日本・国連親善大使 千 玄室 大宗匠
今回ご紹介するのは、初めて日本・国連親善大使に任命された裏千家の第15代家元、千 玄室大宗匠です。「一盌(いちわん)からピースフルネスを」の理念のもとに世界中で活動されている大宗匠に、平和と人間関係について語って頂きました。日本人としての原点に戻って世界と接してみませんか。
プロフィール
大正12年生まれ。昭和39年に裏千家第15代家元となる。戦争経験者として、お茶を通して平和を訴える活動を始める。ハワイ大学を始め、世界各国の大学で茶道を講じ、また茶道の学校も設立している。15大学より名誉学位および博士号を授与。2002年に長男に家元を譲座し、千 玄室大宗匠を名乗る。2002年に(財)日本国際連合協会の会長に就任。2000年に行われた「国連ミレニアム・サミット」では、ニューヨークの国連総会で茶道を紹介するなど、世界62か国を300回以上訪問し、「茶道外交」を続けている。2005年に外務省から初の日本・国連親善大使に任命され、2008年に再委嘱を受ける。
大宗匠は世界諸国を訪問し、茶道を紹介していらっしゃいますが、文化や習慣が異なる国でお茶を点てる際に配慮してらっしゃることはありますか。
特別な配慮はしておりません。「外国だから」「日本だから」と区別はしていません。外国だからこうしなければいけない、という気持ちだったら文化の交流はできないですよ。言葉や慣習が違うけど人間は人間ですから。考えることや、思うことはみんな一緒なのです。その接点を見つけ出す、それだけのことです。
「たとえ異質文化同士であってもお互いを認め合う事で、接点ができるのです」
このグローバリゼーションの時代に、茶道をはじめ日本の誇るべき文化はどうあるべきでしょうか。
我々の長い伝統的な歴史の背景に「不易流行」という言葉があります。時代に迎合することなく、そのままの姿、ありのままの姿を、いつの時代でも生かしていくということが「不易流行」です。今「グローバリゼーション」という言葉をよく聞きますが、それは人間が一方的に決めていることで、文化には当てはまらないと思いますね。なぜかというと、グローバリゼーションという言葉自体が文化と合わないと思うからです。ビジネスや政治は人間が頭で考えて、創り出していかなければならないものなので、世界共通の一つの「接点」というものを見つけるためには必要かもしれませんけれども。文化は、それぞれの国々で長い歴史を持ってきているので、グローバリゼーションは必要ないと思います。たとえ異質文化同士であってもお互いを認め合う事で、接点ができるのです。無理してお相手に迎合しなくても良いのではないでしょうか。
先の大戦では、我々は毅然として陸・海軍の軍人として戦ってきたのです。日本のために。母のために。父のために。家族のために。戦は嫌ですよ、戦争は嫌だけど、している間はやはり我々は犠牲にならなければならなかった。そういう意味で我々は闘い、多くの犠牲になった人たちがあって、今の日本になったのです。もっとそういうことを認識してもらわなければ、グローバリゼーションにならないですよ。日本人は前向きの姿勢で、政治も経済も文化も堂々とプライドを持ってほしいです。よその国へ行くと、どんな国でもみんなプライドを持っています。
私はお隣韓国の大学でも教えていますが、韓国の学生は日本の若い人と同じように流行は追うけれども、目が違います。目に輝きがある。それはどうしてかというと、北朝鮮からいつ何時、挑発があるかわからないので徴兵制度があります。21歳で徴兵ですよ。自分の国は自分で守る、という意識を持っています。ですから、学校ではそれだけのものをしっかり学ばなければいけない、という気持ちが強いのでしょう。
「地球に住まわせて頂いている、ということを感謝しなければいけません」
現実的には我々の前にもたくさんの問題があります。私は国連に関与する以前も茶道を通して、「一盌(いちわん)からピースフルネスを」の理念のもと、平和のために活動してきました。これは私が戦争に行き戦い、多くの仲間を失い、あるいは他国の人達に大きな犠牲を与えたからです。戦争は二度としてはいけない。私達は地球に住まわせて頂いている、ということを感謝しなければいけません。平和というものは口だけで平和、平和言っても駄目なのです。一人ひとり平和を実践しなければいけません。そのために私は茶道をもって50数年間、世界中を周りました。勿論どなたからも援助を受けずに自分自身で。
