スタンド・アップ・テイク・アクション2010キャンペーン・サポーター 北澤 豪 さん
今回ご紹介するのは、「スタンド・アップ・テイク・アクション2010」のキャンペーン・サポーターで、サッカー元日本代表、(財)日本サッカー協会特任理事の北澤豪さんです。今回はサッカーを通じた開発途上地域での社会貢献活動についてお話を伺いました。
プロフィール
サッカー元日本代表。社会貢献活動にも積極的に取り組み、サッカーを通じて世界の子ども達の支援活動を行う。現在 (財)日本サッカー協会特任理事兼国際委員、JICAオフィシャルサポーターとしてサッカーのさらなる発展・普及に向けての活動を行う。2010年には“STAND UP TAKE ACTION” (スタンド・アップ・テイク・アクション)のキャンペーン・サポーターを務める。
北澤さんが社会貢献活動に興味を持たれたきっかけと、具体的な活動内容を教えて下さい。
きっかけはスポーツをやっていたからだと思います。スポーツは、「誰かのために、チームのために」という精神でやっていかないと成立しない。特に相手のいる対戦となると、ミスがどうしても生まれてくるわけで、そのミスをお互いにカバーし合えるかどうかで勝利という目標を達成することができる。そう考えていくとスポーツも社会貢献活動も同じですよね。僕がそういう気持ちになれたのも、長い間スポーツをする環境にいたからだと思います。
活動の一環として、途上国にサッカーボールを持っていき、子ども達にサッカーを教えています。現地には、学校を作る活動をしている民間団体がたくさんあります。そういった団体から、教室での授業だけでなく、「サッカーを子ども達に教えてほしい」、「ボールを持ってきてもらえないか」という話があったのがきっかけです。サッカーを教えることで、子ども達がうまくなってくれればいい。だけど、ただ技術を覚えるだけではなく、社会で生きていくうえで必要なことを感じとって欲しいと思います。
子ども達には人格が形成される大事な時期に、技術指導だけではなくメンタルな部分も一緒に伝えていかないといけない。僕はもう自分でプレーして子ども達に見せられるわけではないので、そういったメンタルな部分もスポーツだということを伝えていきたい。チャリティー・フットサルもずっと続けている活動のひとつです。スポーツを通して自分のためだけではなく、他人のために何かをするという大切さを伝えることを根底に取り組んでいます。
今年9月に行われた「スタンド・アップ・テイク・アクション2010」のキャンペーン・サポーターとして、どのようなことを心がけて活動されましたか?
このキャンペーンを多くの人に知ってもらうことを心がけました。自分にできることをやっていくしかない。それに共感してくれる仲間を増やしていきたいです。だけど、難しいですよね。国連大学の前でスタンド・アップのイベントをやらせていただいたときは、国連職員や外交官、NGOの人たちなど、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に取り組む人たちと立ち上がりました。一方で、同じ日に三重県で開催されたスポーツ・マスターズという40歳以上の人達を対象にしたスポーツ大会の開会式でも、スタンド・アップを呼びかけました。実は、その場に来ていた人達には、僕がこれから何をするかを全く知らせていなかったのです。MDGsという言葉を初めて聞いた人もたくさんいたと思います。やはり、会場にいる皆さんからの反応は弱く、舞台の上でスタンド・アップを呼びかけながら孤独を感じてしまいました。その時は「どうなの、これ」と思いましたが、大きい声で元気に呼びかけるしかない、と覚悟を決めました。そうすると、最初は小さかったスタンド・アップの輪がだんだん広がっていったのです。最後にはみんなで一斉に立ち上がり、その勢いはすごかった。「うぉおおお!」みたいな感じでやってくれました。やっぱり、分かってもらうまで言い続けることが大切だと思いました。
「僕に今できることは、言葉で伝えていくこと。自分にできることをやっていく。」
― 北澤さんにとって「社会貢献活動」とは何ですか?
僕の場合は、「仲間を増やす」ということです。サッカーを通して。そういう目線になっていかないと、現地のみんなも自分を受け入れてくれないし、自分も彼らを受け入れられないから。現場に行く時は、このように心がけています。
「社会貢献活動とは、サッカーを通して仲間を増やすこと。」
実際に何度も現地を訪問し、現地の方々と触れ合い、活動する中で、北澤さん自身が目で見て感じたことは何ですか?
アフリカのザンビアを訪れた際、現地の方に食事をいただいて下痢をしたことがあります。やっぱりせっかく用意してくれますし・・・。浅井戸から汲んで上がってくる水を見て「どうやったって(この色じゃ)無理だろ」と思ったのですが、それでご飯を炊くしかないのです。いくら現地の人達がそこでの生活に慣れていると言っても、安全な水を確保できる井戸を作らなければいけない。衛生管理の大切さを実感しました。一方で、セネガルに行ったときには、安全な水を提供することで、公共の水道料金を徴収し、そのお金で町を発展させている様子も目にしました。きれいな水を得ることで、衛生環境が改善されるだけでなく、女子の水汲み労働時間が軽減されて学校に通う女子が増えるなど、教育環境の改善にもつながっていると知って驚きました。そういう地域の人々は表情も明るく、町の雰囲気もとてもよかったです。
アフリカといえば、今年南アフリカでワールドカップ世界大会がありましたが、いったいどれだけのアフリカの人がその恩恵を受けることができたのかと疑問に思います。実際、ワールドカップが始まる前にアフリカの各地を回りましたが、「ワールドカップが来るの知ってる?」と聞いても「知らない」という子ども達もいました。今後、ワールドカップが開催されたことでどのように経済発展につながっていくかを見届けたいです。
子ども達にサッカーを教えるにあたって、北澤さんが一番伝えたいことは何ですか?
