国際女性の日特集シリーズ
女性職員から見た、職場としての国連
~第5回 国連国際防災戦略事務局(UNISDR)駐日事務所 松岡由季(まつおか ゆき)代表~
国連における防災の主流化に対するニーズに応え、その中心的な役割を果たす国連国際防災戦略事務局(UNISDR)駐日事務所の松岡由季代表に以下の質問をしました。
(1) 貴機関の代表になるまでのキャリアについて教えて下さい。
大学卒業後、民間企業海外事業部勤務、在ニュージーランド日本国大使館勤務、在ジュネーブ国連日本政府代表部(外務省)にて国際人権分野専門調査員を経て、2004年よりUNISDR本部(ジュネーブ)にてプログラムオフィサーとして、2005年1月開催の第2回国連防災世界会議プロセス、及び防災に関する国際的な指針である兵庫行動枠組の政府間策定プロセスに従事しました。2005年4月よりUNISDR事務局長特別補佐官を勤め、2008年1月にUNISDR駐日事務所(在神戸)に着任、2009年UNISDR駐日事務所代表に就任し、現在に至ります。ニューヨーク大学にて修士課程、京都大学にて博士課程を修了しています。
(2) ワーク・ライフ・バランスはどのように保っていますか?
20代から30代前半にかけては、ワーク・ライフ・バランスを保つという意識がほとんどなく、仕事を最優先に走り続けたような気がしますが、プロフェッショナルとしての自分を支える重要な経験を得ることができた価値のある時期であったと思います。しかしながら、やはり人生にはいくつかの段階というものがあると思います。いろいろな経験、技能、知見を蓄積すると同時に、30代に入ってからは自分の人生をどのように過ごしているかという部分も仕事に影響してくると認識するようになりました。
いろいろな意味でワーク・ライフ・バランスを保つことは、バランスの取れた思考や創造性にもつながると思います。また、家族の病気など予期していなかったプライベートな状況が生活に影響をもたらすこともあります。いろいろな状況の中でワーク・ライフ・バランスを保つためには、なるべくメリハリをつけて仕事に取り組むようにしています。それによって自らの集中力をコントロールできるようにもなってきたと思います。
(3) 国連で働く中で、女性であることが活かせた経験はありますか?反対に、女性であることが障害となった経験はありますか?
私の場合、国連の中で働くうえで女性であることが特に活かせたり、障害になったという経験は具体的にはあまりないのですが、ジュネーブから日本に戻り、駐日事務所の代表を務めるここ数年の中で、やはりジュネーブでは感じなかった、日本独特の社会の中での女性に対する考え方を感じることが多々あります。
例えば、日本で会議に参加した場合、参加者は男性がほとんどで女性は私一人、または極めて少数派ということが日常的な光景です。特に私が携わっている防災は、分野横断的なエリアですが、日本の中では工学系の専門家が多い分野でもあり、工学系の専門家に男性が多いという背景もあります。
また、国連で何か会議やフォーラムを開催する場合には、必ずパネリストの男女比を意識します。日本では、こちらから特段に提案しない限り、パネリストの人選にあたって女性が一人も含まれていないということが少なくなく、あまりこういった意識がないのかな、と感じることがあります。
また、日本の関係者によくみられる一般的な傾向として、「女性」に対しては「アシスタント的立場」であるかのような認識が無意識にあるのかもしれません。日本では会議などで初めて会ってご挨拶をした時と、役職が判明してからの態度が違う方が多いという印象を受けます。残念ながら無意識のうちに、「女性」を過小評価する人がまだまだいるのではないでしょうか。以前勤務していたジュネーブでは感じることがなかったことであり、日本特有の環境と言えるかもしれません。
(4) 貴機関では、世界各地で起きている女性をとりまく問題に対してどのようにアプローチしていますか?また、その活動を通して目指している、女性の社会でのあり方とは何ですか?
防災・減災政策においてジェンダーの視点を取り入れることへの認識はここ数年高まりつつあるものの、各国で最も進捗状況に課題が見られる分野の一つでもあります。女性は、子ども、障害者、高齢者と並んで「災害に脆弱な人々」と位置づけて言及することが多々あります。それは1つの側面からは正しい見方であり、彼ら特有の脆弱性に配慮し対策を講じることは非常に大切なことです。
しかしながら、ここ数年の国際的な議論の中で、女性たちはコミュニティーの中で能力をもった重要なアクターであり、脆弱な存在としてだけではなく、原動力・変革者としての女性の貢献や役割への認識や期待が非常に高まっています。これは特に2012年の国連国際防災の日(10月13日)において焦点を当てたテーマでもあり、UNISDRとしては、世界中の事例を紹介するなど、いろいろなアドボカシー活動を通して、女性がその能力を活かせる機会を充実させ、また彼女たちの貢献への認識を高めることが重要であるとのメッセージを発信しています。
(5) 貴機関の女性に関する人事政策について特徴的な点があれば、挙げてください。
国連事務局の一部であるUNISDRとしては、特に特徴的な人事政策は取っておらず、国連事務局で実施されている人事政策を採用しています。しかしながら、UNISDRという機関全体を見ると、非常にジェンダーのバランスが取れた機関であると感じます。事実として、トップが女性であることもあり、仕事をする上で女性としての障害を感じることはほとんどありません。また、幹部の女性率も高く、全体の職員数の割合も男女比がほぼ半数ずつとなっています。特段の人事政策を取っていないにも関わらず、この状況が達成されているということが、評価すべき点と言えるかもしれません。
(6) 国際舞台で活躍したいと思っている女性に一言お願いします。
私は約10年間日本を離れていて、2008年にUNISDRの駐日事務所に転勤という形で日本に戻りました。最近、日本の若者に内向き傾向の方が増えているということを報道で目にすることがあり、少し驚いています。というのは、私がお会いする日本の若い方々は、国際的なことに非常に関心があり、アクティブな方が多く、またそのような中に女性がとても多い印象があります。実際にUNISDR駐日事務所のインターンの公募には、女性の応募者の方が多くいらっしゃいます。そもそも国際機関の活動に興味のある方というのは、その時点で内向きではないのだとは思いますが、そういった国際的な仕事に関心がある女性の皆さんには、是非幅広い経験をして色々なことを吸収していただきたいと思います。
また女性は一般的に環境適応能力が優れていると言われます。そのような点から、国際機関は働く場所として、女性に向いていると言えると思います。また、子育てをしながらキャリアを積んでいる女性も非常に多いので、仕事と子育ての両立が特別なことではなく、当たり前の環境と認識されているのも、女性にとっては良い環境であると言えるでしょう。人生での優先順位は人生の段階で変化していくことが当然だと思いますが、女性として国際的な舞台で貪欲に仕事とプライベートを充実させて欲しいと思います。