概要
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以下は、本報告書The Sustainable Development Goals Report 2019の「はしがき(アントニオ・グテーレス事務総長)」と「序章(劉振民・経済社会問題担当事務次長)」の非公式訳である。
はしがき
2015年の開始以来、「2030アジェンダ」は、持続可能な世界において共有された繁栄のための青写真を提示してきた。それは、健全な地球上ですべての人が生産的で活気にあふれた平和な生活を送ることができる世界である。2030年までわずかに10年を残すのみとなった今、私たちは、今日の私たちの行動が持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための正しい礎を築いているのかを自問しなければならない。この問いかけに答えるために、「持続可能な開発報告2019」はエビデンスに基づいた考察を提供する。
本報告は、いくつかの重要な分野において進展がみられ、好ましい傾向が明白であることを証明する。極度の貧困は大幅に減少し、5歳未満児の死亡率は2000年から2017年の間に49%低下した。予防接種は何百万人もの命を救っており、世界人口の大多数が現在電気を利用している。各国は私たちの地球を守るために具体的な行動を進めている。海洋保護区域は2010年以降倍増しており、各国は違法漁業に対処するために協調して取り組んでいる。また、186カ国が気候変動に関するパリ協定に批准しており、ほぼすべての締約国が最初の「自国が決定する貢献(NDCs)」を提出している。 約150カ国が急速な都市化に伴う課題に対応するための国家政策を策定しており、現在71カ国と欧州連合は持続可能な消費と生産を支える300以上の政策および法律文書を策定している。また、国際機関、企業、地方政府、科学界、市民社会といったその他の幅広い活動主体は、今後10年間に大きな希望を生み出す形でSDGsに従事している。国連としては、この統合的で、かつ変容を促すアジェンダに取り組む各国政府のニーズに応じる態勢を整えるため、国連開発システムの改革に力を尽くしているところである。
そうした進展があるなかで、本報告は至急に共同で対応しなければならない多くの分野を特定する。自然環境は異常な速さで悪化している。海面は上昇しており、海洋酸性化は加速度的に進んでいる。また過去4年間は観測史上最も温暖であり、百万に及ぶ動植物種が絶滅の危機に瀕し、そして土地の劣化状況は放置され続けている。人類が抱える苦難を終わらせ、すべての人に機会を創出するための取り組みは、遅すぎるペースで進んでいる。根強く残る欠乏状態や武力紛争、自然災害に対する脆弱な状態への対応に追われ、2030年までに極度の貧困を撲滅するという私たちの目標は阻害されている。世界の飢餓率は上昇傾向にあり、少なくとも世界人口の半分が基礎的保健サービスを享受できていない。世界の子どもの半数以上は標準的な読解力と計算能力を習得できておらず、重度障害者のなかで現金給付を受領しているのはわずか28%に過ぎない。そして世界中で、女性たちが構造的な不利益や差別に直面し続けている。
私たちの2030年目標の達成に必要な社会的および経済的な転換を推進するためには、はるかに深淵かつ迅速でより野心的な対応が求められていることは至極明確である。これまでの進展から、私たちは何が有効であるかを理解している。そのため、本報告はSDGsの全17目標にわたり進展を促進させることができる分野を強調する。すなわち、資金調達、レジリエンス、持続可能で包摂的な経済、より実効的な制度、地方の行動、データのより良い利用、そしてデジタルトランスフォーメーションに一層の焦点を当てた科学、テクノロジー、イノベーションの活用である。私たちはすべての行動において、政策が誰一人取り残していないこと、国家的な取り組みが実効的な国際協力により支援され、外交と危機回避への取り組みに基づいていることを懸命に確保しなければならない。
2019年9月にニューヨークで開催されるSDGサミット、気候行動サミットその他の重要な会合は、世界をあるべき軌道に戻し、人類と地球のための行動の10年をスタートする機会を世界中のリーダーたちに提供する。チャンスのときが来た。私たちは今すぐ行動しなければならない。こうした考えから、私は世界中の人々に幅広く本報告を託したい。
国連事務総長
アントニオ・グテーレス
序章