茶碗は丸い。小さな地球、小宇宙です。そしてその中にあるのはグリーン、緑のお茶です。だからこれを召し上がるときに、ああ、地球に住まわせて頂いてよかったな、自然と一体だな、と思って下さい。そしてそのグリーンと一緒になってくださいと私は言うのです、世界中で。そして静かにこれを味わって下さい。味わって頂いた時、あなたが緑=自然とAssimilate(同化)する。これがお茶が持っている大事な要素なのです。どこの国へ行っても、肌の色が違うかたがたも、みなさん一緒だからこそ、勧め合うのです。「いかがですか」「お先」と、自然な人間の気持ちとして勧め合うのです。勧め合う心があったらみんなの気持ちが触れ合っていくじゃないですか、余計なこと言わなくても。
長い茶道の歴史において、私どもの祖先の千利休が茶「道」"Way"を大成し、織田信長、豊臣秀吉等の権力者に「武」を捨てなさい、そして「文」を持ちなさい、と言いました。「武」を持ってそれだけで進めば、必ずその「武」に対する報復、リベンジがあります。でも「文」に対してリベンジはないです。だから「文」を持ちなさいと。今世界中では軍備や、核が問題になっていますが、対立する相手の国に対して核の力を誇示してはいけない、勿論そんなの使うべきではありません。使った国も滅びます。「文」をもって相手を理解するようにと、どこへ行っても私は言います。
「前ばかり見ている平和ではなくて、足元の平和です」
やっぱり人間はHandmade(手作り)が良いですよ。父から教えられた、代々伝えられた技を一生懸命継いでいくところに名人芸ができる。京都には、200年、300年ずっと続けているところがずいぶんありますよ。小さいものでも一生懸命に作っています。外国へ行ってもそうです。ヨーロッパに行っても歴史のある国では皮職人の人はおじいさんから教えてもらって一生懸命皮職人をやっています。日本でもそういう事を大事にしていってもらいたいと思います。大事にすることが平和へと繫がるのですよ。前ばかり見ている平和ではなくて、足元の平和です。
私がアメリカに初めて行ったのは1951年で、パスポートもまだ無い時代でした。レントゲンの写真と、まだ持っていますけれどマッカーサー指令部の「占領国民につき、保護を加えられたし」という証明書を持って行きました。丁度1ドルが360円、闇のドルが500円くらいでした。今では考えられないですね。そんな時代から始めて、「ようやったな」と思います。これは意地でしたね、自分が生き残ったということの意義に対しての。2年間、飛行機乗りとしてアメリカと戦い、そして負けた。そのアメリカに行って大和魂、戦の武人の大和魂ではなくて文化人の「文」の大和魂を知ってもらいたいと思ったのです。アメリカの人たち一人ひとりは良い方で、ホームステイではすごくみんな親切に世話してくれて、言葉やいろんなこと教えてくれましたね。
最後に、国際協力・交流に興味を持つ日本の方々へ一言メッセージを頂けますか。
今いろんな組織で交換留学制度をやっていますね。留学生を募集するとき、例えばアメリカに行きたいとすれば、まず英語力が重視されるのですよね。言葉ができなければ駄目ですけど、ある程度できたら向こうに行って寮に入ったり、ホームステイしたりすれば、十分できるようになると思うのですよね、1年間でも。
それよりも、日本は多くの素晴らしい文化・芸術を持っています。自国の文化に目を向けて、海外に行く際には自信を持ってそれらの文化を紹介していただきたいと思います。外国の方々もそれを求めていると思います。そのために、日本古来の文化や、自分らしい日本観を是非とも身に付けて行っていただきたいと願っています。これは、海外で人間関係を作っていく際にも大いに役立ちます。
(インタビュアー:荒川 美帆/写真:山口 裕朗)
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