ドルでしたが、その後6年間で、JoyWoの活動はケニア全国47県のうち44県にまで拡大しました。回転資金の額も、メンバーの拠出金や貸付の返済金、補助金、募金活動で集めた寄付金により、1,600万ドルに達しています。
JoyWoは現在、温室栽培や養鶏、園芸農業、家畜飼育、頭上灌漑などのプロジェクトを支援する貸付を行っています。
Association for Women's Rights in Development(開発における女性の権利連合)によると、全世界で740を超えるこのような女性組織の平均年間収入は過去5年間で2万ドルにすぎませんが、JoyWoはさらに高い目標を掲げています。
成功を収める受益者
ルトさんは『Africa Renewal(アフリカ・リニューアル)』のインタビューに対し、次のように答えています。「私たちが立ち上がろうとする女性を支援しているのは、女性が自立した存在であることを知っているからです。女性には作り、育て、転換する能力が備わっているのです」
2児のシングルマザーであり、失業中だったのアイリーン・チェプコエチ・トゥウェイさんも、JoyWoの受益者の一人です。幼い頃にポリオに罹ったアイリーンさんは障害を抱えているだけでなく、アルコール依存症に陥ったこともありました。JoyWoによると、彼女が当初わずか2ドルの貯金で団体に加入したのは2010年後半のことでした。そこで150ドルの貸し付けを受け、2匹の豚を買い、小さな雑貨店を開きました。2011年には店を拡大し、鶏や乳牛を買う資金として700ドルを借り入れましたが、これによって所得は大幅に増大しました。昨年は3,000ドルの貸し付けを受けてファーガソン・トラクターを購入し、これを1エーカー150ドルで農家に貸し出しています。事業が好調な月には約4,500ドルの収入を得られるようになりました。シェアを大幅に増やしたアイリーンさんは、JoyWoで最も貯蓄の多いメンバーの一人に数えられています。営業用に車やオートバイも購入し、現在はガソリンスタンドの開店準備にも取りかかっています。
「テーブル・バンキングのおかげで、暮らしは大きく改善しました…。まるで食事をするための皿をもらったようなものです。この国で障害を抱えて暮らしながら、成功を収めた人々の輝かしい一例になれたらと思っています」こう語るアイリーンさんは、他国でのテーブル・バンキング発足式にも出かけ、自らの体験談を共有しています。
アイリーンさんのようなメンバーの成功と、JoyWoの影響力の大きさに鑑み、国連女性の地位委員会の年次会合は2015年3月、ルトさんをニューヨークに招き、テーブル・バンキングを通じた女性のエンパワーメントに対する革新的なアプローチについて、話を聞きました。ルトさんは、JoyWoの成功と課題、そして、他の国々が自分の経験から何を学べるのかについて発言しました。ルトさんは、女性の地位向上に向けたすぐれた活動を高く評価され、Centre for Women in Leadershipから、マレーシア・バイナリー大学名誉フェローシップを授与されました。また、母校のケニヤッタ大学からも、女性の地位向上への貢献を理由に、最優秀卒業生賞を受けています。
農村部におけるJoyWoの運営を円滑化するため、村落レベルでは15人から35人のメンバーからなる少人数のグループが結成されています。メンバーはそれぞれの能力とグループの構成に応じて資金を持ち寄ります。すべての女性が経済的に同じレベルになるよう、グループごとに各メンバーが拠出できる最低額と最大額が定められています。各メンバーには、取引を記録する通帳が支給されます。
メンバーは、テーブルに載せられた金額の中から、「シェア」と呼ばれる各人の拠出額の2倍を限度に、3カ月の短期貸付を受けることができます。長期貸付もありますが、これは各メンバーのシェアの3倍を限度とし、支払期限は6カ月から36カ月となっています。貸付の処理は小グループのレベルで行われますが、メンバーの会合は1カ月に1回しか開かれないため、短期貸付はその場で行われるのに対し、長期貸付の審査には1カ月を要します。
JoyWoは小グループに無利子の貸付を行いますが、ほとんどの貸付には担保の代わりに、保証人が付けられます。小グループはこの資金を、短期貸付につき金利10%、長期貸付につき金利12%で貸し出します。この利子は回転資金の一部として組み入れ、年末に配当としてメンバーに還元します。例えば2014年には、150万ドルが配当としてメンバーの女性に分配されました。
その人気と影響力のおかげで、大規模な組織もしばしば寄付や訓練を通じ、JoyWoと連携するようになりました。その中には、UNウィメンをはじめ、フォード財団、Hivos、ケニア商業銀行、ケニア・ビジネス研修所、ユニリーバ、インテルなど、多くの機関や企業が含まれています。
資金だけでなく
テーブル・バンキングを全国に広め、その効果を高めるため、ルトさんは、借入に訓練を連動させる必要性を認識しました。例えば、起業能力の養成で収益の増大を促進できる可能性があることから、ルトさんは各種のビジネス訓練を導入しました。訓練コースの中には、小作農や零細農家を起業家へと変えるための「農業起業」訓練が含まれています。ただでさえ国民の4分の3が農業に生計を依存するケニアの中でも、JoyWoのメンバーは90%以上が農村部で暮らしているからです。
JoyWoはまた、メンバーによる生産物の集団的マーケティングを可能にするため、特殊目的の車両を貸し付けるマーケット・アクセス・プログラムを立ち上げました。さらに、現在ではこれをさらに一歩進めて、メンバーが自宅を安価に建設、所有できる住宅プロジェクトも実施しています。
課題
この規模で急速な拡大を続ける他の組織と同様、JoyWoはいくつかの課題に直面しています。特に返済不履行率は現時点で2%に上っています。
ルトさんはこう言います。「だからこそ、私たちは常に、メンバーがお互いを知り、相互に保証人となることに固執しているのです」
ルトさんによると、JoyWoは特に、読み書きのできないメンバーが多少とも読み書きの能力があるメンバーに依存しなければならない遠隔地の農村部で、幅広い社会経済階層の多様な分野からメンバーを募っています。「私たちは教育が女性のエンパワーメントにつながると信じています。メンバーの読み書き能力を高めるための教育イニシアティブ「ジャワブ」を立ち上げたのも、このためです」
JoyWoは、女性がコミュニティー・レベルで、長年にわたる差別や、特に金融サービスへのアクセスという点で、自分たちを不利に扱っている構造体系にどのように立ち向かっているかを示す一例と言えます。
貧困とジェンダーの不平等は密接に関係しています。潘基文(パン・ギムン)国連事務総長によると、50%の人間(女性)がその潜在能力をフルに発揮できなければ、世界が目標を100%実現することはできません。事務総長は2015年の「国際女性の日」に寄せるメッセージの中で「真の変革をもたらすためには、ポスト2015年開発アジェンダで、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを優先課題とせねばなりません」と述べています。
エチオピアでの第3回開発資金国際会議を控え、ジェンダーの権利擁護者は、ジェンダー平等に向けた資金の調達と女性のエンパワーメントが優先課題とされることを期待しています。資金の不足がジェンダーに関する「ミレニアム開発目標」(MDGs)の達成を阻む大きな障害となったことから、ポスト2015開発アジェンダでは、ジェンダー関連目標の達成に向けた資金の確保が不可欠となるでしょう。
その間も、JoyWoの女性たちは、拡張計画の実施を続けています。資金不足を嘆くどころか、その拠出金を活用して、2017年までにケニア全国47県の女性100万人に手を差し伸べるだけでなく、その後は東アフリカ全域への活動拡大を予定しているのです。さらに、長期融資額を2016年までに、現在の120万ドルから1,200万ドルへと増額する計画もあります。