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されてから4年が経過し、各国は目標とそのターゲットを自国の国家開発計画に統合させ、政策や制度をそれらに沿ったものとすべく、行動している。「持続可能な開発目標報告2019」は、SDGsの達成に向けた世界各国の進展状況を追跡し、私たちの公約実現がどこまで達成したかを評価するために、入手可能な最新のデータを使用している。いくつかの分野において進展がみられている一方、複数の大きな課題が残ることを本報告は示している。エビデンスとデータは、「2030アジェンダ」が掲げる遠大なビジョンを実現するために至急の対応とより迅速な進展が必要な分野に焦点を当てている。
加盟国は、これらの課題や公約が相互に関係し、統合された解決策を必要とすることに合意する。そのため、介入のねらいを定めるために「2030アジェンダ」を包括的に捉え、最もインパクトの大きい分野を特定することが必要不可欠である。
対応の緊急性が最も高い分野は気候変動である。私たちが温室効果ガス排出量を史上最大の規模で削減しなければ、今後数十年間で地球の気温上昇の幅は1.5℃に到達すると予測される。私たちがすでに目にしているように、海洋酸性化の拡大、沿岸浸食、異常気象、自然災害の頻発および重大化、止まない土地の劣化、重要な生物種の喪失および生態系の破壊など、その複合的な影響は壊滅的かつ不可逆的なものとなるであろう。地球上の多くの場所を居住に適さないものに変えるこうした影響を最も被るのは貧困層である。食糧生産を危うくし、広範な食糧不足と飢餓をもたらし、2050年までに最大1億4,000万人が住む場所を追われる可能性がある。気候変動に対する確たる行動をとるための時間は押し迫っている。
私たちの時代のその他の重要な課題は、国家間および国内で拡大する不平等である。貧困、飢餓、そして疾病は、最貧困層や最も脆弱な立場にある人々や国に集中し続けている。妊産婦死亡の90%以上は低中所得国で発生している。発育阻害の子どもの4分の3は南アジアとサハラ以南アフリカで暮らす。脆弱な国家で暮らす人々が基本的な衛生設備を欠く可能性は脆弱ではない状況にある人々の2倍、基本的な飲料水サービスを欠く可能性は4倍である。また若者が失業する可能性は成人の3倍である。女性や女児は、無報酬の家事労働に不均衡な割合で従事し、自主的に意思決定を行うことができない。
それぞれの問題が相互に関係しているように、貧困、不平等、気候変動その他の地球規模課題の解決策もまた、それぞれが関連している。目標間の相互関連性を吟味して進展の加速化をはかる貴重な機会が存在する。例えば、気候変動対策にはクリーンエネルギーへの移行、森林喪失の傾向の反転、そして私たちの生産および消費様式の変化が必要である。極度の貧困にある人々の80%近くは農村地域で暮らすことから、持続可能な農業を促進することで飢餓と貧困の両方の削減を促進することができる。安全な飲料水、衛生へのアクセスが増加することで、年間何百万人もの命を救い、就学率も向上させることができる。サハラ以南アフリカで学習に後れが生じている約2億人の子どもの読書と算数の習熟度を上昇させることは、それらの子どもたちが貧困状態から脱却することを助け、究極的にはその地域が世界市場においてより良く競争することを可能にするであろう。
本報告は、「2030アジェンダ」の完全な実施のため、データに投資することの重要性についても強調する。ほとんどの国はグローバル指標の半分以上に対するデータを定期的に収集していない。多くの周縁化された集団や個人に関する正確で時宜に適うデータの欠如は、それらの人々を「不可視化」し、脆弱な立場を悪化させる。
過去4年間にわたり、こうしたデータ不足に対処するため、多大な努力が払われてきたが、進展は限定的である。「2030アジェンダ」のすべての側面に関する意思決定に役立てるための適切なデータが利用可能であることを確保するために、投資の拡大が至急に必要とされる。そのために、2018年10月に開催された第2回世界データフォーラムで発表されたドバイ宣言は、加盟国の監視のもとに運用される需要主導型の資金調達メカニズムの概要を示している。それは各国の国家統計制度の優先事項に迅速かつ実効的に対応するメカニズムである。
本報告で強調される諸課題は、グローバルな解決を必要とするグローバルな問題である。国や個人が単独でそれらを解決することはできない。つまり、多国間の行動がかつてなく重要である。特筆すべきは、私たちは「2030アジェンダ」がどのように異なる集団を共通の目標への取り組みに向けて結びつけたのかを目の当たりにしてきたことである。気候変動、移民、テクノロジー、貿易に関する国際協力、そしてすべてのステークホルダーとのパートナーシップは、国連システムの支援により一層強化することができる。「2030アジェンダ」全体を通して存在する多くの相乗効果を活かしながら、私たちが今すぐ、そして共に行動すれば、SDGsを達成するための時間はまだある。
経済社会問題担当事務次長
劉振民