国連の70年を振り返って
コフィー・A・アナン
70年前、世界のリーダーたちはサンフランシスコに参集し、独創的かつ歴史的な文書に署名しました。それが国連憲章です。リーダーたちは「われら人民」の名において、人間の尊厳と価値に対する信念が再確認される世界を実現するための道標を示したのです。
それから70年。世界は技術革新やグローバリゼーションの波、そして何よりも国連自体の成果によって、大きな変容を遂げました。国連の核心をなす国際協力と多国間外交の精神に導かれ、何百万もの人々が極度の貧困を脱し、武力紛争による暴力から逃れ、あるいは自然災害による壊滅的な打撃を免れました。
国連はインスピレーションを与え、イノベーションをもたらし、触媒の役割も果たしてきました。「ミレニアム開発目標(MDGs)」は、あらゆる種類の貧困を初めて国際的な最優先課題に据えることによって、国際情勢に革命を引き起こしました。「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」の設立は、数百万人の命を救うことに貢献し、効果的な国際協力の新たなお手本となりました。国際刑事裁判所の設立と「保護する責任」という原理の台頭は、国家主権の概念を再定義し、最も憎むべき犯罪の被害者に希望を与えました。
独自のルールと制度を備えた国連は、国際システムの中心に位置しています。各国に紛争の防止や平和的解決を促すことで、武力紛争による死者を減らすことにも貢献しました。国連は全世界で、声なき人々の代弁者となり、飢餓に苦しむ人々に食料を提供し、避難民を保護し、組織的な犯罪やテロと闘い、疾病対策に取り組んできました。
しかも、このような注目度の高い成果だけではありません。創設70年を迎えた国連は、世界の隅々にまで影響を与えています。例えば、過去60年間で、これまでの人類史上全体を超える数の多国間協定や条約が国連で策定されているという事実も、同様に重要な成果です。このようにして国際法体系がさらに充実するたびに、私たちの国際社会の結束力は強まるのです。
こうした成果の多くは、勇敢かつ有能な国連職員によって達成されたものです。これら職員は、人道の原則に全身全霊を傾け、地球上で最も危険かつ絶望的な場所、つまり自分たちが最も必要とされている場所で、日夜努力を続けています。
残念ながら、こうした努力や成果にもかかわらず、国連が終わらせることを責務とする脅威のいくつかは、今も暗い影を投げかけています。
国連が創設70周年を祝う今この時にも、世界の経済格差は許容しがたいほどに拡がり、国際的移住はかつてない規模に達し、エボラをはじめとする致死的な流行病は地域全体を脅かす速さで蔓延する可能性を依然として秘め、未解決の宗派間または宗教間の対立に由来する武力紛争は、未だに私たちを苦しめています。
こうした脅威はいずれもグローバルな規模を有し、その解決にはグローバルな行動が必要とされる一方で、国連創設の基盤となった戦後の国際体制は、ますます揺らいでいます。今日のように急激な進化を遂げる世界では、どのような制度も変わらぬままで効果を維持することはできません。よって、私たちはこの機会を捉え、今日の課題によりよく取り組めるよう、国連の姿を変えてゆかなければなりません。万人を代表する包摂的な国連、すなわち、単に各国の主権だけでなく、各個人の幸福を中心に考える国連。強いリーダーシップを発揮し、すべての国々の政府と市民が参集して、平和と繁栄の共通の未来を共に築くことができる国連でなければならないのです。
私は国連での40年にわたる経験から、多くの教訓を学びましたが、中でも私の心の中に一番強く刻まれているのは、健全で持続可能な社会には3本の柱がある、ということです。つまり、平和と安全、持続可能な開発、そして法の支配と人権の尊重の3本柱です。開発なくして、長期的な安全はあり得ません。安全なくして、長期的な開発はあり得ません。そして、法の支配と人権の尊重がなければ、いかなる社会も長く繁栄を保つことはできないのです。
著者について
コフィー・A・アナン氏は、1997年1月から2006年12月まで、国連事務総長を務めました。現在はコフィー・アナン財団の創設者兼会長と「エルダーズ」会長を務めています。