人道支援と保護
四つの国連機関、すなわち国連児童基金(ユニセフ)、世界食糧計画(WFP)、国連難民高等弁務官(UNHCR)、国連開発計画(UNDP)が、人道危機の際に保護と援助を提供することで主要な役割を担う。
子どもと女性が難民や避難民の大多数を占める。厳しい緊急事態の際は、国連児童基金(United Nations Children's Fund: ユニセフ)が他の救援機関と協力して水と衛生施設のような基礎サービスの再建を助け、学校を再開させ、予防接種や医薬品、その他を家や土地を失った人々へ提供する。ユニセフはまた一貫して、子どもの保護のためにより効果的な行動をとるよう政府や交戦当事者に要請する。紛争地帯では、子どもの予防接種のようなサービスを提供できるように停戦について交渉することもある。そのため、ユニセフは戦争地帯で「平和地帯としての子どもたち(children as zones of peace)」の概念を打ち出し、また「休戦の日(days of tranquility)」や「平和の回廊(corridors of peace)」を創設した。精神的外傷に苦しむ子どものために特別援助計画を実施し、また一人取り残された子どもたちが両親や近親者と再会できるようにすることも行う。2015年、ユニセフは102カ国で310件の人道的状況に取り組み、16億8500万ドルの人道援助を行った。2550万人の人々に安全な飲料水を提供し、750万人の子どもたちが基礎教育を受けられるようにし、310万人の子どもたちに対しては心理社会的支持を行った。
世界食糧計画(World Food Programme: WFP)は、世界のほとんどの難民や国内避難民(IDPs)も含め、自然災害や人為的災害の何百万という被災者を対象に迅速かつ効率的な救援物資を提供する。WFPの財政的、人的資源のほとんどがそうした危機のために使われる。10年前、WFPが提供した食糧援助の3分の2が、人々の自立を助けることに使われた。今日ではWFP資源の4分の3が人道危機の被災者のために使われる。2015年、81カ国の7670万人が食糧援助を受けた。そうした支出の79パーセントが緊急事態のためのものであった。WFPは緊急事態地域もしくは緊急事態以後の地域において650万人の生徒に学校給食やスナック、家庭への持ち帰り食料を提供した。また、イラク、南スーダン、シリア、イエメン、またエボラウィルス感染地域の厳しく複雑な緊急事態、また、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、リビア、マリ、ウクライナでの重大な緊急事態に取り組んだ。戦争または災害が発生すると、WFPはまず緊急救援活動を行なって迅速に対応し、次いで生活や生計の建て直しを目的に円滑かつ効果的な復興のための活動を開始する。WFPは、「国連人道支援航空サービス(UNN Humanitarian Air Service: UNHAS)」(www.wfp.org/logistics/aviation)を通して人々を運ぶ航空サービスを提供し、これまでに世界の250カ所へ飛行した。WFPはまた、UNHCRが管理するすべての大規模な難民給食活動のために食糧や資金を動員する責任も負っている。
開発途上国の農村人口は災害に対してもっとも脆弱である。これらの農村のほとんどがその食糧安全保障と生計、栄養を農業に依存している。持続可能な農業についての専門知識を持つ国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations: FAO)は、脅威や危機に対して農業による生計を強靭なものにし、危機が発生した場合はそれに対応できるように国々を支援している。
FAOは、防災、災害の緩和、準備、対応について国々を援助する。その2016年イニシアチブ、「早期警戒、早期行動(Early Warning Early Action: NWEA)」を通して、FAOは、早期警戒情報が予防、準備、対応に具体化されるように国々を支援している。また、WFPとともに、危機に陥りやすい国において作物と食料の安全保障を定期的に評価し、そのために人々がその基本的な食料のニーズを満たすことができるように総合的な食料の供給とその規模について調査する。災害後の情勢においては、FAOは政府とパートナーとともに損害とニーズについての評価を迅速に行い、対応を知らせる。
FAOは、現地の農業生産を回復させ、それによって人々が食糧援助やその他の形の援助から抜け出し、自立を高め、救援や対処戦略の必要を軽減できるようにすることを目指す。気候に関連した災害においては、食物連鎖の危機と複雑な緊急事態は、農業による生計の保護と復興と脆弱性軽減措置の強化の必要を物語っている。
世界保健機関(World Health Organization: WHO)は、緊急事態や災害の被災者の保健に関するニーズを評価することを中心に、保健に関する情報を提供し、調整や計画策定を支援する。緊急事態の際には、被災国を支援して健康に関連した事業を主導し、調整するとともに、優先順位を決め、戦略を定め、重要な技術的ガイダンスや物資、財源を提供し、健康状態を監視する。また、加盟国が自国の緊急リスク管理の重要な能力を強化できるようにし、また、人間の健康の安全保障への脅威となる緊急事態を予防し、常に対応できるようにする。WHOは栄養や伝染病の監視、感染症の予防、予防接種、基本的な薬品や医療器具の管理、性と生殖の健康と精神の健康などの領域で緊急援助計画を実施する。WHOは緊急事態発生の国においてポリオを撲滅し、結核やマラリアの発生を阻止するために特別の努力を行っている。
国連人口基金(United Nations Population Fund: UNFPA)もまた、緊急事態が発生すると迅速に行動する。混乱時には妊娠に関係した死亡や性的暴力が急増する。同時にリプロダクティブ・ヘルス・サービスがしばしば利用できなくなる。女性にとってはジェンダーによる暴力の危機が増大する。若い人々はエイズ・ウィルスへの感染や性的搾取に脆弱となる。そして、多くの女性は家族計画サービスを受けられなくなる。UNFPAは、リプロダクティブ・ヘルスが緊急事態の対応に組み込まれるようにする。そのため脆弱な人々に衛生用品、産科・家族計画用品、熟練要員、その他の支援を提供する。また、緊急時、復興時を通して女性や若い人々のニーズを満たすように努めている。
国連開発計画(United Nations Development Programme: UNDP)は、自然災害の緩和、予防、事前対策などの活動を調整することに責任を持っている。復興計画の策定支援や援助資金の動員などをUNDPに要請する政府も多い。UNDPと人道機関はともに、復興および移行期や長期の開発に対する関心が救援活動の中に反映されるようにする。UNDPはまた、元戦闘員の動員解除、包括的な地雷除去、難民や国内避難民の帰還と再統合、政府機関の復旧などの計画を支援する。
提供された資源が最大限に活用されるように、それぞれのプロジェクトは地方自治体や政府の担当官との協議の下に進められる。UNDPは全コミュニティに即時の援助を行う一方で、恒久的な平和、発展、貧困撲滅のための経済的社会的基盤を確立できるように支援を行う。コミュニティをベースにしたアプローチを通して、何十万人もの戦争や内戦の被害者に緊急かつ永続的な援助を行うことができた。現在、紛争の傷跡を残した多くの地域社会で、国連主導の研修計画や信用制度、インフラ整備が進められ、生活水準が改善された。