国際女性の日特集シリーズ
女性職員から見た、職場としての国連
~第6回 国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI) 赤根智子(あかね ともこ)所長~
犯罪の防止や犯罪者の処遇改善など、世界の刑事司法分野の発展に貢献する国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)を統括する赤根智子所長に以下の質問をしました。
(1) 貴機関の所長になるまでのキャリアについて教えて下さい。
私は、1982年に検事に任官し、その後日本各地で働いてきました。現在も検察官の身分を有しながら、昨年7月よりUNAFEI所長として働いています。
検事としてのキャリアを積んできた間に、教官、次長としてUNAFEIに務めた経験もあります。また、法務省法務総合研究所の他の部である、法整備支援を業務とする国際協力部の部長を務めたこともありますので、何度か国際協力関係業務に従事してきたと言えるでしょう。
UNAFEIは1961年、国連と日本国との間の協定により、翌年東京・府中市に設立された国連の地域研修所です。アジア・太平洋地域を中心とする世界各国から刑事司法実務家(主として政府機関職員)を招くなどして、犯罪防止や犯罪者処遇に関する研修や研究を実施しております。UNAFEIは、国連と我が国とが共同運営するものですが、実質的な運営は日本国政府、具体的には法務総合研究所国際連合研修協力部が行っています。運営予算についても今では日本国がそのすべてを負担しています。
こうしたことから、UNAFEI所長も、同部の部長がこれを兼ねることになっています。そのような経緯から、設立当初の数年を除き、1970年以降は、私のように検事の中から選ばれた者が所長を務めています。
(2) ワーク・ライフ・バランスはどのように保っていますか?
私が検事に任官した当時は、ワーク・ライフ・バランスなどという言葉も概念もありませんでした。それどころか、私は男女機会均等法制定以前の世代で、当時は、育児休業制度もありませんでした。何とか男性社会に潜り込んで、キャリアを積もうとしていたものですから、そのようなことには考えも及びませんでした。それでも、一人娘は元気に育ちました。面倒を見てくれた両親には感謝しています。そのせいか、今でも自分自身は、仕事中心の生活をしており、ワーク・ライフ・バランスを意識して働いてはいませんが、自分の体調に正直に、常に自然体で臨みたいと思っています。具体的には、無理を重ねることは極力避け、心身ともに健康で、常に明るい気持ちで仕事を続けられるよう心がけています。
(3) 国連で働く中で、女性であることが活かせた経験はありますか?反対に、女性であることが障害となった経験はありますか?
UNAFEIは、国連の地域研修所ではありますが、職員は、法務省の職員であり、いわゆる国連という組織・環境の中で働く訳ではありません。少なくとも国家公務員として働く以上、女性、男性の区別なく、業務に従事するのは当然のことですし、女性であることが有利や不利に働くことはないと思います。ただ、海外からのメールや手紙に、Dear Sir、とかDear Mr. Tomoko Akaneと書かれてしまうことを避けるため、UNAFEIからの公式メールや手紙にはMs.と入れるようにしています。
(4) 貴機関では、世界各地で起きている女性をとりまく問題に対してどのようにアプローチしていますか?また、その活動を通して目指している、女性の社会でのあり方とは何ですか?
UNAFEIにおいては、テーマを決めて各種研修等を実施しています。そこでは、現在、世界各地で問題となっている事項や問題を取り上げることもあります。例えば、昨年は、「女性犯罪者の処遇」をテーマに国際高官セミナーを実施しました。かつては、数が少なく、あまり注目されることがなかった女性犯罪ではありますが、近時各国で増加傾向にあり、問題が顕在化しつつあります。
女性犯罪においては、罪種、動機等の点で男性犯罪とは異なる特徴があること、その背景にはその女性の生育期またはそれ以降に性的・身体的な被害体験がある場合が認められることなどの分析の上に立ち、国連総会で採択された「女性被拘禁者の処遇及び女性犯罪者の非拘禁措置に関する規則」(通称バンコク・ルールズ)などの国際的基準の要請を理解し、女性犯罪者の人権に配慮した特別な処遇や再犯防止策等について検討するなどしています。
女性も男性も等しく人権を尊重され、社会の一員としての重要な役割を果たすべきという普遍の価値の共有を実務的な観点から目指そうとするものです。
(5) 貴機関の女性に関する人事政策について特徴的な点があれば、挙げてください。
UNAFEIは、法務省の一部ですから、人事政策はこれによります。UNAFEIのみの特別な人事政策はありません。したがって、UNAFEI独自の女性に関する特別な人事政策もありません。お互いがお互いをおもいやり、協力しつつ、よい研修等を実施していきましょう、ということにつきます。女性職員も男性職員も、みんな仲良く助け合ってがんばっています。
(6) 国際舞台で活躍したいと思っている女性に一言お願いします。
国際舞台に飛び出していく若い世代を見ていると、まぶしいばかりです。女性に限らず、男性においても大いにがんばってほしいものです。やる気、勇気を持つこと、そして、考えてばかりいないで一歩踏み出すことをお勧めします。