平和です。パレスチナで子ども達にサッカーを教えた時は、そこの暮らしがよくなっていかなければいけない、という現実に向かい合う必要がありました。サッカー教室の内容は行く先々で変えています。例えば、わざと問題を起こしてうまくいかないようにして、ひとつの問題がみんなの問題であるということに気づかせる。みんなで協力してやらないと問題が解決しないという方法を取り入れました。サッカーを教えるにあたって、精神的な部分、リスペクト(尊敬)の精神をしっかり伝えていきたいと思っています。そういうメンタリティーを養うことで、サッカー以外の場でも、人に協力することの大切さが自然にわかる。リスペクトの精神を教えていかないと、真剣勝負はできないと思います。僕も現役時代の途中から、タイトルだけ、勝つことだけにしかこだわっていない自分に気がつきました。もちろん勝つことはとても大事ですが、それだけではないと思います。一緒にプレーする仲間、それを応援してくれるサポーターのみんなとの一体感だったりとか、一所懸命にプレーすることで人の心を動かしたり、他にも得られるものはたくさんあると思います。これからの子ども達には、そういう大切な部分に早い段階から気づいてほしい。そうすればより豊かな人生を送れるんじゃないかなと思います。
北澤さんが携わっているダノン・ネーションズ・カップという子ども達の国際サッカー大会について聞かせて下さい。
ダノン・ネーションズ・カップは、小学6年生の少年達を対象にした世界サッカー大会で、先日、南アフリカで開催されました。その時にブラジル代表の選手達が、「ここに来られたこと」、「ここでやれたこと」への感謝を表すために、開催国である南アフリカの国旗を持って入場行進をしました。彼らはそれを見た人達が喜んでくれることに喜びを見出していたのです。試合が終わると選手達は、勝っても負けてもみんなスタンド側に行って、「観てくれて、来てくれてありがとう」と触れ合っていました。誰に言われることもなく、小学6年生がです。子どもの頃からそういう感覚が身に付いているんですね。「ピッチで行なわれることだけが競技じゃない。会場全体が一体となることが大事なんだ。」ということがみんな分かっているから、そういう行動が取れるのだと思います。
その大会中に、サッカーだけでなく様々なアクティビティーをやりました。例えば、菜園プロジェクトのように、食糧で困っている人達のための菜園を作る。それをみんなで育てて、寄付する。他にも、ある国の子どもたちはダンスをやっていました。ダンスができる、できないではなく、知らないもの同士が向かい合って一緒にワイワイやっていく。そうすると、ただ大会に来ているだけじゃなくて、「みんなで何かをやっている」という風に気持ちが団結してきます。夢の実現のためにお互いの協力が必要だというのが、大会の中の一番大事な要素としてあると思います。
国連は2010年8月から2011年8月までを「対話と相互理解」をテーマとした国際ユース年と定めています。2011年3月にはダノン・ネーションズ・カップの国内大会が日本各地で開催されます。大会アンバサダーである北澤さんのこの大会に対する思いを聞かせて下さい。
試合に勝っても負けても、参加した子どもたちには、この大会の目的や相互理解の大切さを感じてもらえるものにしたいと思います。子どものサッカー大会という枠を超えて、彼らの保護者や大人もそういうものを見て感じてほしい。子どもたちのパワーやポジティブな発想から大人が得られるヒントは結構あると思います。
基本的に自分から行動を起こしていかないと世界は広がらないし、経験しないと感じられない。経験を積めば積むほど、新しいものを見られて、感じられて、それは自分のものになっていくわけだから、どんどん挑戦していった方がいいですよね。この大会で子ども達が体感する世界観を、参加したみんなで継承していきたいと思います。
「自分から行動を起こしていかないと世界は広がらない、感じられない、経験できない。」
北澤さんは今後どのような活動を予定されていますか?
アジアを中心にやっていこうと思います。アジアのサッカーのレベルはヨーロッパと比べたら、まだまだ低い。スポーツ振興と経済発展って結構繋がっていると思います。その国の経済とか社会制度が整っているかどうかということは、スポーツの強さに比例してきます。サッカーのレベルを上げることは大切だけれど、みんなが豊かに暮らす環境が整わないのにサッカーのレベルだけが上がっても、応援してくれる人はいるのかなとも思います。しっかり両方が整っていないといけない。後はサッカーという繋がりで言えば、もちろんアフリカ。この間のワールドカップが終わった後、アフリカがどうなっていくかということも考えないと。しっかり今後も見守ることが大切です。
最後に、日本の方々へ一言メッセージをお願いします。
国際協力や社会貢献に興味を持っている人にはどんどん粘り強く、そういったことに興味のない人達にも話をして広めていってほしい。僕だって興味を持ってもらえず、くじけそうな時もあるけれど、それでも大切だと思うからあきらめない。貧しい中で懸命に生きる人たちの姿を見てきたから特にそう思います。そういう人達と出会ったことで、今の自分がある。人生の最後はお金なのか、何なのか、自分は何がよかったと思うんだろう。やっぱり人のために何かをすることで、自分も笑っていける。だからこそ楽しく幸せに生きていけるのかなという気がします。
「くじけそうな時もあるけど、それでも大切だと思うからあきらめない。」
(インタビュアー:本間 菜美、阿部 友香 /写真:山口 裕朗)