「人権デー2013」第5回
DAISYをもっと多くの障害者のもとへ
~DAISYコンソーシアム 前会長、特定非営利法人 支援技術開発機構 副理事長 河村宏(かわむら ひろし)さん~
障害を持つ人々の暮らしの向上に一役買っている情報システム-DAISY(デイジー)-のことをご存知ですか。DAISYとは、Digital Accessible Information Systemの略で、日本では「アクセシブルな情報システム」と訳されています。DAISYでは、音声にテキストおよび画像をシンクロ(同期)させることができるため、ユーザーは音声を聞きながらハイライトされたテキストを読み、同じ画面上で絵を見ることもできます。視覚障害者の他に学習障害、知的障害、精神障害の方にとっても有効であることが広く国際的に認められてきています。河村宏さんは、DAISYの研究開発に携わった第一人者です。
「実は、DAISYは半分日本発なんです。1986年に世界中の図書館が東京に集まり、IFLA(イフラ)という国際会議をやった時に、デジタル技術を使っていろんな改善ができないか、と検討しました。それがきっかけとなり、その後日本はその開発に大きく貢献しています」
いまや世界中で多くの人に活用されているDAISYは、アメリカではNIMASという名前で広まっており、約26,000タイトルもの教科書がDAISY化されています。河村さんは普及活動にも尽力され、北海道・浦河町にある精神障害を抱える人々を中心にした互助団体「社会福祉法人浦河べてるの家」の、DAISYを利用した防災活動にも関わっています。
「べてるの家では、発達障害や精神障害を抱える方などが、お互いに良いところを認めつつ必要な時は助け合って困難に対処するスキルを向上させながら地域で暮らしています。浦河町は海岸線に位置する地震の多い場所として知られており、津波の心配もありました。そこでDAISYを活用し、避難経路を写真に撮って、障害のある人たちが自分達でマニュアルを作るようにしました。科学的な調査結果を元に、津波の到達速度と高さ、そして安全な場所を割り出し、一定時間内にそこまで行ければ安心というふうに訓練を重ねました」
DAISYによる避難訓練の経験は、3.11の東日本大震災の際に活かされました。地震直後、役場から避難指示が出ると、訓練通りに身体が動き避難ができたそうです。率先して避難したべてるの家の人たちは、町の人たちの避難を促したとして役場から高く評価されました。それまでは障害者として低く見られがちだったべてるの家の人たちですが、「『津波の時はあの人たちの後をついて行けば大丈夫』というくらい、周囲の評価は変わりました。これは非常に嬉しいことですね」(河村さんが作成したDAISY版「津波から身を守る」はこちら)
2006年に国連総会において採択された障害者権利条約を日本も批准すれば、国内の障害者を取り巻く環境は「大きく変わる可能性がある」と河村さんは言います。
「その時に必要となってくるのは、国の責務としてインフラを整備していくことです。例えばユニバーサル・デザインというのがありますよね。最初に何かを設計するときから障害者も参加して、アクセシビリティに配慮して作っていくことが前提なんです。例えば視覚や認知あるいは知的に障害のあるお子さんは、テキストに音声がついている方が簡単に理解できます。災害の時には、どうやってどこに逃げたらいいのかといった情報を、障害の有無に関わらず誰にでもわかりやすくする必要があります。音声読み上げが当たり前になると、リーズナブル・アコモデーション(合理的な配慮)として、関心を引きつけたり集中を持続させたりするための工夫など、よりきめ細かいニーズ対応もしやすくなるはずです」
DAISYの技術は、電子出版の国際標準であるEPUBと連携して今後さらに世界に広まっていくことが期待できそうです。「技術移転は、世界中、特に開発途上国から求められています。途上国は多言語の国も多く、一つの言語で出版してもすべての人がその情報にアクセスできる訳ではありません。例えば、南アフリカから『HIVトレーニング・マニュアル』をその国の11言語全てで作って欲しいという要望が来ました。今のところ4言語まで進んでいる状況です」
日本の貢献によって発展してきたDAISY。今後、日本だけでなく世界でもっと当たり前のものになることでしょう。障害を持つ人々を含む、すべての人が暮らしやすい社会がぐっと近づいてくることが期待されます。私たちが日常生活の中でDAISYを活用する日も近いかもしれません。